「君を送りて 思ふことあり 蚊帳に泣く」 子規
「足しびれて 邯鄲の昼寝 夢さめぬ」 子規
「古団扇 涙の迹を 見らるるな」 子規
「坂の上の雲」
司馬遼太郎著 「坂の上の雲」が遂に2009年のNHK大河ドラマに決定したと言う
NHK21世紀スペシャル大河「坂の上の雲」
この話は、数年前にもあったが、たち切れになっていた。
ここ数年、NHK大河ドラマは観ていない。司馬遼の「坂の上の雲」久々に期待できる。
「坂の上の雲」を読み返している。20代の頃読んだ時とは違う感慨がある。
幕末から、明治維新、そして列強に互して近代国家の建設に奔走する明治の若者群像である。
四国松山藩の下級氏族、秋山好古(よしふる)・秋山真之(さねゆき)兄弟と、正岡子規を軸に、戊辰戦争・西南の役、日清戦争・日露戦争へと物語は展開する。
秋山兄弟
明治維新では幕府方に付いた、隣は土佐藩。旧松久藩の家臣の子弟達の栄達の道は、学問を修めることにしか端緒はなかった。
陸軍軍人になった兄・秋山好古はほとんど何もないところから陸軍騎兵部隊を世界最強のコサック騎兵部隊に伍するところまでに育てあげた。
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秋山好古
弟の秋山真之は海軍に進み、日本海海戦における斬新な戦術をあみだし、世界海戦史上例を見ない完勝への道を開いた。
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秋山真之
真之の幼なじみ正岡子規は、文学者として、俳句・短歌を革新するとともにだれもが使うことができる日本語の散文をつくりあげた。
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正岡子規
秋山真之と正岡子規は、苦学の末東京大学の前身「大学予備門」に進み、同じ下宿に住まい文学論を戦わせるが、秋山真之は思うことがあり、兄・好古と同じ軍人の道に転向する。
真之が、子規には内緒で「大学予備門」を退学する下り・・・
正岡常則殿
と、見おぼえのある筆跡でかかれた封筒が机のうえにのっている。
(なんぞな)とおもってひらくと、はたして真之の手紙であり、子規は
おもわず窓ぎわへ走った。
障子をあけ、そとの雨あかりを入れてひらくと手紙は数行であった。
「予は都合あり、予備門を退学せり。志を変じ、海軍において身を立てんとす。愧ずらくは兄との約束を反故にせしことにして、いまより海上へ去る上はふたたび兄と相会うことなかるべし。自愛を祈る」
という意味のもので、この年齢の若者らしく感傷にみちている。
子規は、しばらくぼう然とした。やがて、壁の上をみた。そこに
鉛筆の線で大きく人のかたちが描かれている。
かつて真之がかいたものであった。
真之は徹夜勉強が得意で、寄席などへ行ったあとはかならずこれをやった。
あるとき子規も、「あしもやる」と言い、−−−徹夜の競争じゃ。
といいながら机をならべたのだが、夜半になると子規の体力が尽き
ついに壁にもたれてねむりこけてしまった。
真之はのちの証拠としてその人がたを鉛筆でとった。
(あげなことしおって)と、その壁の線描をみているうちに
真之の手紙の感傷がのりうつったのか、涙があふれて始末にこまった。
なにやらこれで真之とは今生のわかれであるような、そんな気がした。
真之は築地にあった「海軍兵学寮」を修了し、米国留学等を経験し、海軍参謀への道を歩む。
正岡子規と言えば、東京帝国大学国文科に進むも、思うことがあり中退し恩人の経営する新聞社「日本」の文藝担当記者として日本古来の文藝「俳句」「短歌」の近代化・学問的意味づけを行う。
正岡子規は、ご存じのとおり35歳で結核のため夭折する。
軍人と俳人(文学者)と、二人の道は分かれたが、二人のお互いの敬愛と友情は終生変わる事がなかった。
ここで子規がアメリカ留学する秋山真之を想って詠んだ句を紹介する。
「君を送りて 思ふことあり 蚊帳に泣く」 子規
「足しびれて 邯鄲の昼寝 夢さめぬ」 子規
あししびれて かんたんのひるね ゆめさめぬ
邯鄲は中国の地名。以下は唐時代の沈既済による説話集『枕中記』より。
『むかし、廬生という貧しい男が、邯鄲近くの宿で老道士の呂翁と会った。
廬生は老道士から青磁の枕を借りてうたたねをした。
すると幸運にめぐまれて栄華をきわめた。ところがそれは現実ではなく、黄粱が炊ける
あいだに見た夢でしかなかった。これを「廬生の夢」ともいう。』
子規もまた秋山を見送ったあと、昼寝をして、世界をかけめぐる夢でも見たのだろうか。
目がさめると、自分ひとりでは一歩もうごけない病人でしかないと、子規は改めて知る。
それでも夢を捨てきれない。
「古団扇 涙の迹を 見らるるな」 子規
ふるうちわ なみだのあとを みらるるな
米国海軍の視察留学に向かうという、自分の夢を存分に実現させようとしている秋山を、結核の病にむしばまれ苦しみの中にある子規はどれほどうらやましく思っただろう。だから、母や妹から見られないように、古いうちわで顔を隠した。
子規と真之の友情を、正岡子規の高弟「高浜虚子」の門下生、「酒井黙禅」はこう読んでいる。
「梅が香やおまへとあしの子規真之(しきしんし)」 酒井黙禅
「酒井黙禅」の歌碑
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