不協和音にも一分の理

オタクのオタコのタコ壷の日々・・・映画は黒澤明監督 漫画は手塚治虫先生 現在「ベルセルク」にハマってます

パロディー

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ああ・・・パロディーって・・・著作権の侵害・・・ですよね・・・
わかっているのに・・・わかっているのに・・・ま・・・自分の脳内で楽しんでるだけならいいか・・・忘れないように書いちゃっても他人に見せなきゃ・・・いいよね・・・とか・・・やってるうちに・・・どんどん深みに・・・い・・・イ〜ケないんだぞ〜・・・
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独白

 


 弘治三年 皐月


 織田信長公が桶狭間の戦いに勝利して 天下に雷名とどろかす その三年前


 オレは今川義元公の姪にあたる姫と結婚し 名を元康とあらためられた






 この日 五月五日 端午節の日


 オレは はじめて彼と出会った


 彼の姿を見た時 オレは来るべき者が来たのだと思った


 来るべき者・・・オレを弑逆する者・・・



 八つの時からずっと いつか現れることは判っていた


 だから心がまえはしていたつもりだった


 ためらいも迷いも捨てて 死を受け入れる




 オレは むしろ来るべき者が来るのを待っていた


 だから彼の姿を見た時


 ながいこと会えなかった懐かしい人に


 ようやく会えたような 不思議な気持ちさえした







     この月や 日の長きこと いたる 陰陽争い 生死分ける



     君子斎戒し 処するに 必ず身を隠して 騒ぐことなかれ






 皐月は午の月と云われた。


 太陰暦の五月五日は、太陽暦の六月二十一日ごろで梅雨のさなかである。


 高温多湿で疫病や害虫が発生しやすく、ものが腐敗する悪月として忌まれ、


 さまざまな厄除け、みそぎ、はらえの行事がおこなわれる。



 石合戦は、童子によって行われる鬼やらいの儀式の一つで、


 川の水があふれて堤がきれるのを防ぐ【まじない】でもあった。





 


 ぬけるような青天だったが


 前日の大雨のために安倍川は水が増し


 だくだくと流れていた。




 河原にはフンドシひとつの子供らが大勢集合し


 石合戦の準備をしている。


 土手には、見物に来たらしい若侍達が数人。


 何ごとか、にぎやかに話し笑い、


 気がねの無いもの同士らしい悪ふざけが交わされていた。





 彼らから少しばかり離れた樹の下で、


 彼らを見ている者がいる。


 年は十六になっていたが、所載なげな姿は幼く、


 人の輪の中に入って行く事におびえを感じているようだった。


 突然、


 強い風がまきあがり、樹木が揺れたち、


 つむじ風のようなものが着物を荒々しく吹き上げ、


 こずえを ザザザザアッと、打ち鳴らして天高く去った。


 顔をおおっていた腕を下げかけた時、


 すぐかたわらに見知らぬ者が立っていた。





 帯刀はしていない


 体躯も大きくは無い





 なのに畏怖を起こさせる何かがあって、全身におののきが走った。


 相手は、それを感じとったのか顔を隠していた笠を取ると、


 するどい眼に作り笑いを浮かべて言った。






     「 三河の松平家の御家来衆と、お見受けいたす。


     ( ささやくような小声だったが人を圧する気魂に満ちていた )


      松平元康様は、どのお方か?」






 そして、河原にいる若侍達の一人一人を推し量るように真剣に見やった。


 おののきは震えに変わり、心臓が内側からツチで打たれるように激しく鼓動した。


 唇が思うように開かず、かすれて声が声にならなかったが、


 無理矢理、しぼり出すようにして名乗った。







   「・・・・・・・ま・・・ま・・・ま・・・


    まっ・・・ま・・・・・・ま・・・まつ


    ・・・松・・・だ・・・いら・・・っ・・・


    もっ・・・もっ・・・元やす・・・わ・・・


    オ・・・オ・・・オ・・・オっ・・・・・・


    ・・・オレ・・・で・・・す・・・っ・・・」









 一瞬、空気の色が変わったかに思われた。


 相手は河原に向けていた顔を、ゆっくりまわすと元康を見据えた。




   困惑と失望




 そして不躾なほどハッキリと、全身から怒りが発せられ、


 元康は、いたたまれない思いでうつむき立ちすくんだ。




 いつの間にか静かに、石川家成が歩み寄っており。


 ゆっくりと、元康をかばうように立ち塞がると不審者を見つめ、


 一揖して丁重に言葉をかけた。





   「 何処からこられた方か、おたずねしても宜しいか。」


   「 安城が原の東の端。」





 石川は、かすかに安堵したがジッと見つめる瞳から警戒感は失せなかった。


 そして二人が言葉を交わしている間に、天野又五郎が元康を後ろに退かせていた。









 川をはさんで対峙した子供達の群れから鬨の声が上がり、


 石の投げ合いが始まると平岩七之助が叫んだ。




   「 おおっ! 始まった始まった!


    オレもやりて〜


    投げて〜


    まざりて〜〜〜 」




   「 まざらいでか!!!」




 本多平八郎は、ばばばっ! と、着物を放り投げるように脱ぎ捨てると


 フンドシいっちょで駆けだそうとした。




   「 行くな! 平八郎! 身分をわきまえろ! 」酒井忠次が引きとめ


   「はしゃぐなよ!ったく、元服すぎた侍のタイドか、それがっ!」



 と言って、拾い上げた着物を押しつけた。


 ツマンネーと言いつつ平八郎は着物を着、七之助は間のびした調子で問いかけた。




   「な〜な〜、鳥居〜〜〜っ


    どっちが勝つと思う〜?」




 鳥居と呼ばれた男は背が高く、端正な顔立ちをしている。




   「 一隊は三百人あまり、もう一方は半分にも満たない百二、三十人・・・


   ( 人数が多いほうが勝つに決まってんだろ )」




 決まりきった事だと言おうとした時だった。




   「 人数の少ない方が勝つぞ。」




 断言する声がした。

安倍川の石合戦

 


 後ろの正面に くだんの男が立っていた。


 鳥居はギョッとして横っ飛びに退くと




   「 なっ! 何者だ! 名を名乗られよ!」と叫び。




 他の者もいっせいに身構えた。


 四対一なのだが


 無刀の男は平然としていた。




   ( 完全に間合いに入られてたぞ


    城代家老の息子がこーんな薄ボンヤリでいーのか


    主君の警護よりコドモの石投げ気にしやがって )


   「 名前は・・・権平。」




   「 みよじは?!」




   「 名無し・・・・・・ナナシのゴンベイ。」



 
 両腕を組むと尊大な冷笑を浮かべた。




   「 ふっざけんな!!!」




 怒鳴る平八郎を酒井がおさえ、


 挑発に乗るなと小声でいさめて鳥居を見た。


 鳥居は気を静めると相手と向かい合い、


 さぐるようにゆっくりと口を開いた。




   「 先日、岡崎から連絡があった。


    服部半蔵 保長様の後を継ぐ者が


    駿府に着任すると・・・


    貴公は


    服部半蔵 正成殿か?」




   ( いったい誰がいつ 後を継ぐなんつったよ!


    あのキツネ目たぬき親父がっ!!!)




 彼は心の中で吠えた。が、表面は冷静を保って言った。




   「 そう呼ぶ者もいる。


    だが差し当たり、そのミヨジは伏せておけ。


    今川方には俺のことは内藤正成で通してくれ。」




   「 承知した。」



   「 あとで知源院に参上する。」




 それらのやりとりを、元康は形容しがたい哀切な表情で


 ずっと見つめていたが


 相手の方は二度と元康を見ようとせず


 怒気のこもった背中を向けると足早に去っていった。


 風がたって・・・


 まるで主のあとに追従するかのように吹きすぎた。


 

   「 なあっ! なんだよハットリハンゾーって!


    何者だよ!」


   「 あぁっ? 平八郎、知らないのか?」と、酒井。


   「 シラネー!」


   「 鬼の半蔵おぉ〜〜?」七之助が情けない声を出した。


   「 実在の人物だったのおぉ〜〜〜?」


   「 何だよ?」


   「 オレは子供のころ


    泣いてばっかいると半蔵に喰われるぞっ!


    って、脅されたよおぉ〜〜〜・・・!」


   「 あっほおっ!!!


    おっま! いくつになったんだっ!」




 平八郎は七之助をどつき。酒井が鳥居の方を見ながら聞いた。




   「 守山崩れ以後、公式の場に姿をあらわしてないってから


    二十年以上だよな?」


   「 二十二年だ。」鳥居が言った。


   「 俺の親父の処には、定期的にツナギが入ってたらしい。


    端午節の日に現れると知らせは貰ったが


    半信半疑っつーか・・・


    もっと年長の者が来ると思ってたぜ。」


   「 俺らと同じくらいだよな。」酒井が言った。




 石川家成は何も言わずに後で聞いているが、しきりに眼をまばたきしていた


   (・・・安城が原の東の端と・・・言った・・・


    安城譜代の者と・・・言う意味であろうが・・・


    言葉尻が・・・東・・・


    相模よりもっと東・・・


    坂東・・・の・・・ような気がした・・・)




   「 子供のころにゃ親父や年寄り連中に、


    随分聞かされてヘキエキしたもんだ。


    服部半蔵は合戦の始まる前に、その勝敗を分別する。


    生涯無敗の不死身の男!ってな〜・・・」と、鳥居が言い。


 平八郎が、本気かよー!と、まぜっ返した。酒井が真面目な顔で




   「 十二歳の若さで家督を継いだ清康様が、


    今川を駆逐して三河一円を統一出来たのは


    服部半蔵 保長の力だったと聞く


    かなり優れた宰領だったらしいが、


    正式には、三河武士団にも岡崎衆にも属さなかったらしい。」


 と、請け負った。



   「 しっかし、三河に来る前は京で、


    足利将軍家に仕えていたらしいっつーから


    もうかなりの老齢のはずだろ、


    あいつ息子にしちゃ若すぎるよな


    孫か


    甥ってところか?」


 鳥居の声に、天野又五郎は心の中でつぶやき返した。


   (・・・バケモノだよ・・・)










   「 うわっ! 見てみて!!!」




 七之助が声を上げて河原を指さした。


 皆が見やると石合戦の勝敗が分かれている。


 三百人を超えていた隊はバラバラと多数の離脱者が出


 総崩れになっていき


 少人数だった方は勢いずいて


 ますます石を投げ


 勝てる!勝てる! と歓声を上げはじめた。




 鳥居は意外そうな顔を隠そうともせずに


 河原の様子を見回し




 人数の少ない方が勝つぞ!と、断言した声の言霊でも聞こうとするように


 元康は神経を集中した。



   ( 服部半蔵 正成・・・鬼の半蔵・・・


    ・・・鬼・・・


    でも・・・端午節・・・は・・・


    鬼を・・・晴らす・・・日の・・・はず・・・だ・・・)






 安倍川の河原に、勝った子供たちの


 五穀豊穣! 疫神退散! などの


 鬼やらいの声が響いていた。

本田平八郎三本勝負

 


 知源院は、松平元康の屋敷のすぐ隣にあり


 もともとは臨済宗の寺であったが、


 今は浄土宗の寺になっている。


 その講堂で元康と近習の六名を前にして


 彼は言った。




     「 最初に断っておきますが、


      俺と半蔵の間には地縁も血縁もない。


      ただ三年、


      俺は彼のもとに寄食した。


      その代償として三年、


      松平元康様の護衛として務める。


      それだけの事ですから。」




 それは主従の対面と言うには傲岸な言上だったが、


 元康は怒るどころか、


 まるで・・・


 逃げ場を探している小動物のような顔で相手を見やると、


 無言のまま、うつむいてしまった。




     「・・・・・・・・・」


     ( あーぁ・・・まるで虎とネズミだぜ )




 鳥居は、いささかウンザリした顔で言葉を差しはさんだ。




     「 では、上様は外祖母にあたられる源応尼様と


      ご一緒に暮されているので


      其方に詰めていただく


      差配は石川家成に聞いて・・・」





     「 その前に、元康様に御手合い願いたい。」





 有無を言わせぬモノイイだった。


 元康はぶるぶると震えだし、蚊のなくような声で答えた。




     「・・・・・・きっ・・・・・・きっ・・・・・・


      ・・・期待・・・・・・される・・・・・・ような・・・


      うっ・・・・・・腕・・・・・・前では・・・っ・・・


      ・・・なっ・・・・・・ない・・・・・・ので・・・っ・・・」




     「 期待なんてしていません。


      俺は護衛で、あなたに


      刀抜かせるような事態にならない為にいるんですから


      一応、どの程度か知っときたいだけです。」




 立ち上がると木刀の掛けてある所に歩いて行き、


 二本取ると、


 元康に渡すために近寄った。


 元康はオタオタと


 おびえ惑いながら


 弱々しく立ち上がり


 自分を見据える冴えた眼を見ないようにして


 おそるおそる木刀を受け取った。




     (・・・・・・少し・・・・・・打ち合えば・・・・・・


      オレが・・・・・・全然・・・ダメな人間・・・だっ・・・て・・・


      ・・・・・・わかっ・・・ちゃう・・・・・・・・・)




 瞳からあふれそうになった涙が


 ぐっ・・・と、ぬぐわれた。


 眼のふちは赤く染まっていたが


 股立ちをとり


 タスキをかける所作は速く


 木刀を構えると


 唇をかみしめて、ゆっくりと目を閉じた。





                    ( 瞑目すると あの声が聞こえる



                     お前の父も 祖父も・・・に 殺された



                     お前も さっさと 殺されてしまえ )






 元康は深く息をついて瞳を開き、構えなおすと静かに正眼をとった。





            ( いつでも 死ねる覚悟をした はずじゃないか


              その時がきたら どこまで闘えるか


              どうすれば 恥ずかしくなく 死ねるか・・・)






 元康の双眸が強い光を帯び


 相手は少し意外な顔をして、木刀を下段に構え左足を引いた。





             ( 木刀のきっさきがブレない


              構えたとたん、気魄が変わったな )




 元康を見つめると、はじめて真正面からゆるぎなく見返してくる。




              (・・・・・・たとえ・・・木刀でも・・・


               武士が・・・刀を構えた時は・・・・・・


               いつでも真剣勝負・・・・・・なんだ・・・


               ・・・まったく勝ち目がなくっても・・・


               自分の・・・・・・全力を込めて・・・


               ・・・先方の 命を絶つ覚悟で・・・


               一の太刀を振り下ろす・・・!!! )





 瞬間、


 元康はおおきく振りかぶって するどく踏み込んだ。


 それは呼吸も太刀裁きも際だった打ち込みだった。


 相手は真っ向に受けて、強烈に突き返したが


 元康は体勢を崩さず


 敏速に向き直って


 再び打ち込んだ。


 それも的確でみごとな打ち込みだった。




                ( 一の太刀で倒せないなら 次の一の太刀を!


                 それでも倒せないのなら その次の一の太刀を!)





 がむしゃらに打ち込んでくる元康の太刀を


 一方的に受けている者の顔に


 あるかなきかの微笑が浮かんだ。


 元康は、それに気がついたとたん


 刀を構えたまま、硬直したように動きが止まってしまった。


 息が大きくみだれ、全身から汗がドッと噴きだしていた。






     「 御見事 」





 笑顔を作ってみせたつもりだったが


 元康は、まるで叱責を受けたように大きく引きつった。





     ( ほめたのにナンナンダその態度は


      信じらんねェくらいウザイ・・・! )





 元康は、今にも泣き出しそうな顔で目をそらし


 大きくあえぎながら、うちひしがれた様子で席にもどろうとした。





     「 ああ、元康様


      ちょっと、そこに残って下さい


      本多平八郎 忠勝と言う者は、ここに居るか?」





     「 応っ! 」





 答えて立ち上がったのは


 六人のうち最も小柄で


 童子のように無邪気な顔をした者だった。





     「・・・お前が・・・


      本多平八郎 忠勝・・・か・・・? 」


     「 他にゃ イネーぜっ! 」


     「・・・・・・!!! 」 


 絶句した彼の脳裡に 半蔵の声が響いた。





     《 大事はすべて本多平八郎 忠勝と話し合って決めろ 》





     ( 勘弁してくれよ・・・メマイがしそ〜だぜ・・・)




 ひたいに手を当てて、タメ息をつく様子を見て


 鳥居と酒井が小声で言葉を交わした。




     「 あいつ、平八郎を見くびったな・・・」


     「 驚きゃいーさ、平八郎の腕前は天才的だからな


      面上に一本見舞われて、あっけに取られるぞ。」


     「・・・・・・」


 天野は、こきざみに震えだし


 七之助が小さな声で ど〜した? と聞いても何も答えずにうつむいた。




 平八郎は 喜色満面 勇躍して


     「 さあっ、勝負だっ!」 と叫んだが、ゲンナリした声が返ってきた。


     「 勝ち負けより大事なコトがあんだろ・・・」


     「 は? 」


     「 本多平八郎 忠勝・・・


      おまえの一番大事な役目は何だ?


      主君の命を護ることだろーが・・・」





 元康は身を縮めるようにして ヒクヒクッと肩を震わせた。





     「 俺は、お前をかわして


      元康様の首を三回取ろうとする。


      おまえは俺の襲撃から元康様を護れ、


      ・・・判ったか・・・?」


     「 判った! 」





 平八郎は元康をいちべつすると


 その立ち位置を確認し


 不敵な顔を上げて


 木刀を高正眼につけた。


 相手の目つきが険悪に変わる。





     「 何・・・なんだ・・・?


      隙だらけだぞマトモに構えろ


      ・・・マトモに・・・」






 そう言いながら左手で木刀の中ほどを握ったまま


 無雑作に間合いを詰める。


 平八郎は思わず引いた。


 顔から笑みが消え


 闘争本能が危険のシグナルを出した。






     ( 構えもなけりゃ、隙だらけに見えんのも


      そっちじゃねーか!


      でも何だか・・・コイツたぶん強い! 


      まるで脱力してるみたいだけど


      いかなる攻撃にも応ずる


      変化の含みがあるようにも見える。


      迂闊に打ち込むべきではない・・・)







 平八郎は、ゆっくりと慎重に構えを面上の眉庇に取り直した。







     ( 正攻法じゃ勝てねェ気がする・・・)







 面上に構えた木刀を


 籠手下がりに すーーーっと腰を落とすと


 次の瞬間、


 音も立てずに跳躍し


 くの字に身を沈めて打ちかかった。

 


 俊敏な動き、


 小さな身体からは信じられないほどの腕力で


 激しい、変則的な攻撃が繰り出される。


 人の意表を衝き


 攪乱する。


 異様な剣さばきだった。


 しかし、


 それらはすべて、


 まごう方無く受け止められ、撥ね返されていく。





   ( コイツっ!!! オレより はやいっ!)





 平八郎が驚愕し、その動きに迷いと焦りが出ると、



 観察していたような冷静な瞳に、怒気が浮かんだ。






   ( こいつが・・・この程度の者が!


    あれの正当な持ち主だって言うのか?!)





 次の瞬間の動作は、むしろ


 舞を踊るような緩慢で優雅なものだったが、


 一見ゆるやかに見えて


 尋常離れした速力の動きと組み合わされてあり


 彼の身体は、


 いくつもの残像をともなって滑るように旋回した。






             まるで三面六臂の鬼神のように





 平八郎の眼は、その動きにクギつけになり


 まともに突かれた。


 残像が平八郎の脇をぬけて


 元康の背後に回り込み


 元康の首に腕を捲き


 のどもとに木刀をつけた。





 さして力を込めたようには見えなかったにも拘らず


 平八郎は大きく飛ばされ


 音を立てて転がり


 見ている者たちは


 誰も声を出せなかった。






   「・・・一本・・・」





 元康の首に捲いた手をゆるめると


 つぶやくような小声で言った。




    「 元康様。


     打ち合いが始まったら、お逃げ下さい。


     助太刀など一切無用、御身の安全を第一に考え


     なるべくすばやく静かに逃げていただきたい


     いいですね・・・」






 そう言うと元康を離し、堂のすみの方へ歩いた。






   「・・・もういい・・・それまでだ・・・」





 我に返った石川が、かすれた声で言い


 七之助が平八郎にかけ寄った。


 助け起こそうとする手を振りはらうと


 平八郎は息も荒々しく立ち上がり


 馬か何かのようにぶるぶるっと胴震いをした。


 口元が引きあがり

 
 奥歯が強く噛み合わされて音をたてた。





   「 まだ! まだだぞっ!!!」と、平八郎が叫ぶと




   「 その通りだ、あと二本取る。」と、嘲弄するような声が返った。












     ( 力量の差は歴然たるものがある・・・


      アイツ・・・平八郎をなぶるつもりかっ?!)鳥居は寒気がした。





 まるで見透かしたかのように声がかかった。




     「 鳥居彦右門 元忠


      ・・・お前、なぜ俺を


      服部半蔵 正成だと思った?」




      「 えっ?!」 虚をつかれて鳥居はあおむいた。




     「 お前は、服部半蔵 正成の


      人相、風体を聞いていたのか?


      俺が、服部半蔵 正成である


      証拠はあんのか・・・?


      俺は本当に・・・服部半蔵 正成・・・なのか?」





 口調は


 適度に間をおいた平静なものだったが


 鳥居の顔からは血の気が引いていった。


 相手はゆっくりと


 そこに列座している青年たちを


 眺め回しながら低い声で続けた




     「きっちり確認しねえで・・・こんな所に


      俺を招き入れて良かったのか・・・?


      俺が・・・どこぞの・・・そうねェ・・・





      尾張の織田の放った刺客・・・であったら・・・?」





 あたりは総毛立った。





     「 たった・・・これっぽっちの人数で


      元康様を護りきれんのか・・・?」




 彼の口元がゆがみ、唇の間から白い歯が見えた。




     「 甘い、甘いな・・・鳥居彦右衛門 元忠・・・


      動け・・・! すこしは働いて見せろ!!!」





 吼えるような声で一喝すると


 床を蹴った。


 まるで人とは思えない異常な跳躍だった。





  
 鳥居の喉元を太刀風が走り


 真剣だったら据え物切りに斬られているのを思い知らさせると


 片手を開く。





 
   「 破っ!」





 どん!と、言う振動音と共に


 鳥居の身体は 眼に見えない力で跳ね飛ばされ


 ごろごろっと横転した。






 酒井忠次は、組討には剛の者だったが


 つかみ掛かってきた酒井と組むと





   「 受身は取れるな?」




 言うが疾いか高々と投げ飛ばした。









     「 逃げろと言ったハズだぞ!」





 立ちすくんでいる元康の方を、荒々しく見向くと睨みつけ





     「 御命 賜る!!!」 




 と、怒鳴って木刀を投げた。









 木刀は、まるで生き物のように鳴動して飛来した。

                 




               「・・・!!!」





 元康はとっさに両腕で顔をおおったが、


 鈍い音がして


 木刀は、本多平八郎の背中に当たって床板に落ちた。





 平八郎は前にのめっていき


 元康ともども倒れ込み


 激しく咳き込んで


 痛みをこらえるためにうずくまった。





     「 三本目は無理のようだな?」





 平然とした声だった。息一つ乱れていなかった。



 元康を見下ろすと、ゆっくり、言い聞かせるように、口を開いた。






               「 俺は、三河者でも伊賀者でもないが


                服部半蔵には命を救ってもらった義理がある。

            
                だから・・・俺は、あなたを護る・・・


                身命をかけて・・・






                そのかわり、俺の指示には従っていただこう!


                俺が逃げろと言ったら逃げろ!





                生きて岡崎の城に帰り


                三河の領主として君臨したくばな・・・」











   「・・・・・・」




 元康は瞳を大きく見開き、茫然として見上げていた。

蜻蛉きり 1

 


 源応尼は元康の母 於大の方の母であり、


 幼い頃には病弱であった竹千代( 元康 )には


 血縁者の、親身の養育が望ましいと駿府に招かれ、


 知源院に居所を与えられていた。


 松平元康の屋敷は、知源院のすぐ隣にあり


 その左隣は、北条氏規の屋敷であった。


 関東一の大大名 北条家の息子に、


 劣らぬ厚遇を受けていたようにも見受けられる。





     (・・・何なんだ・・・これは・・・)





 彼は夕餉の膳を見ていた。


 人数分が中心を向いて円形に並んでいる。


 源応尼は部屋に入ってくると


 にこにこと微笑しながら膳の前に坐り。


 他の者も、思い思いに席に着こうとしていた。





 平岩七之助は無遠慮に、 


   「 あ〜ぁ ハラへった〜! 


    さぁ、食べまい食べまい!」と言って坐り


 元康は、平八郎と天野の間に


 隠れるように小さくなっていた。


 石川家成が、少々困ったような顔をして


 坐るように即したが


 ブゼンとして、彼は立ったままでいた。





 源応尼は穏やかな口ぶりで話しかけた。




     「 なにか御不審のようですねぇ・・・新しく来られた御方・・・」


     「 何故この様な、おかしなかたちで夕餉を取られるのか?」





 源応尼は、小首をかしげる様にして


 ゆっくりと落ち着いた調子で


 考え考え、言葉をつむいだ。




     「・・・そうですねぇ・・・・・・


      わたくしたちは阿弥陀如来様という


      絶対的な・・・ほとけさまの御前では


      等しく・・・仏出子ですもの・・・


      身分の上下・・・能力の上下・・・などはは無く


      もし・・・能力に上下が見えたとしても


      それは・・・錯覚に過ぎず・・・


      わたくしたちは・・・等しく・・・


      凡夫にすぎないのです・・・


      ほとけさまの御前では・・・みんな・・・


      平等なのですものねぇ・・・


      ですから・・・こうして・・・


      みんないっしょに・・・いただくんですよ


      ・・・おかしいですか・・・?」


      「 おかしいです、


       いつ頃から此の様なマネをされていたのですか。」


      「 竹千代が幼い頃から


       ずっと・・・こうしてまいりました・・・」


      「 ならば、本日から改めて頂きたい。


       源応尼様には、元康様の先をどのように御考えか


       出家して仏道を修められるのか?


       三河の領主に成られるのか?


       御領主様には絶対的な権威が必須であり


       それが無ければ統制がとれません。


       仏の前では皆凡夫・・・などと言われては


       領国統治など、とてもおぼつかない!」




 そう言うと、元康の膳を持ち


 ずかずかっと上座に運び


 その他の席も、役目や年齢などから並びをかえ


 座り直させた。


 源応尼は怒ったりせず


 静かに微笑しながら座り直し


 いつもとかわらぬ


 やさしい いたわるような声で





      「 では・・・いただきましよう・・・」と、言って手を合わせた。





 元康は、途方に暮れたような顔をして祖母を見たが


 合掌して食べ始め


 他の者もそれに倣った。





 年若い者達の食事する活気が


 部屋に満ちていた。


 ふと


 七之助が呑気な声をだす




      「 な〜んだぁ 正成〜ぃ お前 焼き魚 嫌いなの〜?


       だったらオレに チョーダイ! 」



 ギョッとする石川や天野をよそに


 七之助は焼き魚の皿に手を伸ばした。





      「・・・!」




 脅しつけるようにグサッ!と、焼き魚に箸を突き刺すと


 七之助をにらみ


 魚を頭からわしわしと食べはじめ


 骨も尾っぽも残さず喰らってしまう




      「 あ〜ぁ、 正成って性格ワリ〜っ! 」




 シカトされているにもメゲズ 七之助は笑っている。


 平八郎は 興味津々と、いった顔で見ていたので


       「 本多 わたすもんあっから後で講堂にきてくれ。」


 と言われて、嬉しそうな声で答えた。


       「 応っ! 」


 七之助は、それを聞きとがめ


       「 なあに なあに なあに?


        平八郎にだけオミヤゲあんの〜? え〜〜〜っ?」


       「 お前は本当にウザイな、すこしは黙って喰え。」


       「 ふ〜〜〜ん・・・


        な〜な〜 正成の箸つかいって


        変だと思わねェ?」





 俺にふるなよ・・・といった顔で、天野が身を縮め。


 石川は、小さくタメ息をついて苦笑し。


 上座の元康は、


 ひとり取り残されたように


 自分の膳に眼を落としていた。

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