おるたな美術館

旅先で出会った東洋美術、西洋美術

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西塔門東側外壁のデヴァターは、西側と全く同じ様式(“西塔門西側その1”の2体以外)でありながら、随分雰囲気が違う。西塔門はアンコール・ワットの入口なので、西側は境内の外側にあたり、屋根付きのテラス状で西陽以外は間接光による採光の狭い空間。それに対し東側は境内の敷地から見渡す明るくて広大な空間で午前中は存分に太陽光が降り注ぐ。西側と東側は聖域の外と内というコントラストを形成しているわけだ。

そこに彫られた浮彫りも対照的で、東側壁面のデヴァターは西側との制作時期の隔たりを感じる。同じ表現様式を守りながらも、時代感覚が随分違うのだ。ここには最早、アジアの美術というひなびた地域性より、その溌剌とした輝きにコスモポリタンな明快さがある。繊細な味わいが払拭され、地域や時代を超えた作風がディズニー的といってもいい分かりやすさを持つ、東洋美術の範疇を越えたものに変わって来る。ただ、画像にある中央入口付近のものは、まだそういった傾向はおとなしく神秘性も残している。


上の画像は西塔門入口を通り抜け、階段を下りずにそのまま北翼の壁面を振り返ったもの。北翼南翼共、西側より彫りが深く、柔らかさや暖かさのある肉身部にはボリューム感があり、数メートル離れた位置からでもはっきりと見ることが出来る。南翼は、背景のゴージャスな装飾も目立つので肉身部はそれに溶け込む感じだが、ここでは身体が際立っている。

頭と胸の周囲を深く彫り、そこから周辺に向かって徐々に浅く彫って行く技法は、背景をフラットに同じ深さだけ彫る場合と違い、像の存在感を自然に見せている。こういうのを見ると、クメール民族は石から生命を掘り出す才能に長けていると思う。

足が真横を向いているのが特徴的だが、身体の向きに合わせて爪先を正面向きにしてしまうと、爪先から踵までの長さだけ石を深く彫らなければならない。これは、視覚的に深く彫ったところが最も陰影のコントラストが強調されてしまう浮彫りの性質からすると、像の足下が最も目立つというアンバランスを招いてしまう。不自然なくらい足を横向けにしてしまうのは、正面性を回避して動きを持たせるだけでなく、横向けの足なら浅い彫りで表現出来るので、この部分を目立たなくして上半身に視線を誘うためで、視覚効果(絵画的表現)としてとても優れた手法だと思う。

西側と比べ、健康的で肩幅も広く大柄なボディーラインが際立つ造形と、上部空間を大きくとった背景装飾は、堆い頭飾と共に上昇性をつくり出すのに成功している。広大な敷地の横方向の広がりに加えて、この天空への方向性は、アンコール・ワット中最も開放的なこの空間にぴったりの表現だ。


下の画像は、階段を下りて入口の南向き側壁を見上げたもの。堆い頭飾を冠ったデヴァターを中心に安定した三角形を構成する3体は、こうして見上げることによって、上昇性が強調される。

私達は西塔門入口をくぐり抜けることによって、境内の外よりも開放的な上昇空間(実際は境内の外の方が広いはずなのに、そうは感じない)に出会うことになり、天界にいるような気分を味わうのだ。


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