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去年の春、僕のママが死んだ。パパは、ママはお星様になったって言ってるけれど、そんなの嘘に決まってる。
ママが病気で死んでしまったのは、きっと神様が意地悪をしたからなんだ。だから僕は神様なんて大嫌い。僕からママを奪うなんて・・・
大好きだったのに・・・
去年の春、私はこの世を去った。夫は透が元気になる様に一生懸命嘘を付いているけど、透にはすっかりバレてしまっているみたいね。
透もまだ5つになったばかりなのに・・・。辛い思いをさせてごめんね。
ママも、もっともっと透のそばに居てあげたかった・・・
愛しているから・・・
ママがいなくなってからちょうど1年たったかな・・・。ママがいないのはとても寂しい。
でも、もうすぐママは帰って来るんだ・・・きっと。
僕が桜笛を吹いて遊んでいると、後ろから目隠しをしてこう言うんだ。
「だ〜れだ?」
それから僕が後ろを振り返ると、優しい笑顔のママが立ってるの。
「隠れててごめんね。」
ママは僕をぎゅーっと抱きしめてくれるんだ。きっとそうだ。ママはどこかに隠れてるんだ。
これは、長い長いかくれんぼ。遊んでるだけなんだ。そうだよ・・・
ママは死んでなんかいない・・・。
透はどうしてるかな・・・。会いに行きたい・・・。でも、行っていいのだろうか・・・。
きっと、会ってしまったら離れる事が出来なくなる。別れもきっと辛くなるだろう。
でも・・・でも・・・
少しくらい良いかな・・・。ちょっとだけなら・・・。
「ガガっ!!」
しんとした部屋の椅子が急に音を立てた。
(なんだろう・・・今の音・・・?)
少し不安になる透。父はスーパーに夕飯の買出しへと出かけていた。
何か気配を感じる・・・
透はその場に立ち竦んだ。
懐かしい家の空気。この家とは1年ぶりにご対面。私が愛用していた椅子も、まだちゃん
と残されていた。
(あぁ・・・懐かしい〜)
私は音を立てない様に気をつけて椅子に腰かけた。
「ガガっ!!」
用心しておいたつもりだが音が鳴ってしまう。
音にびっくりして、一人の男の子がソファーの背もたれから顔を覗かす。
透だ。大きなソファーに隠れていて見えなかったのだ。
「透!!」
思わず叫ぶが、もちろん声が届くはずがない。
そわそわと立ち上がる透を見つめながら、私は昔透と過ごした日々の思い出を一つ一つ想い
出していた・・・。
「誰かいるの・・・?」
僕は不安になって声を出した。でも、確かに人の気配はする・・・。
「カタン・・・」
今度は机の上のペンが転がる・・・
「誰なの!!!」
今度はさっきよりも大声で言った。
窓からは風が吹いてきて・・・・
「あ・・・」
風と混ざって桜の香りがした。桜・・・
僕は涙が出そうになった。
桜の花は、僕が生まれてから初めてママに見せてもらった花・・・
ママとの思い出の花なんだ・・・
「透・・・」
透をぎゅっと抱きしめてやりたいのに通り抜けてしまうのが悲しかった。
私は透に自分の存在を教えてやりたかった。
でも、こんな事をしたら・・・
私は迷いながらも意識をペンに集中させた。
呼吸をととのえてペンをにぎる・・・
「カタン・・・」
うまく行かない。もっと集中しなければ・・・
急に窓から風が吹いてきた。
「あ・・・」
この香り・・・私が唯一教えてあげられた花・・・
桜・・・。
この花は透との思い出の花だった・・・
ママ・・・僕は我慢出来ずに声をあげて泣き出した。
「ママーーー!!!!!ママーーーーーーー!!!!!!!!!!」
ママに聞こえるはず無いって分かってる。でも、叫ばずには居られなかったんだ・・・
「・・・え・・・?」
目の前で、ペンが宙を動いている・・・。
でも、僕は何故か怖くなかった。僕はペンを走らせる紙をのぞいた。
白い紙の上にゆっくりと書かれていく文字・・・
集中・・・集中・・・
そう心の中で呟いていた時・・・
「ママーーー!!!!!ママーーーーーーー!!!!!!!!!!」
急に透の叫び声が聞こえる。
「透ーーー!!!!透ーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
私も叫んだ。聞こえるわけが無いと分かっていながら。
私はいっそう透に早く自分の存在に気が付いてもらおうと必死になった。
・・・・・・
意識を集中させたまま、ペンを走らせる。
白い紙の上にゆっくりと書いていく文字・・・
「あいしてる」
透へのメッセージ 僕へのメッセージ
私からのメッセージ ママからのメッセージ
「あいしてる」 「あいしてる」
届いたかな 僕もだよ
ずっと待ってた この瞬間
ずっとずっと 一生忘れない
きっと これでお別れ
これがお別れ だから
今のうちに伝えたかった ママは僕に伝えた
この気持ち その気持ち
次は 僕の番
もう無い ママへ
透は、母からのメッセージの下にペンを走らせる・・・
「あいしてる」
切っても 切っても
切れない絆 切れない糸
透と ママと
繋がっている 結ばれている
もう まだ
離れる事は無い 一緒なんだ
だって それは
愛があるから 愛と言う事
いつも ずっと
胸の中に 心の奥に
透はいる ママはいる
寂しくなんかない 辛くなんてない
愛してるから 愛してるから
「透へ 「ママへ
あいしてる」 あいしてる」
「あいしてる」
4月の風に吹かれて・・・「完」 BY雨
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