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常套句

メリクリです
昨日はひと足お先にお茶目なにゃんこサンタさんに癒しの魔法をかけていただいてまいりました…
ああ、これでまた半年くらいは連日の深夜残業も休日出勤も頑張れるよ私!(でも人は補充してほしい…)

こちらは2014年のFC会誌に掲載したものの再録になります。多少、時期や言い回しなどを直していますが、大筋はそんなに変わってないので、当時読んでくださった方には新鮮味がないですが
ちなみに曲の元ネタはもちろん、安定のミスチルさんです(爆)




「今日は一緒に来れて良かったわ」

名物のスケートリンクの柵にもたれながら、僕の腕にしっかりと腕を絡めてナンシーが微笑んだ。

一瞬、答えにつまった僕は、背後に天を突くような摩天楼を従える、華やかなツリーに目を奪われた振りをする。

……星子さんと一緒に見たかったな。
NY中の宝石を一箇所に集めたようなこの街の冬の風物詩は、集まる人たちをみんな幸せそうに見せて僕を少しだけセンチな気分にさせた。

「チュウタ、NYのクリスマスは初めてだろ?ツリーはもう見たのかい?」
なーんて、ベタすぎるお誘いに迂闊に乗ってしまったのが間違いの元だったのだ。

マイクの奴!計りやがったな……。
急に仕事が入ったと、直前で一方的に連絡をいれてきた同僚を密かに恨みつつ、僕はナンシーに微笑んでみせる。
「そりゃ光栄。……美女のエスコートはいつでも歓迎だよ。」

断れなかった自分の優柔不断さに少しだけウンザリしながら、口先だけの社交辞令。
靴を直すふりでさりげなくナンシーの腕を解きながら、僕はこっそりとため息をついた。

「お腹空いたでしょ宙太、ご飯食べに行きましょうよ」
地下鉄へ向かいながらウキウキとした顔で誘ってくれるナンシーに、僕は日本式の、片手で拝むマネをしてみせた。
「ワリイ。今日は先約があってさ。また今度にしてもらっていいかな?」

……Can you give me a rain check?
まるで英会話の教科書みたいな、ありきたりの断り文句にナンシーは一瞬むっとしたようだったけれど、何かに思い当たったように肩をすくめた。

「cliche」
一瞬だけ目を伏せて小さく囁き、それから彼女はニッコリと笑ってみせる。
「OK、宙太。じゃ、次回を楽しみにしてるわね」
ウインクすると、ナンシーはくるりと踵を返して5th Ave駅の入口へと消えていく。
颯爽としたその後姿を、僕は何も言えずに見送るしかなかった。


いつものダイナーでサンドウィッチとビールを流し込んで店を出ると、暗灰色の空から白いものがちらついていた。
マフラーをしてこなかったことを少し後悔しながら、僕はセントラルパークのすぐ側にある自宅へと歩いていく。

夏の終わりに日本を発ってから、はや4ヶ月。
NYでの生活は予想通りに忙しくて、刺激的で、少しだけ空虚なものだった。
今日は、ナンシーに悪いことしちゃったな……。
別れ際のナンシーの言葉を思い出して、僕は申し訳ない気分になる。

cliche
常套句とか、決まり文句を意味する言葉だ。
上っ面だけの言葉は、平凡であればあるほど、残酷に相手を傷つける。
分かっているつもりだったのに……つまりは、あんなあからさまな社交辞令をうっかり口にするくらいには、今夜の僕は心ここにあらずだったのだ。

そうだった。こんなとこでぼうっとしてる場合じゃない……。
週に一度だけの、時間のマジックが僕を待ってる。
浮き立つ気分と後ろめたい気持ちをないまぜに抱えたまま、僕は家路を急いだ。


『…………もしもし?』
地球の反対側から届いたキミの声は、まだ寝ぼけてるのかな?少しくぐもって聞こえた。
「久しぶりだねハニィ。気分はどう?」
『どうって……。』
懐かしくも無愛想な声が、僕の耳をくすぐる。

日本とニューヨークの時差は14時間。
日本はもう土曜日の朝、いや、すでに昼近くだろうか?
NYで僕の一日が終わる頃、日本にいる君は既に次の一日を生きていて、学生の君に、僕は電話を掛けることもままならない。
僕らはたしかに同じ地球上にいるはずなのに……決して追いつけないメリーゴーランドでキミを追いかけているような錯覚に襲われてしまう。

だけど、この金曜の夜のひとときだけは。
僕は時間の壁を飛び越えて、一足先に休日を満喫している君を捕まえることが出来るんだ。

「そろそろ冬休みだろ?星子さん、休みはどうするんだい?」
さりげなく話題をふると、彼女は少しだけ黙り込んだ。
星子さんは自室にいるのかな、国際電話の向こうからは、かすかに彼女の好きなアーティストの曲が聞こえてくる。

『……別に。リツコが軽井沢行かない?って言ってくれてるけど」
「つまり僕に会いたくて、連絡を待っててくれたってことか。さすがマイハニー、すぐに航空券を送るから、冬休みに入ったら遊びに来てくれよな!」
提案すると、さっそく君が頬を膨らませる気配が電話線を伝わってきた。

『航空券って……そんな、勝手に決めないでよ!』
「ん?どうして?」
『だって……補習もあるかもしれないし。そりゃ、ニューヨークは行ってみたいけど……。』
「勉強くらい、僕チャンが手取り足取り、懇切丁寧に教えてあげるさ。君だってそろそろ僕ちゃんに会いたくてたまらない頃だろ?」
『ちょっと、別に私、会いたいなんてひとっことも……』
言いかけた彼女の言葉を遮って、僕は言葉を重ねる。
「僕は会いたいよ、マイハニィ。」
そういうと、電話の向こうの気配が再び止まった。

「僕が帰ってもいいけど……、君に見せたい景色が沢山あるんだ。」
窓の下に広がる、セントラルパークの黒々とした森の向こうのきらめきを見つめながら言葉を繋ぐと、ややして少しだけ困ったような、拗ねた口調で彼女は呟いた。

『……もう、宙太さんってば、ほんと調子いいんだから……。どうせ、ナンシーあたりと楽し〜く過ごしちゃってるんじゃないの?』
「……や、やだなあ、そんな訳ないじゃないか。僕チャンはいつだってマイハニー一筋!君以外の事なんて、目にも入らないぜ!」
今日のことは、単なる職場のつきあいなんだよ?……ウン。
『……ふーん?』
「ほ、ホントだって!」
内心の冷や汗を必死に押し隠しつつ苦笑いしてみせても、さっきのナンシーのささやきが、今更のように苦く胸に広がっていく。

cliche

君に会いたい 君に会いたい
何していますか 気分はどう?

電話の向こうから聞こえてくる男性ボーカルのありふれた歌詞が、ひどく耳につく。

ああそうさ。
僕の君への想いはいつだって呆れるほどに単純で……。
だけど、口にした途端、それらはいかにも不誠実な男の常套句になりさがる。

……ねえ、星子さん。僕の想いは、どうすれば君に伝わるのかな?

君に会いたい 君に会いたい
愛しています 君はどう?

ガラにもなく考え込んだとき、それまで黙りこんでいた彼女がポツリと呟いた。

『分かったわ。』
「……へ?え?あ、じゃあ、来てくれるのかい!?」
思わず勢い込んで確認すると、彼女はすこし気圧されたように口ごもる。

『う、うん。ただ……』
「ただ、なんだい?」
『その……補習に引っ掛からなかったら、ね?』
単位取れないと付属への進学どころか卒業が危ないんだもの、とのたまう愛しの婚約者サマに苦笑しながら、僕はこの曲のタイトルを思い出していた。

……なんだ。
僕の気持ちなんて、本当は全部お見通しだったんじゃないのかい、マイハニー?

「頑張ってくれよな?ま、単位取れなかったら、いっそのこと来年はこっちのハイスクールに通ってくれてもいいけどね、シシッ」
『ちょっとぉ、縁起でもないこと言わないでよね!私、絶対赤点なんて取らな………』
言いかけた星子さんは、途中でしまったとばかりに黙り込む。

「あはは、熱烈な告白ありがと、マイハニー♪じゃあ冬休み、待ってるぜ?」
『もー!だから違うってば!!!』
今にも湯気が吹き出してきそうな受話器にチュッとキスを送って電話を切ると、
僕はラックに埋もれていた一枚のCDを取り出した。
ディスプレイに『常套句』というタイトルが浮かび、ゆるやかなバラードが流れ出す。

星子さんのために旅先の車中でよくかけていた曲だ。
あの頃はタイトルもろくに知らなくて、どうしてこんなつまらない歌詞……って思ってたんだ。

星子さん、テスト頑張ってくれるかな……?
そこはかとない不安と期待にさいなまれつつ、僕はいつかこの窓の外に広がるこの夜景をふたりで見られますように、と願ったのだった。


(おわり)

歌詞はこちらから〜♪名曲ですw
http://j-lyric.net/artist/a001c7a/l02afa8.html

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