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甕型煮沸器の調理器具としての性能試験に関する実験報告
ーー弥生人は米をどう調理して食べていたのか?ーー
○はじめに
この報告はブログを始めてから、少し興味を持った事項について実験を繰り
返した結果の報告です。実験回数も少ないため確度の点で難がありますが、ひ
とつの方向性は提示出来たかと思います。
焼き物の研究をしている者として、かねてより焼き物自体の実験による検証
という指向性が希薄だという問題意識を持っておりましたので、ブログ上で検
証可能な形で実験からの推論を試みたわけです。
もとより、このテーマは学際的研究の必要なテーマであり、私の狭い知識で
手に負えるものではありませんが、煮沸器という用途を持って誕生した土器自
体からの分析という視点を提起したいという気持ちからのものです。
実験データと個別の問題点については、すでに当ブログ上で公開しておりま
すので、必要に応じて御覧下さい。
なお、このテーマはヤフーブログの『ちょっと考古学』
(http://blogs.yahoo.co.jp/hirotak24 )の記事を読んだ事がきっかけにな
っています。西さんには、この場で御礼申し上げます。
また、これまでの記事にコメントを寄せていただいた多数の方々にも、御礼
申し上げます。
(注)一記事には5000字までしか入りませんので五分割いたしましたが、
連続していますので、1〜5の順でお読み下さい。
○実験の目的
甕型という特徴的な形態の土器を何故、古代人は煮沸器として採用したのか?
その調理器具としての性能を探求する事によって、その性能に適合した食料は
何であり、どのような調理法を取っていたのか、という生活道具としての土器
から生活の実態を推論しようとするものです。
○実験方法と基本的考え方
甕型の土器が煮沸器として用いられていた、という確定的事実から出発し、
古代の環境下で、どのような使用法が合理的かを探った。
その際に、土器製作者の製作意図がどこにあるのかを探る事を中心軸に据え
た。その理由は、いつの時代でも用途を持った焼き物というものは、製作者は
使用目的に適合するべく努力するという視点に立脚しての事です。
一見しただけでは判然としない製作者の製作上の思考過程は実験してみなけ
れば判らないものです。焼き物は土の選択に始まって、焼成方法の選択、形態
の選択、器壁の厚さの選択、大きさの選択と全て製作者の意志の働きがあって
初めて、器物として誕生してきます。そうした製作者の製作意図の背後には常
に<何にどう使用するためのものか>という実際的用途が隠れています。この
事は甕型土器というハードの性能から使用方法というソフトの領域を探るとい
う当たり前の手法でもあります。
以下、各検討項目について述べることとします。
A,甕型という形態の特質
a,加熱面から見た特質
底辺が小さいために、空中に浮かせて下部から加熱する事は困難になります。
(土器実験データ6参照)
そうすると、横からの加熱となり、カメの内部に直接に米のような水に沈む性
質の食料を入れて調理するには、対流が起こりにくいために不都合となります。
また、水が減少してくると、カメの上部からの加熱が強くなるために、調理
対象の食料が固形に近いものの場合は、上部が焦げやすくなります。そして、
食料の下部は加熱が不足した状態になります。
ただし、この事はカメ型煮沸器で、そうした食料の調理が全く不可能という
事ではありません。食べられる状態に調理する事は可能ですが、不安定で、美
味しい状態に調理する事が困難だという事です。(土器実験データ6&8参照)
この点を解決するためには、水分の多い食べ物、例えばスープ状のものを掻
き回しながら調理する方法も考えられます。弥生時代の煮沸器が米の調理だけ
に使用されたと考える事は一面的に過ぎるでしょう。現在でも一つの鍋さえあ
れば、大抵の料理が出来るからです。
しかし、弥生時代に米を調理して食べていたという確定的事実とカメ型土器
が米の調理に使用されたという事実(他に調理器具がないから)に照らして考
えると、現在のように米を炊く方法では、余りに不合理な形態を甕型土器はし
ています。
一般的に機能的目的のある器具を製作する場合には、製作者は使用目的に、
より適合した形態にしようと努めるのが普通です。この観点からみる時、甕型
土器が目的とした調理は横からの加熱に適した調理方法であったと考える事が
出来るでしょう。
横からの加熱によって、上部が真っ先に高温になる(土器実験データ14参照)
という事は、上部の高温帯の部分を使用して調理する方法ないしは、高温の蒸
気を利用しての調理が考えられます。実際に土器を石を使って浮かせて下部か
らの加熱を試みました(土器実験データ6)が、カメ型土器の製作者の意図が
そうした使用形態を想定していたとは、とうてい考えられません。
一般的に下部からの加熱方法としては、竃を使用して釜型の土器にするか、
土器に足を付けて鼎(かなえ)の形態にする方法があります。竃の発想がない
時代でも、土器に足を付ければ鼎になるのですから、弥生時代にも高杯がある
以上、鼎も作る事は可能だったはずです。鼎の様な形態ならば、煮る事も茹で
る事も、上に蒸籠の様な物を載せて蒸すためにも使用出来るでしょう。我が家
でも昔は、ご飯を炊く羽釜の上に蒸篭を載せてモチ米を蒸し、臼でついて、お
餅を作っていたものです。
では何故、弥生時代の人々は鼎の形態ではなく、甕型の土器を煮沸器として
選択したのか?という疑問が生じます。この点については、鼎を作って実験し
てみる必要もありますが、今回は実験していません。そのために土鍋を使用し
た実験からの類推になりますが、鼎の形態ですと、どうしても底辺を大きくせ
ざるを得ません。そうすると下部からの加熱で火力を効率的に受ける事は出来
ますが、広い口の形態にならざるを得ないために、熱の放散も大きくなります。
(土器実験データ14)
中国では紀元前2000年の時代に、すでに鼎が登場していましたが、これ
は中火での調理に適している事から使用されるようになったものと思います。
しかし、精白米や粉にした加工品は鼎で茹でたり、蒸したりして調理出来るで
しょうが、赤米になると美味しい調理は出来ないでしょう。後述のように、赤
米の調理には強火が必要だからです。赤米は通常の玄米と異なり、薄い皮膜が
あるために水が浸透しにくく、又、アク味が強いからです。赤米も精米度を高
めれば白米になりますし、粉にすれば調理もし易くなりますが、その場合には
薄い器壁と小型とを特徴とする甕型土器登場の必然性は消滅します。
つまり、鼎は中火で大量に調理可能な器具としての長所を有しているために、
弥生時代の調理環境には適合していなかったのだと推測出来ます。調理環境と
は、栽培作物の種類や収穫量の多寡並びに作物の製粉の要否、精米の程度とい
った事項の事ですが、土器製作者が念頭においた、何を、どの位、調理するた
めの道具なのか、という製作のための事前情報の事です。
関連土器実験データ 6 http://blogs.yahoo.co.jp/souyouroko/5118480.html
8 http://blogs.yahoo.co.jp./souyouroko/5437450.html
14 http://blogs.yahoo.co.jp/souyouroko/10642229.html
当ブログ関連記事 http://blogs.yahoo.co.jp/souyouroko/12124967.html
http://blogs.yahoo.co.jp/souyouroko/7806237.html
b,口作りの意味するもの
焼き物の製作者にとって、口作りは用途に合わせる意志が最も強く現れる箇
所です。この観点から甕型土器を見る時、中国の新石器時代における(罐)の
形態をしています。罐とは薬罐の罐であり、湯沸器具の一種と考えられます。
薬罐の形態は容積を確保するために円形に近い形態をとり、熱を逃がさない
ために密閉性を確保しています。
囲炉裡のような熱源を利用して湯を沸かす場合には、甕型土器の形態は合理
性を有していると思われます。縄文時代の広口の鍋としての用途の土器から高
温の湯を沸かす機能に優れた甕型形態に変化したのには、それなりの理由があ
ったはずです。
中国でも日本でも、注ぎ口を持った湯沸器があったようですが、機能別に分
化しない段階で一つだけ製作して多用途に使用するには、甕型土器が適切だっ
たと考えられます。
そのために口元は広すぎず狭過ぎずという微妙な大きさになっているのでし
ょう。実際に使用してみますと、鍋としても使用出来なくはなく、湯は早く沸
かせるので茹でる調理には好都合です。
甕型土器の口元をある程度すぼめた製作者の意図は、次項で述べる器壁を薄
くするために、力学的に丈夫な卵型形態を採用した点に製作者の工夫を見る事
が出来るように思います。
当ブログ関連記事 http://blogs.yahoo.co.jp/souyouroko/12290820.html
c,器壁の厚みの意味
甕型土器のなかには、器壁が3〜4ミリの厚さしかないものがあるようです。
(写真 http://www.okayama-u.ac.jp/user/arc/data/S010004.HTM )
私は当初、この点を奇異に思いました。何故なら、煮沸器という日常頻繁に
使用する器具の場合には、製作者は耐久性に考慮して製作するのが当然だから
です。
低温焼成の土器で器壁が3〜4ミリという厚さでは、極めて外的力に脆いも
のとならざるを得ません。そして同時に器壁の熱を蓄える力と熱を他の部分に
伝える力も弱くなります。
甕型土器を使用して実験してみると、器壁に水が接していれば水に熱が良く
伝わりますが、水量が減少した時点で横から熱を加えても下部にある水には、
なかなか熱が伝わりません。これは器壁の厚さが薄すぎるからのようです。
例えて言えば、熱を伝える道が狭いために少ない熱量しか伝わらないのです。
現在使用されている土鍋は高温で焼成されていますが、それでもある程度の
厚みを持たせてあります。この理由は蓄熱させるためと、全体に均等に熱が伝
わるようにするためです。耐久性という点では高温焼成ですから、もっと薄く
ても問題ないでしょう。
弥生時代に、厚い器壁の土器を焼成するだけの技術がなかったのかというと、
そんな事はないようです。何故なら、縄文時代でさえもっと厚い器壁の土器を
焼成していましたし、大きな甕棺のようなものも焼成しているからです。
こうした通常の調理用土鍋と異なる方向性で作成された甕型土器の製作者の
意図はどこにあったのでしょうか。言うまでもなく、当時の土器製作者は土器
の使用目的と使用方法を知っていて土器を製作しています。
そこには合理的思考があると考えられます。
器壁を薄くする事で得られるメリットとデメリットを以下に箇条書きにして
整理してみます。
1、デメリット
イ、外的力に弱くなる
ロ、熱が全体に伝わりにくくなる
ハ、蓄熱されず、冷め易くなる
ニ、製作するのに時間がかかる
2、メリット
イ、上部の水温が早く
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