Ashley事件から生命倫理を考える

世の中は想像していたより、はるかにコワイ・・・

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【18日訂正】
今日朝まで、うっかり思い込んで「最高裁」としていましたが、
やっと気付いて、上位裁判所(高等裁判所?)と訂正しました。

カナダの移民男性に関する「無益な治療」訴訟
Rasouli v. Sunnybrook Health Science Centre における
Ontario上位裁判所の判決文から事件の概要と、結論のみ、読んでみました。

判決文はこちら。今年3月に出されたものです。

事件の経緯とは、

Hassan Rasouli氏(59)は2010年10月にSunnybrook Health Science Centreで脳の良性腫瘍の手術を受けた。
術後に細菌性の髄膜炎などを起こし、脳と脊髄を損傷、10月16日からこん睡状態に陥る。
人工呼吸器を装着し、経管栄養にて「生かされている」状態。

主治医2人と脳神経科のスタッフとの診断ではRasouli氏は遷延性植物状態にあり
医学的回復(medical recovery)の現実的な望みはなく、
このまま介入を続けても医学的利益がないばかりか害を生じかねないし
今の状態を続けると病院のベッドに寝たきりの場合に起こる合併症でゆっくりと死んでいくことになる、と。

そこで法的後見人である妻のParichehr Salaselさんに予後を伝えて、
今後は緩和ケアのみとしたいと同意を求めるも、妻は不同意。
セカンドオピニオンでも同じ予後が伝えられたが不同意は変わらず。

なお、Rasouliさん一家は2010年4月にイランからカナダに移住。
夫は退職したエンジニア、妻はイランでは医師だった。

妻によれば、命は生かされるべきだというのがイスラム教徒としての
夫と家族の考え方であり、医療へのアクセスは基本的人権であり、
命のすべての兆候が消えるまで医療は与えられるべきだ、と。

またRasouliさんにはある種の反応があり、改善もみられ、
最少意識状態が植物状態と誤診されているのではないか、とも。

そこで妻はHCCAの規定に基づき、夫の治療停止については
The Consent and Capacity Board (CCB)で本人の最善の利益を検討するよう求めると同時に

病院は州の機関として、カナダ憲法で保障された
宗教の自由ならび生命、自由、安全への権利を侵してはならない、とも主張。

で、法律の素人としては判決文の大半は面倒で読んでいられないし、
読んでも理解できそうもないので、いきなり結論に飛ぶと、

CONCLUSIONS:
[103] “Treatment” under the HCCA includes the withdrawal of life support. Therefore, doctors require consent when withdrawing life support in Ontario. End of life cases present very difficult considerations for all parties involved. It is clear from the evidence that the hospital, doctors and substitute decision-maker in this case all have as their priority the best interests of the applicant.We are fortunate in Ontario that our legislature has provided a statutory scheme to assist doctors and substitute decision-makers in determining when an incapable person should be removed from life support, complete with recourse to an independent, expert tribunal in the event that a dispute arises in applying the best interests test. This statutory scheme will allow the applicant’s doctors to challenge the substitute decision-maker’s decision refusing consent to the proposed plan at the CCB. While no end of life decision can be easy, the process established by the HCCA provides consistency and ensures a full consideration of an incapable person’s best interests in cases such as this.

RESULT:
[104] For the reasons outlined, I am of the view that the physicians’ proposal to end life sustaining treatment to Mr. Rasouli, a decision which is supported by the Hospital and opposed by Mr. Rasouli’s substitute decision-maker, must be referred to the Consent and Capacity Board.

[105] Pending the decision of the Board, the physicians are not permitted to withdraw mechanical ventilation and transfer Mr. Rasouli to palliative care. Should the circumstances change, the parties may return to court.

[106] I am of the view that the Canadian Charter of Rights and Freedoms does not apply to the proposed decision of the physicians to withdraw mechanical ventilation.


HCCAとは、恐らく the Health Care Concent Act(医療同意法)のこと。
その法律の「治療」には「治療の停止」も含まれているため中止にも同意が必要、と。

この判断、米国の無益な治療法とか、ついこの前 SavulescuとWilkinsonが書いていた論文なんかを考えると、
ちょっとほっとする解釈ではありますが(論文詳細は文末にリンク)

判決文のどこかで、医師らの言い分の中に
「患者に利益にならない治療をする義務は医師にはない」というものも目にしたので、
こちらの言い分の根拠は何なんだろう、その辺りの関係はどうなんだろう……と、ちょっと気になります。

ともあれ、判決の結論とは、

終末期の意思決定の困難ケースにはHCCAがCCB(同意・同意能力委員会?)で
一貫性と十全な検討を保障している……として、判断はCCBへ。
CCBの結論が出るまで病院は生命維持を中止してはならない。
なお、カナダ憲法がこのケースには当てはまるとは考えない。

          ―――――

フランスのブルカ禁止などイスラム教徒の移民を巡る文化的な摩擦が
法的な問題に至るケースが増えているようで、
カナダでもシャリア法の解釈の導入を禁止する州が出たりしているようです。

また、ちょっと前のものですが
カナダでシャリア保険を開発というニュースも。

そういえば、先日の米国の無益な治療事件でも治療を拒否された患者は移民だった。
それ以前の「無益な治療」事件でも患者が移民だったケースがあった。
いずれも非合法の移民だというわけじゃない。なんだか、なぁ……。

元をたどれば、先進諸国のビッグ・マネーの方々が、
自分たちがもっと効率よくガッポガッポ稼げるように、と、それだけを考えて
世の中のいろんなシステムを緩めたり消したり作り替えたりしつつ
「弱肉強食でイケイケ」の「強欲ひとでなしルール」を
グローバルにどんどん敷いていくものだから、そのあおりで
もともと貧しい国では経済など成り立たず政治すら機能しなくなり
安手な労働力として使い倒されることを覚悟で移民の道を選んで
母国を出ていくしかない人が大勢出てきたのではないのか。
(または海賊になるとか)

カナダ政府だって
子育てや介護に奴隷労働者を輸入するための釣り餌として
「一定の期間介護労働者として働いてくれたら市民権、永住権の申請も」と
送り出し国との間で協定まで結んでいる。そして実際には
何年も働いていけないような酷い労働環境を放置している。

そんなふうに、
自分たちが世界の経済・政治・労働もろもろの環境を荒したために食い詰めた人たちを
自国で安価な労働力として使い倒して更に踏みつけつつ、
そういう人が重い病気になってゼニがかかるようになったら
もはや治療は無益だと、切って捨てる――。

そういうこと……?


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