おるたな美術館

旅先で出会った東洋美術、西洋美術

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メキシコ壁画運動の三大巨匠(リベラ、オロスコ、シケイロス)の作品としてベジャス・アルテスのものがよく知られているのは、壁面が延々と続くパノラマ的展開でないので単一の画像として紹介しやすいのと、焦点がはっきりした構図なので縮小されてもそれなりにインパクトがあるのが原因だろう。

このディエゴ・リベラの「人間,宇宙の操縦者」(1934年)もまるで羽根のように配置されたレンズに囲まれた中央人物が求心的な画面効果を生み出し、リベラのパノラマ構図による他の大規模壁画と違ってメキシコの歴史を知らない私達にも充分おもしろい。

もう一つは左にブルジョアジー,右にプロレタリアートと、内容に於いても対立構図になっているところが作品の密度をより高めているといえそう。それにしても人間だろうが機械、動植物だろうが、よくこれだけ描けるものだ。

映画「フリーダ」でリベラがニューヨークのロックフェラー・センターの壁画にレーニンを描いた為に解雇されるというエピソードがあるが、その完成しなかった壁画の構想がこの作品に持ち込まれているらしい。右側のレンズに挟まれてレーニンが、さらに当時リベラ夫妻がかくまっていたスターリンの政敵トロツキーも右下画像右下に描かれている。

レンズは望遠鏡と顕微鏡でそれぞれに宇宙(マクロコスモス)と微生物(ミクロコスモス)を映し出し、中央の手が握る球には遺伝子工学が、その下には農業というよりはやはりバイオテクノロジー的イメージが描かれる。SF映画が陳腐なファンタジーだった時代にこれだけの近未来的イメージを残したのさすがだ。壁画がになう啓蒙的役割の大きさがうかがえる。

ところで “その1” のオロスコの「カタルシス」はこの作品の吹抜けを挟んで真向かいにある。リベラのマルクス・レーニン主義と科学技術に裏打ちされた近未来文明という楽天的イメージとは対極のこの地獄絵図は同じ年に描かれている。仏画でいえば浄土変相図と六道絵ぐらい違うが、ここではテーマ以上に作風というか造形理念とその背景となる思想が全く対立している。

また、翌年には国外追放による3年間の近隣諸国歴訪後に帰国したシケイロスがこのベジャス・アルテスでリベラを激しく批判する講演をおこなっている。詳しいことはよく知らないが、いずれにしてもこの2階に漲る緊張感というのは作品に於いてだけではなかった。激しい対立が生み出すダイナミズムがこの国立宮殿には集約されており(公共の建物では普通こんなことあり得ない)、それはメキシコ文化の豊穣さをも示しているようだ。

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