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フレンチのシェフにとっては地獄だね、それは。 コミカルな悲劇もあった。 ぼくの兄は国内線の飛行機会社でコンピューター関係の仕事をしていたんだけれど、機内食を安く買えるってことを発見したんだ。彼は食事のパックを家に持って帰ってきて、うちの冷凍庫はそいつでいっぱいだった。だからいつも家に帰ると機内食を食べていたよ。 ところが、信じられないことが起こったんだ。 ぼくらの高校は空港のそばにあってね。ランチはなかったんだけど、ある時学校給食をやろうと決めた。で、それを空港から買ったんだ。 だからぼくはランチに機内食を食べた。家に帰ると、同じクソ機内食を夕食に食べたんだ。 それでどうなると思う? ロックバンドに参加して、残りの人生を機内食を食うことに費やすんだよ(笑)。 素晴らしいレストランに行くには充分な理由だし、ぼくのウエストラインがふくらんだ説明にもなるだろ? ところで、ぼくはまだぼくの太ったエルビスの時代については準備ができてないんだ。 オペラの近くにいる……ああ、それでここにきみがいるんだった。OK、カウチに戻ろうか。 たぶん、ハンバーガーの番だね。 真面目な話、ぼくの人生の創造的な部分は、すべて14歳の時、世界が崩壊したときに戻るんじゃないかと思うんだ。多くの人がぼくよりも大きい乗り越えるべき丘を持っていたんだから、このことをことさらによく言おうとは思わないけどね。 「人生について考えるなら、死より始めよ」っていうのはダライ・ラマの言葉だったかな? 女の子でも、車でも、セックスや薬でもなく……ぼくが書くことを始めたのは、死についてだった。なんて不愉快な坊やだろうね! 実際、ぼくらのファースト・アルバム『Boy』には、そういった要素が目だつね。 それで、それはなんだったんだい? 不思議なことに、『Boy』はぼくたちのニューアルバム『How To Dismantle An Atomic Bomb』に似ているんだ。無垢な時の終わりにすべき何かだね。でもファーストアルバムの時にはそれを思い出すんじゃなくて味わっていたけど。思春期にはみんながそれをわかっていた。 ぼくらは世界についての知識がないことを浮かれ騒いでいた。誰もその話は書かなかったと思うよ。誰もそんなに未熟ではなかった。 ロックンロールでは情緒的な感覚が非常に未熟なんだ。セクシャルにもなりうる。暴力的にも、不快感に満ちることもね。悪魔たちは悪魔払いの時に姿を現すけど、本当はそうではなくて、いつだって追い払われてるんだ。 優しさ、霊性、そういう人々が本当に気にかけている疑問は滅多に満たされるものじゃない。気取りやポーズに満ちている。 最初のレコードで、ぼくは自分自身を無垢で甘やかされた子どもとして書いた。ロックはロマンスの外側にある無垢や無垢の喪失を主題として取りあげないものだ。 私がすごく興味を持つのは、きみがいかにして今話したような主題に出会ったかということだ。きみの人生の、夢だけがあってそれを叶える手がかりすらなかった頃を振り返るのは、とても興味深い。 とりわけきみの7歳年上の、自信を取り戻す手助けをした兄さんとの関係について知りたい。 ぼくを助けたと同時に、助けなかった。 彼はギターを教えてくれたよ。彼が覚えた曲を、彼のギターで習った。たとえば、彼はサイケデリックなイラストの入ったビートルズのソングブックを持っていた。 ぼくにとっては驚きだったね。実際今でも驚いているよ。 きみが習った最初のビートルズの曲はなんだったんだい? "Dear Prudence"さ。全部Cコードで演奏できるんだ。ニール・ダイヤモンド……彼が持っていたもう一冊はそれだ。ダイヤモンドもよかったな。"Play Me"って曲……(口ずさむ)……天才だよ。 お兄さんの話に戻ろうか。彼とはうまくやっていたかい? まあね。いつも喧嘩してたけど――体を使ってね。 たいていの子どもは喧嘩をするものだよ。何が特別だったんだい? 自分の家を憎んでる16歳のリトル・アンチ・キリストがいたらどうだい? 自分が悩みの種だったって、確信を持って言えるね。 兄が仕事を終えて家に帰ると、ぼくは友達と一緒にTVを見ていた。使った食器も片づけず、他にもやるって言ったことをやらずにね。 彼は何か言うか、ドアを乱暴に閉めるかして、ついには喧嘩になるってわけさ(笑)。うちの台所の壁にはまさに血のしみがあったよ。かなり真剣にやり合ったんだ。 でも君たちのお母さんが亡くなった時、もちろん彼はきみを支えてくれたよね。20歳を過ぎていたのだし。 彼は素晴らしい男だよ。嘘をつけないんだ。彼はベストを尽くしたと思う。 一回、ぼくらがすごい喧嘩をした時、彼にナイフを投げつけたことがあるんだ(笑)。殺そうとしたわけじゃなくて、ただびびらせようと思って投げたんだ。 ナイフはドアに突き刺さった。彼はナイフを見下ろして、ぼくもそれを見た。で、気づいたんだ。そうしようとしたわけじゃないけど、ぼくは彼を殺せたんだって。 ぼくら二人とも泣いていたと思う。そして、悲しみ方を知らずにお互いに怒っていたことを許し合ったんだ。ぼくら、絶対に母さんのことは口にしなかったからね。 それはどういう意味だい? 彼女が死んでから、父さんは彼女について話さなかった。一度たりともね。だからぼくには母さんの思い出がないんだ、おかしなことだけど。 おかしいね。きみはもう14歳だったのに。 彼女は彼女のお父さんの葬式のあとで亡くなったと読んだことがあるけれど、そうなのかい? 父親の葬式で倒れて、車で運ばれていってしまったんだ。二度と意識を取り戻すことはなかった。本当に、ぼくらには彼女が何をして何をしなかったかってことがわからない。父はぼくらがひどい喧嘩をした時はいつも、「俺はお前たちの母親と死の床で約束したんだ……」って言った。その言葉を終わりまで言うことはなかったよ。こんな感じだったから、最後になんとかうち明けてほしかったんだ。
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