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基本的に日記、生活の中の思いつきなど

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さて、「怪文」の申し子たる中原昌也氏にご登場いただきましょう。写真はウチの近所、三宿にある洋食カレーの名店「ビストロ喜楽亭」で幻冬社のインタヴューが行われた際のもので、ということは中原昌也、ウチの近所か!? 阿部和重もこの辺りに住んでいるという噂もあるが。近所に住んでいるという想像だけで街並みの風景が変形しそうなほど、作家の視線とやらは強烈な磁気を帯びている。
なんてことはどうでもよく、多少長くなるが、以下に中原昌也氏の「十代のプレイボーイ・カメラマン かっこいい奴、うらやましいあいつ」(短編小説)から一部抜粋してみたい。(タイトルからして充分妖しい……)

 頬を赤らめて、小屋を駆け足で出る。そのままロープウェイに乗り、街へ行ってみることにした。小屋からロープウェイ乗り場までの間、素早くピョンピョンと飛びはねながら走ったので、その後に情け容赦ない疲労が襲った。しかも最悪なことに乗り場には従業員の影はなく、今日は休みだった。替わりに乗り場の前には、三匹の野性のオオジカがいた。雄鹿の広い鼻孔が荒い息とともに広がり、敵の姿を捜して、周りの臭いを夢中になって嗅ぎまくっていた。
「おっ、オオジカちゃんじゃないか」
 俺は知り合いでもないのに、馴々れしくオオジカに話し掛けた。現代人には大きな角を持ったオオジカと出会うチャンスなんか滅多にない。動物園にいる多くの動物が人間に馴れ親しみするのに、オオジカだけは全く人間に懐くことはないと聞いたことがある。
 実際、この周辺に彼らの群れが生息しているのは知っていたが、今まで足跡ひとつ見たことがなかった。
 雄のオオジカは俺を無視して首の向きを変えた。それが合図となって雄鹿の後ろにいた雌鹿と仔鹿が俺の目の前を通り過ぎて、ロープウェイ乗り場入り口へ行き、そこに生えている草をムシャムシャ食べは始めた。
「うまいのかな。そんな雑草が」
 独り言をつぶやきながら、俺はたまたま持っていた小型カメラで彼らを撮影した。普段ならアングルに神経を遣い過ぎて、二時間かけてやっと一枚という有り様なのに、今日に限っては本能の赴くままにシャッターを押した。オオジカたちの野性の不思議な力が、俺にも宿ったかのようだった。
 俺は自分が子供の頃からプレイボーイ誌、あるいはペントハウス誌のカメラマンになりたかったのを急に思い出した。
 カメラを持った野獣と化した俺の目の前で、黄褐色のブロンド娘がなんのためらいもなく衣服を脱ぐ。最後に残ったジーンズが、パンティと共に地面に落ちると彼女の全身が美しい黄金で輝く。そんな光景と比べたら、オオジカの群れなんて単なる畜生どもの薄汚い寄り集まりだ。殺して肉屋にでも売っちまえ!

以上。

この文章は、話としての脈絡がつかみづらい以前に、なんだか言葉そのものが妙にひっかかる。通常の感覚とズレているのだ。
「黄褐色のブロンド娘がなんのためらいもなく衣服を脱ぐ。」
「黄褐色のブロンド娘」がトートロジー(同義反復)なのはいいとして、むしろ「衣服」にひっかかる。普通、「服」でいいんではないだろうか? なぜ「衣」をつけるのだろう。
小説と言えば言葉の「芸」であって、ふつう作家は、巧い文章を目指す。綺麗な文章を目指す。
そういう完成された言語空間の中に放たれた中原昌也の怪文は、翻訳ソフトで変換した日本語のように奇妙な代物だ。だからこそ逆に、そもそも日本語とはどういうものだったか、という根本的な疑問を呼び覚ます。根本から文学を揺さぶる。
中原昌也の文章にはそういう効用があると、一般には批評家たちが口をそろえている。
が、それはそうなのだろうけど、それだけではなんだか味気ない。中原昌也の文章の魅力を充分に伝えきれていない。
一つ矛盾があるのは、中原昌也の文章が「壊れている」にも関わらず、壊れたなりの安定感、壊れ方の統一感というのがあると思う。これは文法レベル・話の作り方のレベルでも。つまり中原昌也は、充分に意識的な方法で書いているのだと思う。それが分かるから、読者も「笑って」読めるのだと思う。この点が、猫田道子との明確な差だと思う。作家が意識的である限りにおいて、その文章は批評の対象になりうるのだと思う。
彼の文章の特徴は、ここに掲載した文章だけでは分かりづらいのだけど、執拗に意味から逃れ続けるという姿勢なんですね。例えばオオジカというのを突然出しておいて、これが何かの象徴やメタファーになりかけた瞬間、「肉屋に売っちまえ!」ですから。意味を求めたり、深めたりしない。それが徹底している。
ちなみにこの「笑える」という事態の正体は、それがパロディだからなんだと思う。
中沢新一という宗教学者が、このようなことを言っていたことを思い出す。
「パロディというのは、深みをストップさせる良識の行為です。パロディが出てくると、笑っちゃうでしょう。そこで客観化が行われる。そうすると意識はそれ以上行かなくてすむんです。」
「ファシズムは危ないし、宗教は市民社会の手に負えない。どっちの道をとることもできないから、社会良識はストッパーの発動を求める。前進しながら、ストッパーをかける。それがパロディだったのではないでしょうか。」
これを文学と中原昌也に置き換えると、文学というのは、宗教のように、「文学的な」という言葉に象徴される美意識がもう飽和状態になってしまっている。そこへ、良識としてのパロディが基軸をずらして、飽和された「文学的な」美意識を拡散させる。だから中原昌也は、実は良識の人なんだとも言える。猫田道子の場合は、アウトロー、アウトサイダーということになると思う。良識とは無縁の、異物というのか、それゆえに恐ろしい存在ではあると思うけど、これは批評の対象にはならず、小説でもなくなる。
と、いろいろなことが中原昌也については言えるけど、やっぱり単純に、「笑っちゃう」よね。

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               *スワンクが手にしているのはチャンピオンベルトならぬオスカー


イーストウッドについてはこれまでに多くのことが言われてきただろうし、新作「ミリオンダラー・ベイビー」についてもすでにたくさんのことが言われているだろうから、自分が何を言っても付け足せるものはないだろうなと思いつつも、自分なりの感想を綴ってみたい。
すでにこれも言い尽くされているように、イーストウッドの映画には空撮の俯瞰映像が多いわけだけど、そこまでの大俯瞰は「ミリオンダラー・ベイビー」にはなかった、はずである。ボクシングジム、試合会場、控え室、マギーの部屋、病室と、閉じた空間が多かった。ただ空撮の代わりとして、モーガン・フリーマンの語りがあったように思うのだが、どうでしょうか? 語りというより、モーガン・フリーマンの視点というのか。このフリーマンの「語り・視点」の出し入れの仕方がやっぱり素晴らしくて。ダンとマギーの二人だけの世界になったとき、フリーマンの「視点・語り」は慎ましく消える。親子水入らず、邪魔しちゃいけないな、という感じで。二人三脚の練習風景、連勝街道まっしぐらの試合風景、マギーが家族に家をプレゼントするのを傍らからダンが見守る場面、車内、レモンパイを食べる場面などは、マギーとダンの世界。ただし、マギーがラスベガスで100万ドルのタイトル戦に挑戦したとき、フリーマンの不吉な視線が介入される。フリーマンは同行せずに、自分の部屋のテレビで観戦していたのだった。なんだかおかしな雲行きだ。タイトル戦なんて、それこそマギーとダンの二人きりの幸福な世界ではないか。このテレビ映像、フリーマンの視点が、いつもの俯瞰映像を代行していたのかもしれない。そしてそれは、いつだって運命の残酷さを奏でてはいなかっただろうか。そうして、マギーの首が折れたのだった。フリーマンの「視点・語り」が消えたのは、その首が折れた場面からだったと思う。そう、冒頭からつかずはなれず聞こえていた温かなフリーマンの声が、ここから長らく退場する。そうしてまた、マギーとダンの、「地上」における二人きりの世界、幼くして父を失った女と、娘から交流を拒否された男の、夢を追いかけた前半部とは対照的な、静かで残酷な、二人きりの病室が描かれる。再び聞こえてきたフリーマンの声は、ダンがマギーのあまりに哀しい願いを叶えてあげて、病院の廊下を去っていく孤独な背中へ向けられていた。「虚ろな気分だったろう」と。それからダンは帰ってこず、ラストはフリーマンの語りで閉じられていた。そしてこの語りが、不在のダンの娘へ語られていたことが明かされる。あなたのお父さんはこういう人でしたよ、と。
「モ・クシュラ」=「愛しい人」へ注がれるイーストウッドのあの眼差しが、フリーマンの隻眼に受け継がれ、この作品の全篇に漲って溢れかえり、観客のぼくらもその眼差しの中にありたいと願いながら、劇場をあとにするのだった。

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