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お年玉? ヨースケ、お前、今頃やってきて何を寝ぼけたこと言ってるんだよ、もう七草粥も食っちまったし、成人式も終わってるんだぜ。遅い遅い。
しかし、「ハッピーマンデー」ってのも味気ねえ制度だな。何でもかんでも休みを日曜日とくっつけりゃイイってもんじゃねえよな。第一、今年は十五日は日曜日なんだから、成人式は昔のままやりゃいいじゃねえんか、なあ? 何だよ、賛同してくれないのか? あ、知らねえか、成人式って昔は「一月十五日」って決まってたんだよ。まあ、興味ねえか、自分の成人式までは。 お年玉ねえ、第一、お前は受験生じゃねえか。こんな所にのこのこ遊びに来られる身分じゃねえだろ。日本の受験生ってのは、元旦から予備校行って、「必勝」なんて鉢巻シメて、『受験生は正月返上で頑張っています』なんて正月のどーでもいいようなニュース番組の中の「日本各地の元旦風景」なんてコーナーで紹介されるもんだ。それこそが正しい日本の正月の風物詩だよ。
それどころじゃなかった? 友達と大晦日から初詣ライブに行こうとしたら、激怒したお母さんにギターを捨てられそうになった? そりゃあ、お前が悪いよ(笑)あ、でも、そのギターは俺の貸してるヤツじゃねえか、怖いなあ。マジメに勉強しろよ、っとに。
そういや、俺も小さい頃コレクションを親に捨てられた悲しい経験があるなあ。
あの頃、俺は「酒瓶」のフタをコレクションしていたんだよ。笑うなよ、俺だって今考えると何であんなモン集めていたか理解できないんだから。 でさ、あちこちの酒屋の店の裏なんかで落ちてる酒瓶のフタを集めてさ、段ボール箱いっぱいにしてたんだよ。まあ、酒臭くてうっとうしかったと思うよ、親にしてみればさ。 で、ある朝ハッとして起きてみるとその段ボールがないんだよ。親に聞くと「ゴミ屋さんに持っていってもらった」なんてシラッと言うんだ。俺はパジャマのまま外に飛び出したよ。するとさ、町内のどこか遠くで、「くず〜い、おはらい」なんてゴミ屋さんの声が聞こえるんだけど姿は見えず。その声がどんどん遠ざかっていくのを泣きながら聞いたもんだ。 何の話してたんだっけ?
いよいよ俺の頭もおかしくなってきたかな。そうだ、少し頭のネジがゆるんだタフガイヒーローの話があったな。
「俺はレッドダイアモンド」(マーク・ショア / ハヤカワミステリ文庫)ってんだけどさ、簡単に言えば「ハードボイルド小説」のパロディなんだけど、それだけじゃなくて全世界の「趣味」に生きる人々の究極の姿を描いている素晴らしい話なんだな、これが。 主人公はしがない中年のタクシードライバーだ。妻一人、子供二人の恐妻家、ま、よくある、ホントにどこにでもいそうなキャラだよ。その彼が毎日の仕事の疲れや妻の不平不満から逃れて癒される唯一の楽しみが、古いパルプマガジン小説を読むことなんだ。「パルプマガジン」ってのは、アメリカの安っぽい小説雑誌だ。1950年代とかその辺りだな。今でも聞くだろう、「フィリップ・マーロウ」とか。そういうタフガイを主人公としたハードボイルド小説なんかがたくさん載っている雑誌だ。
主人公は、そのパルプマガジンのコレクターで、それに囲まれて読みふけっている時だけが至福の時だったんだな。
……でさ、その愛するコレクションを奥さんに全部売り飛ばされたんだ。分かるだろ、その時のショック。 茫然自失となった主人公は偶然一冊だけ残った一番のお気に入りの探偵「レッド・ダイヤモンド」の本を握りしめて街に出ていくんだ。 で、どうなったかって? ここからがスゲエんだよ。主人公はショックのあまり、自分が誰だか分からなくなって、その「レッド・ダイヤモンド」だと思いこんでしまうんだ。しがない哀れな中年のタクシードライバーが、街で一番のタフガイ探偵になってしまうんだ。弱い自分を捨てて、憧れの男になるんだ。
分かるか、この気持ち? 意外とこの「気持ち」が一般人には理解されないんだよな。なあ、頭くらいおかしくなるよな、趣味に生きている自分の大事にしているモノを捨てられたりするとさ。タフガイ探偵になってしまうことくらいアリだよなあ。 ……分かるか、さすがだな。いや、人としてはマズイかも(笑) でもさ、そのくらい好きなモノを持っていないと人としてはダメなんじゃないかと思うぜ、俺は。
そうだなあ、お前もお母さんに一回ギターを(俺のはダメだぜ)捨ててもらったらどうだ。頭がおかしくなって「ジミヘン」になれるかも知れないぜ。
え、27歳で死んじゃうからイヤだって? 大丈夫だ、この「レッド・ダイヤモンド」シリーズの第三作目「ダイヤモンド・ロック」は、ロックスターの「早すぎる死」の謎を解く話だ。これを読めば、安心してジミヘンになれるぞ。 |
人生三倍速/70年代ぢぢいとガキ
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おお、ヨースケ、来てたか。 えらくコミックスを積み上げてんじゃんか。「 BECK」と「けいおん 」を全巻ブックオフで大人買いしてきた? 子供が何言ってんだよ(笑) 受験勉強はどうした? 家でやってるとお母さんうるさいから図書館でやってるって、ウチへ来てサボってんじゃ駄目じゃねえか。俺んちは駆け込み寺じゃねねえぞ。「駆け込み寺」が分からない? 調べろよ、ネットでじゃねえぞ、図書館行ってるんだから本で探せよ、本で。 図書館で勉強かあ、俺らも昔はそう言って家抜け出して、サテンにもぐり込んでたよ。サテン、喫茶店。お前らだとマックか。もちろん当時だってマックはあったけど、サテンの方がはるかに安くて長居が出来たんだよ。 あとは金がない時は、「山の手ホテル」だな。バカ、ラブホじゃねえよ、山手線に最低料金で乗って、環状線をグルグル回って、ひたすら寝る、それだけ。時間つぶしだよな。まあ、果てしなくヒマだったなあ、俺ら。 しかし、お前も音楽バカだよな、読むマンガまで「音楽モノ」ばかり。……人のこと言えるのかって? あ、俺の本棚見たな。そう、俺も音楽マンガ好きなんだよなあ。 ただな、昔から「音楽マンガ」はヒットしないって言われたんだよ。特に「少年マンガ」はダメ、音楽好きの心をつかむようなロックな話がなかったんだよなあ。 その点、「少女マンガ」の方は音楽マンガの名作・秀作が目白押しだったよ。……キモイ? ばーか、七十年代のサブカル人間にとって少女マンガは必須科目みたいなもんで、当たり前のように男も読んでたし、第一当時の少年マンガよりも遙かに作品ジャンルも多くて面白かったんだぜ。 そこにあるだろ、今は大御所の「くらもちふさこ」の「蘭丸団シリーズ」。当時は珍しかった高校生のアマチュアバンドを題材にした作品で、面白かったなあ。 で、俺の一番のお気に入りはこれだ。 森脇真末味の「おんなのこ物語(ストーリー)」。いやいや、「おんなのこ」の話じゃなくて、「七十年代末期の京都を舞台にしたアマチュアバンドの物語」なんだよ、これが。 何で「京都」かって? 作者が関西出身であるのと、もう一つ、京都は六十年代から大阪と並ぶ関西の音楽シーンの中心地だったんだぜ。だから、この話の中には色々な形態の「ライブハウス」や「コンサート」の様子やバンドに関わる人たちの生態が描かれていて、それだけでも面白いんだ。 主人公は、高校三年生のドラマーでな。才能あふれる彼の、ナイーブで傷つきやすい青春のドラマだ。まあ、前回の「クロスロード」よりも、ヨースケに近い設定だなあ。……まあ、色々とお前なんかとは違うけどさ(笑) 怒んなよ、お前はお前でいいとこあんだからさ。え? そうだなあ、明るくて脳天気でクヨクヨしなくて気前がよくてお人好し、ギターが三度の飯より好きで女好き……もういいか(笑) で、この作品のスゴいところは、「 BECK」や「けいおん」なんかと同じように、登場人物の持っている楽器が実に正確に描かれているところなんだよ。そういうとこちゃんとしてくれると、作者が本当に音楽(ロック)が好きなのがよく分かるし、読者としては楽しいんだよなあ。それに、これは八十年代初期の作品だからね、それを考えるとこれはスゴいとなあと…語るなあ、今回も(笑) そうそう、「歌え!ムスタング」って音楽マンガもあったな。六十年代末期の作品で、作者が当時「巨人の星」で一世風靡していた「川崎のぼる」(原作・福本和也)で、これが「スゲエ」んだ。 ケガで野球選手の夢を断たれた少年がドラマーを目指す話でさ、「スゲエ」のは、元凄腕のドラマーで今は落ちぶれてアル中のオヤジが師匠なんだけど、この師匠が彼に「鉛入りのスティック」で濡れ雑巾を叩かせる特訓をするんだよ。「鉛スティック」だぜ(笑)。もう、発想が「巨人の星」の「大リーグボール養成ギブス」か、「柔道一直線」の「鉄下駄」なんだよな。あの頃の「スポ根マンガ」ってやたら「重いモノ」を使って身体を鍛えてたけどさ、「音楽マンガ」でもこんな調子だもんなあ、スゲエ時代だよ。 お前も「ハードロック養成ギブス」つけて、鉛入りのギターをウルトラヘビーゲージで弾きまくるって特訓をやってみろよ(笑) え、だったら受験勉強の方がマシだって? 根性ねえなあ。ロックも勉強も最後にモノを言うのは「根性」だぜ。 |
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以下は、54歳の「70年代偏屈ぢぢい」と、彼の友人の一人息子、18歳の「高校生」の「人生差/三倍」の二人の「会話」である。会話とはいってもぢぢいの一方的な独り語りで、話はどんどん進んでおります。 それでは、はじまりはじまり。 ヨースケ、来てたのか。イイだろ、そのギター。ロゴ見ろよ、「 Cibson」だぜ(笑) この間のライブ、見たよ。良いバンドになったじゃん。何、ベースが電撃脱退だって? 女子バンに引き抜かれた? 同じ軽音部の中で何やってんだ。 まあ、お前のギターもイイ音出してたよ。さすが俺の貸したストラトだ、誰が弾いても最高の音を出してくれるんだよなあ。 ほめてんだよ、一応(笑) そうそう、お母さんから聞いたぜ、勉強しないでギターばっか弾いてるんだって? 来年大学受験なんだろ、ヤバiいよ。 ギター弾けたら、ハイ『合格』なんて大学があればな。…「一芸入試」かあ、ギターじゃフツー過ぎるだろ。何か飛び道具がないとエラソーに「芸」だって言えないよなあ。。 じゃあれだ、ジミヘンばりに「歯」でギター弾くとか……え、軽音の先輩がやって、差し歯が取れて不合格だった? お前、ろくな先輩いねえな(笑) 困ったもんだな、ギターバカも……。 そんなら「旅」にでも出るか? 「ギターを抱えた裸の大将」って感じでさ(笑) あのよ、昔から悩んだ青少年はみんな旅に出るもんなんだ。ボブ・ディランも吉田拓郎 もみうらじゅんも、みんな旅に出たよ。男はそれで大きくなって帰ってくるんだよ。 そうだ、今のお前にぴったりのイイ映画があるよ。悩んでる時は映画だぜ。 「人生の教訓は映画から学べ!」ってのが俺らの青春の頃の常識だからな。 「クロスロード」って86年のアメリカ映画。クリームの『クロスロード』は知ってるよな。あれのオリジナルが……おお、正解だ。そう、ロバート・ジョンソンの「クロスロードブルース」だな。……ロック検定に出ると思って前にネットで調べた? ダメだよ、何でもネットで検索しちゃ。本読めよ、本。 それで、その「伝説のブルースマン」ロバート・ジョンソンの極めつけの伝説、「十字路(クロスロード)で悪魔に魂を売って天才的演奏テクニックをもらった」って話な。あれを元ネタにした映画なんだ。 このロバート・ジョンソンは生涯に「29曲」をレコーディングしてるんだけど、実は「30番目」の曲、幻の曲が存在していて、それを求めて旅に出た青年ギタリストの恋あり、別れあり、青春の葛藤ありの映画だよ。どうだいヨースケ、グッと来るだろう。 監督はウォルター・ヒルって言ってな、有名なところではエディ・マーフィー主演で大ヒットした「48時間」や、「ストリート・オブ・ファイヤー」「ダブルボーダー」とかさ、アクション系の中でも特に「男気」を感じさせる作品をたくさん撮ってる熱い人だ。 そんでもって主演のギタリストの青年のラルフ・マッチオは、この映画の前が「ベストキッド」って作品で……知ってる? お父さんが前にウチでDVDで見てたか。そう、空手映画。カラテの修行で心身ともに成長していく少年の物語だな、簡単に言えば。 で「クロスロード」では、ブルースを通じて成長していくんだが、こいつ成長ばっかしてるなあ。「成長ホルモン役者」か(笑) もう一人、最後の方に重要な役で、現役バリバリの本物のギタリストが出てくるんだ。ん、DVDのジャケで見つけたか、そう、スティーヴ・ヴァイが出てるんだよ。 スティーヴ・ヴァイは、東京タワーの蝋人形館でおなじみ、ロック界の奇才フランク・ザッパの愛弟子で、この映画では、悪魔の手先のギタリストとして主人公と対決するんだけど、これがさ、ギター対決なんだが……分かったよ。ネタバラしはいけねえよな。 おう、持ってけ、持ってけ。ただし、お母さんに見つからないようにこっそり見ろよ、真夜中に、ってこれはエロビデか(笑) そうだ、これも持ってけよ。「クロスロード」のサントラCDだよ。この映画の音楽担当はライ・クーダーなんだ。前にCD貸したろ、スライドギターの名人。ルーツ音楽の研究家。え、ストーンズの「ホンキートンクウィメン」のイントロを作ったのは俺だって主張してるって噂? そんな事どこから……またネットかよ。本読めよ、本。 CDをデータにしてくれ? 生意気言うんじゃないよ、ぐだぐだ言ってるとアナログ盤を貸すぞ!
…でさ、ヨースケ、来週の日曜日、ウチのバンドの助っ人に来てくんねえかな。メンバーが急な出張でさ。大丈夫、いつものようにグランドファンクとカーペンターズのカバーだからさ。お前なら、楽勝。 ひどい組み合わせ? 趣味がおかしい? いいんだよ、理解されない所が「趣味」だ! ……日曜日は補修をうけて赤点を免除にしてもらうだと? よせよ、赤点でイイじゃん。それこそ青春の勲章だぜ。勲章よりも卒業証書が欲しいって、寂しいこと言うな。 なあに、いざとなったら「旅」に出ろ! で、大きくなって帰ってこい。 カンバックサーモンだ! (第一話 了) |
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