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芥川龍之介著「田端日記」より
28日
涼しいからこういう日に出かけなければ出る日はないと思って、8時頃うちを飛び出した。
道坂から電車に乗って上野で乗り換えてついでに琳琅閣へよって古本をひやかして
やっと本郷の久米のところへ行った。すると南町へ行って留守だというから本郷通りの古本屋を根気良く
一軒一軒まわって歩いて、横文字の本を2、3冊買ってそれから南町へ行くつもりで三丁目から電車に乗った。
ところが電車に乗っている間にまた気が変わったから今度は須田町で乗り換えて丸善へ行った。
行ってみると狆を引張った妙な異人の女が、「ジェコブの小説はないか」と言って探している。
その女の顔をどこかで見たようだと思ったら4、5日前に鎌倉で泳いでいるのを見かけたのである。
あんな崔嵬たる段鼻は日本人にもめったにない。
それでも小僧さんは「レディオブザバアジならございますが」とか何とか丁寧に挨拶していた。
大方この段鼻も涼しいので東京に出てきたのだろう。
<コメント>
ぼくはこの文を読んで集団ストーカーではないかと感じた。4、5日前に鎌倉で見た外人の女を東京で再度見かける
というのはなかなかないだろうから。まあ、昔だからありうるのかな…??イヤ、どうだろう。
だいたい「lady of the barge」を訳すと「屋台舟の女」となるのだが、
これは芥川が鎌倉で見た、そして今は目の前にいる白人女のことをほのめかしているようにも聞こえる。
もしそうならこの本屋の小僧も一役買っていることになる…
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