おるたな美術館

旅先で出会った東洋美術、西洋美術

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おそらくアンコール・ワットのデヴァターにだって、アンコール遺跡のほかの寺院の壁面を飾る女神像と同じく、このように描くべきという手本はあったのだろう。しかしアンコール・ワットではそうした宗教美術らしい無個性の統一感より、描かれた宮女や踊り子の個体差や彫工の創意が尊重されたとしか思えないほどの多様性をみることができる。

そうしたなか、形式的なスタンダードを超える技量と創造性を持った作品と、スタンダードな形式や均整を踏襲できないほど下手でありながら創意に富んだ作品が混在し、いずれも境内を飾る魅力的な要素となっている。

画像の作品はもちろん前者で、第二回廊周辺のデヴァターとしては最も紹介される頻度の高い傑作だ。東側回廊は浮き彫りが崩落している壁面や未完成の壁面が多く、正面である西側に対して裏側らしい寂しさが感じられる中、中央塔門の南側に限っては、このように保存状態のいい充実した作例を見ることができる。

8頭身強の長身でずらりと並ぶこの4体、ポーズに於いてもコスチュームに於いても図像としては変化に乏しい下半身ですら、単純な繰り返しにはなっておらず、それが、均整を崩すことなく上半身とうまくつながって自然な動きをつくり出している。身体の一部だけでなく、身体全体が4体とも全く違ったポーズになっている。

これは各部を分業体制で制作するデヴァター制作のシステムとしては、アートディレクションがよほど明確でないと実現しないことだろう

こうした浅めの浮き彫りでは特に難しい微妙な首の傾きも、下画像の2体では見ることができ、それがいっそう自然な動勢につながっている。そうした表現の豊かさが、形式的な宝冠ではない、ヴァリエーションに富んだユニークな髪型と結びつき、この画面のゴージャスな雰囲気を演出している。

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