スネコタンパコの「夏炉冬扇」物語

涙ばかり貴きは無しとかや。されど欠びしたる時にも出づるものなり。

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     氷川女體神社 本殿

 天神菅原道真はもともとは土師(はじ)氏であったが、いつの頃からか菅原姓に改めている。土師氏は古代、古墳の築造から埴輪の製作、葬送儀礼まで葬儀全般を司った氏族であった。そのような死と由縁の深い関係にある姓を嫌って菅原に改めたのではないか。つまり、土師氏であることを恥じたのではなかろうか、と親父ギャグっておく。

 佐伯について太田亮さんは『姓氏家系大辞典』のなかで次のように記述している。

 「古今を通じて大族の一たるを失わず。最初は種族名にして、異人種と見做され、その勇猛粗野の性格は一般人の恐るる処なりき。その後その民団を以って伴部となす。佐伯部これ也。
 而して其の勇悍なる性質を利用し、多く軍事に使役せしより、その名次第に高まり、その頭梁となりし。皇別、神別の諸氏は有力なる地位を占むるに至れり。即ち中央には佐伯の連あり。神代以来の名族大伴氏の族にして、大伴、佐伯の両族は長く禁廷の守衛たり。」

 佐伯部は「佐伯人を以って組織せし品部にして其の数多く、又軍事に従事して縷縷戦功を樹つ。佐伯はもと種族名にして蝦夷族の一種たりしが如し。常陸國風土記茨城郡の條り『昔、國巣(俗語に云ふ、ツチクモ、又曰ふ、ヤツカハギ)なる山の佐伯、野の佐伯普く土窟を掘り置き、常に穴に居る』と。」

 つまり、佐伯は蝦夷の一種のようだが、その勇猛果敢さが評価され、大伴氏とともに宮廷の軍事面を担う頭領を任された、というのだ。

 また、古代、大嘗宮で陰暦十一月の中の卯の日に行なわれる、天皇の最重要儀式である大嘗祭にのぞむ前に、天皇に服属する誓いを述べる儀礼があり、それについて谷川健一さんは次のように述べている。

 「伴氏(大伴氏)と佐伯氏が門をひらき、語り部を誘導する役目をし、隼人が吠声を発し、国栖が古風を奏するということである。佐伯も隼人も国栖も大和朝廷よりも先住する異族とみなされている。異族が大嘗祭に奉仕するということは大和朝廷の権威を強調するのに、大きな効果があると考えられたであろう。」

 隼人の吠声とは、隼人族に特徴的な「犬吠え」といわれる叫び声をあげる慣わしのことで、犬の遠吠えのような声を上げて邪気を祓い、蝦夷の侵入を阻む。

 佐伯(さえき)の名は、遮る(さえぎる)から来ている。その名は、さらに、賽神、つまり、さえの神に繋がる。さえの神とは境の神である。境界の向こう、何ものが棲むとも知れぬ異界からの侵入者を阻み、塞内を守る神である。この神を道祖神ともいう。佐伯も隼人と同様に、朝廷の儀式に参加し、異界からの蝦夷の侵入を防ぐ役割を担った、と考えられる。

 したがって、佐伯が神職に付くのも当然といえば当然といえるかもしれない。

 ちなみに、広島に佐伯区があり、世界遺産、厳島神社の神主家は代々佐伯氏が勤めている。厳島神社の祭神は、宗像一族が信奉する宗像大社の祭神、いわゆる宗像三女神=奥津島比売(おきつしまひめ)、市寸島比売(いちきしまひめ)、多岐津比売(たぎつひめ)である。もしかすると海人族といわれる宗像と佐伯との間に密接な関係があったのかもしれない。

 ということで、佐伯というその蝦夷を髣髴とさせる名前を嫌い、武笠と改めたとは考えられないだろうか。

参考文献

太田亮  『姓氏家系大辞典』
谷川健一 『白鳥伝説』(小学館ライブラリー)

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