時代もの?
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よゥ、○○! 何でぇ何でぇ、随分と久しぶりじゃァねぇか。え? しばらく顔を見ねぇと思ったが……え、上方へ修行に出てた? へェえ。道理で見かけねぇワケだ。おっと、いつまでそんなとこに突っ立ってンだい、後ろォ閉めてこっちィ上がんな。なに、男やもめの侘び住まいだ。気にするこたぁねぇや。 おゥ、そっちィ座んな……なんだい改まって。お土産です? 兄哥(にい)さんには長いことご無沙汰をいたしまして? ……よしなよ、そんな堅ッ苦しい口上は。…まァ、くれるってんなら、土産の方は有難くもらっとくが……(風呂敷包みを開ける仕草)(驚いて)おい。こりゃ灘の生一本じゃねぇか(徳利を揺すってみて、それから栓を抜き、香りを確かめる)……しかもかなりの上物だなぁ──いやどうも此の節は、日が落ちるてぇと、途端にグッと冷え込むからな。ナニね、今から湯豆腐を一丁やっつけようと思ってたところだ。ちょうどいい、お前も一杯やっていきな。なんだ? 土産に持ってきたものを手前でいただいたんじゃ、申し訳がねぇ? へへ、ナニいってやンだ、ッたく。一人前の挨拶(こと)ォぬかしてやがら……(小声で)立派ンなりゃがッて……。 (声を張って)おゥ、構うこたねぇんだ。こっちだって独り飲んでてもつまらねぇ。いいからつき合いな。…そのな、後ろの戸棚に茶碗があンだろ? そうそう、それだ。その茶碗出しつくれ。燗をつけて飲るなぁ後回し、まずは一息、グッといこうじゃねぇか。 (茶碗を差し出し酒をついでもらう)おっと済まねぇな。とッとッと……あぁ、いい色だ。なぁ。おぅそっちも出しな。遠慮するこたぁねぇ。(徳利を差し出し、酒をつぐ)……コウと。じゃ、いただくぜ。(口から酒を迎えに行く。口をつけて目をつぶり、はじめはゆっくり、次第にノドを反らして、最後はグッと呷る) ──……ふうゥ。(間をおいて)堪えられねぇなぁ、こいつァ。えェ? いい酒だ。心が洗われるようなってのァ、こういうことを言うのかね。え、違う? 細けェこと言うない、べらぼうめ。へへ、まぁいいや。今日は気分がいいんだ。おっと、湯豆腐もいい塩梅にユラと来てェるナ。構わねェから勝手にやってくんなよ。醤油はそこィ出してあらぁ。 (もう一杯つがれて)おゥそうだ、上方の土産話でも聞かしてくんな。お前、上方ぁどこィ行ってたんだ。大坂? うん。大坂の。月野家保祢蔵(ツキノヤホネゾウ)師匠ンとこに、内弟子に入ってました? へェ〜。(感心して)月野家っていやぁ上方じゃ有名な戯作者だろう。確か、弟子は一切取らねぇなんて話だったが……どうしてやるもんだなぁお前も。そうそう、オレも聞いてるぜ、保祢蔵と海豹屋の「時代もの、大好き」て草双紙のこたァ。なんでも東西の人気戯作者を集めて、大層な人気だそうじゃァねぇか。え? なんだって。アタシも書かせてもらいました? もう四冊、江戸では須原屋から出てます? (間をあけて)……豪勢驚いたね。そりゃお前、大(てえ)した話だよ。そうかそうか……七年前に会った時にゃ着の身着のまま、行き倒れ同然だったお前がなァ。(茶碗を持ったまま遠くを見るような仕草) (気を取り直して)いや、とにかく目出度え! そういうことなら、こいつァ祝い酒だ! さ、もう一杯やんな。そんでお前、いってぇどんなヤツを書いたんだ? ちょっくら聞かしてくんな…… いやはや、調子に乗って前置きが長くなり過ぎました^^; え〜。てなワケで「時代もの、大好き」参加記事5本目は、柳家小さん『古典落語小さん集』(ちくま文庫 1990)です。実は、私にとって時代ものといえば古典落語なんです。それに、自分が実際に(寄席で直に、というだけなく、テレビやラジオなどのメディアを介したものも含めて)聞いたことのある噺家の中で、一番好きなのがこの小さん師匠。で、本書を選んだという次第。 小さん師匠といえば、その昔永谷園のみそ汁のコマーシャルにずっと出ていたので、ご存じの方も多いかと思いますが…。あの風貌といい、訥々とした語り口といい、ホントに味があっていいですよねぇ。決して派手に笑いをとるような芸風ではないですが、じんわりと可笑しみが伝わってくる。やっぱり名人芸ですね。師匠の「禁酒番屋」とか「将棋の殿様」とか、今思い出しても笑いがこみ上げてくるほどです。残念ながら小さん師匠がこの世を去って何年にもなりますが、今はその孫、柳家花緑師匠が活躍中ですね。 さて、本書はその小さん師匠の噺を記録した名演集です。演題は十八。 御慶(ぎょけい)
万金丹(まんきんたん) 猫久(ねこきゅう) 長屋の花見 大工調べ 三軒長屋 粗忽長屋(そこつながや) 湯屋番(ゆやばん) 浮世根問(うきよねどい) ろくろっ首 狸賽(たぬさい) 三人旅 短命 石返し 肥瓶(こいがめ) うどん屋 道具屋 言訳座頭(いいわけざとう) 正月の「御慶」から始まって「大工調べ」や「長屋の花見」「湯屋番」といった有名なものを中心に、大晦日の「言訳座頭」まで。ジャズに例えればスタンダード名曲集といったラインナップです。あまり落語に詳しくない方でも、十分楽しめる内容ですよ。個人的には「猫久」が一番好きかな^^「汝人間の性あらば、魂を臍下に落ち着けて、よおッく承れ」なんちて。「湯屋番」もいいなぁ。「雷様はこわけれど、あたしがためには結ぶの神…」「そんならアレはそら癪か」「うれしゅうござんす番頭さん」なんてんで(笑) 時に、落語をわざわざ本で読む、ということに疑問をお持ちになる向きもあるでしょう。確かに落語は寄席で聞くのが一番。でも、話芸である落語を活字にすることで、見えてくることもあります。まず、なんと言っても「言葉」がわかること。例えば「かじち」なんて、耳で聞いただけでは意味がわかりません。でもこれが「家質」と漢字で書いてあれば、ああ、家を抵当に取られてるってことかと、すんなり納得がいきます。 また、本書には、そうした言葉の意味も含めて、詳しい解説と註釈がついています。そこには噺の時代背景や登場人物の身分・職業にまつわる知識、江戸から明治にかけての風俗など、いわば時代のエッセンスとでも言うべきものが、たくさん詰まっているのです。 さらに、話し言葉の表記の上手さがあげられます。これは、小さん師匠ではなく、編者の飯島友治氏の技量に帰せられるところでしょうが、師匠のあの語り口を可能な限り文字に写しとろうと、様々な工夫がなされています。例えば「大工調べ」の聞かせどころ、大工の棟梁が因業大屋を相手に啖呵を切る場面(本書150ページ)。 なにを言ってやんでえ、おォ、丸太ン棒に違(ちげ)えねえじゃァねえか。目も鼻もねえ丸太ン棒みてえな野郎だから丸太ン棒てえんだ。呆助(ほうすけ)、藤十郎、ちんけえとう、株ッかじり、芋ッ掘りめッ。手前達(てめえッち)に頭ァさげるようなお兄哥(あに)ィさんとお兄哥ィさんの出来が少ゥしばかり違うんでえ。なにぬかしゃがんでえ、大きな面(つら)ァするなたあなんでえ、黙って聞いてりゃァ増長して、御託(ごたく)が過ぎらい。どこの町内(ちょうねえ)のおかげでもって、大屋とか町役(ちょうやく)とか膏薬(こうやく)とかいわれるようになったんでえ…馬鹿。元のことを知らねえと思ってやがるか、蛸の頭、あんにゃもんにゃ。てめえの氏素姓を並べて聞かしてやるからな、びッくりしてしゃッくり止めて馬鹿ンなるなッ。まさに江戸っ子の面目躍如というところですが、この語尾を伸ばす部分とか、音便する部分の発音などを小文字のカタカナで表記しているのが、実に「らしい」んですね。もう、読んでるだけで師匠の声が聞こえてくるようです。まぁ、このあたりを参考にして、冒頭の一文をでっち上げたようなわけで(笑) ともあれ、単に噺の内容を知るというだけでなく、噺家柳家小さんの話芸、独自の演出方法なども含めて、楽しめる一冊です。また、このシリーズには『志ん生集』(古今亭志ん生)、『文楽集』(桂文楽)、『圓生集』(三遊亭圓生)などもあります。ご参考まで。 ──名人の噺で学ぶ時代もの──おあとがよろしいようで^^
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「時代もの、大好き」 月野さん・あざらしさんから提案されたこの企画、多くの方が参加を表明され、既に続々と記事も書かれはじめています。でまぁ、私もささやかながら末席に名を連ねさせていただこうという次第で……。 とはいえ、参加予告記事でも申し上げました通り、私、時代ものは好きですが、自信を持って語れるほど詳しいわけではないので、リストの方はいささか変則的な、しろねこさんの言葉を借りれば「直球が一個もないリスト」になりました。というわけで、ストレートな時代ものがお好きな向きには、ピンと来ないような記事になってしまうやもしれませんが、そこは主催者お二人の人徳に免じて、ご寛恕くださいませ。 *** さて、1冊目ですが。やはり最初ということですから、変化球リスト10冊の中でも、最も本来の「時代もの」に近い?清水義範『大剣豪』(講談社文庫/2000年初版)をご紹介しましょう。 清水義範といえば、パスティーシュ。小説におけるパロディという手法を「芸」の域にまで高めた作家としてよく知られていますよね。でもその一方で、『金鯱の夢』『尾張春風伝』などの長編時代ものも書いているんです(『金鯱の夢』は歴史改変ものでもありますが)。 本書は、そんな清水義範の短編時代小説を集めたアンソロジーです。 「大剣豪」 文庫書き下ろしの表題作。いわゆる剣豪ものパロディ。その名の通り、剣鬼・剣聖と呼ばれる凄腕の剣術使いたちが次々に現れて、秘剣飛び交う名(?)勝負を繰り広げます。まこと、剣の道とは奥の深いものであります。オチが最高です。 「笠地蔵峠」 「笠地蔵峠は江戸を北に距(さ)る四十里、羽斑(はまだら)街道が丹前の国の東中里郡(ひがしなかざとごおり)介山村(かいざんむら)に入って、その最も高く最も険しきところ、上下八里にまたがる難所がそれです」この最初の一文から大爆笑。なお、主人公の名前は机龍之介ならぬ抽出梁之助(ひきだしりょうのすけ)デス(笑) 「大江戸花見侍」 「拙者、天下に名の知れたる偏屈男の興味をそそる話であれば面白いが、ぱっ」(笑)旗本偏屈男をはじめ、映画・テレビの人気時代劇ヒーロー総登場!最初から最後まで笑いっぱなしです^▽^ 「山から都へ来た将軍」 木曽義仲の挙兵から死までを描いた短編。義仲は、「剛力無双で裏表がないがお人好しのバカ」として描かれています。その義仲が、打倒平家の兵を挙げ、都へ攻め上って平家を追い出し、旭将軍とまで登り詰めたのもつかの間、あっという間に転落していく過程が、ユーモラスな中にもきちんと史実を押さえた上で語られます。 「三劫無勝負(さんごうむしょうぶ)」 本能寺の変前夜。織田信長の御前で行われた囲碁の勝負で、盤面に「三劫」(将棋で言う千日手、永遠に勝負がつかない)が現れたというエピソードを取り上げた作品。語り手は、織豊期から江戸時代の初期にかけて活躍した囲碁の名人、本因坊算砂。算砂の口を通して語られる在りし日の信長の様子が、とてもリアルに感じられます。掌編ですが、名作です。 「天正鉄仮面」 並びなき権勢を誇る太閤秀吉の大坂城。その奥深くに一人の人物が幽閉されています。しかも奇怪なことに、その人物の頭部には鉄仮面がかぶせられているというのです。噂を聞いた天下の大泥棒石川五右衛門、鉄仮面の正体を暴くべく探索に乗り出しますが……。 「どえりゃあ聟さ」 木下藤吉郎、後の豊臣秀吉。その正妻ねね(北政所)の父、浅野範右衛門の視点で語られる短編です。「どえりゃあ聟さ」とは、要するに秀吉のことです。天下人の舅になってしまった範右衛門のとまどいもさることながら、全編にわたって炸裂する「尾張弁(名古屋弁)」が素晴らしい! 「昔はともかく今はえりゃあ出世しとらっせるで、羽柴様言わんといかんのだねゃあきゃあ。秀吉公でもええけど」 「山内一豊の隣人」 こちらも織田幕下、現在大河ドラマも放映中の山内一豊。でもこの話の面白いところは、主人公が一豊の隣人である船戸吉右衛門だという点。くそ真面目なだけが取り柄の一豊が、よくできた妻の内助の功で出世していくのを、いわば同期入社の同僚社員の目で見るという趣向です。ヘタな歴史書よりよっぽどわかりやすいです^^ちなみに一豊は登場しません。 「尾張はつもの」 八代将軍吉宗の頃、御三家筆頭の尾張藩主でありながら、将軍の勘気に触れ蟄居の処分を受けた人物、徳川宗春。彼は何事においても派手好みで、実用一途・倹約優先の吉宗とは正反対の性格でした。尾張藩主となった宗春は、荻生徂徠の学問に傾倒し、享保の改革のさなかに改革と逆行するような経済活性化策を藩内で実施していくのですが……。『尾張春風伝』の原型となった作品。 「ザ・チャンバラ」 本書の掉尾を飾るに相応しい、ハチャメチャな時代活劇(笑)蒲公英三十郎に左前丹前に座長市に和芥子紋十郎に荒馬天狗に浦島太郎侍に旗本理屈男に起抜狂四郎!!まったく、時代劇ヒーローというのはたくさんいるもんですねぇ^^まさに清水義範らしい一編です。いかがでしたか? 1冊目ということで、比較的オーソドックスに内容を紹介してみました。歴史や時代劇が好きな人はもちろん、苦手な人でも楽しんで読める一冊です。いや、むしろ日本史の授業がつまらなかったという人にこそ、読んでいただきたいですね。「山から都へ来た将軍」や「どえりゃあ聟さ」、「山内一豊の隣人」など、歴史上の人物がとっても身近に感じられますから。わかりやすくて、それでいて、調べるべきことはちゃんと調べた上で書いている。きちんとした仕事ぶりです。 ちなみに、私が一番気に入っているのは「三劫無勝負」。解説で香山二三郎も書いていますが、ホントこれだけ読んだら清水義範の小説とはわからないかもしれません。実に芸達者な作家ですね〜^^ *** とにもかくにも。手軽に読めて面白く、なおかつ勉強にもなるお得な一冊、ご用とお急ぎのない方は、ゼヒゼヒ手にとってみてくださいね!
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いつもクールでスタイリッシュな「月野ホネ/ブックレポート」の月野さんから、「時代もの、大好き」という企画への参加のお誘いを受けました^^ 詳細は月野さんのブログでご確認いただきたいのですが、要するに参加者各自が好きな時代ものの記事(最高10本まで)をアップして、持ち寄ろうというのです。そうすると、最終的に「時代もの大好き記事リンク集」ができあがるという趣向。 実は、この企画が始まるという記事を見たとき、かなり心を動かされたのです。吉川英治歴史時代文庫はほとんど読みましたし、池波正太郎も柴田錬三郎も藤沢周平も大好きです。でも私の場合、時代ものは確かに好きですがマニアというほどではないし、仕事の関係から時代ものや歴史物が純粋に読めないという事情もあって、最近はあまり読んでいないので……正直、参加をためらっていました。 ところが、詳しい募集要項を読んでみると、 時代小説の紹介・感想に限定しません。 歴史物、伝奇物、剣豪物、ミステリ、ファンタジー、翻訳物、絵本、コミックス等々、ジャンルを問いません。 映画、TV、舞台、絵、音楽、建築、料理、等々、本以外についての記事でも、何でもありです。というではありませんか! あ、これならいけるかも^^と思っていたところへ、月野さんよりお声掛かりがあったという次第。で、ありがたくお受けすることといたしました。つまりアレですよね。自分が「時代もの」だと思うものならいいわけですよね、月野さん。 *** そこで、早速候補作10冊を選定してみました。なるべく他の方とかぶらないもの、純粋な時代小説ではないものを選んだので、ちょっと(かなり?)ヘンなラインナップになってしまいましたが……。 1 柳家小さん『古典落語 小さん集』
※時代ものといえば、落語です。 2 川原泉「殿様は空のお城に住んでいる」(『中国の壺』所収) ※面白い上に勉強になる^^ 3 半村良『わがふるさとは黄泉の国』 ※伝奇というか、古代史というか、神話というか、民俗というか。 4 清水義範『大剣豪』 ※清水義範は時代小説の名手です。 5 南伸坊『歴史上の本人』 ※歴史のわからないところは「本人に訊け」(笑) 6 ジョセフィン・テイ『時の娘』 ※歴史ミステリの金字塔ですから。 7 澁澤龍彦『ねむりひめ』 ※「後白河法皇の院政の頃、京に住むなにがしの中納言の娘に、名づけて珠名姫というものがあった」 8 L・S・ディ・キャンプ&F・プラット『神々の角笛』(ハロルド・シェイ1) ※「三段論法的転送機」で北欧神話の世界へ! 9 干宝『捜神記』 ※六朝時代中国の「新耳袋」。成立そのものが古い時代、ということで。 10 恩田陸『ねじの回転』 ※歴史改変ものも入れておきましょう。 これらの記事を全部書ければフル参加ということになるわけですが、なにぶん締切が11月18日なので、週に1本は書かないと完走は無理。というわけで、ここにあげたリストの中から、書けたヤツを順不同でアップしていこうかな、と思っています。結果的に何本書けるかは分かりませんが^^; さて、それじゃあまず、リストにあげた本を読み直すところから始めなくっちゃ(笑)!
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