Ashley事件から生命倫理を考える

世の中は想像していたより、はるかにコワイ・・・

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23日に刊行になった拙著
『死の自己決定権のゆくえ:尊厳死・「無益な治療」論・臓器移植』について
シノドスに、新刊著者インタビューが掲載になりました。



タイトルは
共鳴する「どうせ」で、いのちの選別を行わないために

ずばり、見事にツボをついた
タイトルをつけていただきました。

25日から29日の間に
編集者の金子さんとメールでやりとりしながら、
そのやり取りから次々に触発されて、考えや表現がさらに深まり、
本に書いたことの、もう一つ先に手が届いたという気がしています。

もちろん、インタビューには書ききれていないことのほうが圧倒的に多いので、
よかったら、両方を読んでいただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。

2013年8月31日の補遺




英国のスポーツ・キャスター Jonathan Agnew氏が、ALSになった身内にディグニタスへ連れて行こうかと提案したことを明かし、話題に。
http://www.telegraph.co.uk/sport/cricket/10265125/Jonathan-Agnew-I-offered-to-help-my-stepchildrens-ill-father-die.html

WA州のホスピスの看護師が担当患者の「尊厳死法」による死を巡って書いた文章。「誰かがどういう死に方をするかは私が決めることじゃない。それは分かっている。それは分かっている。わかっている」。
http://www.geripal.org/2013/08/a-hospice-nurses-experience-of-assisted.html

豪のDr. Death, Nitschke医師がキャンベラ・タイムズに論考。The cost of living when a dying wish is denied.
http://www.canberratimes.com.au/comment/the-cost-of-living-when-a-dying-wish-is-denied-20130815-2rzfb.html

テキサスの「無益な治療法」改正法案、またも通らず。せめて転院まで生命維持の続行を求める法改正が何度も試みられてはつぶれている。TX州の「無益な治療」法改正法案、“死す”(2011/5/5) でも拾ったけれど、その後も補遺で拾ってきたように、何度か提出されている。
http://medicalfutility.blogspot.jp/2013/08/texas-futility-law-protects-clinicians.html

英国の介護者にフレキシブルな労働の権利を呼びかける声。
http://www.telegraph.co.uk/health/healthnews/10265134/Andrew-Marr-calls-for-flexible-working-rights-for-carers.html
映画”Short Term 12”、グループ・ホームの生活を描く。スタッフの視点で。
http://movies.nytimes.com/2013/08/23/movies/short-term-12-delves-into-life-at-a-group-home.html?_r=0

米国のナーシング・ホームで抗精神病薬の過剰投与が減ってきている、との調査結果。
http://health.usnews.com/health-news/news/articles/2013/08/27/us-nursing-homes-reducing-use-of-antipsychotic-drugs


未熟児への酸素療法における酸素の適量を模索する臨床実験で、リスクがあることを知らされていなかったとDagen Patt君の両親が訴えたのを機に、新しい治療法の実験では当たり前になっているリスクの説明が旧来の治療で実験では行われていない問題が浮上している。米。
http://www.washingtonpost.com/politics/2013/08/29/7ae65ca2-10e6-11e3-85b6-d27422650fd5_story.html

ビル・ゲイツが米国の新たな統一テスト教育カリキュラム、Common Coreを「購入する」ために使った費用を調べ上げた学校の先生がいる。:ビル・ゲイツが自分路線の公教育改革実現に“投資”したグラント一覧(2013/6/15)を作ったのは、WPのValerie Strauss。もうトラッキングなど無理だろうけど、他にもいろいろ、カネと人をばら撒くことで「購入」されているものもある。
http://www.huffingtonpost.com/mercedes-schneider/a-brief-audit-of-bill-gat_b_3837421.html

でも、米国民の大半はCommon Coreについて知らない。:大半の国民が知らない間に、でもいつのまにか進められていることが、ずいぶん多い。米国だけじゃない。
http://www.washingtonpost.com/local/education/poll-most-americans-unfamiliar-with-new-common-core-teaching-standards/2013/08/20/ffacc0d6-09b9-11e3-8974-f97ab3b3c677_story.html

日本語。米主要都市でスト=ファストフード従業員ら:この記事はまったく触れていないけれど、この背景には8月6日の補遺で拾ったように、「ゼロ時間契約労働」の広がりという深刻な問題がある。これは日本にも実際には来ているんじゃないかと思うのだけれど。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130830-00000031-jij-n_ame

キング牧師の「私には夢がある」演説から50年。それでも今も人種間格差は埋まらない。上の記事の写真、集まった人々に圧倒される。下は、FBIが演説後に監視を始めた、というWP記事。
http://www.washingtonpost.com/business/economy/50-years-after-the-march-the-economic-racial-gap-persists/2013/08/27/9081f012-0e66-11e3-8cdd-bcdc09410972_story.html
http://www.washingtonpost.com/politics/mlks-speech-attracted-fbis-intense-attention/2013/08/27/31c8ebd4-0f60-11e3-8cdd-bcdc09410972_story.html
5月にフィラデルフィアで誕生した Connor Levy君については
以下のエントリーで紹介しましたが、



その続報のような形で書かれたWPの記事があり、
こうした次世代シーケンシング(NGS)による着床前診断技術の
ポテンシャルについて語られている。

この技術の先駆者である
オックスフォード大の Dagan Wells医師は、

30代前半の女性では胚の4分の1、
40代前半の女性では4分の3が異常なのに、
それらは顕微鏡では正常に見えてしまうので、
「着床させるのはどの胚にするべきか見極めるための、もっと良い方法が必要なのです」

「40代前半の夫婦が選ぼうと思ったら健康な胚が一つもない、
ということになる可能性もあるので、
生殖力が年齢とともに落ちる問題を
NGS技術が解決するわけではない」が、
若い女性ではIVFの着床率を上げるだろう、と。

スタンフォード大の法・生命科学センターのHank Greely氏は

「あまり遠くない将来の、ある時点で、
子どもを持とうとする人たちは自分の胚のゲノムを見て
病気になるとか、外見がどうかとか、どういう行動をとるか、男か女かといった
特性に基づいて胚を選ぶ技術的な能力を手に入れることになるでしょう」

世界中でこうした選別を禁じたとしても意味はない。なぜなら
「世界にはざっと200の国があります。
仮に199の国で禁じたとしても、
それは200番目の国にとって多大なビジネス・チャンスとなるだけですから」



WPには同じ日にもう一本、
こちらは新型出生前遺伝子診断技術に関する記事もあり、

こちらでは専門家の次のような発言が引用されている。

「手に入る情報はできる限り手に入れればいいじゃないですか」
前もって問題が分かっていれば、中絶を選ぶとか、
障害児をケアするための準備をあらかじめしておくことも含め、
親が選択肢を比較検討するのをhelpできるし、
子宮内胎児手術で子どもの生存率や予後を改善することもできる。

一方、この記事で紹介されているのはDenise Bratinaさんの事例。

Bratinaさんは4年前の37歳の時に、
羊水検査で胎児の染色体15にDNAの欠損があると言われた。
その欠損から起こる問題の可能性として、てんかん発作、心臓の奇形、発達の遅れのほか
多数の病気や障害を挙げられた。

通常なら、そんな小さな欠損までわかることはない。
が、Bratinaさんは染色体マイクロアレイ分析の研究の被験者だったので、
羊水検査で採取したサンプルのDNA検査で分かったのだった。

しかし同時に、その小さなDNAの欠損では
何も問題のない子どもが生まれる可能性もある、とも言われた。

5ヵ月後、健康な女児が生まれた。

研究チームがフォローアップの検診を提供してくれ、今のところ正常に発達しているし、
「将来、問題が起こってきたとしても、なぜかというのは分かるから」
検査でDNAの欠損が分かったことは喜んでいるというが、

中には健康な子どもが生まれた後にも、
心配がとまらない親もいる。

あまりに多くの情報は
病気や障害の直接の原因とは限らない遺伝子異常まで指摘してしまい、
親を混乱させるのではないか、と懸念する専門家も。

「検査を受ける人は、白黒はっきりつくと思っているし、
結果が不透明なことだってあると説明されても、その意味がちゃんと分かっていない」ために、

結果が不透明だった時に、
いつか病気になるんじゃないかと頭にこびりついて
子どもの健康や発達段階に過敏になる人もいる。



ちなみに、この記事に出てくる microarray検査を検索した時に引っかかってきたのが、
以下のレポート。

市場調査レポート 出生前診断の世界市場
Global Industry Analysts, Inc.  2012年7月1日 税抜きで439,971円

当たり前ですが、このレポートでは各種検査は「製品」です。

199の国で禁じたとしても、
それが200番目の国のビジネス・チャンスになるだけ――。
 
メディカル・コントロールと新・優生思想の周辺から出てくるニュースには
それまで想像もできなかった形の科学とテクノロジーの応用に仰天すると同時に、
考えてみれば、いろいろ起こっていることの当然の帰結だなぁ、と
改めて納得させられる……ということが、とても多いのですが、
そして、それが起こる間隔がどんどん狭まって
世の中の変化が加速しているとも感じているのですが、

これもまた、そういうニュース。

これまで思ってもみなかった、「無益な治療」論の今後の可能性――。
でもこれは、考えてみれば、やっぱり、これまで起こってきたことの当然の帰結――。


Altruista HealthというIT企業が
これまでの医療に関するデータの蓄積に基づいて
病院や医師が、病状が深刻化する患者を予測するためのアルゴリズムを開発。

この技術を、医療提供者に販売するのは
Hewlett−Packard社が所有するインドのIT企業、Mphasisの医療保険部門、Eldorado。

重篤になる患者を予測するだけではなくて、
最もコスト・パフォーマンスの良い治療の選択肢まで
提言するサービスとして。

記事には「一種のトリアージ」という表現も。

NYでメディケイド患者の医療費負担を担うNPOのAffinity Health Plan では、
Altruistaを使い始めて3ヶ月で、病院への再入院率が50%も下がった、という。

ワクチンや遺伝子診断技術に関する報道記事がそうであったように、
これもまたビジネス・セクションの記事。

「ワクチンの10年」がビジネス欄で語られる時にも使われていたように
ここでも a golden opportunity という経済アナリストの表現が目に付く。



Altruista社の創設者の一人、Ashish Kachru氏は
保険会社のビジネス・リスク管理部門の責任者だった人物。

そういう仕事をしていた時に、
「どの患者が治療を必要とするか、病院はもっとうまく決められるのに」と思った。

「つまり、患者の管理をどうやっているか、という点で
損失を出していたわけです」と同氏。

だから、つまり、このサービスのコンセプトは、
「リスク管理」としての患者マネジメント、なわけですね。

Kachru氏は
「患者がヘルス・プランを利用する期間の平均約2年間だと分かりました。
そして、何らかの利益が出始めるには、
患者の健康を改善するために約2年間かかるということが分かったんです」

そこでCULAサン・ディエゴ校と提携して
膨大な医療データを収集、分析し始めたのが、この技術の始まり。

ここでも、考え方はこんな感じ? ↓
医療費削減に繋がるかどうかの問題? WPの新型遺伝子診断記事(2012/11/29)


で、頭に浮かぶのは、

新型遺伝子診断でも「情報提供」だとか、あくまでも判断をhelpするんだとか
もっともらしいことが言われつつ、実際は障害児の排除が進められていくように、
このプログラムも「情報提供」だとか、コストをかけない良質の医療への提言だとか
もっともらしいことが言われつつ、進められていくのは
重症化すると予測される患者の切捨てなのでは……?

でも、医療というのはもともと個別の問題なんだから、
これまでのデータに基づいて「この患者は重症化する確率が高く、コスト高患者の候補」とか
「これまで、この病気でこの症状の患者にこの治療は有効ではなかったから
高価な治療でもあり、この患者には勧めない」といった判断をされても

データで重症化する患者が8割だったからといって、
個々の特定の患者が重症化しない2割に入る可能性は否定できないし、

だからこそ、治療の選択肢と関連データをきちんと説明され
患者はそれを納得した上で治療に同意する、インフォームド・コンセントの重視なのであり、
そこにこそ患者の自己決定権の尊重があったはず。

医療というのは、あくまでも個々の患者の治療が目的なのに、
個々の患者の状態にはお構いなしにデータの確率論で
医療そのものが拒否されていくのなら、

このプログラムのコンセプトそのものが
個別の医療判断のあり方とは相容れないんでは? と思うのだけど、

米国の医療職の人たちって、そこのところ、どう感じておられるんでしょう?

そういうことが指摘されにくいように
メディケア患者から適用されていくのか……?



もう一つ、引っかかるのが、この会社の名称。

Altruistaって、
どう考えたって元になっているのは altruism という言葉ですよね。

だから、どうしてもeffective altruism を連想させられてしまうわけで ↓
Peter Singer「利他主義のすすめ」:5000ドルの途上国支援すれば腎臓1個提供するに相当(2013/8/4)

そうすると、このサービスが提唱していくことって、
「このサービスが提供する“一種のトリアージ”で引っかかった人は、
確率の低い医療を受けてメディケイドの限られた資源を無駄遣いするよりも、
そんな医療は受けずに、同じ金額を他の人の治療にまわしてあげるのが
貧乏な人にもできる効果的利他主義の実践」……???
ショックだ……。

1ヶ月前に何の前触れもなくPCがぶっ壊れて
たまたま前の日に3本も書いて寝かせていたエントリーの原稿がオジャンとなる、
という悲惨な体験をした。

もちろん今さら、
その時のショックを書きたいわけではない。

一生懸命に書いたのに消えてしまった幻のエントリーの1本は、
あんまり悔しいので7月23日の補遺でスペースをとって
せめて概要のみを書いた以下の話題だった。

カナダのTayor訴訟やアイルランドのFleming訴訟にもかかわった
「死ぬ権利」擁護派の米ユタ大学の生命倫理学者 Margaret Pabst Battin と
四肢まひの夫との穏やかな「最良の時間」。(ビデオがとても良いです)

自転車事故で四肢まひ、人工呼吸器依存となった夫が死にたいという意思表示していたのに、
Battinは夫が急変した際には救急部に運び込んで救命した。
その後、大学教授の夫は呼吸器をつけたまま講義を再開し、
生きていることを喜びながら暮らしている。
Battin自身も現在の夫婦の生活は2人で過ごした「最善の時」だと語り、
時に夫が痛苦から死にたいと願うことがあるが
「彼が本当に本当にそういうところに至ったと私が確信できるまでは」と。

BioEdgeのCookは「愛され十分なケアを受けられる患者は生きたいと強く、
揺らぐことなく望むようだ。死んだほうがましだと絶望する瞬間はあるが、
実際に死を選ぶ瞬間は決して訪れることはないように思われる」
「自律がそれほど明確な原理なら、このケースではどうして機能しないのだろう?
もし機能しないなら自律原理には一貫性がない。一貫しないなら捨てるべきでは?」。

NYTのビデオでのBattinの静かな語りがとてもいいんだけれど、
ビデオを見ると、夫のRobertさんには24時間体制でプロの介護士が付いていると思われ、
「愛され十分なケアを受けられる」以外に「家族に過剰な介護負担がかからないこと」も
患者が生きたいと願うことができるための条件なのだろうな、とも。
http://www.nytimes.com/2013/07/21/magazine/a-life-or-death-situation.html?hp&_r=2&pagewanted=all&
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10608#comments


ところが、先週のBioEdgeによると、
夫のRobertさんは7月27日に突然気持ちを翻し、
もう明日はいらないから、人工呼吸器を含めて一切のスイッチを切ってくれ、と希望。

ホスピスがモルヒネを処方し、窒息死した、とのこと。

Battinさんは、

You can’t assume that "all choices are alike," she says, "so you have to be alert to what someone deeply wants." She believes "in honoring a loved one’s wishes," she says, her voice dropping, "even if it is painful to you." And, she adds, it is.’

すべての選択が同じようなものだと決め付けてはいけません。だからこそ、
愛する人の望みを尊重するにあたっては
その人が心の奥深くで望んでいることには敏感にならなければならないのです。
たとえ、それがあなたにとって苦痛なことであったとしても。
そして、本当に苦しいことなのですよ、それは。


ショックだ……。

人の心はこんなにも揺れ動くのだ、ということが。

そして、
そんなにも揺れ動くものである人の心が
一方に大きく振れて、それを口にした時に、
一定の状態にある人では、こんなにも簡単にそれが実現されてしまうのだ、ということが。

2人の姿がNYTに報じられたのは7月17日だった。
その、わずか10日後の出来事だ。

さまざまに反響もあったろう。
その中には意に染まない、不愉快な反応だって見聞きしたことだろう。
いきなり全国的な(国際的にも)注目を浴び、戸惑いもあったろう。
そんな大きな出来事があって、その余波のさなかにある時には
健康な人間だって気持ちが不安定になるものだろうに。

介護者であるBattinさんの方だって、
そういう非日常が起こっているさなかのことなら、
日ごろよりもなおのこと心は揺らぎ動いているのだろうに。

この結果でもって
これもまた「自律の原理が尊重された事件」ということになるんだろうか。


(私なんか日本の片隅で地味な本を1冊出しただけで、
大変な気分の不安定に陥ってしまってるのに。

仮にも世界のNYTに大きな記事とビデオで出てしまったんだから、
そりゃ、どんな人だって平静ではいられないのが当たり前なんじゃないかなぁ。
そういう非日常でハイになった後には、必ず揺り戻しがくるような気がするし。
そういう非日常時の「もういい、死ぬ」を冷静な判断だと受け止めて
応えてしまって、本当にいいのかなぁ)

.


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