すた・ばにら

すたは現実世界の私、ばにらは気ままに野山を駆けめぐる野ウサギ…

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厚東川水路橋【1】

さて、そろそろ始めなければなるまい。
いろいろと諸事情があって公開が大変遅くなって申し訳ない…
 
 
厚東川1期導水路で恐らく最も目立ち、多くの人の目に姿を露わにしておきながら、探求者を容易に足元へ寄せ付けない重要な構造物…
 
厚東川水路橋である。
 
それは宇部の街に工業用水や上水向けの原水を送る厚東川1期工業用水道が厚東川を渡るための構造物で、この記事を書く今も休まず原水を送り続けている。
 
厚東川ダムを出て企業局の設置したマイクロ発電所のタービンを回した用水は、導水隧道によって厚東区の関口付近に到達する。そこで厚東川を渡るために用水は厚東水橋と呼ばれる呑口を経て一旦厚東川の河床まで高度を下げる。この過程で国道2号およびJR山陽本線の下をくぐり、逆サイフォンの原理で河川敷に設置された塔を垂直に上昇し、高度を回復した後に水路橋によって対岸に送られる。
 
 
初めての読者のために、地図でその場所を示しておこう。
 
 
 
航空映像モードに切り換えると、水路橋上部が開渠になっていて控え柱が一定間隔で並んでいる様子が見えるだろう。
 
水路橋自体は、国道2号からもJR山陽本線からも容易に観察される。河床から垂直に上昇する塔の部分と対岸へ繋がる橋から成るので、あらかじめ知らされなければ”片方しか岸へ繋がっていない橋”のように映る。その奇妙かつ巨大な構造物は幼少期から興味の対象であった。
 
 
この水路橋が用水を送るためのものということは早くから分かっていたが、10年前に初めて写真を撮りに現地付近を訪れたときは、常盤用水路の一部であると誤認していた。
これが10年前に撮った水路橋の写真である。
 
イメージ 1
 
 
時代は下り、野山時代にじでんしゃでのポタリングを始めた数年前、厚東水橋や水路橋の対岸まで何度か写真を撮りに向かったものだった。工業用水道関連への興味が深まるにつれ、次第に詳細な写真を撮りたいと思うようになってきた。
 
 
しかし野山時代から、厚東川水路橋はあらゆる方面からの接近を頑なに拒否し続けてきた。この場所は厚東川がダムより下流で最も狭隘になる地点であり、両岸は切り立った崖である。この様子は国土地理院の地図でハッキリと解る。
 
イメージ 3
 
水路橋は、両岸が最も迫りくる場所を渡されている。間隔の狭い等高線と崖の記号からもどういう場所か想像つくだろう。
 
ここは今でこそ国道と鉄道が通じているものの、古くからの交通の難所で、明治以前は通行できる道がなかった。
歴史ある山陽道もこの場所を避けて山越えルートを取っている
現在も厚東川と鉄道、国道、新幹線は自由な経路を選択できず、狭い帯状領域に押し込まれた形で通じている。
 
左岸に至っては現在なお未開も同然な地である。水路橋までは軽トラ一台がやっと通る荒れ道があるものの、その先には実質的に獣道すらない。急傾斜地にへばり着く廃された踏み跡は歩くのも困難で、厚東川1期導水路のみが導水隧道で通じているという秘境同然の地である。
 
荒れ道をじでんしゃで乗り込み、左岸から厚東川水路橋を撮影したのは2年前のことであった。このときの踏査レポートは以下の記事に詳しい。
 
「厚東水橋の対岸アクセス(2008/12/1)」
 
水路橋の塔にあたる部分は、その後もなお接近できないままだった。この付近は国道もJR山陽本線も切り立った崖を削って通されているので、河川敷に降りる場所が全くないのである。
 
塔の部分が川面から立ち上がっているなら、接近不可能と諦めもつくだろう。そうでないことは、全容を確認する以前から分かっていた。
 
 
これは毎度引き合いにするが、厚東川工業用水道事務所の作成したパンフレットに掲載された厚東川水路橋の写真である。
パンフに載っている写真をデジカメで接写している
 
イメージ 2
 
写真でも一目瞭然で、水路橋で用水が垂直上昇する塔の部分は川の水が通常流れない岸辺の縁にあり、そこまでは隧道形式で水平移動している。周辺は草が生えた荒れ地になっている。と言うことは、大雨で厚東川の水位が上昇しない限り、この部分は陸上にある筈なのだ。
 
塔の下部や水平移動する隧道部分は、国道側からは全く見えない。一昨年に右岸を極めたとき、注意深く観察すると共に数多くの写真を撮ったのだが、この部分を捕らえた写真はない。右岸は木々の繁茂が激しくて左岸が見える場所が殆どなく、撮影しようがなかった。私が塔の下部構造を知ったのも、あのパンフレットに依るものだった。
このような構造になっているのを初めて知ったのは私だけではあるまい
 
現地へ足を運んで実際の状況を確かめたい。そして可能な限り塔に近づいて、鮮明な写真を得たい…
 
成果を得るには明らかに相当の困難が待ち受けている。それは重々覚悟の上だ。パンフレットに写真が掲載されているのだから、必ずそこへ到達する方法がある筈だ…
 
 
今年の元旦、運試しという訳ではないが、何としても念願の調査を成功させてテーマ踏査の好スタートを切りたいという気持ちから、現地へ車を向かわせた。
 
ここに物語が始まる。
 
---
 
今や野山を拠点に、散歩を兼ねてじでんしゃを漕ぐポタリングではなく、絞られた調査対象の情報を得るために可能な手段は何でも利用する”テーマ踏査”である。今回もアジトからじでんしゃを走らせる悠長な手段に訴える積もりは当初からなかった。
  
車を使うのは当然として、長時間車を停められてなるべく歩く距離が短い場所を検討した。その結果、極めて順当な拠点にJR厚東駅を選んだ。
JR山陽本線は、厚東駅を出てすぐ厚東川にぴったり接する。まさか線路敷を歩くような危険なことは出来まいが、水路橋へ向かうなら線路沿いに経路が見つかるだろうと考えるのは自然だし、以前からそういう判断があった。
 
 
厚東駅前へ到着して気付いたのだが、今は堂々と車を駐車できる場所がない。殆どが一時待機用か月極駐車場スペースとなっていた。もっとも駅前は十分広いし、元から利用者も少ない駅にあって車一台停めて支障が出る要素はない。あまり目立たない端の方へ車を寄せて停めた。
 
車から降り、さて駅前の写真を撮ろうとしたとき、痛恨のミスに気付いてしまった。
 
デジカメの予備バッテリーを忘れてきた。
 
思えば数時間前私は肩掛けバッグに小物を詰め、じでんしゃで琴崎八幡宮へ初詣に出掛けていた。そのとき予備のバッテリーを入れておいたのだが、それが裏目に出た。普段持ち歩くカバンへ戻すのを忘れていたのだ。
 
寒い時期はバッテリーの消耗が早い。元から装着しているバッテリーは最近充電していないので、どのタイミングで撮影不能になるか分からない。すぐ切れることはないと思うが、出足から気分的なブレーキとなるのは否めなかった。
 
そういう事情で、この先は必要最小限にしか撮影していない。
車を停めた厚東駅前の写真は後に述べるような理由から撮影されていない
 
厚東駅前から線路に沿って伸びる砂利道を歩く。
またしても気分的に足を引っ張る事態が…
 
ある一軒の家を通過するとき、飼い犬が猛烈と吠え始めた。
塀の内側から私を睨みつけ、不審者と決めつけるべく吠えまくっている。
 
元々、犬は好きなのだが、見境なくしつこく吠える犬ほど踏査にとって邪魔なものはない。これが原因で過去に何度も踏査を中断させられたし、去年の秋口など街中で野犬集団に襲撃され命の危険に晒されるという酷い事件もあって、目下、人間に抗う犬コロどもへの嫌悪感はmax状態だ。
 
バッテリーに余裕があればカメラを向けて挑発しようかとも思ったが、ザコを相手にしている暇はない。吠えるに任せて進んだ。
 
 
相当離れていながらなお吠え続けるバカ犬(失敬w)の喧噪を背後に、踏切へ差し掛かった。
何処へ通じる道か分からないが、キチンと警報機も設置されており、渡っても何の問題もなさそうだ。 
 
イメージ 4
 
 
踏切の名前は空屋踏切
奇妙な名前である。それこそ空き屋の如く誰も利用しそうにない踏切だった。
おそらく小字の名前だろう…期待通りの読み方をするのかは分からない
 
イメージ 5
 
バッテリーが気になれど、足取りを記録する主要ポイントを外すわけにはいかないので、デジカメに収めた。
撮影を終えて踏切を渡っているまさにその時、警報機が鳴り始めてかなり慌てた。
 
水路橋へ向かうには踏切を渡って左である。
左には軽トラが通れる程のダブルトラックの道が延びていた。
 
 
ダブルトラックの道は厚東川の築堤につき当たり、そこで終わっていた。この近辺の田に向かうための農道のようだ。
振り返ると、厚東駅を出て先ほど警報機を鳴らすことになった列車がコチラへ向かっていた。 
 
イメージ 6
 
 
この場所に来たのも実は初めてではない。
野山時代、じでんしゃで少なくとも一度は訪れている。言うまでもなく、あの塔に接近する目的だった。そのときも経路を見つけることができず断念していた。
 
私の第一の見立ては、この築堤から河川敷に降りる経路が必ずある筈だという仮説だった。水路橋まで距離的には若干遠いものの、河川敷までの高低差はさほどない。ここで築堤を越えて河川敷に降りられれば、あとは厚東川を遡行するだけだ。河原に人が一人歩ける程度の経路は見つかると考えたのである。
 
丹念に築堤の端を調べて歩き回った。
 
しかし築堤は藪の中では最凶クラスの笹藪に覆われており、人の踏み跡などまったく見つからなかった。ある程度の藪漕ぎなら覚悟はあったのだが、そもそも築堤の斜面から下が全く見通せない。どこから河川敷になっているやらも分からず、藪を漕いで下っている最中いきなり川面へドボンというリスクもあった。
 
ここは駄目だ。
 
その結論へ至るのに、時間はかからなかった。全く勝ち目がない。強行すれば怪我を負うだけと考え、藪には一歩も踏み込まずに引き返した。
いくら成果を求めようと、トラブルや怪我など一切なく踏査を終えるのが至上命題であることに変わりはない。
 
障害物のない広々とした田園や築堤は風が強い。冷たい風が頬を打ち付ける。しかし考えられる限りの防寒対策をしていたので震え上がる程ではなかった。降水確率は高かったが、今の気温なら降れば雨でなく雪だろう。ある程度防水の効くジャンパーなのであまり心配はしていなかった。
 
 
来た踏切をそのまま引き返す。
いっそのこと、この操車場の敷地内を歩けば簡単では…とさえ思ってしまった。
 
イメージ 7
 
 
空屋踏切の入口付近は意外に広い空き地になっていて、駐車するなら厚東駅前よりも好適だった。駅から歩いて200m程度だが、帰りにまた犬に吠えられるのも気分が悪いし、停めて良いものやら分からない駅前に車を放置したくなかった。そこで一旦国道沿いを歩き、車を取りに戻った。
  
車を停め直し、今度は国道沿いに水路橋の方へ歩いた。
戦いは始まったばかり…焦ることはない。
 
 
もう一つ、ずっと以前から考えていた想定経路がこの先にあるからだ。
この幅広い路側部分に車を留め置くという手段もある…駐禁ではない
 
イメージ 8
 
 
JR山陽本線が国道2号に接近し、狭隘区間に入る入口部分である。ここに僅かな平場があり、ガードレールが切れている。
ここも車を停められる広さはあるが…国道からの出入りが極めて危険
 
イメージ 9
 
 
JRの線路敷にまみえる。
10年前、初めて水路橋の写真を撮りに来たときもこの近くまで来たし、野山時代も立ち止まったはずだ。
  
イメージ 10
 
保線員が出入りするためか、線路敷までの段差部分に数本の枕木が渡してあった。しかし線路の向こう側には何処にも道はないし、そもそも線路を横断するための簡易な設備も一切ない。
当たり前だが、国道と鉄道の間に身を置いている以上、河川敷へ降りるには鉄道を横断しなければならない。それも旅客・貨物輸送の大動脈たるJR山陽本線の”一般の横断には供されていない場所”で。
 
また引き返しを余儀なくされる無駄足に終わるのか、それとも突破口が見いだせるのか…見た限りでは渡る前から結果は見えているように思われたが故に、ここで足が停まった。
 
(「厚東川水路橋【2】」に続く)

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あんな形だったとは・・・貴重な画像ですね!
しかしほんと山陽本線歩くのが一番確実なんですがね〜
あとはゴムボート作戦しかない!?

2011/1/14(金) 午前 9:49 [ - ] 返信する

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パンフを見るまでは、水が流れている中央部分から塔が立ち上がっていると思っていました。
実際はサイフォン部も厚東川の標準水面より上を流れているんですよね。
ああいう構造になっていたことは、関係者以外まず知らないんじゃないかと…

2011/1/14(金) 午前 10:56 sta_vanilla 返信する

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