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第134回芥川賞に絲山秋子の『沖で待つ』が当選したらしい。 ぼくは絲山秋子のデビュー作『イッツ・オンリー・トーク』が大好きで(5回くらい読んだ)、その後も何作か読んできたので、今回の受賞は心底嬉しい。彼女は純文学と娯楽小説の間、いわゆる中間小説をずっと書いてきた人で、3、4回ほど芥川の候補になった後に『逃亡くそたわけ』で直木賞の候補にもなっている。もう芥川賞は無理なのかな、と思っていた矢先に見事勝ち取ったわけだ。実際には純文学的な志向性は薄いわけだけど、自分の書きたいことを書くという明確なスタンスと、小難しいことを抜きにして大衆に訴えかける洒脱で粋な芸風が幸福な形でマッチングしている稀有な作家。なんとも頼もしい。まだそれほど有名ではなかった頃に、彼女の作品を図書館で借りようとしたら15人待ちとかで、すでにあの頃から人気作家だったのかも知れない。彼女が書くのは一貫してダメ男とアネゴ肌な女の一風変わった恋愛小説で、キャラがそれぞれユニークでホント笑ってしまう。いい歳して子供っぽさを捨て切れないダメ男と、格好良くスレた粋なアネゴの掛け合い、視線が温かく、読んでいて救われる読者も多いのではないか。彼女の作品が完全に娯楽小説と言い切れず、直木賞候補から芥川賞受賞へ裏返ったのは、やはり作中人物の、とりわけアネゴの知的ゆえに孤独な佇まいというのがしっかり描かれているからだ。一見、ダメ男の生態観察をもとにして巧みに笑いを取っているようでいながら、決してダメ男を突き放しているわけではなく、知的ゆえに全て見通していながらも、自分もダメ男の不可解な魅力にどうしようもなく引き込まれてしまうという関係性まで描いていて、そこにスレた中年女の格好良さや孤独が滲み出てくる。
今後も応援したい作家だ。 |
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