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悲櫻館事件 5

《 5 》
小次郎君に案内されて建物の中に入ると、もとは応接間だったんだろう、典型的なジャコビアン様式のエレガントなロビーラウンジで話し込んでいる男女の姿が見えた。
「春之介くんに十文字センセイじゃないか!どうしたんだい?」
思わず声をかけると、淡い桜色のワンピースを着こなした春之介クンが飛びついてきた。

「やっぱり、来てくれたのね♡実はね、愛しの宙太さんがひとり旅に出るって卦が出たから、星子ちゃんから奪っちゃおって思って。ああ……アタシって罪深いオンナね……。許して、星子ちゃん!」
「…………。右京君は?」

軽い目眩を覚えて話を振ると、右京君、少しうんざりしたように肩をすくめてみせた。
「左京がこのところ、また人妻とやり放題と聞いてね。少々お灸をすえる必要があると判断したんだ。」

ああ、そう……。
まあ、今回は星子さんはいないんだし、ゲンジロウと二人きりよりは気がまぎれるか……。

僕は深ーいため息をつくと、小次郎君の案内であてがわれた部屋に向かった。


案内された部屋は二階の角部屋だった。

「おー、なかなかええ部屋やん」
このホテルのウリである、盆地と渓谷を見下ろす雄大な眺望に目を奪われる。

「大浴場は階段降りて左の突き当たりの渡り廊下の先なんだ。夕ご飯はダイニングで19時からだからね、んじゃそーゆーことで、ヨロシク!」
元気に館内案内を済ませた小次郎クンが出て行くと、オトコ2人には無駄に豪奢な部屋に沈黙が下りた。

「…………。」
気まずい雰囲気を誤魔化すように、僕は備え付けの館内案内をめくる。
このホテルは元々とある伯爵の別荘だったものだそうで、建物自体は随所に繊細な彫刻を施した洋館なのだけれど、さすがは温泉王国としても有名な場所柄だけに、露天風呂を備えているらしい。
夕飯まではまだだいぶ時間もあるし、このままゲンジロウと二人で向き合っているのもゾッとしない。

「オレ、風呂行ってくる。」
タオルと浴衣を掴むと、僕は逃げだすように露天風呂へ向かったのだった。

(続きます)

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