おるたな美術館

旅先で出会った東洋美術、西洋美術

メキシコ編

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道釈人物画の仙人を彷佛とさせるような奇っ怪でユーモラスな2体。左画像は亀の甲羅から巨大な鼻ピアスの顔と手を覗かせたマクウィルショチトル( ”5の花” の意。アステカの祭祀歴で1から13の数と20の絵文字からできており、1年は13×20=260日。 ”花” も絵文字のひとつで祭祀の日がこの神の名になっている。 ”その2” の太陽の石の中心から3番目の輪が20種の絵文字に当たる。)という神。右画像のショチピリ(花の王子)は牙や爪がついたままのジャガーの毛皮を纏い、手足に花柄の刺青のような装飾がある。両者ともその異形ぶりが強烈だ。

ところが意外にも両者に共通するのは、名前に ”花” がついていることと ”青春” や ”芸術” を司るということ。彩色の無い現在のオドロオドロしい姿とは、おおよそかけ離れたキャラクターイメージだろう。どうも日本人の感覚だと亀は万年ということで長寿の老人をイメージさせるし、ショチピリ像などは頭部の玉眼が無くなって髑髏のようになっているせいか、即身仏のミイラにしか見えない。

これらが彩色された状態だともうちょっとロマンティックな王子様系!?になるのかも知れないが、現在はその様式と石の質感が重厚さを演出し、花と蝶に飾られたショチピリの玉座も、別物の異様な装飾に見えて来る。こうした経年変化は、図像学的な意味性が後退して造形そのものの訴求力が増し、それによって記号的明快さが深層的イメージへと移行した好例といえるかも知れない。

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アステカの石彫は彩色されていたようだから、今とは随分イメージが違うのだろうが、むしろヘビーでハードな表現の魅力は今の状態の方がより味わえる。石による造形がこれほどビシッと決まる文化もそう多くはないだろう。

上画像の「太陽の石」も、彫りの深さの違いによる明暗の妙など、その変化に富んだ力強い表現効果が石のざらついたテクスチュアで増幅されている。生贄の心臓を燃料とする原動機としての凶悪そうな太陽神トナティウを中心に(両側の手は心臓を鷲掴みにしている)、きしむ音を立ててメカニカルに時を刻むような宇宙の図式は、空間論よりも運命的で強迫観念的な時間論に支配されている。

“もののあはれ”とはえらい違いだ。永久不変なものに真理を見いださないという共通点はあっても、こういうのを見ると、日本に石造文化が発達しなかったのは当然という気がしてくる。

画像下部でにらみ合うのはトナティウ(右)と夜の神シゥテクートリ。両者ともシウコアトル(火の蛇)の被り物をして戦い、それによって夜と昼が運行するというわけか。

下画像もシウコアトルで、一見随分と形が違うようだが、上画像のシウコアトル頭部のパーツをまるっこく変換すると確かに下画像になる。つまり図像的には全く同じで、表現様式を変え、より抽象的な造形に置換している。こういう合理的なスタイルの変更はアステカの得意技のようだ。

彼らの石彫には、素材そのものにアニミズム的霊性を見いだすような感覚は感じられない。石もまた、粘土などと同じく自在に加工出来る素材に過ぎないのだろう。それがこれだけドライに明快に造形できる所以のようだ。

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メキシコ国立人類学博物館の中庭奥にある、当館メインホールのアステカ室。その広大な展示室は圧巻だ。石造群を照らす照明は見上げると夜空の星のようで、実際の空間以上のスケールを感じさせる。

左画像のガラモン・ピグモン系巨大石像は大地母神コアトリクエ。“蛇のスカート”という意味だそうな。右下画像中央の像もコアトリクエだが、こっちは巫女が儀礼用に髑髏の仮面、蛇を編んだ腰布、獣の足のような手袋とブーツで扮装した姿を写したもののようで、そう考えると誇張ではなくかぶりものを装着しているだけなのだから、写実的で自然な造形といえそう。

左画像のコアトリクエのような多面多臂で動物と人体を合成した異形イメージは、勿論アステカの専売特許ではない。この像を特異なものにしているのは、その構成原理だろう。この像には古代ギリシャ、オリエント、インドなどユーラシアを中心とした文明の宗教図像に見られるような、動物や人間の自然な構造に基づいた有機的なデザインほどこされていない。

例えば胸部に4つの掌、2つの心臓、生首が、人体構造とは無関係に配置されているし(これって首飾りなのだが、カーリー女神が首から下げる生首の数珠つなぎ <http://blogs.yahoo.co.jp/sugafuto/27448919.html>とは違い数が少なく、しかも大きくて、恣意的な配置に思える)、両肩は唐突に蛇の頭になっている。さらに独創的なのは頭部だ。実はこれ、2匹の蛇が向かい合って1つの顔のように見せているのだ。だから右上画像に見られるように、背中側から見ても後頭部に同じ目や口が描かれている。このアイデアには実に魅了された。

レリーフとしての平面性を丸彫りの彫刻にそのまま持ち込んでおり、このことは平面的イメージが丸彫りになることによって自然な立体表現になることへの拒絶を意味している。つまり、平面的虚構性、装飾性が、着ぐるみのようなリアルな実写ものとしての再現を不可能にしている。フィギュアなどのような単純な2Dから3Dへの移行ではなく、そのどちらの空間にも属している(または属していない)ところが、この像の聖なる存在としての強度といえそうだ。

アステカとくればすぐに生贄の儀式の方に話がいってしまうので、そういったお決まりのパターンは避けたいのだが、人の心臓をえぐり出し、生皮を剥いで身に纏ったり、バラバラに切断して食したり等、人体の解体と再構成を実際にやってしまうリアリティーが彫刻に反映されているのは確かなようで、文明の存続と引き換えの死に直結する感覚が強烈な印象を与える。

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トラスカラのソカロ(中央広場)にあるカテドラルはファサードが東向きで、丘の上のオコトラン聖堂とは向かい合わせになっているようだ。ファサードのてっぺんには、オコトラン聖堂のマリアの後にあった五芒星が取り付けられている。

この建物も白とレンガ色の配色が基本で、やはり味覚に訴える。このふんわりとソフトな色調に、ドームのタイル模様の青が良いアクセントになっている。

私のお気に入りは、このカテドラルの西面に設置された3つの十字架だ。トラスカラの教会の鐘塔のてっぺんに飾られているのにも似たものがあり、繊細な鉄の細工が美しい。高いところにあるとこのように細部をじっくり眺めることが出来ないので、こんなにも精巧な細工が施されているとは思わなかった。鉄製の十字架なのに軽やかで、中央の♡マークなど実に洒落ている。

しかし、どういうわけでこれらが教会の裏に設置されたのだろう。いずれも一番上に“I.N.R.I.”(ナザレのイエス,ユダヤの王)とあるから,中央がイエスで両脇が同時に磔になった罪人達というわけでもなさそうだ。デザインが同じなのに左のが一番背が高いし、台座も各部の比例がまちまちになっているのが余計に謎めく。3本対でつくられたのならこんな無意味な違いは無いはず

レンガ色の壁に映える台座の青い縁取りもさることながら、この均衡の中の不均衡は、何やら魔力のようなものがあり暫し足を止めて見入ってしまった。

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ミサの時間になるとマリア像のケースの廻りの薄暗い空間に数カ所小さな電飾が灯り、何ともいえない荘厳かつレトロフューチャーな感覚におそわれる。蝋燭でもネオンでもないその薄蒼い光は、この祭壇衝立をよりメカニカルなイメージに近づけた。

そもそもこの衝立の装飾にはバロック様式につきもののソロモン柱と呼ばれるねじれた柱もなく、植物文の有機的な形も抑制された硬質でメタリックな印象が強い。聖人や天使の彫刻はかなり写実的なので無機的な装飾部分とははっきり区別がつく

本尊のマリアは8頭身でプロポーションが他の人体彫刻より頭が小さく作風が異なるように見えるが,天使像とは顔が似ている。祭礼で山車に乗って町を練り歩く本尊は、室内装飾との関係によるプロポーションの制約(この場合頭でっかちになっている)から無関係でいられるのだ。

印象的なのはいかにも古めかしい装飾のガラスケースの天蓋とは対照的な星形デザインの光背だろう。衝立の後にはカマリンと呼ばれる小堂があり、その部屋の窓からの光がガラスケース背面を明るく照らしている。そうして出来た星形のシンプルなシルエットは異質で、ゴチャゴチャした衝立装飾に囲まれた聖母をシャープに引立てている。

マリアが紅白歌合戦の某演歌歌手にも見えたりするし、ガラスケースが大きな水槽にも見えたりするアトラクティヴかつ神秘的な演出は、見世物小屋の持つ如何わしさがある。この祭壇衝立を埋め尽くす装飾の金色にしても成金趣味の卑俗なイメージがあるし、電気仕掛け,機械仕掛け的感覚は宗教を俗物化しているように見えるが、それは欧米文化的近代社会に生きる人間の偏見に過ぎない。むしろその卑俗なイメージに何か本質的な聖なる異臭を強く感じないだろうか。

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