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「日々姿を変える、海のような彼女」は、ある日はとても穏やかなのに次の日には激しくうねったりする。 彼女は宇宙のように未知なる存在で、ぼくはまだ充分に理解できているとは言えない。 昼も夜もなく長い時間を過ごした果ての彼女の言葉が「時間なんて関係ない」。 ぼくは一抹の寂しさや切なさを感じる。いくらそのすぐあとに、耳に舌を押し当てて愛を求め続けられたとしても。 「時間なんて関係ない。まっすぐに進むものじゃないんだから」と言う彼女は、一体どんな紆余曲折をへて、ぼくの隣に身を横たえているんだろうか。 無限をスタートにするのが素晴らしいのは、ちょっとやそっとでは損失に気づくことがないからだ。 それでも時間に惑わされて回り道をするうちに、スタート地点は遠ざかり、無限とは言えないほどに何かを失ってしまうと、「心に穴の空いた彼女」は経験的に知っている。 だからぼくのポーズボタンを押して、二人の関係をそのままに留めようとする。 そんな彼女の歌に心を支配されたぼくは、彼女の不安を感じ、同調してしまったあげく、巻き戻して愛を再生しようとする。 毎晩見る夢の中で何かを企て計画を練るけれど、積み重なったそれはやがて混乱する。なんとか整理しようとするぼくは、まるでパリの交差点で見かけた警官のよう。 手に負えない状況に、今しも逃げ出したくなってしまう。 彼女にとって「まっすぐではない時間」が重要なものではないとしたら、彼女が大切にする「まっすぐなもの」とはなんだろう。 それは光だ。頭上から(あるいはベッドの横の窓から)まっすぐに差し込み、二人の愛を導く光。彼女はそれを待っている。 光を求めてカーテンを開けると、そこには境目のない空と海。遠くで溶け合い淡い光の気配に満ちている。 あんな遠くまで行かないと、光を得ることはできないのだろうか。 やっぱりまた間違えたのだろうか。この人ではないんだろうか。 慣れ親しんだ絶望の影がよぎって、心の穴が広がりそうになる。 愛が薄れたわけではない。それを恐れるから、慌ててポーズボタンを押す。 やがてぼくは、ぼくなりの解決策を見いだそうとする。 それは彼女が望んだ以上の愛を捧ぐことに他ならない。 きみがあの海の果てにある光の生まれる場所に行きたいというのなら、ぼくが海になろう。きみの愛が溺れないで目的の場所へたどり着けるように。 きみからもらった歌は、もうぼくにとっては不安の歌じゃない。 だからぼくは、きみのポーズボタンを押して、きみの不安を停止する。 そうして巻き戻して、再生するんだ。 時間なんて関係ない。どんな回り道をしてきたとしても、ぼくらの愛は不滅で、何度でも生まれ変われるものだから。 交差点が混乱してしまったら、すべての企てを捨ててそこを立ち去ればいい。
彼女とともに光に向かってまっすぐ泳ぎだすんだ。 そのときぼくらは、空と海を隔てるものなんてないことに気づくだろう。 ぼくときみを隔てるものも、ありはしないということに。 |

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