Vue & Poser 制作雑記 あるいは 途切れがちの日記

コンピューター・グラフィックス(CG)制作にまつわる日々の雑感集

2005-06 Diary

[ リスト | 詳細 ]

日々の雑感などを手短かに
記事検索
検索

全26ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11]

[ 次のページ ]

イメージ 1

 本館 Gallery に新作をアップした。SFシリーズからであるが、おそらくこれが今年最後の作品になると思う。ずっと私の作品にお付き合い頂いた方(いるのかなぁ、そんな奇特な人)には、今年一年のご愛顧に感謝申し上げたい。

 SFシリーズには緻密なストーリーがあるわけではないが、一応時系列に沿って作品が並んでいる。これまでの流れを簡単に記しておきたいが、その話は聞き飽きたという人は、この段落は飛ばして頂いてもかまわない。時は今から約500年後。科学が発達し、人類は資源枯渇から宇宙に進出している。資源開発のために辺境の惑星に入植した人々の前に、資源開発をもくろむ別のグループないし国があとから乗り込んできて、先住開拓民との間で武力衝突が起きたというのが、前回までの作品の流れである。何か現代でもありそうなストーリーだが・・・。

 今回は、パトロールに出た偵察隊員が、敵方の打ち込んだ不発弾を見つけたという場面である。ちょっとクラシックな形状のミサイルは、Shade 8.5 Basicで自作したものである。「果たしてこんなミサイルが500年後にもあるのだろうか」なんて考えてはいけない。あくまでお遊びの世界である。科学的に考え出すと、CGなんて成り立たなくなる。「偵察隊員がこんな気軽な格好でウロウロせんだろ」てなことも詮索しないでほしい。それらしい格好をさせるほど豊富な3DCGデータがないのである。

 さて、不発弾を題材に選んだのは、世界にはいまだにこれで負傷する人がたくさんいるというニュースをよく耳にするからである。戦争というのは、どちらかが降伏し終戦が宣言されたからといって、決して終わるものではない。ベトナム戦争の枯葉剤の後遺症や、各地で放置された小型地雷による被害、イラク戦争のクラスター爆弾の不発弾による事故を見て分かるとおり、終わったあとになっても、何十年にもわたり住民を苦しめるのである。戦争が終わって平和な時代が来たと思っていた矢先に、突然不発弾の事故で死んだりしては浮かばれまい。

 不発弾は、よその国の話だとばかり思ってはいけない。我が国でも、たまに第二次大戦中の不発弾が工事現場などで見つかり、大騒ぎになったりする。110番しても警察じゃあ処理できないから、付近の住民を避難させて、自衛隊の不発弾処理班が作業をする。避難している住民も気が気ではないだろうが、処理している自衛隊員は、更に大変なんだろうなぁと思ってしまう。自衛隊員は数々いるが、その殆どは訓練に明け暮れているわけで、死と向き合って身体張っているのは、ごく一部だと思う。不発弾処理をしている人は、間違いなくその筆頭格と言ってよい。

 自衛隊が信管を抜いて不発処理した爆弾は、どこかに展示されたり保管されたりするわけではなく、洋上だったかどこだったかで故意に爆発させて最終処理すると新聞で読んだ記憶がある。何十年にもわたり地中に埋まっていても、爆弾というのは生きているんだなぁとそのとき思った。今こうして暮らしている我々の足元にも、あるいはそんな爆弾が静かに眠っている可能性がある。第二次大戦は、既に歴史教科書の中の出来事になりつつあるが、実は終わったわけではなく、ひっそりと眠り続けているだけなのかもしれない。

 さて、来年のCGライフがどうなるのかは未だ行方定まらぬところがあるが、取りあえず懲りずに作品は作り続けようと思っている。また来年も宜しくお願いしたい。皆さんも良いお年を!


(このブログは、「Stardust Crossing」( http://webstreet.jpn.org/stardust/ )の一部として運営しています。)

年の瀬に

イメージ 1

 コンピューター・グラフィックス(CG)制作に際し、最近妙に寂しい気分になることがある。どう言ったらいいのか、時代に少しずつ取り残されていってるような錯覚にとらわれるのである。

 最初にそんな気がしたのは、Vue6のPre-Release版で制作したCGが、投稿サイトに出回り始めた頃である。私が現在CG制作に使用しているのは、Vue5のEspritというクラスのソフトウェアである。Vueには幾つかのクラスがあり、入門者向けにはEasel、そのすぐ上が、私の使っているEsprit、それに幾つかの付加機能を加えたPro Studio、そして最上位クラスがInfiniteである。

 現在日本で販売されているのは、いずれもバージョン5のものであるが、製造元のe-on社は、次のバージョンであるVue6を開発し終えつつあり、正規版の一歩手前であるPre-Release版をダウンロードの形で販売し始めている。最上位モデルであるInfiniteクラスのVue6 Pre-Release版が最初に発売になり、かなりリアルで印象的な作品が頻繁に海外サイトに登場するようになった。既に「InfiniteにあらずんばVueにあらず」といった観のあるe-onの「Picture of the Day」でも、Vue6Infiniteで制作した作品がVue5Infinite作品を凌駕しつつある。

 私はVue6Infinite作品を見ていて、越えがたい壁のようなものを見せ付けられた気がした。Vue5Espritではどうあがいても追いつけないことを確信したのである。それは、日々の努力では物理的に到達不可能な地点にある作品群である。「弘法は筆を選ばず」ということわざがあるが、達人の腕前を凌駕できる筆があるという感じである。そして、如何に達人と言えどもその筆を持たなければ、到達できない世界がある。そんな冷酷な現実を見せ付けられた気がした。

 私がVue5Espritを使い続ける限り、最先端の作品群は陽炎のように地平線にゆらめくばかりで、どう努力しても決して追いつくことはない。そう思うと、取り残された現実を悟らされたようで、少し寂しくなった。

 もう一つ、私を寂しい気にさせたのは、12月初めのVictoria4の登場である。Victoriaは、Poser用の女性キャラクターで、DAZという米国の会社が販売している。この世界では、一つの世界標準と言ってもよく、このキャラクター用に無数の周辺データが販売、あるいは無償公開されている。

 今まで私はVictoria3を使ってきた。人物が登場する作品のほとんどでこのキャラクターを使っており、このキャラクター用に頭髪、テクスチャ、衣類、小物を揃えてきた。戦士シリーズや現代の女性を題材にしたシリーズ、また伝説シリーズやSFシリーズの一部など、このキャラ抜きには成り立たない状態になっている。それが突然、次のバージョンであるVictoria4の登場で世界が変わってしまった。

 世界が変わったというのは少々大げさではないかと思われるかもしれない。しかし、私がPoserやVueをやり始めた頃のことを思い出すのである。当時はVictoria3の時代であり、私は何の迷いもなくこのキャラ中心にデータを集め出した。当時、既にVictoria2を使った新規作品を見ることはなく、Victoria2用に新たに頭髪やテクスチャ、衣類、小物を提供する人はいなかった。Victoria2は完全に過去のキャラになってしまっていたのである。つまり来年以降に起こることは、Victoria3用のデータ提供は早晩ストップし、これ以上の進化は望めなくなるということである。

 私は新たにVictoria4を中心としたデータ・コレクションを集めて構成し直すことに軽い疲労を覚えている。私自身、平均的なPoserユーザーに比べて、圧倒的にお金をかけずにこれまでやってきた部類の人間だが、それでも無償データを中心に膨大なコレクションがある。このVictoria3向けのデータ・コレクションのレベルに達するには、またかなりの手間とお金がかかるだろう。学生ではないからお金がなくてデータが買えないというわけではないが、どうにもやりきれない気分になる。しかし、Victoria3に留まる限り、これ以上の進化はない。少々大袈裟かもしれないが、行くも地獄、戻るも地獄といった状態である。

 もしかして、そんなふうに悩む私はPoser向きではないのかもしれない。これまでも、中心となるキャラクターの代替わりは何度かあったはずだ。そのたびにどういう騒ぎがあったのか知る由もないが、それを経験してきたベテラン・ユーザーなら、そんなことさして気にかけず、また新しいキャラの世界を構築し直すのかもしれない。Poserを続ける限り、これからもキャラの代替わりは起きるだろう。DAZが潰れない限りVictoria4はいつの日かVictoria5に進化する。それに対応するだけの鷹揚な心構えがない限り、Poserなんて続けられないのかもしれない。それを考えると、また少々寂しい気分になる。

 そんな状態で年の瀬を迎えるわけだが、果たして来年のCGライフはどうなるのだろうか。来年1月にはVue6英語版が本格的に登場し、Poser日本語版も2月にバージョン6から7に進化するらしい。そしてVictoria4中心の時代がいよいよ現実に・・・。私がCGを始めてから初めて経験する大変革期である。この正月休みに今後のCGライフの在り方でも考えるかなぁ。


(このブログは、「Stardust Crossing」( http://webstreet.jpn.org/stardust/ )の一部として運営しています。)

イメージ 1

 本館 Gallery に新作をアップした。今回は、現代の女性をモデルにしたシリーズで、南国で過ごす冬をテーマにした作品である。巷では既にDAZの新キャラ「Victoria4」が投稿サイトを賑わせているようだが、私はまだ、旧態依然とした「Victoria3」で作品作りをしている。どうやら時代の先端を行けない性格らしい。

 東京都内では今月の初めに紅葉の見ごろを迎え、今年は暖冬だと思っていたのだが、さすがに12月も終わりになって来ると、冬らしい寒さになって来た。季節の移り変わりというのは、どうやらきちんとやってくるものらしい。

 で、この寒さをどうするかということになると、真っ先に思い浮かぶのは、温泉に行って暖まるということである。これは昔ながらの日本人の発想で、以前なら年末年始、忘年会も含めて温泉街は賑わったに違いない。東京近辺なら、まずは伊豆辺りだろうか。温泉につかりながら体をほぐし、上がってから熱燗で一杯やれば、仕事の疲れも取れようというもの。その辺りが、日本のお父さんたちの理想的な冬の過ごし方だったのかもしれない。

 それがいつの頃からか、沖縄に行こう、あるいはもっと進んで、海外の暖かいリゾートに行こうということで、年末年始に日本を脱出する人が増えるようになった。かくしてニュースでも、成田の国際線ロビーの混み方なぞを伝えるのが年末の定番になっている。どこに行くのかと乗客にインタビューすると、昔なら、ハワイとかグァムなんてのが典型的な行き先だったのかもしれないが、今では東南アジアのリゾートの名前も結構聞く。日本も豊かになり、行き先も多様化してきたということだろう。

 私も昔、知人を頼って何人かの仲間でフィリピンに行ったことがある。季節は冬ではなく夏だったが、マリン・スポーツも出来るところということで、セブ島にあるリゾート・ホテルを予約してもらった。ホテルはプライベート・ビーチを持っており、客を飽きさせないよう色々なオプション・ツアーを用意していた。マリン・スポーツに飽きた私たちは、無人島めぐりを選んで小さなボートに乗った。

 セブ島周辺にはたくさんの小さな島があるが、その多くは無人島だった。ボートは、その島々を右に左に見やりながら、美しいエメラルドグリーンの海を行く。途中で手漕ぎの船に乗った物売りがやって来て、貝殻で作ったアクセサリーなどを我々に見せる。我々の眼から見るとそう高くはないが、現地の物価水準からすれば、法外な値段なのだろう。物売りはよくあるように、安くするよと言って目の前でドンドン値を下げていく。船頭さんは物売りと親しげに話をしていたから、二人はグルだったのかもしれない。しかし、こうした安っぽい商売人の存在が、如何にも途上国らしくていいのである。

 さて、その無人島だが、様々な大きさのものがある。大きいものだと、なるほど島だなと思えるのだが、小さいものだと、岩がいくつか重なってその上に草と僅かばかりの木が生えている程度のものもある。だが、どれも一応所有者が決まっているようで、島守を置いている。ゆっくりと傍らを行く船から小さな島を見上げると、木の柱と草葺き屋根があるばかりの粗末な小屋が見えたりする。ドアがないので中が丸見えなのだが、長イスのようなものの上に小学生くらいの少年がのんびり寝ている。彼にとっては、それが生活の糧を得るための貴重な仕事なのだろう。

 私は彼の姿を見ながら、そのとき何故だかうらやましくなったことを覚えている。きっと我々よりもはるかに貧しい生活に甘んじながら、彼は一生を送るのだろう。しかし、あの突き抜けるような青空とエメラルドグリーンの海に囲まれながら、日がな一日無人島で島守をしている彼が、何だかとても我々には手の届かない幸せな日々を送っているように思われたのである。

 正月休みに、混雑する成田から日本人だらけの海外に行きたいとは思わないが、あの日の少年のように、南海の無人島で日がな一日寝そべって過ごせるなら、ちょっと考えてもいいかなと思うのである。もっとも、それははるかな夢物語のような気もするのだが・・・。


(このブログは、「Stardust Crossing」( http://webstreet.jpn.org/stardust/ )の一部として運営しています。)

クリスマス・カード

イメージ 1

 世の中完全にクリスマス・モードである。この季節の繁華街に行くと、ちょっと歩いただけでクリスマス・ツリーはあるし、そこらじゅうのお菓子屋でクリスマス・ケーキの予約受付けをやっている。毎年のことではあるが、実に平和な光景だと思う。

 こんな平和な中で今年もクリスマスを迎えるわけだが、今年はついに、米国の知人からのクリスマス・カードが途絶えた。帰国してすぐの頃は、かなりたくさんのカードをもらっていたが、さすがにこれだけ歳月が経つと仕方ないのかもしれない。こっちがこまめに返事のカードを出せばよかったのだが、毎年師走は仕事が忙しいうえ、年賀状書きもあるから、どうしても後回しになってしまう。出さなきゃと思いながらも、手元にクリスマス・カードがないものだから、そのうち買ってこようということになる。そうこうしているうちに気が付くと、クリスマスを過ぎているのである。

 日本ではまだクリスマス・カードは一般的ではないが、米国にいた頃には、11月末頃からカード書きで大変だった。ちょうど日本の年賀状書きと同じような騒ぎである。

 クリスマス・カード書きは、まずカード選びから始まる。何せ送る枚数が多いから手作りのカードを送るという人はいない。各家庭でデザインを決め、必要枚数をメーカーに注文する。そのカタログが実にたくさんあり、センスのいいカードを選ぶのに苦労する。色々見るのだが、なかなかピッタリのものがない。アメリカ人の好みに合わせたデザインだから、どうも日本人の琴線に触れるものが少ない気がする。で、結局迷いに迷った挙句に選んでみると、知り合いの在米日本人たちが選んだのと同じになったりする。まぁこの辺り、日本人の感性って似通っているのかもしれない。

 あと、私のような外人が知らずにドツボに落ちかけるのが、挨拶の文句である。「クリスマスだから『Merry Christmas』に決まっているだろう」というあなたはレッド・カードである。海外では、宗教にいい加減な態度を取ると失敗する。日本人は仏教徒にもかかわらず平気でクリスマスを祝うが、海外ではキリスト教徒しかクリスマスは祝わない。でもこの季節、カードのやり取りはする。

 私がいたニューヨークではユダヤ人がたくさんいたが、ユダヤ教の彼らはクリスマスを祝わない。かわりにこの季節、ハヌカというお祝いの行事がある。クリスマスを祝わないということはクリスマス・ツリーを飾らないということだし、彼らの家にはサンタはやって来ないということである。だから「Merry Christmas」なんてカードを送るのはご法度である。

 じゃあカードの文句をどうするのか。本来は言葉を変えるべきだろうが、印刷の都合上いくつも文面を用意するのは面倒である。それに、こちらとしては、相手の信奉する宗教を尋ねるわけにもいかない。で、ずぼらな日本人がやるのは「Season's Greetings」や「Happy Holidays」で全て済ますというやり方である。これだと宗教は一切関係ない。

 かくしてカードの注文は終わり、宅配便で箱に入ったカードがドサッと届く。その一枚一枚にサインをし、時として一言二言添え書きを書く。送り先が日本人だとスラスラ書けるが、アメリカ人相手だと、気の利いた文句がなかなか思い浮かばずもだえ苦しむ。そんなときには外国人の悲哀をまざまざと感じる。日本語なら簡単なことなのに・・・。米国生活って、そんな悔しい思いの連続である。

 クリスマス・カードというのは、12月に入ればいつ届いても良い。ぴったりクリスマスに届いた方がいいのではないかというのは、元旦の年賀状に引きずられた発想である。現実には逆で、できれば12月に入ってすぐくらいに着いた方が良い。何故なら、クリスマス・カードはクリスマスまでの間、居間の暖炉の上などに飾られるものだからである。つまり早く届けば長く飾られる。クリスマス当日なんかに届いたら、1,2日で片付けられるわけである。

 12月に入り、届いたカードが暖炉の上に飾られ、日増しにその数が増えていくのは、見ていてなかなか楽しいものである。それはクリスマスが近づいてくる明確なサインであり、クリスマス・ツリーとともに部屋が次第にホリディ・ムードになっていく。日本でもクリスマス・ツリーは飾るが、クリスマス・カードはほとんど来ない。米国でクリスマス・カードを書いている頃には、日本人は年賀状を書いているわけである。

 米国では毎年面倒だったクリスマス・カード書きだが、日本に帰ってきて無くなってみると、妙に寂しさを感じる。昨年までは、米国から来ていたクリスマス・カードを懐かしい気持ちで居間に飾っていたが、全く来なくなると、大げさだが一つの節目が来て、何かが終わったような気分になる。こうして米国との縁が少しずつ切れていくのだろう。それを考えると、ちょっと切なくなる年の瀬である。


(このブログは、「Stardust Crossing」( http://webstreet.jpn.org/stardust/ )の一部として運営しています。)

イメージ 1

 本館 Gallery に新作をアップした。今回は、女戦士の生い立ちをたどる若き戦士の肖像シリーズである。

 毎回ストーリー紹介をするのが恒例になってきたが、前回までのストーリーをかいつまんで書いておこう。鄙びた村に家族とともに暮らしている主人公の少女が、いつものように村はずれまで羊を連れて行っていたところ、村が何者かに襲われ炎上しているのを見つける。少女はあわてて自分の村にひた走ったが、賊軍に荒らされた村には一面殺戮と略奪の跡が残っており、我が家は崩れ落ち家族の姿はない。少女は家の焼け跡で、戦って死んだ父の遺体を見つけるが、母の姿はない。仕方なく父を、一人野辺に埋葬したというところで終わっていたはずだ。

 今回の話だが、暮らす場所も家族も失った少女が、賊軍の再度の攻勢を免れるため、ひっそり故郷をあとにする場面を描いている。ロバに精一杯の荷物を載せ、とぼとぼと歩き夜明けに国境の川を渡る。その様子をイメージして制作したのが今回の作品である。故郷の方を振り返ったところで何もない。家も家族も友人も、全てを失った今となっては、かえりみるものは残っていない。

 国境の川というと、思い出す話がある。中国前漢の時代に、有名な歴史家司馬遷によって編纂された史記の中に登場する話である。史記は、本紀12巻、表10巻、書8巻、世家30巻、列伝70巻からなるが、列伝の中に、高名な暗殺者について書いた「刺客列伝」がある。そこに、若き日の始皇帝を暗殺するべく命を賭した伝説の暗殺者「荊軻」の話が出て来る。

 荊軻は、秦の侵略主義を憂える燕の国の太子「丹」の依頼を受け、後に始皇帝となる秦の若き王「政」の暗殺に赴く。用心深い秦王を暗殺するには、燕の友好親善使節として謁見し、隙を見て刺し殺すしかない。仮に成功したとしても、捕らえられ殺されることは必至。そうした困難な仕事を、荊軻は引き受ける。

 荊軻は、秦王に謁見するため策を練り、秦王の怒りを買い燕へ逃亡して来ていた秦の元将軍「樊於期」の首を持参することを思いつく。燕の太子は、自分を頼ってきた者を殺すことは出来ないと断るが、荊軻は自ら樊於期に会い、首をくれるよう頼む。家族を皆殺しにされ全財産を没収された樊於期は、秦王への復讐が出来るならと了解し、その場で自害する。こうして準備万端整えた荊軻は、一国の運命を背負って死地に赴く。

 出発の朝、国境の川「易水」から旅立とうとする荊軻を、太子や友人たちが見送る。これが最後の別れと、みな葬式用の白装束を着たという。もはや帰ってくることのない暗殺者へのはなむけである。そのとき荊軻が詠んだ有名な詩が、「史記刺客列伝」に記されている。

「風蕭蕭(しょうしょう)として易水寒し.壮士ひとたび去って復(ま)た還らず」

 歴史に明らかなように、荊軻はすんでのところで暗殺に失敗し、逆に秦王に切り殺される。歴史に「もし」は禁物だが、仮に、短剣で刺し殺すために引き寄せた秦王の着物の袖がちぎれなければ、荊軻は暗殺に成功し、歴史は塗り変わっていただろう。だが、幸運の女神は秦王に微笑んだ。そして激怒した秦王は翌年に燕を攻め、首都を陥落させ太子も討ち取られる。こうして燕は滅びた。そうした歴史を知っているだけに、「刺客列伝」に出て来る易水の別れの場面は切々と胸をうつのである。

 私は、強靭な精神力を持ったこの伝説の暗殺者の話が好きである。荊軻は、秦王に献上する巻物の軸に短剣をしのばせつつ、何の動揺も見せず秦王に謁見した。燕より荊軻を助けるために同行した「秦舞陽」は、既に子供時代に殺人の経験のある屈強の者だったが、あまりの緊張に秦王の眼前で取り乱す。怪しむ人々に荊軻はクールな表情でこう言う。「この者は田舎者ゆえ、王を前にしてあまりの緊張に震えているのです。どうかご容赦下さい。」そして何ごともなかったかのように、秦王の前で巻物を少しずつ広げながら、口上を述べる。

 私はWarriorシリーズを制作しながら、どこか荊軻の影を追っている自分に気付くことがある。死ぬことが分かっていながら、極めて冷静にことを成そうとするプロフェッショナルの姿を、女戦士のどこかに表したいのである。私が描く女戦士の無表情さや孤独な姿には、知的で寡黙な暗殺者荊軻の影がどこかしら投影しているのだと思う。

 さて、国境の川を渡る、この少女の胸中はどんなものだろうか。やがて彼女は数々の試練を経て戦士へと成長していく。そういえば荊軻も、剣術修行のため諸国を放浪したという。この先、若き戦士の人生をたどりながら、私は幾たびも荊軻の話を思い出すのだろう。


(このブログは、「Stardust Crossing」( http://webstreet.jpn.org/stardust/ )の一部として運営しています。)

全26ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11]

[ 次のページ ]


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

話題の新商品が今だけもらえる!
ジュレームアミノ シュープリーム
プレゼントキャンペーン
ふるさと納税サイト『さとふる』
実質2000円で特産品がお手元に
11/30までキャンペーン実施中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事