おるたな美術館

旅先で出会った東洋美術、西洋美術

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西塔門西側のテラス状の狭い廊下の空間は、壁に背を向ければ列柱越しに環濠とその向こうの光景が開け、壁に向かえば狭い空間で、至近距離から浮彫りを眺めることになる。さらに、通路の進行方向に向かえば奥行きがあり、この視点からは遠近効果を利用した空間演出を楽しめる。

“その2”の場所から廊下沿いに北へ向かうと、右画像のように正面奥にデヴァターが見え(左画像はそのアップ)、その右手前には突出した壁面の狭い側面にデヴァターが彫られ、階段状のパースペクティヴを成している。居並ぶセクシーな女神に、ついつい奥の方へと誘われてしまうような演出。デヴァターはさらに洗練されてモダンになり、 “その2” で7頭身あまりだったのが、このエリアでは8頭身まであと一歩というプロポーション。滋味深い古風な味わいも、ここでは影を潜めている。

手前の狭い側面の2体のデヴァターのような場所では、トラッドなサンポットに戻っている。狭い空間では幅のあるニューモードの装身具が入りきらないのだ。ただ、トラッドといっても、トマノンのそれらよりさらにデコラティヴにアップデートされ、サンポット上部を折り返したような飾りを腰に巻いているものが二重になっている。さらに、例のバプーオン様式に端を発する “魚の尾びれ” が、ここでは独立した飾りとして3本も腰からぶら下がっている。

また、この狭い空間は彫りが浅くて像が目立たないので、奥のデヴァターに焦点がゆくようになっている。奥のデヴァターだけは少し彫りが深く、離れた距離からもその姿がはっきり見えるように計算されているのだ。そのフォーカスされたデヴァターは左の拡大画像を見てもわかる通り、自然光を利用した陰影効果がお見事。

これは、背景がフラットではなく、周辺が浅くて、顔と胸の辺りが最も彫りが深くなるという曲面になっていることによる。結果、顔と胸の陰影のコントラストが強調されることによって、そこに視線が集中し、単なる装飾ではないリアルな存在感をかもし出すことに成功している。

まちがいなく、左からの間接光による効果を意識しているのがわかる。アンコール・ワットのデヴァターはこうした表現効果の確立により、厳格な形式主義の当時の丸彫り神像とは別の表現領域を開拓している。

ここには最早インドの樹木神ヤクシーのような、生命力や豊穣多産の職能を表す扇情的肉感性は見られない。スリムな肢体は現代のファッションモデルと同じく、その職能が “飾る美” にあることを示している。

こうした女神の職能の変化は、即ち都市化の反映なのだろう。食料供給が安定し、物質的に豊かな文明社会では、“子孫を増やす”、“食べる” という原初的な願望を女性イメージに託したりはしない。

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