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サクラのことを考えていた。 教会の外の椅子に座っているとき、後ろを振り向いて見上げればそこに桜の木があった。あるいは十字架の窓に切り取られた世界を桜の枝が横切っていた。 もし、と思う。もう何度も繰り返している思考過程をまた繰り返す。 もし、4月にボノがこの場所に来ていたなら、満開の桜に迎えられただろうか。淡い色の花びらをその肩に止まらせ、頭上に載せただろうか。ここに向かう道すがら、次々現れる見事な花ぶりの樹に目を奪われただろうか。 一通り考えを巡らせたあとで思うのは、4月であったなら日本滞在はずっと短かったろうということ。春日丘を訪れる時間がそもそもあっただろうかという疑念だ。それはすなわち、ワタシ自身がここを訪れようと思わなかったかもしれないということでもある。これもまた、延期のもたらした僥倖の一つなのだと思う。 英語にすると"Grace"だよね。 予想よりも長く教会に滞在したために、時刻はもう1時を回っていた。もともと詰めこみすぎの予定をこなすのは無理。「通天閣はいつでもあるけど、サクラは今だから」というjiroさんの言葉で何を削るか決定。JRで桜ノ宮に向かう。 途中、茨木駅でjiroさんはようやく朝ご飯。ケーキ売店のケースを覗き込む脇から「シュークリーム」とおねだりして買ってもらった。もちろん戦利品は山分けである。「戦」してないか。北海道なみにケーキが安かった。プチシューも200円弱で8個くらい入ってた。それもカスタードとチョコと二味で、どっちも美味。駅のホームでjiroさん朝食。オイラたちおやつ。 桜ノ宮は事前にR1100さんに教えてもらっていた車窓からの桜ポイント。まさにその駅で降り、造幣局に向かって川沿いを歩く。橋の上から見下ろすと左右に連なる満開の並木の間を悠々と流れる川。花の下を海へと向かう水。 人の流れに乗ってのんびりと桜の下を歩く。月曜日だというのに溢れんばかりの人出で、広場では大道芸大会。桜通路には露天商。刀の上でコマを回す芸を披露しているおじさんもいた。自毛でちょんまげ結った武士風の出で立ちに外国人は大喜び。 ここで本日のたこ焼き。座って食べようというのでオイラはビールも。理由付けは微妙におかしいが、休暇である。焼きたてにかじりつき、舌と唇をビールで冷やす。至福だ。 再び歩き始めたワタシたち、門に辿り着いたのだが、どこをどう間違ったのかそこは「出口」だった。ちょうど時間もないし、造幣局に入るまでもなく桜は堪能したし、たこ焼きにはありつけたし、そんなわけで来た道を引き返すことにした。 分かっていたことだけれどもうゆっくりしている時間はなかった。梅田スカイビルに上って「きじ」でお好み焼きというコースの後半部分のカット決定。時間もないが腹も減っていないのだ。ともかく空中庭園を目指す。空には雲がかかりはじめている。 昨年9月の記憶は割と近いところにあるから、半年ぶりという気はあまりしなかった。エレベーターとエスカレーターを乗り継いでぐんぐんと地上を離れる。ワタシはご機嫌。 ただ残念なことに、空中庭園にはBGMが結構な音量で流れている。今日は隙を見てjiroさんの"Miracle Drug(Sakura Remix)"を聴こうという腹でスピーカーを持ち歩いているのだけれど、ここでは無理かもしれない。 とりあえず空中回廊を巡りながら眼下の大阪の光景を堪能する。望遠鏡が無料開放されているので覗いてみる。河原にはブルーシートのおうちが建てられていて、少しピーピング・トム気分。 と、jiroさんが川の行く先を指さした。雲の隙間から光がふたすじ、地上に射している。俗に言う天使の階段(または「天使のはしご」、「光芒」)だけれど、片方は川面にかかっていて輪郭がくっきりと切り取られている。やがて雲の移動とともに光は陸に上がった。 言葉の意味からすれば天使が降りてくる階段なのかもしれないけれど、ワタシはずっとあの光に上っていくイメージを抱いていた。地上に降りてしまってはぐれた天使に神様が差し出したはしご。天に帰っていくためのもの(出所は「魔法の歌」シリーズだな)。 でも、今日は違う。あれはスポットライトだ。天が地上をよく見るために照らしているんだ。誰もが気付かないうちにあの光のエリアに入り、天から見られているんだ。「照覧」という言葉を思い出す。 ワタシもいつか、照らされ見られていたことがあるのかもしれない。ワタシの神はワタシだけのもので、さんざんワタシを甘やかしてくれる神だけれど、その僥倖にふさわしい振る舞いを見せられたとは思えないな。天網恢々疎にしてもらさずなのだ。気を付けなければ。 何度か場内アナウンスがあったあとで、気が付けばBGMが止んでいた。雨降りだった前回とは違ってほかの客もいるし、時々監視員が回ってくるけれども、そんでもってほんとは音が散ってしまっていいコンディションではないんだけれども、やっぱりこの場所でSakuraを聴きたかった。 4人で一塊りになって小さなスピーカーを囲む。大阪を見下ろしながら、U2 NIGHTのサントラを聴く。途中注意されたのは「座っちゃダメ」ってことで、音出しにNGは出なかった。で、聴いてる間BGMが鳴り始めることもなかった。 空に散っていく音は、それはそれでいいのかもしれないと思った。 道頓堀に戻り、okazuさんに教えてもらった店でうどんを食べる。最後の粉もの。オイラが選んだのはもちろん「きつねうどん」。関東じゃ絶対食べない一品。だしの最後の一滴までおいしい。うどん三昧したくなる。 ホテルで荷物を回収して新大阪駅へ。残された僅かな時間、お別れの乾杯をする。 澪くんからおみやげをもらう。 今日一日を充実して過ごせたのは、澪くんが案内人をしてくれてスムーズに移動できたからこそ。ワタシたちだけだったらサクラかスカイビルか、二者択一だったね、きっと。 ほんとにありがとう。 一緒に過ごせた時間のことは、きっと忘れない。去年から続く素晴らしい季節の一部として、記憶に強く刻みつけられてしまった。 3日間、結局ずっと睡眠不足で疲労が溜まっているのに、だから帰りの新幹線では沈没しちゃうと思っていたのに、なぜだか全然寝る気にならなかった。 何度も何度も「終わっちゃったね」って繰り返して言っていたような気がする。 U2 NIGHTのあとでこんな気持ちになるのは初めてかもしれない。それはきっと、終わってからもみんなで一緒にいたからだと思う。いつもは余韻を引きずったまますぐにひとりの日常に戻るのに、余韻までみんなで味わうことができたからだと思う。それも最上の2日間として。 ほんとにほんとに、何から何まで素晴らしい3日間だった。ことの初めからワタシはU2 NIGHTが大好きだけど、ますます好きになってしまったよ。 だってここから生まれるものはワタシが想像できる以上に大きなもので、それはこの上なくワタシを幸せにしてくれるものなんだって、改めて知ることができたから。 帰宅後、旅の始末もそこそこに寝床に就く。"Grace"を聴きながら。
U2 NIGHTをHOMEだと、「還っていく場所」なんだと思っていた。それだけでは充分ではなかった。 ワタシにとってU2 NIGHTは出発の地でもある。そしてそれは、やっぱりHOMEの役目の一つなんだ。 そこへ向かって出かけ、そこから旅立つ、円環のキャラバン。 また一緒に旅をしよう。 |

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