おるたな美術館

旅先で出会った東洋美術、西洋美術

カンボジア編

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中央から一つ南の入口を通り抜け、右に振り返ると、アンコールワット中最も華やかなエリアのひとつを目にすることが出来る。陽が当たると黄金色に輝き、まばゆく輝いていたであろう往事の姿を偲ぶことが出来る。

“その2”と比べると表現に柔らかさがあり、肉身部や装身具、草花の質感など、より自然な描写になっているのがわかる。そして何よりも長い手足やコスチュームのゆったりとした伸びやかな曲線が、このエリア全体の優雅なうねりとなって、見る者にリッチな心地よさを与えてくれる。

画像の左から2体目のデヴァター(右下部分画像)は、8頭身のすらりと伸びた手足に、田舎娘のような親しみやすい顔を兼ね備えているせいか、お土産物屋にレプリカが売られていたくらいの看板娘的存在。適度な写実性と装飾性のわかりやすいバランスも人気の理由だろう。

画像右から2番目(左下部分画像)は歯を見せて笑っていることで有名なデヴァターだ。首がかなり長めで、仏像と同じく三道(三条の皺)が入っている。

両者は様式もポーズも全く同じなだけに顔の個性表現が際立っている。こうした個性表現は、デヴァターに生き生きとした存在感を与え、背景の装飾と呼応しながら重く沈んだ石の壁に柔らかさと温もりを与え、静かに沸き立つような上昇感へと転換している。

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西塔門東側北翼の身体のボリューム表現に対し、南翼の装飾的傾向を示す典型例。“その1” 上画像のような身体のリアルな重量感より、単純化、デザイン化された造形によって背景の装飾との関係が親密になり、東側壁面中最もブリリアントな画面効果を生みだしている。

また、自然な動きのあるデヴァターの表現は、単なる装飾というより絵画的な効果も生んでいるのがわかる。例えば左画像は、“西塔門西側その1” のような龕の中に窮屈に収まった丸彫り彫刻的な表現ではなくもっと絵画的で、背景の門のような構造物の中にデヴァターをすっぽりと収めないで,手前にあるデヴァターをやや中心から右にずらして前後の重なりをつくり、その遠近が自然な空間を生み出している。

右画像もデヴァターが背景装飾の一部となりきるのでなく,さりげない仕草が自然な動きのある空間を表現している。

そして此処でもやはりデヴァターの上半身の廻りの背景を深く彫り、徐々に周囲に行くに従って浅く彫る技法が、硬直した平面に柔らかさを与え、浮彫りに絵画的な豊かなニュアンスを持ち込むことに成功している。

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西塔門東側外壁のデヴァターは、西側と全く同じ様式(“西塔門西側その1”の2体以外)でありながら、随分雰囲気が違う。西塔門はアンコール・ワットの入口なので、西側は境内の外側にあたり、屋根付きのテラス状で西陽以外は間接光による採光の狭い空間。それに対し東側は境内の敷地から見渡す明るくて広大な空間で午前中は存分に太陽光が降り注ぐ。西側と東側は聖域の外と内というコントラストを形成しているわけだ。

そこに彫られた浮彫りも対照的で、東側壁面のデヴァターは西側との制作時期の隔たりを感じる。同じ表現様式を守りながらも、時代感覚が随分違うのだ。ここには最早、アジアの美術というひなびた地域性より、その溌剌とした輝きにコスモポリタンな明快さがある。繊細な味わいが払拭され、地域や時代を超えた作風がディズニー的といってもいい分かりやすさを持つ、東洋美術の範疇を越えたものに変わって来る。ただ、画像にある中央入口付近のものは、まだそういった傾向はおとなしく神秘性も残している。


上の画像は西塔門入口を通り抜け、階段を下りずにそのまま北翼の壁面を振り返ったもの。北翼南翼共、西側より彫りが深く、柔らかさや暖かさのある肉身部にはボリューム感があり、数メートル離れた位置からでもはっきりと見ることが出来る。南翼は、背景のゴージャスな装飾も目立つので肉身部はそれに溶け込む感じだが、ここでは身体が際立っている。

頭と胸の周囲を深く彫り、そこから周辺に向かって徐々に浅く彫って行く技法は、背景をフラットに同じ深さだけ彫る場合と違い、像の存在感を自然に見せている。こういうのを見ると、クメール民族は石から生命を掘り出す才能に長けていると思う。

足が真横を向いているのが特徴的だが、身体の向きに合わせて爪先を正面向きにしてしまうと、爪先から踵までの長さだけ石を深く彫らなければならない。これは、視覚的に深く彫ったところが最も陰影のコントラストが強調されてしまう浮彫りの性質からすると、像の足下が最も目立つというアンバランスを招いてしまう。不自然なくらい足を横向けにしてしまうのは、正面性を回避して動きを持たせるだけでなく、横向けの足なら浅い彫りで表現出来るので、この部分を目立たなくして上半身に視線を誘うためで、視覚効果(絵画的表現)としてとても優れた手法だと思う。

西側と比べ、健康的で肩幅も広く大柄なボディーラインが際立つ造形と、上部空間を大きくとった背景装飾は、堆い頭飾と共に上昇性をつくり出すのに成功している。広大な敷地の横方向の広がりに加えて、この天空への方向性は、アンコール・ワット中最も開放的なこの空間にぴったりの表現だ。


下の画像は、階段を下りて入口の南向き側壁を見上げたもの。堆い頭飾を冠ったデヴァターを中心に安定した三角形を構成する3体は、こうして見上げることによって、上昇性が強調される。

私達は西塔門入口をくぐり抜けることによって、境内の外よりも開放的な上昇空間(実際は境内の外の方が広いはずなのに、そうは感じない)に出会うことになり、天界にいるような気分を味わうのだ。

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エクステリアであれインテリアであれ、寺院や教会の建築装飾としての美術など本来は退屈なものだ。それが真面目に造営されたものであればある程、同じ像を延々と彫り続けて行くうちに形式主義に陥って、芸術としては生気を失ってしまう。

アンコールの寺院だって例外ではない。ジャヤヴァルマン7世の時代(12世紀)の寺院など、数多く造営されたものだから、その壁面に彫られたデヴァターもつまらないものが多い(バイヨンは別として)。タ・ソム寺院だったと思うが、そこに彫られたデヴァターは皆が皆、顔がジャヤヴァルマン7世の彫像とそっくりでうんざりしたものだ。なんでデヴァターの顔を全部オッサンにしてしまうの!? 1体や2体なら笑えるけど…。

ましてやアンコール・ワットのように、広大な境内に2000に及ぶ数となるとなおさら…、と思うのだが、あにはからんや、人がよく通る場所から離れれば離れる程、確かにヘタクソにはなるものの、けっして形骸化はしない。彫工の趣味丸出しになったり放縦になったりと、宗教美術としての約束事を越えて、妙にデモーニッシュな創作意欲が顔を覗かせるのだ。

この西塔門東側だけを見ても、“その1” の中央入口の、技術は高いが無骨で真面目な彫像に始まり、その付近の新しい様式への試行錯誤とその成果を感じさせる “その2”。完成した様式から “その3” “その4” “その5”、と中央入口から離れるに従い、洗練されて創造的エネルギー感が薄れ、ついには形骸化…、とはならずに、画像のように摩訶不思議な造形が現れ出すのだ。

いいものは残るというけど、こういうものが何百年経っても立派に残っているのを見ると、出来はどうあれ、朽ち果てない材質の石はスゴいと妙に感心してしまう。

いずれも、これまでのように宝冠を冠っていないところからして、他の西側壁面のデヴァターたちとは制作時期そのものが違いそうだ。下画像の浅い浮彫りと背景の花のパターン模様(これは他の西側壁面と遜色無い)は西側のものでも技術的に歴然とした差があって、何ともアヤシイ。右側デヴァターの、洗い髪を絞るようなしぐさは仏教・ヒンドゥー文化圏では伝統的な主題で、バイヨンでも見られるが、アンコール・ワットでは珍しい。それにこのポーズ、右腕が胸と重なるのでデッサンが難しく、案の定、見事に失敗しているのがご愛嬌。コスチュームの写実的な描写とプロポーションをわきまえた他のデヴァターとは明らかに趣きが違う。

上画像は、マカラを配した背景の植物文が “デヴァターのギャラリー” として知られる西塔門東側壁面のものだし、こういうヘアースタイルのヴァリエーションや、柔らかで厚みのある造形感覚も東側で展開するものだから、場違いな印象がする。それにしても3体ともプロポーションが崩れ(例えば中央の像は左右のオッパイの大きさが違う)、顔もぜんぜん美人じゃないのが可笑しい。西側のデヴァターにしては肩幅も広いので、男がコスプレやっているようにも見えるし、東側壁面の華麗なデヴァターたちのパロディーみたいで、これもなかなか笑える。

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西塔門の壁面彫刻もこれくらい中央入口から離れて来ると、北翼、南翼共、造形的な試行錯誤を終えた安定した様式を見せる。

表現上の葛藤が無くなると、表面的な美しさにより神経が注がれ、随分浅い彫りで無駄の無い制作行程に則った繊細な装飾を展開している。右画像の南翼のものは頭飾の尖塔が7本になったりと、装身具がよりゴージャスになっているのがわかる。

そうした神像的表現から逸脱した世俗性は、特に顔の肖像性に強く現れる。スタイルとして安定しているからこそ顔の個性表現が際立ってくるのだ。

右画像は、例の “つながり眉毛” のアンコール・ワット様式を踏襲しながらも、鼻筋が通ってなくて、二重瞼の大きな眼をした親しみやすい表情で、神像的な形式性から逸脱した個性を感じる。今のカンボジアでもよく見かけるクメール系の風貌だ。

左の北翼のデヴァターは、そうした南方系とは明らかに違い、眉が薄く、一重の小さな眼で、小鼻もエラも張ってない、どちらかといえば大陸系の特徴を持つ。

日本で言えば縄文系と大和系ぐらい違う2体に共通するのは、分厚い唇の大きな口と ”ケツアゴ”。他のデヴァターにもだいたい共通する。この二つは美人の条件として外せなかったのだろうか?


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