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母が病院から帰って来たので
散歩に出た。父の様態に変化はない。
いつものたんぼ道を歩いていると 自転車にのったご老人とすれ違った。
そう、 あれは 私が 今年になって移植するために入院する前日
あまりのつらさに散歩にでた 私を 父が びっこを引き 追いかけて来た。
父は 糖尿で足の血管に静脈留があり、あまり歩けなくなっていた。
少しまって 一緒に歩いたが あまりの痛さに父は 「うちに戻り自転車でくる」と
また、びっこをひきながら家に戻った。
私は そんな父を待っている心の余裕もなく いつもの道だからと一人で歩き出した。
どうせ 田圃のふとい農道 わからないはずは ない。
いつものコースは父も知っているし 第一 視界を遮るものはない。
安心して しかし 一抹の不安を持ちながら 歩いていた。
明日からの不安で私はおしつぼされそうだった。
少し たってから 気付いたが なかなか父が来ない。 周りには 遠くに ぽつんぽつんと 散歩
している人がいるだけだ。
何で 来ないんだろう。 もっと 視界のひろいところにでた。 ああ いた。遠くに自転車に乗った父の姿
てっきり 私の方に来るのだと思い、遅いぞといってやろうとまっていた、 距離は田園地帯なので直線で三百メートル はある。
あれ 何で? 父は 私の方に来ないで 三百メートル前の道を 脇目もふらず 自転車を飛ばしていく。
なぜ?どうして? 父の遙か前方に目をやると なんと 遠目からは私と似た格好でウォーキングしている人が
そう 父は その人を 私と間違え 一生懸命追いかけているのだった。痛い足をもろともせず。
父は 糖尿で 目もあまり良くないし、もちろん耳もあまり聞こえない。 だからきっと勘違いしたのだろう
私は 渾身の力を込めて 「じいちゃーん・・」と読んだ 周りの散歩している人や 作業をしていた遠くの人は
私の方を見た。父以外は ああ このせつなさ このつらさ 父はこんなに耳も目もダメなんだとはじめてわかった
私のとおい目の前を脇目も降らす通り過ぎる父の姿は 私の涙でかすんで見えた。
私が 散歩から 帰って 父を待っていたら 父は 三十分後に帰ってきた。
お前 どこにいってたんだ。 お前だと思って一生懸命追っかけていったら人のうちに入っていくんだもの
人違いだった 何で 人のうちまでいくわけ? あのときは 家族で大笑いで 悲しい 辛い気持ちも吹っ飛んだ
ああ なんと言うこと 切なすぎる姿を 思い出しながら 散歩 してきた。
感傷的になるな
まだ 父は 頑張っている。
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