Ashley事件から生命倫理を考える

世の中は想像していたより、はるかにコワイ・・・

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英国で「永続的植物状態」と診断されたケースの5例に2例は誤診ではないかという話が
Cambridge大学の神経学者Dr. Adrian Owenらの研究チームから出ています。

神経外科医、麻酔科、実験心理学の専門家から成る「損傷意識研究グループ」が
植物状態や最少意識状態と診断された人の脳の活動状態を
聴覚刺激、視覚刺激を与えながらスキャナーによって調べる技術を開発。

例えば「テニスをしていることを想像してください」という指示に、
上体の運動をつかさどる脳の部位が活発な活動を示す、
または無意味な写真を見せた時には起こらなかった活動が
両親の写真を見せた時に起こる、など。

それによって、
これまで植物状態や最少意識状態とされて
積極的なリハビリの対象となっていなかった人にも
実は脳の機能や意識が残っており、
リハビリによって意識が戻る可能性があることが判明。

チームは今後スキャナーと脳波検査とを併用して、
検査結果の精度を上げたい、と。

The Undead
By John Cornwell,
The Times, September 9, 2008

Kate Bainbridgさん(37歳)は
10年前に脳炎から深昏睡に陥って数週間人工呼吸機に繋がれた。
その後4ヶ月経っても意識が戻らないため、永続的植物状態と診断された。

ところが、意識がないとされていた間も
本人は喉の渇きや苦痛を訴える声を上げていたのだという。
しかし周りのスタッフはその声を生理的な反応としか受け止めてくれなかった。

その後、Dr. Owenらのチームによって
Kateさんの脳の活動は残っていることが確認され、
臨床心理士との一対一のリハビリを経て
現在のKateさんは自宅に戻り車椅子生活。
文字盤を使って会話をし、Eメールを送受信したり
テレビを見たり、音楽を聴いたり、時に映画館へ出かけたり
という生活を送っている。

この記事を読んで唖然とするとするのは以下の部分。

The biggest, most tragic clinical myth about brain injury today is the PVS can be reliably diagnosed by bedside observation alone.

脳損傷に関する現在の最も大きな、最も悲劇的な臨床の神話とは
永続的植物状態はベッドサイドの観察だけで確かな診断ができると考えられていることだ。

これはAshley事件に関して当ブログが一貫して指摘してきたことと同じですが、
医師が「この人には意識がない」、「この人は何もわからない」と言うだけで
それが”科学的な事実”と見なされてしまうのは、
とんでもなく危険なことだと思う。

そんな科学的な根拠を欠いた診断に基づいて、
英国でも1992年のTony Blandを皮切りに
現在までに20人もが栄養の供給を停止させられたとのこと。

Dr. Owen によれば、
人は例えば「貝は?」という言葉を聞くと頭に貝をイメージするものの、
次に「銃から発射された」という言葉を聞くと
自分のそれまでの理解を変更しようとするものだとか。
最少意識状態と診断された人の脳でも同じことが行われていることが
MRIスキャナーによってわかる、と。

こうして意識が働いていることを確認することが出来れば
少なくとも本当は意識がある人を誤って餓死させることは避けられるじゃないか、
それだけは手を尽くして避けるべきだろう、と私は考えるのですが、

しかし、この記事によると、
何年もそういう状態の患者を見守ってきて、
そろそろケリをつけて自分の人生を仕切りなおしたいと考えている家族としては、
こんな検査が行われて意識があるということになれば
栄養停止で死なせるという選択肢がなくなって、その精神的負担が大きいとか、

臓器不足の解消のためにも
植物状態の人には栄養の供給を停止して死なせようとのプレッシャーが
医療現場にかかっているのも事実だとも。

こういう声が平然と聞こえてくること自体、
全く恐ろしい時代だと痛感させられます。

記事のタイトルが象徴的で
the undead とは、「死んでいない者」。
つまり植物状態や最少意識状態の人が現在そう考えられつつあるように
「まだ死んでいないというだけで、生きているわけではない者」というわけですね。

しかし、意識があるかどうかを科学的に確かめる方法があるのに
家族の都合がどうだ、臓器不足がどうだというのは
「よけいなことせずに殺させろよ」って言ってるのと同じでしょう。

NBICのレポートやトランスヒューマニストらの発言には
脳とコンピューターを接続して人間の脳の働きが解明される可能性が
しきりに謳われているのですが、

もっぱら強い者の能力の強化のための研究開発であって
弱者を誤って殺さないためのセーフガードとしては
その技術は使われない、ということでしょうか。

閉じる コメント(3)

遷延性意識障がい者の方の多くは聴覚が機能していて、「最小意識状態」にあるのだと思います。つまり無意識ではなくて、意思があるのに健常者レベルの意思表示が出来ない状態にあるのだと思います。

Blog記事を読んで海外での弱者切捨て理論には激しいものがあることを知りました。日本においては、海外ケースとしてマスコミがあらぬ扇動をしないことを願っています。

2009/10/30(金) 午前 9:10 [ たんたん ]

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たんたんさん、コメントありがとうございます。小松美彦氏は、植物状態とはコミュニケーション障害であるという説を唱えておられますが、私も、その可能性は大きいんじゃないかと思っています。表出能力が限られている人の認知能力を測ることには自ずと限界があるのに、その限界が認識されないのはおかしい。「分かっていると証明できない」ことは「分かっていない可能性もあるが、依然として分かっている可能性も残っている」ということに過ぎないのに、それを「分かっていないと証明された」ことと摩り替えてしまうのは、とてもじゃないけど科学的な姿勢とはいえません。でも今の医療を巡る科学者・哲学者・倫理学者の論文には、こんな非科学的・非論理的な物言いがあふれていますね。

2009/10/30(金) 午後 10:41 [ spi*zi*ar* ]

顔アイコン

包括的に……ですか? はて? 私はあくまでも個々のニュースや論文を具体的にとりあげて論じてきたつもりですが。

2009/10/31(土) 午後 2:22 [ spi*zi*ar* ]


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