おるたな美術館

旅先で出会った東洋美術、西洋美術

ラウンジ(雑記)

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尾張で江戸三昧

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名古屋のボストン美術館と市美術館では、これまであまり見たことの無い浮世絵作品群が強烈だった。ボストン美術館では米同美術館の所蔵品を3回に分けて展示(ビゲローコレクションが中心みたい)する第1回目だそうで、色彩の保存状態が良いのには驚かされた。これほど濃厚な色彩を見ると、錦絵のイメージ自体も変わってしまいそうだ。馴染みの薄い秀作も多く、今後の展示も楽しみ。

ボストン美術館を後に地下鉄に乗り、電動からくり人形のある地下構内を通り抜けて市美術館の北斎展へ…。こっちはオランダ商館長発注の北斎工房作肉筆風俗画の里帰りが目玉で、何とも奇妙なオーラを発していた。

それらの肉筆風俗画は、恐ろしい程細密な描写で、ぬめっとした陰影の暈しも丁寧。手が込んでいるわりには画面効果として実を結んでいないところが、従来の北斎作品に無い奇妙な雰囲気を醸し出している。

また、画面下から3分の1ぐらいかそれ以下の低い地平線が多く、おかげで人や建物など構成要素が画面下半分に集中するという何とも窮屈な画面の上、個々の表現に陰影法を律儀に使っているため、ごちゃごちゃしてしまっている。

これを絵画としてみるなら、どれほど技量の高い絵師でも、表現技法や構図を間違えると良い結果に結びつかないという典型のような作品でもある。詳細なデッサンによる風俗資料としての価値を抜きにすると、北斎もこんなお馬鹿な工房制作をしていたのかと大笑い出来る。

と同時にモチーフ同士の重なり具合には、風俗資料としての説明図を越えた異様なこだわりがあり、伝統的な画面構成から脱却しようとする意志を強く感じもする。

シチュエーションや画中人物のポーズが似通った後年の風景版画の何点かを参考作品として横に並べてあるのを見ると、こうした試行錯誤が昇華され、「冨嶽三十六景」をはじめとする世界的名作を生んだのかと感慨深くもある。北斎の風景版画は、これら肉筆風俗画が抱えている問題を解決して、それまでの日本絵画にも西洋絵画にもない新しい表現領域を開拓しているからだ。

ところで、こうした曲がりなりにも遠近法、陰影法を用いた作品には、参考にした西洋の銅版画があるだろうから、そうした参考作品も展示してもらえばさらに面白くなったと思う。

それにしても、主題が美的価値に無く博物学的価値であるとはいえ、この極度にねじれた力作ぶり(要するに悪趣味)はスゴい。保存状態の良さが、さらに異様さに拍車をかけている。定番の北斎作品を交えて総花的北斎展の体裁を保つより、これらの作品を中心にコンパクトにまとめてしまった方がインパクトは大きかったかもしれない。

神様の息吹

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21世紀だというのに啓蒙主義の悪しき影響か、どうも仏像となると美術作品として見てしまう癖が抜けない。

その点神像は、たとえ美術館に展示されたとしても心配は無い。なぜなら神像は仏像と比較すると、身体表現という美的観点において、どう見ても出来損ないにしか見えないからだ。

私は、そういうものに惹かれるたちなので、「神様の息吹」と題された熱田神宮宝物館の展示を、遅い初詣がてら観に行った。

見方によれば、笑っちゃうような稚拙な彫刻でありながら、実際のところは、あからさまにされるべきでないもの(仏像のように微に入り細に入りじっくり見られることを前提としない造形)を見ることの畏怖感が、会場を支配していた。

日本の仏像は優れて人間的な表現の傾向が強い。だから、ギリシャ彫刻やルネサンス彫刻と比較されたりするのだろう。つまるところそれが多面多臂の異形であったとしても、それは人間の相を描写している。

神像には均整のとれた美しい身体比例という概念が見られない。仏像に影響されて偶像を造り始めたという経緯から、神像が仏教美術の造形に依拠しながらも、肝心のプロポーションを取り入れなかったのは、“てんで分かって無かったから”ではなく、意図的に取り入れなかっただけなのかもしれない。

特に展示されていたものは、仏像のような図像や様式という“身だしなみ”が不完全(画像の熱田神宮の境内や社殿の洗練された“身だしなみ”の良さとは対照的)で、その分剥き出しのぎょっとさせるような何かがある。多面多臂や動物との異種混淆といった密教図像的な異形に比べると,ノーマルな貴人や武人の肖像でありながら、人間離れした、もっと本質的な異形感覚=聖なるものを感じさせる。

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3人合わせると200歳を越えるアーティストの2つの展覧会を豊田市と名古屋で拝見。いずれも館内の構造やスケールを有効に使った展示だった。特に吹き抜けの展示が両者とも会場構成の軸を成しており、時空間のスペクタクルを感じさせた。


名古屋市美術館の河口龍夫展では、広い展示場に入ると先ず目に飛び込んでくるのが、ピアノの上に円錐状に降り積もったヒマワリの種。其処を後にし、階段を上って幾つかの展示室を経て会場出口付近にたどり着くと、階下の作品にヒマワリの種を降り注ぐ入場者参加型の装置が設けられている。

入場者は、最初に目にした作品が成り立つ原因を最後につくって会場を後にするわけで、会場を出た後、作品は入場者が下のフロアで観たものとは僅かながら変化している。螺旋状の円環運動という時空を体感させられた。


この老練でコンセプチュアルな河口と対照的なのが、豊田市美術館の篠原有司男の吹抜け会場壁面を埋め尽くす巨大な壁画。3m×5mのパネル27枚分だそう。75歳でこんなの描いたら死ぬぞ、普通。

階段を上り、榎忠のパトローネのインスタレーションでは部屋が暗くてうっかり作品に激しく蹴りを…。係員に怒られるかと思ったら、逆に怪我は無いかと心配されてしまった。

部屋を出て廊下を渡り、階下の篠原の壁画を俯瞰出来る場所で動揺を沈めて振り返ると,榎の秘教的でメガロマニアックな鋼鉄製の壮大なオブジェが目に飛び込み、雷で打たれたような衝撃。この位置からの両作品が対置する景観は、対照的な二人の作風を鮮やかに演出していて強烈だ。

アカデミックで叙述的な名古屋市美の展示に比べ、こっちは方法論うんぬんではなく、現代社会の軋轢から絞り出されたような造形。より地に足のついた表現を実感した。

美術フォーラム21

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美術フォーラム21第16号(醍醐書房)に、記事を載せていただいた。主に“菩薩シリーズ”と“迷宮シリーズ”に絞った内容で、簡単な人物評まで書いてもらっている。人物評はあまり書かれた経験が無いので、不思議な気分がする。

HPをつくった時に、けっこう自分の創作活動を客観的に見たつもりになっていたが、こうして第三者の眼で振り返ってもらったものを読むと、より離れた距離から自分を眺められる。結果として両シリーズ共、まだ決定的な作品が無いという思いが強くなった。やりたいことがやりきれていない気がする。特にここ数年はその傾向が強い。

来年以降は、そうした発表が出来るよう準備を始めている。そしてその後は、両シリーズに一区切り付け、新しいシリーズを展開して行く予定。

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画家の版画展というと、どうしても“余技”的な印象をまぬがれない。ことルネサンス・バロックの時代となると、版画は普通タブロー(油彩画)の複製品に過ぎないし、名古屋ボストン美術館の「レンブラント版画展」も、低予算で出来る巨匠の展覧会程度の認識で気楽に入ったのが大きな間違いだった。

スリリングな実験と創造の現場。二百数十年後の西洋美術の展開を既に予兆しているかのようだ。静かで暗い会場の中、一人で興奮してしまった。

同時代、前時代の他作家のエングレーヴィングによる銅版画を参考作品として提示しているのも効果的。人体造形や背景を立体的に克明に描写する技法のエングレーヴィングとは対照的なレンブラントのエッチング、ドライポイントは、ニードルで描いた部分以外にもインクをのせて暗闇を表す黒つぶれ部分と、インクを拭い取った白飛び部分とで光と闇のコントラストをつくり出し、その中に描かれた対象を溶け込ませてしまう。

描かれた人物以上に光と闇の調子が作品の主題となった画面は、2、3メートル離れるともう何が描かれているかわからなくなり、抽象絵画に変貌する。

まるでスケッチブックのように、1枚の銅版に上下左右の向きも関係なく、様々な角度から複数の人物を描いた多重イメージもあり、習作というより計算された構図になっていて、フォトモンタージュを連想させる。もし、こんな、透視図法を無視した複数視点の構図がタブローになっていたら、美術史が塗り替えられたか、ますます異端視されたかのどちらかだったろう。

きっとレンブラントは、湧き出すアイデアを次々と試みていたのだろう。そんなことを想うとワクワクしてしまう。以前、同じ名古屋ボストン美術館で開催された「デューラー版画展」とは違う意味でスゴかった。

レンブラントにとっての版画は、音楽に喩えるなら、生演奏ではなく録音されたテープのようなもので、演奏後に様々に加工可能なマテリアルなのだ。プレス機は彼にとってミキサー卓のようなものだったのだ。

テクノロジーの発達で20世紀に当たり前のこととなった音楽や美術の表現方法に、レンブラントは既に気付いていた。有名な「二人の盗賊の間で磔刑に処せられるキリスト」のバリエーション(画像は部分)は、現代のポップミュージックでいうなら“過激なリミックス”といったところだ。

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