おるたな美術館

旅先で出会った東洋美術、西洋美術

中国編

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善化寺その3

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レンブラントの肖像画家としての歴史的評価を決定づける要因に、ライティングがある。無表情な顔に深い陰影を与え、それが人物の思索的な内面表現を産みだしている。

彼の特徴的なライティングのひとつに、この画像のような逆光がある。といってもこれほど極端ではない。まあ、客からの注文制作による肖像画で、こんなライティングをしたら怒られるだろうから、自画像に多いみたいだ。

善化寺大雄宝殿の二十四諸天には文官形の天が何体かある。画像の2体は北壁と南壁に向かい合わせに並べられた諸天のそれぞれ東端の像で、名称はわからないが、この2体だけ入口のある東壁を背に西を向いて立っており、堂内正面奥の五仏を拝する形になっている。

中国の人物画にはとても写実的なものがあるにもかかわらず、西洋絵画のように陰影を表現しないのは、それが不吉とされたからといわれるので、このようなライティングを意図して造像、設置したのではないかもしれないけど、当時の彫工達には、光による演出効果という発想はどの程度あったのだろうか。

いずれにせよ、現状としては、文官という世俗の人間と変わりない外見の彫像を、入口からの逆光で浮かび上がらせることによって聖別し、深遠な印象を見る者に与えることになっている。

また、衣服の文様までレリーフ状に表現されており、このライティングだとそれも際立って美しい。右画像の袖には龍が描かれている。もとは極彩色な訳だが、暗い堂内では、色彩はおろか文様の輪郭すら、このようにしないと際立たない。この点は、光の効果を意識したものなのだろうか。

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善化寺その2

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本来、仏像に施された彩色が剥落、退色したり、持物が逸失したりすると、その仏像は、その尊格を特徴づける図像的な決まり事に倣っていないので、尊格としての職能を果たせないことになる。要するに、ご利益が無くなる。

従って、その尊格の職能を保つ為に、造像当初の状態を再現しなければならないわけだが、素材や技術が後代に維持されていない場合、再現どころか、その仏像の美的価値が著しく損なわれるというジレンマがある。

日本の仏像の場合、文化財的価値の高い場合は現状維持を尊重するあまりか、埃さえ払われずに仏像に降り積もったままというのを良く見かける。

私が訪れた時の善化寺大雄宝殿の二十四諸天はその両方。つまり、部分的に後代の調子はずれの補修彩色がされており、埃もかなり積もっていた。こういう場合、白黒で撮影した方がその像の本質的な素晴しさが伝わるような気がする。白黒なら出来の悪い彩色も、埃などの汚れも、陰影の中に溶け込み、邪魔になったりしない。

“その1”の向かい合う鬼子母像と訶梨帝南像の西隣にはそれぞれ2体ずつ向かい合わせに忿怒の武人像が並んでいる。どうやら四天王らしい。楽器を持っている天王像なんて珍しいけど、中国化された持国天には、左画像のように阿形で琵琶を抱えて仁王立ちというのがけっこうある。琵琶とはいえどこの風情、琵琶法師とは趣きが違い、ヘヴィなロックが聞こえてきそうだ。

右画像は訶梨帝南像東隣の像で金剛力士だろう。この像、二十四諸天の中では特にプロポーションが崩れていて、真横から見るとかなりマヌケなのに、このアングルだと迫力がある。

自然な人体造形が崩れているのがむしろ異様な効果を生んでいて、日本の金剛力士の人間的な怒りに対し、こっちはもっと鬼気迫るものがある。黒曜石の黒目部分が無くなって穴が開いており、伎楽面のように見えるのも不気味さを助長している。背景の壁画の如来の光背も、まるであつらえたようにマッチしている。

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善化寺その1

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雲岡石窟観光の拠点になるのが大同市。ここに華厳寺と善化寺という古刹がある。雲岡のように北魏,唐代じゃなくて、もっと後の時代、しかも北方民族の遼、金代の仏教美術なので知名度はかなり低い。

私も、華厳寺の方は下華厳寺薄伽教殿の諸尊を、かろうじて印刷物で見たことがあったが、善化寺となると全く未知の世界。いずれにしてもこの両寺、中国のお寺といえば道教と習合したコテコテのキッチュイメージがあっただけに(それはそれで結構好きだが)、古刹と呼ぶにふさわしいその渋い品格には驚かされた。

奈良の伽藍を彷佛とさせるような立派な遼代(10〜12世紀)築の善化寺大雄宝殿は、中に入ると正面に五仏や菩薩、仏弟子、側面には諸天がずらりと並び、東大寺戒壇堂や法華堂を思わせる荘厳な雰囲気に思わず感動。

画像は、その大雄宝殿内の金代(12〜13世紀)初期に造られた二十四諸天の塑像。金といえば北宋を脅かしていた北方の王朝。このように写実的でありながらも、宋とは異なる骨太な様式の塑像を残していたとは。そりゃあ、天平の塑像群に比べるとその造形の生硬さは否めないけど、鬼神的オーラは充分に伝わってくる。24体の内、東側入口に近い像が、開口部からの光によって暗い堂内からドラマチックに浮かび上がっていた。

左が鬼子母で右が訶梨帝南だそうな。 “鬼子母”と“訶梨帝母”はそれぞれ梵語の“ハーリティー”の意訳と音写の違いに過ぎず、同じ神だと思うのだが、ここでは訶梨帝母ならず訶梨帝南、堂内北面の鬼子母に対峙して南面(壁画が残っている)に置かれている。子供を守る慈愛に満ちたキャラと、仏に帰依する前の人の子を食らう冷酷なキャラの対ということなのだろうか。

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故宮博物院その5

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この弥勒倚像、“15世紀 西蔵”とキャプションに書かれていて、中国製ではない為か、背面の彫刻のインド風が目立ち、そのおおらかで活き活きした造形が、この珍宝館の展示品の中では異色だった。

それにしても最上部のラマ像はもちろんのこと、背面彫刻と中尊の作風が違う。背面彫刻がオリジナルで、ラマ像と中尊は後補なのか?中尊の顔はさらに生硬な出来で、これなんか後補の後補かもしれない。

通常なら、破損部分を後の時代に補修するというのは、オリジナル部分とのバランスが悪く、がっかりもの。でも、そこはさすが“複合性”のチベット美術!? これはこれで様になってる。背面のキールティムカ(右上画像)、マカラ(右中)、脇侍菩薩(右下)のマスコット的にチャーミングな自然主義的造形に対し、中尊の造形は抽象的に洗練されたもので、説法印を結んだ長過ぎる指や、両脇の大き過ぎる天衣などのデフォルメも魅力的ではある。

中尊の顔が身体に比べるとでか過ぎるからといって小さくすると、その上のキールティムカの方が目立ってしまうし、周囲の装飾にも埋もれてしまう。背面彫刻のボリューム感と質の高さに押されつつも、何とかこの大顔面で対抗し、バランスを取っているのだ。

ところでこの弥勒、王族のコスチュームで説法印とくれば、兜卒天で下生を待つ彌勒菩薩な訳だが、文献によっては同じスタイルの弥勒倚像が彌勒仏(弥勒菩薩が56億7千万年後!?に下生して悟りを開くという未来仏)と表記されていたりする。

数ある仏像の中で、その初期からあるとされる古いキャラの弥勒が、仏教の最終形態においてどのような立ち位置にあったか全く無知なのでわからないが、密教では菩薩形の如来も多いし、この弥勒は菩薩と如来の複合イメージと考えても良さそうな気がしてきた。

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故宮博物院その4

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多面多臂の複合的イメージが売りのラマ教の仏像の中でも、極めつけの一つがこの大威徳(18世紀 清)。日本に五大明王の一つとして入ってきた大威徳明王が六面六臂六足で水牛に乗るのに対し、こっちは九面三十二臂十六足で、中央の面が水牛、足下には神、人、鳥獣等あらゆるものを踏みつけている。

ダライ・ラマの宗派ゲルク派の祖ツォンカパの守護尊であったことから、ゲルク派自体の守護尊になっただけのことはあるってことか、故宮博物院珍宝館の、センスいいのか悪いのかよくわからないチベット風の内装を背景に、威風堂々の展示だった。

サンスクリット名はヤーマンタカ(閻魔を殺す者)。日本でも恐れられている閻魔大王を殺す程怖いわけだ。しかし、閻魔(ヤマ)は最初の死者で冥界の王な訳だから、既に死んでる者を殺したらどうなるのか…?

ヴァジュラバイラヴァとも呼ばれる。シヴァの畏怖相バイラヴァも、ヴァジュラ(金剛)が付くことによって仏教密教の尊格に…。さらに“マヒシャサンヴァラ”とも呼ばれ、ヒンドゥーの神々の光輝から生まれた最強の女神ドゥルガーに退治された、水牛の姿の阿修羅“マヒシャ”に由来している。ヒンドゥー教最強の敵は仏教最大の味方ということか?

それにしても名前まで複合的である。その成立には、とにかくこれ以上恐ろしくて強い奴はいないという程の、究極のキャラを創造しようという只ならぬ意気込みを感じる。確かに頭だって大きな角が生えていた方が、より強そうだ。それならやはり水牛なのだろう。

複合というのは足し算の発想。造形的には一個体の頭・両手・両足という基本型を残しながら足し算を繰り返すとどうしたって飽和状態になる。五体を増やすことによって超越性を強化するのもここらあたりがやはり限界なのだろう。

これを超えようと思えば、造像理念自体を転換しなければならない。只、視覚的効果という意味では、やはりこの方法が最も効果的なのかもしれない。持物(武器とか)の効用などの図像的意味がわからなくても、こうした複合性は、見た目に“何だかわからんが、とにかく凄い!”という直接的なインパクトとエネルギー感がある。

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