|
// The Joshua Tree // Release Date: March 1987 私が聴いた5曲目のU2ということになる。 改めて曲順を見るに、やっぱり『The Joshua Tree』はすごいアルバムだ。A面の5曲すべてが今回のツアーで演奏されているということからも、それを感じるが。 ボノはこのアルバムについて「A面、B面ではなく一続き」と発言しているが、A面最後の"Running To Stand Still"は、そのあとに静寂が来るのがふさわしい曲だと思う。 Where The Streets Have No Name I Still Haven't Found What I'm Looking For With Or Without You Bullet The Blue Sky Running To Stand Still なぜ今この曲なのかといえば、それはもちろんVertigo//2005で気になる扱われ方をしているからである。 ステージの中盤に毎日歌われていたこの曲は、ツアーのほんの初期から「USミリタリーの勇敢なる男女」に捧げられている。 非暴力を謳うボノがいったいどうしたことかと驚いたし、額面通りの言葉ではないのだろうと思っていたが、後にアメリカ人の記者によって「皮肉をこめて」と書かれたので、私もなんとなく腑に落ちた。 ヘロイン禍を歌ったこの曲を捧げることが、どうしてUSミリタリーへの皮肉になるのか、歌詞の意味を解きながら改めて考えてみたいと思う。 この曲が発表された1987年、日本はバブルと呼ばれる時代だった。 一方のアイルランドは失業率が高く、保守政権は混迷し、海外への移民が相変わらず続いていた時期だということを、ワタシは最近知った。アイルがEUとともに経済発展への道を歩き始めるのは90年代に入ってからのことだ。 ボノが「アフリカの難民のことよりも自分の国の失業者のことを考えろ」といった非難を浴びたのはもう少し前のことかもしれないが、いずれにしても少年の頃から目にしていたヘロイン中毒者は一向に減らず、80年代のダブリンにおける麻薬問題は相当深刻なものだったという。 この曲の中で、ボノはヘロインを悪だとも呼ばないし、中毒者を愚かだとも言わない。 その代わり、ヘロイン中毒者への同情が見える。「You gotta cry without weeping / talk without speaking / Scream without raising your voice」声なき者の声を聞いている。 当時のボノはこの曲に関して「If you can't change the world you're living in, seeing it through different eyes is the only alternative. 生きている世界を変えることができないなら、異なった目を通して世界を見ることは唯一の代替手段だ」と述べている(出所不明)。 この言葉には「heroin gave you heroin eyes to see the world with」と続く。つまり、ヘロインは「世界を変えることができない」という絶望から逃れるための手段だと。 ただしその先にはまた別の絶望が待っている。 ではどうすればよいのか。 U2はヘロインと中毒者を責める代わりに、この時期、失業者のためのチャリティーコンサートに参加している。 この曲とUSミリタリーの関係について考える前に記しておきたいことがある。それは、ボノの「政治的発言」についてだ。 ボノの政治に対するスタンスについては以前にも少し書いたけれど、そもそも私がボノに対して政治的だと感じるのは、何かしらの発言についてよりも、発言しないことについてのほうが大きい。 米大統領選の時にノーコメントを通したことにも明らかなように、ボノは国家という存在(特にアメリカ)に大きく関わる問題について口を出すことを周到に避けている。 2001年9月11日、「同時多発テロ」によってNYの町が破壊されたとき、ボノは多くを述べてはいない。ただし、9月21日に英BBCで行われた、救出活動中に死亡した消防士、警官のためのチャリティーライブには参加している。 NYでの公演を取りやめるアーティストたちもいる中で、10月24・25日に行ったNY公演は、NYにとって「事件以来初めての大きなコンサート」だった。その間、10月8日には「アルカイダを壊滅させるため」に、米軍はアフガニスタンへの空爆を始めている。 ボノはエレベ・ツアーのステージ上で、テロについてもアフガン空爆についても語らなかった。 しかし"Sunday Bloody Sunday"で「No More!」と叫んだあとで、ファンが差し出した星条旗を受け取り、そっと胸に抱いた。 そして、ボノに招かれてステージに上がり、"Knocking On Heaven's Door"をギターで弾いた女性・ルースが「この戦争にはうんざり/ニューヨークは最高の町/天国の扉をノックしている気分」と歌詞を変えて歌ったときには、驚きながらも歌い終えた彼女をぎゅっと抱きしめたという。 (いずれも25日の様子。BARKSのレビューから) 次に、ボノにとっての「brave」という言葉の意味について。 エレベ・ツアーのスレイン城のステージ上で、"Sunday Bloody Sunday"演奏中に、ボノは「Brave men」という言葉を口にしている。「勇気ある決断をした勇気ある人々に感謝する」と。この「勇気ある決断」とは北アイルランドにおける和平のこと、すなわち「争いをやめること」にほかならない。 今回のイラク戦争についても、ボノはこれまでのところ何も言葉にしていない。 その代わり、"Running To Stand Still"をUSミリタリーの「勇敢な」男女に捧げている。 このあとに続く世界人権宣言は、その第3条から第6条まで読みあげられている。 第3条 すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する。 第4条 何人も、奴隷にされ、又は苦役に服することはない。奴隷制度及び奴隷売買は、いかなる形においても禁止する。 第5条 何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは屈辱的な取扱若しくは刑罰を受けることはない。 第6条 すべて人は、いかなる場所においても、法の下において、人として認められる権利を有する。 これがアルグレイブ刑務所における米軍のイラク人虐待を意識していないとは考えられない。
ボノは何も言葉にしないが、語っていないわけではないと、私は思っている。 |

- >
- エンターテインメント
- >
- 音楽
- >
- 音楽レビュー




