おるたな美術館

旅先で出会った東洋美術、西洋美術

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西塔門中央入口の両翼の西向き壁面はテラス状の細長い廊下になっており、手に触れることの出来る距離から壁面に描かれたデヴァターをゆっくり鑑賞することが出来る。

だから、ここのデヴァターたちは、近くから眺めることを前提としているのだろう。彫りがとても浅く,非常に繊細な表現が特徴だ。

それは西塔門の反対側(東側)の壁面、つまり境内の広い敷地から数メートルの距離を置いてながめる位置にある壁面のデヴァターたちが、彫りも深く、単純化された明快な造形になっていることからもわかる。離れた距離からも浮彫りの形がわかるようにするには、それなりに深く彫らなければならず、逆に繊細な表現をしたとしても全然見えないので無駄に終わる。アンコール・ワットの彫工達は、そういう視覚的効果を十分に心得ていたようだ。

また、このエリアのデヴァターたちは、西塔門入口のような像を囲む龕が取り除かれ、しかも複数が並んでいるので、最早 “デヴァター(女神)” ではなく “アプサラ(天女)” と呼んだ方が適当なのかもしれないが、もっと動きのあるポーズをとったアプサライメージはアンコール・ワット境内で他に多く見られるので、 “デヴァター” でいいだろう。

いずれにしてもその窮屈な龕が無くなったおかげで、デヴァターは丸彫り神像のような厳粛さから解放され、その造形的特質である軽やかで優雅な魅力を発揮出来ることになる。背景も草花のパターン模様になり、意味性重視の宗教的図像表現から、よりヴィジュアル重視の世俗的表現に変わっている。

画像は、中央入口から北に伸びる廊下にさしかかったところにある壁面の2体で、既にニューモードのデヴァターの表現としては古典的完成に達しているといえそう。全体のシルエットとしては迦陵頻伽やタイのキンナラを連想する。このコスチュームのデザインコンセプトは、極楽鳥のようなデコラティヴな鳥類なのだろうか。大地を踏みしめて立つ,地母神的な伝統的デヴァターとは決定的に違う天女のイメージなのだ。アンコール・ワットのこうした女性像をアプサラと呼称する文献が多いのもうなづける。

ところで、作風の繊細さはコスチュームの彫りの細かさだけでなく、顔の表現にも良く表れている。左の像は顔が単調でつまらないが、右の像の顔は微妙な起伏が表現されて滋味深い(左は拡大画像)。右画像を見渡してみても,そこだけ陰影が異様に写実的なのがわかる。

このように、“顔だけ誰かさんの面影を写しました”というのは、アンコール・ワットではよくあって、彫工の個人的な思い入れを感じたりもする。境内の他の壁面で見られるヴァリエーション豊かなファッションにしてもそうだが、宗教建築らしからぬ世俗的要素がふんだんに取り入れられているのが、アンコール・ワットの浮彫りの面白さでもある。

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