月読通信

1年近く放置すると、帰ってき難いねぇ^^;

恩田陸

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「ミステリーとして読まない」


 これは、近年の恩田陸作品の、特に長編を読む時には必須のキーワードです。このことは、特に最新長編である『きのうの世界』を読むにあたっては、肝に銘じておく必要があります。

 あ、私自身は「超」がつくほどの恩田ファンなので、本書を読むという体験は、「耽溺しました」と言いたくなるほどの、至福のひとときでした^^
 もちろん、こういう展開というか世界観というか雰囲気というか、それを受け入れがたい人も、世の中には多分たくさんおられるだろなぁ、ということも分かります。そもそも恩田陸というのは、かなり好き嫌いが分かれるタイプの作家だと思いますが、『きのうの世界』は、まさにその好き嫌いが如実に出る作品でしょう。
 実際、ネット上でのレビューなどを見ると、評価する意見としない意見に、はっきり二分されているようです。これまでの作品で言えば、『ユージニア』や『夏の名残りの薔薇』への評価に、近いものがあるように思います。



 以下、私的な感想を若干つづっておりますが、いわゆる粗筋などは説明していませんので、未読の方の参考にはならないと思います……ご了承のほどを^^;



 個人的には、本書に横溢する雰囲気に通ずるものとして思い起こしたのは、『月の裏側』であり、「魔術師」(『象と耳鳴り』所収)であり、「黒い塔」(『光の帝国』所収)であり、『ネクロポリス』でした。漠然とした不安感や、不思議なほど「しんとした」空気感、例によって「閉じた空間」で展開する物語、そして相変わらず驚くほどリアルに立ち上がってくるヴィジュアル。

 本書の舞台である「塔と水路のある町」を、作中で呼びかけられる「あなた」として歩き、町の人々と話し、塔を見上げ……と、まさに「世界」に入り込んでいく感覚を味わうことの心地よさ=不安感=酩酊感には、やはりたまらないものがあります。

 ある意味、本書の主人公はこの「町」そのものであり、そういう「町」のありようを描くことが恩田陸の筆の走るところだったのだと思います。だから……いや、理屈はもういいんです。だって、この「町」の中には、引き寄せられずにはいられない魅力的なガジェットが、こんなにも溢れているじゃないですか。「焚き火の神様」や「水路と笹舟」、「駅のステンドグラス」なんて、もう、たまらなく素敵なアイディアです。

 そうなのです。恩田陸的世界では、そうした「魅惑的な謎の提示」こそが求められているのであり、それをどう解決するかは、かなりの部分読者の裁量に任されているわけです。というか、解決など二の次であるといってもいい。
 例えば、とある都市伝説が国家的な犯罪となるか、超常現象の証左となるか、別世界への入り口となるかは、読む人次第。そもそも、「解決しない」というオプションも、もちろん残されているわけで。

 ちなみに、私としては、この「解決しない」ままにしておくというスタンスが、結構心地よかったりします^^

 多分……恩田陸は、「場所」というものにとても力点を置いている作家なんだと思います。ある「場所」が喚起する力、立ち上がってくる雰囲気、持っている磁場。それぞれの「場所」は閉じていると同時に、どこか別の「場所」に通じる裂け目を常に探している。その流れに、人間がシンクロした時に、「物語」が生まれてくる。
 恩田陸の作品が切り取ってくるのは、いつもそうした流れの「部分」であって、全体ではない。だから、「恩田作品にはオチがない」といって憤るのは、ヘビにむかって「おまえにはなんで足がないんだ!!」といっているに等しい……というのは暴論に過ぎるでしょうかね(笑)
 恩田陸自身は本格推理をこよなく愛しているし、リスペクトしてもいるのですが、彼女が紡ぎ出す物語は、構築的な、悪く言えば「ためにする」展開には、どうしてもならないのではないでしょうか。だって、結末を決めずに書き始める推理小説なんて、考えられますか?(いや、もちろんないとは言いませんが)

 さて、帯の惹句によれば、恩田陸は本書を「これは私の集大成です」と語ったとか。ある意味それは当たっていると思います。あの仕掛けや、あの結末にピンとこなかった方もおられるでしょうが、あれこそ恩田陸であります。伏線なんて全部が全部回収されなくてもいいんです。そんなこと、『黒と茶の幻想』でとっくに体験済みじゃないですか(笑)
 むしろ、解かれなかった謎、回収されなかった伏線、答えのなかったセリフこそ、楽しいんですよ^^


 まだ語られぬ物語への「予感」。それこそが、恩田陸の最大の魅力です。だから私は、恩田陸の提示する次の物語を、読まずにはいられないのです。

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 祝、復帰!!のcuttyさんが、本のタイトルについての記事「背表紙は語る」を書かれていて、とても面白く拝見しました。いやもう、cutty節の健在ぶりを確認して、嬉しいやら楽しいやら。復帰を喜ぶ皆さんの膨大なコメントを見るにつけても、「みんな、待ってたんだなぁ」と目頭が熱く……(ちょっとおおげさか^^;)。と同時に、やはりcuttyさんの記事には、読み手に何かを投げかけ、さまざまな連想をうながす強い力があるということを、再認識した次第。えー、かく言う私も、早速にその影響を受けている一人でして……(笑)

                          ☆☆☆

 さて、作品タイトルが印象的な作家といえば、やっぱり恩田陸です。なんといっても素晴らしいのは『三月は深き紅の淵を』。これは別格です。でも『象と耳鳴り』『六番目の小夜子』『図書室の海』なんかも捨てがたいし……あ、短編のタイトルにも、いいのがありますよね。「ピクニックの準備」「水晶の夜、翡翠の朝」、それに「イサオ・オサリヴァンを捜して」。一度ならず再読している私ですら、タイトルを眺めてるだけで、また読みたくなってしまうくらいです。未読の方ならなおさら、どんな話なのか気になってきませんか?

 そうだ、いっそのこと、恩田作品のタイトル全部並べてみましょう。……ついでに、cuttyさん発案の「タイトルを見て小説の中身を推理するゲーム」もやりましょうか(笑)もし、以下のリストで未読のものがある方は、そのタイトルからどんなストーリーかを想像して、コメントもしくは記事にしてくださると嬉しいです^^ ちなみに私自身は『猫と針』以外は既読なので、参加できませんが(爆)
 というわけで、「恩田陸・作品タイトル総覧」!! ご用とお急ぎのない方はどうぞご覧アレ♪

長編

 『上と外』
 『エンド・ゲーム 常野物語』
 『球形の季節』
 『Q&A』
 『禁じられた楽園』
 『クレオパトラの夢』
 『黒と茶の幻想』
 『劫尽童女』
 『木洩れ日に泳ぐ魚』
 『三月は深き紅の淵を』
 『蛇行する川のほとり』
 『黄昏の百合の骨』
 『蒲公英草紙 常野物語』
 『チョコレートコスモス』
 『月の裏側』
 『ドミノ』
 『中庭の出来事』
 『夏の名残りの薔薇』
 『ネクロポリス』
 『猫と針』
 『ネバーランド』
 『ねじの回転』
 『puzzle』
 『不安な童話』
 『まひるの月を追いかけて』
 『麦の海に沈む果実』
 『MAZE』
 『木曜組曲』
 『ユージニア』
 『夜のピクニック』
 『ライオンハート』
 『六番目の小夜子』
 『ロミオとロミオは永遠に』

短編

 『朝日のようにさわやかに』
  「水晶の夜、翡翠の朝」
  「ご案内」
  「あなたと夜と音楽と」
  「冷凍みかん」
  「赤い毬」
  「深夜の食欲」
  「いいわけ」
  「一千一秒殺人事件」
  「おはなしのつづき」
  「邂逅について」
  「淋しいお城」
  「楽園を追われて」
  「卒業」
  「朝日のようにさわやかに」
 『いのちのパレード』
  「観光旅行」
  「スペインの苔」
  「蝶遣いと春、そして夏」
  「橋」
  「蛇と虹」
  「夕飯は七時」
  「隙間」
  「当籤者」
  「かたつむり注意報」
  「あなたの善良なる教え子より」
  「エンドマークまでご一緒に」
  「走り続けよ、ひとすじの煙となるまで」
  「SUGOROKU」
  「いのちのパレード」
  「夜想曲」
 『象と耳鳴り』
  「曜変天目の夜」
  「新・D坂の殺人事件」
  「給水塔」
  「象と耳鳴り」
  「海にゐるのは人魚ではない」
  「ニューメキシコの月」
  「誰かに聞いた話」
  「廃園」
  「待合室の冒険」
  「机上の論理」
  「往復書簡」
  「魔術師」
 『図書室の海』
  「春よ、こい」
  「茶色の小壜」
  「イサオ・オサリヴァンを捜して」
  「睡蓮」
  「ある映画の記憶」
  「ピクニックの準備」
  「国境の南」
  「オデュッセイア」
  「図書室の海」
  「ノスタルジア」
 『光の帝国 常野物語』
  「大きな引き出し」
  「二つの茶碗」
  「達磨山への道」
  「オセロ・ゲーム」
  「手紙」
  「光の帝国」
  「歴史の時間」
  「草取り」
  「黒い塔」
  「国道を降りて…」

エッセイ

  『小説以外』
  『酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記』

 どうです、気になるタイトルがありましたか?
 なお、自作のタイトルの付け方について、恩田陸はこんな風に言っています。
 私がタイトルを考えるのは、映画のポスターをイメージするのと似ています。作品そのものがポスターになっているところを思い浮かべ、タイトル文字や惹句をイメージします。主要な登場人物の顔はもちろん、色調も浮かべば言うことなしです。
                  『小説以外』所収「タイトルの付け方」より
 やっぱり恩田陸の作品は、ビジュアルから出発してるんですねぇ^^

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 あぁ、これぞまさに恩田陸!! 読んでいる間中、いや、読み終えてから後もしばらく、私は眩暈にも似た酩酊感に囚われていました。自分が今「どの」世界に立っているのかわからなくなるような、奇妙な感覚です。
 読み終えて、改めて表紙を見てみると、タイトルの書体が微妙にねじれ、ゆらいでいるのに気づきました。もちろん、そういうデザインなわけですが、まるで今まで読んでいた作品世界のゆらぎが、現実世界ににじみ出てきたかのような錯覚を覚えたものです。

↓以下作品の内容に言及していますので、未読の方はご注意ください。



                                 ***




 これは、ある戯曲(『中庭の出来事』、あるいは『真夏の夜の夢』、あるいは『告白』)をめぐる、迷宮物語です。はじまりもなければ、終わりもありません。帯の惹句には「恩田ミステリの臨界突破」と書かれていますが、ミステリ好きな方が狭義のミステリとして本書を読むことは、まったくオススメできません。
 作中(作中といっても、いろいろな段階があるので、説明しづらいですが)ではいくつかの不可解な死(脚本家の死、女優の死、就職活動中の若い女性の死)と、それらをめぐる様々な推理が展開されますが、そのどれもが正しく、またどれもが間違っている。だから、メモを取りながら読むなんていう野暮なことは、しない方がいい。そうではなく、地下水脈のような物語の流れに身をまかせ、入れ子構造に翻弄され、自分の立ち位置すら不確かになる感覚をそのままに楽しむ……のが一番だと思います。
 同じ観点から、粗筋を説明することもしないほうがいいでしょう。いいえ、そもそも説明などできないのです^^;。

 さて、本書の恩田作品の中での位置づけは、『ユージニア』や『夏の名残の薔薇』の系統に連なるものでしょう。虚構と現実のあわい、記憶の曖昧さ、視点の移動と解釈の変容、繰り返しとズレ。作者の目論見は、今までで一番成功しているようです。それから作中、「旅人たち」の部分は、『黒と茶の幻想』を彷彿とさせます。

 またこの物語は、劇場での上演を想定して書かれたようにも思います。実際、私の脳裡には、かつてシアター・コクーンで観た第三舞台の芝居が浮かんでいました。……だいぶ前の芝居なので、書いてしまってもいいと思うんですが…。その芝居のラストシーン、舞台の背景が「本当に」開いて、舞台上の役者たちが「現実世界」に駆け出していくのです。観ている方はびっくり仰天しました。薄暗い劇場内に座ったまま、さっきまで芝居が演じられていた舞台の向こうに、さんさんと陽光が降りそそぐ(マチネを観ていたので)駐車場やビルなどを見た時の驚きは、忘れられません。あれは、芝居という「虚構」と、観客のいる「現実」との境界線を一気に跳び越える、素晴らしい演出でした。
 そして、本書のねらいのひとつも、同じところにある、と思ったのです。つまり、本という虚構の外にいる「現実の読者」を巻き込んで、作品が成立するという点。その点で、本書はまさに「本」でありながら「演劇」でもあるという、不思議な性質を獲得しているわけです。このあたり、筒井康隆の諸作に通じるものもありますね。

 そうそう、恩田陸で「演劇」とくれば、『チョコレート・コスモス』ですよね。『チョコレート・コスモス』は、演劇というものの創り出す空気感や体温まで描ききった傑作でした。『中庭の出来事』は、いわばその「アザー・サイド」である、とも言えます。できれば、両方とも読むのがいいでしょう。ただし、『チョコレート・コスモス』を先に。特に、恩田陸を読んだことのない人は、この本から読むのは避けた方が無難かと^^;

 ともあれ、あらゆる意味で、恩田陸を読み続けてきてよかったなぁ、と思わされる作品でした。楽しかったなぁ。

 ……ところで、『ブラザー・サン、シスター・ムーン』って、いつ出るんですか??
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 恩田陸『朝日のようにさわやかに』読了。

 結論から先に言うと、「私にとっては」とても面白い本でした。この場合、「私」を「恩田ファン」に置き換えても可。要するに、これまで恩田作品を読んできて、その雰囲気に慣れている人向けだと思います。例によって、途中から始まって途中で終わってしまうような、創作メモみたいな話もあるので、本格ミステリ一辺倒の人とか、オチがないと気が済まない人なんかには、あまりお薦めできません^^;
 帯の惹句には「この一冊で恩田陸の作品世界が一周できる!入門書としても最適」とありますが……どうでしょう? むしろ入門書としては避けた方がいいんじゃないかなぁ。混乱しちゃうでしょう、きっと。

 ちなみに、装幀はとっても素敵です。表紙は平野耕作さんという写真家の作品。使われている紙の質感もいいです。

 さて、内容についてですが。本書にはショート・ショートから数十ページの短編まで、14編が収録されています。作品の傾向は色々ですが、割合としてはホラー風味のものが多いかな。ブラックなのや、シュールなのもあります。恩田陸の場合、短編集には「あとがき」がついているので、それもお楽しみです。

 以下、各作品について一言ずつ感想を。

 水晶の夜、翡翠の朝
 『麦の海に沈む果実』『黄昏の百合の骨』に連なる、「理瀬」シリーズの短編。ただし、主人公はヨハン。個人的に、憂理が登場してたので、嬉しかった^^いわゆる「童謡見立て」で、ちゃんとミステリになってますが、ミステリとして読むよりは、シリーズの一つとしてとらえた方がよさそう。

 ご案内
 ショート・ショート。恩田陸自身、「短編は難しい」と言っているけれど、ショート・ショートにはさらに向いてない?のかも……。もちろん、つまらないワケじゃないですよ。

 あなたと夜と音楽と
 ジャズのスタンダード・ナンバーをタイトルにした、ラジオのパーソナリティーの会話のみで進行するミステリ。キチンと解決するので、ミステリファンにも勧められます。ただ個人的には、ミステリより、ホラー向きの題材であるようにも感じられました。

 冷凍みかん
 コレを読んだら、冷凍みかんが食べられなくなるかも(笑)こういう都市伝説っぽい話は好みですね^^『クレオパトラの夢』でも登場したエピソード。

 赤い鞠
 本書で一番「恩田陸らしい」と思った作品。映像が、ありありと脳裡に浮かんできます。いつも聞こえているはずの海鳴りが消えて、障子を開けてみるとそこには……。これも、何か大きな物語の一部分なのでしょうね。

 深夜の食欲
 コレは怖い^^;生理的に怖い。グロテスクな描写はほとんどないけれど。誰もが思うことではありますが、人体から離れた髪の毛や爪っていうのは……。

 いいわけ
 ショート・ショート。あとがきで、作者は「モデルはいわずもがな」と語っています。……ひょっとして、「白い家」に住んでる、某国のエライ人かしら?

 一千一秒殺人事件
 タイトルの通り、稲垣足穂『一千一秒物語』をモチーフにした不条理劇。う〜ん、わかるんだけど、なんだかタルホっていう感じがしなくて……。ちょっと残念。

 おはなしのつづき
 白雪姫のおはなしって、確かにヘンですよねぇ。私も子供の頃不思議に思ってました。

 邂逅について
 これは、小説と言うより詩ですね。恩田さんとしては珍しい作例ではないかと。中井英夫へのオマージュ本に寄稿したもの。

 淋しいお城
 「ミステリーランド」の予告編として書かれたもの。これはいい。「淋しいお城は、淋しい丘の上に這うように建っています」……読みたくなってきたでしょ? 「みどりおとこ」も不気味でいいなぁ。って、そういうシステムだったのか!

 楽園を追われて
 作者曰く「私にしては珍しい「普通の」話である」。確かに。居酒屋で会話する葬式帰りの四人の男女。彼らは、亡くなった男が彼ら宛てに遺した自筆原稿を、読もうとしていた……。殺人事件も、奇妙な謎もない話。でも、個人的にはとてもリアルで、すごく痛い話でもありました。

 卒業
 「深夜0時」という統一テーマのもとに書かれた短編。20枚以内という制約の中で書かれたため、状況の説明は一切なし。深夜0時をすぎるまで、生きながらえることができれば「卒業」できるらしいのだが……狭い空間に追いつめられ、仲間が次々に魔物?に襲われ、命を落としていくという極限状態。
 これ、冒頭にこのシーンを置いて、回想という形でそれまでの経緯を語っていくという手法で長編化、もしくは映像化して欲しいです。

 朝日のようにさわやかに
 エッセイのような、フィクションのような、不思議な話。グロールシュ(オランダビール)から始まって、ウイントン・マルサリス(ジャズ・トランペッター)、蓮、竹、心太(トコロテン)と、連想は止めどもなくころがっていきます。『三月は深き紅の淵を』の「回転木馬」に似た雰囲気。これは、ビールを飲みながら読みましょう^^


 ということで、読み終えての印象は、「居酒屋で、恩田陸と差し向かいでビールを飲みながら、色々なネタ話を聞かせてもらっている」という感じですね。だから、ひとつひとつの作品の完成度や完結度(恩田作品には必要な言葉でしょう^^)を云々するより、それぞれのアイディアやイメージの鮮明さを楽しむのが、正しい?鑑賞態度でありましょう。あ、ひとつ注文をつけるとすれば、関根一家の話がひとつもなかったのが、ちょっと淋しかったですね〜。
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 ヒデジぃさんに教えていただいた、河出書房新社の「文藝」2007年春号を入手いたしました。表紙をみてお分かりの通り、「恩田陸特集」であります。結論から言いますとね、これは買いですよ、皆さん!(笑)

                               ◇◇◇

 目玉は、なんといっても書き下ろしの短編「糾える縄のごとく」です。この短編、春刊行予定の長編『ブラザー・サン、シスター・ムーン』の予告編なんです。……予告編! あぁ、恩田陸ファンとって、「作者本人による自作の予告編」ほど蠱惑的なものがあるでしょうか? しかも、登場人物が高校生三人。恩田陸で、高校生とくれば、『六番目の小夜子』『球形の季節』『ネバーランド』『夜のピクニック』といった、一連の名作を思い出さずにはいられませんよね。
 で、読んでみました。冒頭から、やや強いコントラストに縁取られた古い街並みの映像が、くっきりと脳裡に浮かんできます。恩田作品を読むと大抵そうなる、「頭の中でスイッチが入って、自動的に映像が映し出される」ような感覚。それも、ビデオやDVDではなく、映写機によって投影される少しざらついた質感の映像です。

 「街に出て、大人三人以上から話を聞いてレポートを書く」という課題のために、細い川のある旧市街にやってきた三人の高校生、箱崎一(はこざきはじめ)、楡崎綾音(にれざきあやね)、戸崎衛(とざきまもる)。蒸し暑い午後、その古い町にはまったく人影がない。でも、そこに住む人々の気配だけは、濃厚に漂っている。そんな中、誰とも出会えないまま川縁を歩く三人。
 箱崎一は思う。
 ──「きらちん」な感じだ。
 子供の頃から、こんな気分を表してきた彼の言葉。
 今の景色はまさにそれ。額に入れておきたい、そんなひとこま。こんな時、いつも強い焦りを覚える。「きらちん」な瞬間は、いつも必ず、次の瞬間には消えてしまう。
 戸崎衛は、ふと、おかしな気分になる。
 知っているけど未知なもの。
 衛はちらりと後ろを見た。
 そこを歩いている二人だってそうだ。
 知っているのに知らない未来。
 この無人の町が、不定型な「未来」というものにそのまま繋がっているような気がした。
 楡崎綾音は、戸崎の背中をじっと見つめる。
 あたしには無理だ。そもそも楽器を持ち歩くこと自体、気恥ずかしくてできそうにない。あの楽器の重さは、彼女の自意識の重さだった。
 本当はやりたいことがいろいろあるのに、どうしてこんなに何もしていないのに、何かをする前からなんでもあきらめてしまうんだろう。
 あ〜読みたい、本編読みたいぃ!(地団駄)……はっ、シツレイしました。ちょっと取り乱しました^^;
 え〜ちなみに、この短編がまた絶妙の「引き」でもって終わってるんですよ。まさに映画館で上映される予告編です。それも、全国ロードショーとかではない、単館系のこぢんまりとした映画館で見ている感じ。予告編が終わった後の、スピーカーから流れるちょっとした雑音すら、聞こえてきそうです。
 本編は、この三人の大学時代の話らしいですが、刊行までの時間に耐えられる自信のある人は(笑)是非この予告編、読んでみてくださいませ!

                               ◇◇◇

 さて、特集だけあって、他にも恩田陸関連の記事が目白押しです。嬉しいのは、ロング・インタビュー、漫画家よしながふみとの対談、鴻上尚史・鈴木成一との鼎談など、恩田陸本人の声がたくさん載っているところですね。著作リスト(全て解説付き)や自作年譜も、ファンにとっては貴重な資料になります。さらに、綾辻行人や森見登美彦らによる「Q&A 恩田陸への44の質問」という企画もあります。
 どのコーナーも面白く読みましたが、特によかったのは、豊崎由美によるインタビュー(というか対談)ですね。恩田作品の特徴が「先行作品へのオマージュと読者との共犯関係」にあるという指摘など、うなずける点が多かった。それから、「物語」というものをどう捉えているかについて。
豊崎 ミステリーだとどうしても謎を解かなければいけないから、真相解明のための伏線を張らなきゃいけないでしょう。
恩田 そうなんですよ。でも、だからといって謎解きのためにすべてが犠牲になるのはいやなんです。
豊崎 わかります。
恩田 真相のための伏線だと、全部が真相の奴隷になってしまう、その思いが強くて。
 このあたり、恩田陸の考え方がはっきり出ていて興味深いです。同じことは、他のコーナーでも、ところどころで垣間見えます。例えば、森見登美彦の質問
 〈私は『ユージニア』や『Q&A』が好きですが、謎が気持ちよく解決されないことがなぜかくも気持ちがいいのか、恩田さんのお考えはいかがでしょうか?〉
 に対して、
 たぶん、無数の解釈及び結末を妄想できるからだと思います。けれど、世の中には解釈や結末はひとつだけだと信じている人が結構いるので、気をつけなければなりません。
 と答えているところとか、インタビューの中で、
 みんな「おはなし」に対する希求があって、人はお話を求めるんだけど、その「おはなし」というのはみんなが知っている話なんですよ。子供ってわかっていても毎日同じ絵本を読みますよね。あれと同じことを長いスパンでやっているんじゃないかと思う。
(中略)
 そう、だからオリジナルはない、という考え方ですね。
 と語っているところなど。執筆する時、結末やプロットをきっちり固めずに書き始めるという恩田陸らしい考え方です。
 また、いずれは「映像みたいな小説が書きたいのかな、と思っています。タルコフスキーの『ノスタルジア』みたいなのを小説でやってみたい」という発言にも、興味を引かれました。あ〜、いつか読めるといいなぁ……。

 まぁとにかく、「文藝春号」買って損はありません。少なくとも私は、堪能しました。ホント、いいものを教えてもらいました。ヒデジぃさん、ありがとうございました^▽^ノ

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