ボウリング・フォー・コロンバイン』、『華氏911』に続くマイケル・ムーアの新作ドキュメンタリー。アメリカの医療制度をムーアが笑いとともに鋭く突く。
なんとアメリカの健康保険充実度は世界37位、泣く子もだまる超大国が、先進国中最下位だ!!
先進国で唯一国民健康保険制度のないアメリカ。6人に1人が無保険で、毎年1.8万人が治療を受けられずに死んでいく。しかし、『シッコ』はちゃんと保険に入っている人々についての映画だ。
アメリカの医療保険の大半はHMO(健康維持機構)という、民間の保険会社が医師に給料を支払って管理するシステム。
保険会社は、治療は不必要と診断した医者には、「(無駄な)支出を減らした」という旨の奨励金を与え、加入者には何かと理由をつけて保険金を払わない。さらに多額の献金で政治家を操り、都合のいい法律を作らせる。そんな政治家たちは公的医療保険を求める動きに対して、「国による健保の管理は社会主義への一歩だ!」と完全につぶれるまで恫喝する。結局、国民は、高い保険料を払っても、一度大病を患えば、治療費が支払われずに、病死か破産だ。
「I am sick of it!(もう沢山だ!)」とムーアは叫ぶ。
| ムーアの批判精神とユーモアが炸裂する映画。仕事中に事故で指2本を切断された中年の大工。健康保険を持っていない彼に、医師は聞く。「薬指をくっつけるのは1.2万ドル。中指は6万ドル。どっちにしますか。」大工は安いほうの薬指を選ぶが、ムーアはユーモアを忘れない。「彼はロマンチストだったので、エンゲージリングをはめる薬指を選んだ。」 |
| 治療費を払えないからといって、寝巻きのまま路上に文字どおり棄てられる患者。 |
| 医療保険を民間にゆだねるとどうなるか。民間保険会社は利益を上げることが最大の目的だから、保険料を払わなくてもすむよう、徹底的に努力するのだ。たいしたことない既往症を(たいしたことない上、治療済みだ)申告し忘れていたとすると、「病歴を隠していた」と難癖をつけ、金を払わない。「その治療は必要ない」と言い張ってまたしても金を払わない。 |
| 秀逸なのは、ムーアがグアンタナモ基地に拡声器を持ってボートで出かけていくところ。あんなにヒーロー扱いされた9.11のボランティアの救助隊員たちは今、塵埃を吸った後遺症で重い症状に苦しんでいる。その手当てすら国はしていないのだ。ムーアは彼らをボートでグアンタナモ基地の傍まで連れて行く。なぜならグアンタナモ基地はアメリカで唯一タダで治療が受けられ、そこに収監されている囚人はその恩恵にあずかっているからだ。「9.11の英雄に容疑者たちと同じ治療を受けさせてくれ!」とムーアは叫ぶ。 |
| もっとも、ムーアの主張に100パーセント同意するわけではない。カナダやフランス、イギリスの医療制度のいいところばかりをクローズアップしているけど、これらの国の医療制度に問題はないのか。医療技術がこれだけ進歩してかつての「不治の病」すら治せるようになった今、「そういう治療を国民全員にタダで受けさせろ」と要求するのもいかがなものか。入院病棟を訪れると、入院患者のほとんどは高齢者だ。老人ホームより病院の方が安いし、自宅で面倒を看る手間が省けるから、追い出されるまで入院させておこうと家族は思うらしい。「延命治療」は胃に穴を開けてチューブでつなぎ、人間を何年でも(ってのは大げさだろうが)生きながらえさせることができる。健康保険で? |
| 医療制度がパンクしているのはたしかだろう。しかしパンクしたから民間に丸投げ、とか一律保険料アップとかは乱暴すぎるだろう。セーフティ・ネットとはネットワークだ。国民がどこまでお互いに助け合っていけるかが基本であり、相手を助けるとは自分の欲望を多少なりとも抑えるということだ。こら、酒をしたたか飲んでいながら、痛風の薬をもらうんじゃない!(どっかの誰かさんへ) |
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