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20. The Saints Are Coming
なんでこんなに楽しいんだろう。最後の夜なのに、その瞬間が近づいているのに、ワタシはわくわくし通しだった。
こんなの、想像しなかった。とくに30日のあの醜態を思えば、嘘みたいだ。
なんだかもう、すっかーんと心が晴れ渡っていて、ただただ楽しい。信じられない。嬉しい。
また少し、待つ。今夜はアンコールの間が長い気がする。歓声が時折大きく波打つ。
やっと帰ってきた。
「この曲はユニヴァーサルのユキコへ」
こうやってスタッフに対して感謝をはっきりと表す彼らが大好き。ユキコさん、羨ましい。
ボノがひとりで歌うSaintsを聴くのは、これが最後かもしれない。
「サンディエゴから始まって、いま東京まで。もう一つ、ショウがある。Can you your own rockin' on? グリーン・デイとやる曲だけど、今日はぼくらだけでやってみるよ」
最後のコーラスまで、あとは一気に。初日よりもずっと、オーディエンスものっていた。
21. Window In The Skies
「This next song, we first played in TOKIO. This is our third time to play ソラノ、マド。Window in the Skies」。切れた息を整えながら、ボノが言う。
今日で3回目。プラス12月1日のTVで、ワタシはすっかりこの曲がワタシたちのものだと思いこんでいる。
エッジの声にボノの声が混じり合う、美しいコーラスで幕開け。
スタジオバージョンよりもボノの声が綺麗なような気さえする。ストリップのマイムがかわいい。
「あなたは私を連れだしてくれる。この頭の中から」。いつも、そうだ。もうここから出ていきたくない。4人の愛に満たされたこの空間から。
「愛が何をしたか分かるかい? このぼくがいったいどうなったか」。
ライブで聴かなかったら、その答えをこんなにも実感できはしなかったと思う。本当に、聴かせてくれてありがとう。
3月のあの日、ワタシたちのハートは砕かれてしまった。きっとワタシたちだけじゃない、U2も、延期の決定を下すのにワタシたち以上に心を痛めたはず。ワタシたちのことを思って。
でもあの時に空いた穴は、今は開け放たれた窓となって世界中の空につながっている。
それが愛が残してくれたもの。二度と失われないもの。
もちろんこの曲のテーマはもっと大きくて深いけれど、目の前で歌われるときはずっとそう考えていた。
「Oh, Oh, TOKIO, TOKIO, TOKIO……」
ワタシたちの名を呼んでくれる。何度も繰り返し、繰り返し。
22. Vertigo (snippet:Pump It Up, Tokyo Storm Warning, She Loves You)
"KITE"? "40"? そのどちらかだと思っていた。
「Encora in ……」
ボノの声に一瞬遅れてドラムが響いた。
ワタシが一番望んだクローザー、Veerrrrrtigoooooo!!!!
絶対それはないだろうって諦めていた。もうセットリストなんてどうでもいい、聴かせたいと思う曲をやってくれればいいと思っていたし。
でも、諦めていたものをもらえるのは、格別の喜び! わああああああ! やったあああ!!! 叫んで、跳ね上がってしまった。
「Encora in the Italian says meaning xxxxx play one more time. This one is for us! This xxxxx is boys in U2, Larry Mullen Jr., Adam Crayton, on guitar of The Edge! イチ! ニィ! サン! Catoooorrrceeeee!!!!」
アリーナ中が跳ね上がる!
ああ、もう……どこに行っちゃったのか、影も形もなくなってた涙が、一気にこみ上げてきた。
歌い叫びながら、センターステージのボノの姿を追う。
「All of this, all of this can be yours!」
アダムサイドの花道の入口まで来るのはいつものこと。でもボノはそこで立ち止まらなかった。歌いながら、大きな歩幅でまっすぐ、まっすぐこちらに歩いてくる!
ワタシは慌てて腰に提げていた旗を手にした。ボノがくれた、最後のチャンス。
Bステージにボノが辿り着く瞬間、投げ入れた。
目には入った? でもそのまま歌い続ける。セキュリティはぎりぎりまで待って、ボノが旗の方向に歩き始めたところで、どかした。そこまで見て、ワタシはボノを見つめ直した。
最後の最後、この場所にいるワタシたちのそばで歌ってくれるのが嬉しかった。
センターステージに戻って、エッジとひとつのマイクでコール&レスポンス。
コステロの"Pump it up"の、歌詞を変えたsnippet。たぶんこんな感じ。
Pump it up, give me a feeling.
Pump it up, give me some healing.
そして同じくコステロの"Tokyo Storm Warning"。
Stormだって! Warningだって!!!!
定番"She Loves You"の「yeah, yeah, yeah, yeah, yeah……」の最後の最後まで、渾身の声で歌い続けた。
「Good night!! God bless you!!!」
最後に響きをとどろかせたのはエッジのギター。ステージを去り際に、ボノがかき鳴らしたノイズ。パーティーの終わりを告げるベル。
余韻を感じる間もなくスピーカーから音楽が流れ始めた。
Vertigoでカット・アウトしてもらってよかったと、つくづく思う。KITEや40の後にこれは堪えられないよ。
柵の中を覗き込んで、落ちていた旗を拾ってもらった。こいつは仕切直し。みんなの目の前で渡せなかったのは残念だけど、ワタシは落ちこんでないよ。むしろ最後の最後に投げるチャンスを与えてもらって満足だった。ボノのセキュリティもぎりぎりまで待ってくれたような気がしたし。
大丈夫、絶対に届けるから。手紙添えて送りつけるから。
これで終わったんだという実感が全くなかったわけじゃないはず。
でも、不思議な気分。1年半前にダブリンで見たVertigo twiceとは、何もかもが違う。ワタシが恐れていた脱力感も喪失感も、どこを見渡してもなかった。まさにCOMPLETE!!という、充実感と達成感に全身を満たされている。
ワタシの目には、センターに戻ってからのボノではなく、ステージを去っていくボノでもなく、花道をまっすぐ(ワタシの方へ)歩いてくるボノの姿が目に焼き付いていた。なんて幸せな記憶。
(今でも一番はっきり憶えているのは、そのボノなんだ。いなくなるのではなく、向かってくるボノ。)
解体作業が始まったステージを何度も振り返りながら、ワタシたちはアリーナを出た。
いつもの場所に、みんなが集まってくる。これが最後だなんて思わなかった。
"40"を待っていた人たちには申し訳ないと思いつつ、"Vertigo twice"の話。当たり前のことだけど、みんな楽しかった、はじけた、よかったって言う。
あれはワタシたちのためのクローザーであると同時に、彼らのためのクローザーでもあった。「This one is for us」。パーティーを楽しく終わりにするための。
Twiceがお約束だった2nd Legを除くと、9回目のクローザー。「楽しかった!」っていう、何よりのメッセージだとワタシは思っている。
sumomoさんがワタシとDJにビールをおごってくれた。今までで一番おいしかった。
旗をもう一度出して、記念撮影もしたっけ。
誰彼となく話をしながらいたら、jiroさんがやってきた。旗とCDをツアークルーに渡してきたいという。
うん、わかった。がんばれ。ここで待ってるから。
いま思えば、なんでひとりで行かせたんだろうね。
ビールをもう一杯。
何人かの友人たちとはここでお別れ。みんな地元に帰ったり、明日の仕事に備えたりしなくちゃいけないから。でも、笑って「またね」と言える。「またすぐにね」と。
その「すぐ」には、何日後だったり何ヶ月後だったりの違いがあるけど、たとえどれだけの月日がたったとしても懐かしいとは思わないだろうという気がした。また会うときには、今と同じ気持ちに戻れるんだと。
ワタシが関東圏の住人で、二度と「仲間」に飢えることのない身の上だからかもしれないけれど。
やがてjiroさんが旗を手にしたまま戻ってきた。日本人のスタッフしか見あたらなかったという。
うん、大丈夫。直接手渡しはできなくても、マネージメントで止まるなんて事はないから、絶対に。ことU2に限っては、ちゃんとメンバーに渡してくれるんだから。
だから安心して。今夜はパーティーの余韻を楽しもう。時間を気にせずに、喋り疲れるまで。
CDと旗を、一緒の袋にしまった。
12,3人で浦和へ移動する。その中には新しい友人たちも含まれていて嬉しい。
何より、彼らをひとりぼっちのホテルに帰さずにすんだことが嬉しい。
さいたまスーパーアリーナが聖地なら、浦和はワタシたちのホームタウンだね。みんなで帰っていった場所だもの。不思議。
移動している間、別れたばかりの友人から興奮を抑えきれない様子のメールが入る。みんな、本当は一緒にいたかったよね。ごめんね。ありがとう。U2最高!
和民の座敷に陣取って、ライブの話に始まって、いろんな、いろんな話をした。
ワタシはとても楽しくて、3日間で一番解放された気分。不思議とみんなと一緒にいる間は吐き気も起こらないし。久しぶりに食べ物もおいしかったし。
明日はU2が離日する予定。この時点では「4時」という情報しかなくて、それが午前なのか午後なのか、羽田なのか成田なのかも分からなかった。
いくらかの疑念を残しつつも、今から撤収積み込みやっても午前4時はないだろうと決めこむ。
宴の最中もその件で連絡を取り合うワタシたちに、新しい友人たちは目を白黒させている。
そうなの、こうやってきたの、ずっと。
だからひとりでいる間も、ひとりじゃなかった。
午前3時ごろかな、ようやくお開き。
ワタシはsumomoさんと一緒に家に帰った。合宿予定だったDJは、男子チームと一緒に誰だかのホテルにしけ込むって。よかったね。
みんな、おやすみなさい。
家に向かうタクシーの中でも、家に着いてからもずっと、これでもかってくらいsumomoさんと話した。独り占めで、誰にも言ったことのない愚痴まで聞かせた。
なんだかすっきりして、朝を迎えて、やっと眠る気になった。
明日に備えて。
明日がほんとの終わりだから。
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