どうする、利根川? どうなる、利根川? どうする、私たち!?

八ッ場ダムを中心としたダム・河川の話(工学、法律、歴史)。なお、緑色がリンクです。

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矢木沢ダム 

 続きです。
 矢木沢ダムの話、書いてみたら、その歴史の中には「日本のダム開発の歴史」のエッセンスが含まれていることに気がつきました。なので、少し丁寧に書いてみます。
 
 矢木沢ダム構想の原型は、群馬県が県営発電事業として計画した矢木沢堰堤・発電所で、これは富山県の県営発電事業の成功に刺激を受け、モデルとしたものでした。
 それが、利根川水害(S10,S13)の影響もあり、内務省の奥利根河水統制計画に変貌し、ダムの開発目的は、①発電、②灌漑用水の確保、③水道用水確保に多様化しました。
 
 ここで、少し東京市(1943年まで東京市、以後東京都)の事情を見てみます。東京は、戦前から公営水道事業が行われていた数少ない都市で、そのきっかけは、1886(明治19)年のコレラ騒動です。
  この年のコレラ患者数は12,171 名,  死者9,879 名に及んだという大きなコレラ騒動で(患者、死者は東京外を含む総計です)、東京では多摩川への汚物流入がその原因とされました。これを機に、お雇い外国人技術者の手による上水道建設が東京、横浜、大阪、京都、神戸などで始まっていきます。 中でも神戸では、布引ダム(布引五本松堰堤)という重力式コンクリートダムを作って、水道水源を確保しています。1900(明治33)年に完成した布引ダムは、日本で最古の重力式コンクリートダムでして、平成18年(2006年)7月には、日本最古の重力式コンクリートダムとして国の重要文化財に指定されたそうです。

 話を東京に戻します。
 帝都・東京でコレラ騒動が起きるというのは、条約改正を控え、”帝都の威信”を示さなければならない政府にとって、大変な不祥事でした。そこで、政府・内務省の肝いりで、東京の水道事業が始まります。内務省は、内務次官・芦川顕正を委員長とする東京市区改正委員会を設置し、衛生局顧問技師・バルトンが起草した(1888.11.12)設計案が作られます(『東京水道百年史』)。
 その後は、東京市独自の水道拡張事業になっていきます。昭和初期には、水道水源として山口・村山貯水池を建設します。村山貯水池(東京都東大和市,  1927 年完成)、山口貯水池(埼玉県入間市・所沢市,  1934 年完成)は多摩湖、狭山湖の通称のほうが有名かもしれないませんね。

 
 東京市は増大する水需要に対応するため、水源探しに追われるわけですが、昭和初期から東京域外の水源に目を付けています。1927(昭和2)年の東京市臨時水道拡張調査会は、当初、利根川・荒川・江戸川・相模川も視野に入れて、水源調査に乗り出しました。しかし、結局水利権調整がまとまらず、多摩川取水による水源拡張を目指すことになります。これが小河内ダム計画で、当初は1941(昭和16)年の完成を目指して始まりまりましたが、1943年に戦時中断します。コンクリートをはじめとする建設資材が回ってこないし、また工作機械そのものも戦時徴用されてしまったからです。
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 ”東京域外に水源を求める”という試みは、また10年後、1936(昭和11)年にも行われます。この時はダム建設を視野に入れた利根川視察が行われていまして、下の図のような地点が候補地にあがりました。矢木沢地点は、この視察報告の中に名前があります。この視察報告は1936年ですので、群馬県が県営発電事業として水利権申請する2年前(1938)になります。
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 上の図は、私の博士論文で使った図ですが、この東京市の利根川視察でのダム候補地点は、ある程度、戦後の利根川ダム開発と一致します。東京市の水源調査ですから、利根川との合流地点が関宿(利根川・江戸川の分派点)以東の鬼怒川に注目しないのは当然ですから、それを考慮してみると、結構似ているといえるんじゃないかと思います。
 これは、戦後のダム開発が、利水需要を賄うためが多目的ダム計画の第1目的であり、治水需要は、水源開発に便乗する形で進んできた(利根川では治水を主要な動機・目的で作られた多目的ダムは少ない)ということを示していると理解しています。

 利根川視察では、たくさんの候補地点を求めましたが、その視察結果を専門的に検討した水道水源調査委員会(1937)では、最終的に奥利根案と霞ヶ浦案を報告しました。このタイミングで、群馬県が矢木沢堰堤・発電所(県営事業)を構想し、内務省が奥利根河水統制計画に変更します。その中で、奥利根河水統制計画・矢木沢貯水池に東京市の水道水利権12.0㎥/秒が設定されたのでした。

 話が長くなってきました。
 また一旦切り上げます。次は、矢木沢ダムの戦後の話になります。

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