|
世の中完全にクリスマス・モードである。この季節の繁華街に行くと、ちょっと歩いただけでクリスマス・ツリーはあるし、そこらじゅうのお菓子屋でクリスマス・ケーキの予約受付けをやっている。毎年のことではあるが、実に平和な光景だと思う。
こんな平和な中で今年もクリスマスを迎えるわけだが、今年はついに、米国の知人からのクリスマス・カードが途絶えた。帰国してすぐの頃は、かなりたくさんのカードをもらっていたが、さすがにこれだけ歳月が経つと仕方ないのかもしれない。こっちがこまめに返事のカードを出せばよかったのだが、毎年師走は仕事が忙しいうえ、年賀状書きもあるから、どうしても後回しになってしまう。出さなきゃと思いながらも、手元にクリスマス・カードがないものだから、そのうち買ってこようということになる。そうこうしているうちに気が付くと、クリスマスを過ぎているのである。
日本ではまだクリスマス・カードは一般的ではないが、米国にいた頃には、11月末頃からカード書きで大変だった。ちょうど日本の年賀状書きと同じような騒ぎである。
クリスマス・カード書きは、まずカード選びから始まる。何せ送る枚数が多いから手作りのカードを送るという人はいない。各家庭でデザインを決め、必要枚数をメーカーに注文する。そのカタログが実にたくさんあり、センスのいいカードを選ぶのに苦労する。色々見るのだが、なかなかピッタリのものがない。アメリカ人の好みに合わせたデザインだから、どうも日本人の琴線に触れるものが少ない気がする。で、結局迷いに迷った挙句に選んでみると、知り合いの在米日本人たちが選んだのと同じになったりする。まぁこの辺り、日本人の感性って似通っているのかもしれない。
あと、私のような外人が知らずにドツボに落ちかけるのが、挨拶の文句である。「クリスマスだから『Merry Christmas』に決まっているだろう」というあなたはレッド・カードである。海外では、宗教にいい加減な態度を取ると失敗する。日本人は仏教徒にもかかわらず平気でクリスマスを祝うが、海外ではキリスト教徒しかクリスマスは祝わない。でもこの季節、カードのやり取りはする。
私がいたニューヨークではユダヤ人がたくさんいたが、ユダヤ教の彼らはクリスマスを祝わない。かわりにこの季節、ハヌカというお祝いの行事がある。クリスマスを祝わないということはクリスマス・ツリーを飾らないということだし、彼らの家にはサンタはやって来ないということである。だから「Merry Christmas」なんてカードを送るのはご法度である。
じゃあカードの文句をどうするのか。本来は言葉を変えるべきだろうが、印刷の都合上いくつも文面を用意するのは面倒である。それに、こちらとしては、相手の信奉する宗教を尋ねるわけにもいかない。で、ずぼらな日本人がやるのは「Season's Greetings」や「Happy Holidays」で全て済ますというやり方である。これだと宗教は一切関係ない。
かくしてカードの注文は終わり、宅配便で箱に入ったカードがドサッと届く。その一枚一枚にサインをし、時として一言二言添え書きを書く。送り先が日本人だとスラスラ書けるが、アメリカ人相手だと、気の利いた文句がなかなか思い浮かばずもだえ苦しむ。そんなときには外国人の悲哀をまざまざと感じる。日本語なら簡単なことなのに・・・。米国生活って、そんな悔しい思いの連続である。
クリスマス・カードというのは、12月に入ればいつ届いても良い。ぴったりクリスマスに届いた方がいいのではないかというのは、元旦の年賀状に引きずられた発想である。現実には逆で、できれば12月に入ってすぐくらいに着いた方が良い。何故なら、クリスマス・カードはクリスマスまでの間、居間の暖炉の上などに飾られるものだからである。つまり早く届けば長く飾られる。クリスマス当日なんかに届いたら、1,2日で片付けられるわけである。
12月に入り、届いたカードが暖炉の上に飾られ、日増しにその数が増えていくのは、見ていてなかなか楽しいものである。それはクリスマスが近づいてくる明確なサインであり、クリスマス・ツリーとともに部屋が次第にホリディ・ムードになっていく。日本でもクリスマス・ツリーは飾るが、クリスマス・カードはほとんど来ない。米国でクリスマス・カードを書いている頃には、日本人は年賀状を書いているわけである。
米国では毎年面倒だったクリスマス・カード書きだが、日本に帰ってきて無くなってみると、妙に寂しさを感じる。昨年までは、米国から来ていたクリスマス・カードを懐かしい気持ちで居間に飾っていたが、全く来なくなると、大げさだが一つの節目が来て、何かが終わったような気分になる。こうして米国との縁が少しずつ切れていくのだろう。それを考えると、ちょっと切なくなる年の瀬である。
(このブログは、「Stardust Crossing」( http://webstreet.jpn.org/stardust/ )の一部として運営しています。)
|