相続の心得

法律的なことは法律家に任せ、人として、家族としての相続の心得を経験談をもとに伝授

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事業の継承と相続

 故人が営んでいた事業を継承し相続するにあたって気を付けなければならないポイントは、二つである。一つ目は、負債と資産を把握するということだ。そして、日々のキャッシュ・フローをも把握するということだ。外見上、事業を継承、などというと非常に聞こえはいい。しかし、事業を継承するということは、大変なことである。そこには、多くの他人が従業員として働いている。彼らには、賃金も払わなければならないし、彼らはその賃金で日々を生活している。ということは、彼らの後ろには彼ら従業員の家族もいるということだ。従業員は支払われる給料を当てにして、家族共々生活を毎日成り立たせている。責任は重大である。だからこそ、最初の段階で、負債と資産を把握し、キャッシュ・フローも把握することは、故人の事業を継承するか相続するか否かを判断するにあたって、非常に大切なファクターになってくる。

 そして、二番目に大切なことは、従業員の心の問題である。この従業員の心の問題だけは、理屈ではどうにも解決できない問題である。実は、非常に深刻で大きな問題なのである。どういうことかというと、これは戦国時代の昔から同じことが繰り返されてきている。いや、日本だけではなく、万国共通の問題であるかもしれない。

 故人を信じ、故人についてきた従業員は、皆故人についていたので、事業を継承した相続人についてきているのではない、ということを知ることだ。このことは、どう相続人が頑張っても、従業員の心の問題であるから、解決することは難しい。理屈では、時間を掛け、故人が彼らから信用を得たのと同じ方法で彼らから信用してもらえるようになれば良いのではあるが、実際問題、事業継承時に、そのような時間的余裕があるか否かということである。どんなに事業を継承することが大変であったとしても、従業員にとっては、そんなことは関係ない。自分達は、故人についてきたのだという意識が強く働くものである。と、同時に、この相続人の下で、自分達は本当に今まで通りでいられるのだろうか? と疑心暗鬼なものである。そして、そのような気持が、普段の仕事の中でも反発という形で表れるのが常である。一概に、全てのケースがそうであるとは言わない。しかし、そういうケースが非常に多い。

 そうであれば、お互い割り切って、早い段階で納得の上で、相続人を信頼できる人間に取って代わってもらうという方が、双方の為にも建設的で将来性のあることになる。だからと言って、故人である先代からの人々を蔑ろにしろというのではない。当然のことながら、良く一対一であ話し合い、会社に残るのならば、信頼し協力してくれるように説得する必要がる。さもなければ、お互いにプラスにならないので、ということで双方が納得のいく条件で転職をして頂く。これは、一番大変なことであるが、このことを等閑にし、先延ばしにすれば、継承した事業自体が大きなマイナスを負うことになりかねない。このことは、継承後、一番最初に処理しなければならない問題である。お忘れなく。

 相続にあたって、大切なことの一つに専門家である弁護士や会計事務所の選択ということがる。この選択を間違えると、後々大変なことになり、結局のところが、会計事務所や弁護士を肥やし喜ばすだけになってしまう。

 一般常識的に言うと、弁護士や会計事務所などを選ぶ時には、真面目で誠実な人柄を重要視するということが多いのではないか。真面目で誠実、人としては大切なことかもしれない。しかし、クライアントにとってプラスになるような仕事をしてくれるか否かという問題になると、話は少々変わってくる。よく、弁護士や会計事務所を選ぶ基準として、高いことを言う弁護士や会計事務所は当てにならない、何て言う人々がいる。この基準も、少々疑問がある。例え、高い額を請求してくる弁護士や会計事務所であっても、結果としてクライアントにとってプラスを招くような仕事をしてくれれば、それはそれでよい。しかし、いくら安くて真面目で誠実でも、クライアントにとってマイナスしか招かず、禍根をあとに残すような仕事しかされなければ、困ってしまうどころか大問題である。

 一般的には、事業でもしていない限り、弁護士や会計事務所を利用することなど、ほとんどないと思う。そうなると、どうやって選んだら良いかもわからないはずである。これから綴ることは、何も相続の時だけではなく、弁護士や会計事務所を選択しなければならない、という岐路に立たされた場合の選択基準になるはずである。

 まず、常識はずれではあるが、真面目で正直な人柄よりも、見るからに悪党という感じで、実際に接触してみても、この人間は拝金主義で金儲けのためなら何でもするのでは、というような印象の人柄の弁護士や会計士を選ぶ方が、結果として全て上手くことが運ぶことが多いということをここで記しておく。例え、高い手数料を請求されたとしても、損して得取れ、という発想で物事考えて頂きたい。損をせず、大きな得は得られない。リスクを負わずして、大きな利益も得られない。これは、世間の常識であり、この法則は案外どんなことをするにしても当たっているものである。

 だからと言って、不正をしろとか、脱税をしろということを勧めているのではない。法律の範囲内で、一番有利な形でことを為す、ということを言っているのだ。

 真面目な弁護士や会計士は、規則や常識に呪縛され、規則や常識から外れたことをできない。そして、弁護士や会計士というような職種につく人間は、その資格を獲得することで、自分の人生を安泰にしようと考えなっている人々である。その資格を失う可能性のあるような危険な賭けは絶対にせず、常識的なことをマニュアル通りにしかしないものである。

 だが、どんな世界にも、型にはまらない変わり者というものはいるものである。そういう、常識や規則に翻弄されず、色々な可能性を模索できるような弁護士や会計士を選択するか否かで、相続が成功するか否かの大きな分かれ道になることは間違いない。

 結局のところ、悪党の方が世渡り上手。同じ法律内であるならば、馬鹿正直に為して損をするよりも、上手に泳いで得をした方が、相続とは自分だけのことではなく遺族全体の問題なので、色々な摩擦やトラブルを回避できるであろう。そのためにも、弁護士の選択と会計士の選択は非常に大切なファクターとなる。

 例えば、故人から長男が事業も継承しようとしている。しかし、その事業に多額の負債があることが発覚した。真面目な会計士や弁護士は、遺族や故人の遺志などは関係なく、ただ事務的に、選択肢は相続放棄しかありませんね、と言うに違いない。「相続放棄」と言うのは簡単である。ただ、相続放棄すれば、今済んでいる故人名義の家も、車も、全てを放棄しなければならないことになる。負債があろうとも、故人が残して事業で生活が成り立っているとすれば、事業の継承をも放棄した瞬間から、生活費も入らなくなるということである。しかし、真面目な弁護士や会計士は、そこまで考えない。ただ、法律と常識にのっとって、選択肢は相続放棄か相続したとしても自己破産しかないだろう、と人事のように偽善者面してのたまう。彼らは、簡単にそんなことを言うが、当事者である遺族にとっては大問題である。負債は大きい、しかし、相続放棄すれば全てを失う。自己破産だって、簡単だとは言うが世間での信用は失う。7年で回復できると、真面目な弁護士や会計士は軽く言うが、現実社会はそんなに甘くはない。一度失った信用は、そんな簡単に回復などできるわけがない。

 このように、選んだ弁護士や会計士の手腕にが、相続を成功させられるか否かを左右する。まず、「正直」「真面目」「優しい」「いい人」などと言う言葉は、綺麗事で邪魔物でしかないということを覚えておいて頂きたい。悪党世に憚るである。悪党も使いよう。悪党でも、クライアントの要望に対して聞く耳を持ち、既存の法律の範囲内で最善の相続方法を模索し対処してくれさえすれば、多少手数料が高くとも、相続したことによって人生を棒に振ることを考えれば、まったく問題ないのではないか。というよりも、高い手数料でも、投資と考えれば、損をせず得をするという結果を導き出せれば高いとは感じないはずである。このことは、案外、大切なポイントなんです。お忘れなく。

 相続するか否かを決しなければならない時、気を付けなければならないことがあります。相続放棄が許されている3ヶ月と同じ期間中に、税務署に故人の税金等を生産し、相続税等の計算報告も申告しなければならないのです。しかし、世間一般では、相続放棄などという制度があること自体知らない遺族も多いのです。そこで、税務署への相続申告に際し、現金の相続がなく相続税も0円というような申告をした場合、それで相続しなかったということになると勘違いしてしまうケースが非常に多いのです。この辺のことは、もっと国が、遺族に相続に際してどのような制度があり、税の申告と相続とはまた別のものであるというようなことを知らせる必要があると思います。必ずしも、全ての遺族が、必ず税理士を使うとは限らず、また、弁護士に依頼するとも限らないのです。ということは、そのような専門家と接触しない遺族にとっては、相続放棄等の制度があること自体知る由もないのです。

 ところで、このコラムの主眼である、「気を付けなければならないこと」に話を戻します。相続するものが実際に0円だったとします。当然のことながら、相続税0円で申告します。相続人である遺族も、税務署に0円で申告し、実際に何も相続していないので、これで相続しなかったことになったと安心していると、落とし穴落ちることになりかねません。

 何も相続せず税務署に0円で相続しても、故人が他界後3ヶ月以内に相続放棄という手続きをとっていないと、その後故人が負う負債が発見されれば、その負債は相続人に掛かってきてしまうということなのです。この落とし穴に落ちてしまう相続人は、非常に多いのです。故人は、家族にもなかなか負債の部分は見せていなかったり、伝えていなかったりする場合が非常に多いのです。そうなると、遺族も知らずに、時を過ごしてしまうのです。そして、忘れたころに債権者から、相続人なのだから債務を履行してください、というような旨を伝えられ、度肝を抜かれるということは頻繁に起きるのである。故に、相続をしないのであるならば、必ず相続放棄の手続きをしておかなければならないのである。税務署への申告は、あくまで相続税の申告であって、相続放棄とは別物であるということを知っておかなければならない。

 故人が他界直後、一番大切なことは、全ての情報を出し惜しみすることなく開示し、全ての遺族で共有することである。伴侶だけが、大切な情報を隠し持ったり、一部の子供だけが大切な情報を隠蔽したり、というようなことは絶対にあってはならない。そういうことがあると、必ずや相続においての判断をあやまることになる。故人他界直後に、正しく情報開示がされず間違った判断をしてしまうと、そのことが原因で多くの人間の貴重な時間が無駄に費やされ、結果としてはマイナスってしまい後悔だけが残り、故人の遺志にも反してしまうことになりかねない。
 
 何故ならば、故人他界直後に、重要な判断を迫られることになるからだ。その判断が許される期間は、たったの3ヶ月だけである。3ヶ月というと、長いように感じられるが、実際には非常に短い。一人の人間が生きてきた一生分の諸々の事柄を、残された遺族が処理しなければならないのである。中には、遺族の知らなかったことや、不快感を覚えることも沢山あるかもしれない。そのような状況下では、時間はいくらあっても足りない、というのが現実である。にもかかわらず、判断を許されている期間は、たったの3ヶ月間である。ある意味理不尽な話である。相続などということは、一生の内に一度あるか二度あるかということである。全てが初めてで、法律的な制度なども知るわけがない。本当に、理不尽な話である。

 それでは、3ヶ月で判断とは、何のことなのか? それは、相続するか否か、という判断のことだ。相続ということには、正の相続と負の相続がある。人と言うのは勝手なもので、例え家族とはいえ負の部分は伝えていない場合が非常に多い。故人が他界して初めて知る負の財産、というケースは非常に多い。特に、事業をしていた故人や、家業を営んでいた故人の相続においては、その事業や家業を継承するのか否かを、3ヶ月間で判断しなければ大変なことになる。

 正確な情報を得ることもなく、軽い気持で故人が創業した大切な事業だから、家業だからと継承してしまい、3ヶ月も過ぎた頃になって、大きな負債をその事業や家業が抱えていることを知り、驚き腰を抜かすというケースは非常に多い。しかし、その時は後の祭りで、手遅れである。相続放棄が認められるのは、故人が他界後3ヶ月の間だけである。知らなかったということで、家庭裁判所に意義の申し立て、新たに申請ということも可能性としては残されているが、時間的にも、精神的にも、大きな労力と負担を強いられることになる。それでも、結果がよければ良いが、3ヶ月を過ぎての申請で、家庭裁判所が相続放棄を認めるケースは、非常に少ない。

 だからこそ、家族皆で正しい情報を共有し、正しい判断を下さなければならないのである。相続した家族で、どうにもできないほどの大きな負債が事業にあれば、それはいくら故人の遺志があろうとも、相続放棄という判断を下さなければならない。そこの判断を間違えると、それこそ家族全体が崩壊するという可能性さえありえるのだ。

 それでは、正しい情報開示とは、どのような情報を全て正しく開示するのかということだが、答えは簡単である。負の財産と正の財産を天秤に掛けるだけのことである。相続すると一旦決めてしまえば、正の財産だけではなく、負の財産も相続してしまうことになるからだ。よって、正の財産と負の財産を天秤に掛け、相続するべきか否か、事業や家業を継承するべきか否かを判断しなければならないのである。

 相続の時、相続人である遺族が翻弄され判断を間違える一番の原因は、故人の遺志である。遺言状や、生前伴侶や子供達に伝えていた故人の遺志に呪縛され、翻弄されて、正しい判断ができず、挙句の果て、家族内で不協和音が生じてしまう。相続時から相続後にかけて、よくある出来事である。家族の中で、遺族である家族の思いを優先し大事にしようという意見の派閥と、いや、故人の遺志を尊重しようという意見の派閥が、必ず生まれる。そして、両者間での意見の相違は、単なる不協和音から、絶体絶命の関係へと発展してしまうことが多い。

 しかし、ここで、覚えておかないといけないことがある。それは、故人の遺志を尊重し、大切にする気持は、素晴らしいことであり大切なことである。だが、故人は、生き返って遺族を援けてはくれないのだ。生き残った遺族が、どんなに苦しい思いをしても、どんなにいがみ合っても、仲裁にも援助のためにも生き返ることはできないということだ。そして、故人は、自分の死後、家族間がどのような状態になるかもわからないのである。あくまで、自分の理想、希望として、遺志を遺族に伝え残すだけのことである。物事というのは、状況、環境によって、対処の仕方も変わって当たり前である。にも関わらず、そのような状況や環境の変化を知ることもできない故人の遺志に呪縛され、翻弄されていては、解決策もみつからない。それどころか、家族間の不協和音はどんどん広がり、修復不可能な状況に陥ってしまう可能性も非常に高い。

 故人の遺志を大切にすることは、遺族として大切な気持ではあるが、やはりこの世に生き残っている生身の人間の思いや状況を最優先に考慮して判断することが、家族の不協和音を軽減し、解決する唯一の方法である。家族が、生き残ることが叶わなければ、故人の遺志を守ることさえ叶わない。まずは、この世に生身で生きている遺族の意思を最優先で尊重し、その上で、出来る限りの範囲内で臨機応変に故人の遺志を尊重し、円満な解決策を模索することが、故人も望むところであるに違いない。このことは、案外皆故人の遺志に翻弄され、気付かぬ忘れてはならない大切なポイントである。お忘れなく。

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