判例等

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全5ページ

[1] [2] [3] [4] [5]

[ 前のページ ]

限定的減縮

 いわゆる限定的減縮に該当するか否かについては、審査基準を精読してみても、迷ってしまうことがあります。

 限定的減縮を判断した判例として、↓があります。
 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080305133001.pdf

 補正前クレームは、「リチウム金属が含まれている」点を規定していました。補正後クレームでは、「リチウム金属の量」が追加されました。

 原告は、
 ・「リチウム金属が含まれている」が規定されているのであるから、リチウム金属の「量」が内在的に規定されていることになる。だから上記補正は、この内在的な特定事項を限定するものであり、限定的減縮に該当する。
 旨を主張しました。

 裁判所は、
 ・「リチウム金属が含まれている」という規定は、物質の種類を特定したものにすぎず、「量」についての特定は何らなされていない。よって、限定的減縮ではない。
 旨を判示しました。

 平成17年(行ケ)第10042号大合議判決以降で、サポート要件の特許庁判断が覆されたケースとして、以下が挙げられる。

(判決1)平成19年(行ケ)第10307号
(判決2)平成19年(行ケ)第10213号
(判決3)平成20年(行ケ)第10066号

 サポート要件の判断で問題になりやすいのが、出願時の技術常識である。発明の詳細な説明だけではサポート要件が無いと判断された場合、最後に頼れるのが、出願時の技術常識である。審査官や審判官は当業者ではないので、出願時の技術常識の判断を誤りやすい。

 上記(判決1)及び(判決2)では、出願時の技術常識の認定に基づき、サポート要件の判断が覆っている。

 特に(判決2)では、出願時の技術常識の認定誤りに基づき、記載不備の拒絶査定が取り消されている。審決は、実施例と請求項とを短絡的に対比し、記載不備との判断を下している。このような不幸を防ぐためには、必要に応じて、「非当業者が判断する」という前提のもと、明細書に技術常識の説明を盛り込むことも考慮すべきであろう。

 審査官、審判官には、実施例のみに基づく短絡的な判断を行わず、詳細な説明についても読み込んで頂くよう、お願いしたい。

 上記(判決3)は、リパーゼ判決との関連がある。

 「クレームの用語が一義的で明確」であって、リパーゼに基づき明細書を参酌しない場合、クレーム範囲が広くなる。一方、「クレームの用語が不明確」であって、リパーゼに基づき明細書を参酌する場合、クレーム範囲が広くなる。クレーム範囲が広いほど、サポート要件に違反しやすい。

 上記(判決3)の事案では、

  ・審決では、化学大辞典に基づき「ゼリー」を解釈し、この解釈の下では、クレームが広すぎる。よって、サポート要件なし。

 とした。一方、判決では、

  ・「ゼリー」の用語が、上記化学大辞典の定義とは異なる意味で出願時当業者に使用されている。ことに鑑みて、「ゼリー」の用語は一義的に定まらない。

 として、明細書の記載を参酌して「ゼリー」を狭く解釈した。その結果、クレーム範囲が狭くなり、サポート要件が認められた。

 一般的な意味がほぼ確立しているような用語を用いながらも、明細書中では、その用語の意味が一般的な意味と異なるように定義されているような場合がある。一般的な意味と異なる意味で定義して明細書中で使うことは、できるだけ避けたい。別の適切な用語を探すか、造語で対応するなどにより、この問題は回避されうる。

 記載不備、特にサポート要件違反の拒絶が増えているようです。大合議判決(平成17年(行ケ)10042号:いわゆる偏向フィルム事件)の影響が大きいと思われる。こういう判決が出ると、判決後しばらくの間、過敏に反応しすぎてしまうのが、特許庁の常。

 偏向フィルム事件の大合議判決の判示について、個人的には、あたりまえの内容、という感覚を持っている。それほど厳しい判示内容とは思えない。ただし、「サポート要件を満たすためのデータ後出し不可」については、特に国際的にみると厳しいといえよう。

 近年の通常の出願であれば、この大合議判決の案件と比較して、サポート要件が充実した明細書になっている場合がほとんどであろうと思われる。上記大合議判決を拡張解釈しない限り、上記大合議判決の影響は限定的になるハズであると考える。

 しかし現実には、この大合議判決後、特にパラメータ発明に対して、サポート要件の判断が厳しくなっていると思う。例えば、実施例のデータと請求項とを単純に対比して、比較的安易にサポート要件違反を指摘してくるといったことがある。

 平成19年(行ケ)第10213号(構造変性された官能化ケイ酸)や、平成20年(行ケ)第10066号(ゼリー状体液漏出防止材)では、当業者の技術常識や、詳細な説明の記載を参酌して、「サポート要件無し」とされた審決が覆っている。

 特許庁側には、上記大合議判決を正確に理解すること、及び、実施例データだけでなく明細書の記載全体及び当業者の技術常識を十分に考慮することが、望まれる。

N.S.
 

 

 

 

 周知の通り、直近の知財高裁大合議判決(平成18年(行ケ)第10563号:平成20年5月30日判決言渡)は、新規事項に関する新たな判断基準を示しました。この点は、今後の実務に大きく影響する可能性があります。

 同判決文では、「補正が、新たな技術的事項を導入するか否か」によって、新規事項を判断する旨が判示されました。以下に、同判決文の関連部分3カ所を抜粋します。
(抜粋1)
「このような特許法の趣旨を踏まえると,平成6年改正前の特許法17条2項にいう「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」との文言については,次のように解するべきである。すなわち,「明細書又は図面に記載した事項」とは,技術的思想の高度の創作である発明について,特許権による独占を得る前提として,第三者に対して開示されるものであるから,ここでいう「事項」とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となるところ,「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。」
(抜粋2)
「よって,本件明細書に記載された本件訂正前の各発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえないから,本件各訂正が本件明細書に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものでないことは明らかであり,本件各訂正は,当業者によって,本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかであるということができる。したがって,本件各訂正は,平成6年改正前の特許法134条2項ただし書にいう「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものであると認められる。」
(抜粋3)
 「もっとも,明細書又は図面に記載された事項は,通常,当該明細書又は図面によって開示された技術的思想に関するものであるから,例えば,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合において,付加される訂正事項が当該明細書又は図面に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場合には,そのような訂正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,「明細書又は図面に記載された範囲内において」するものであるということができるのであり,実務上このような判断手法が妥当する事例が多いものと考えられる。」

 また、この大合議部判決を引用した判決として、平成20年行(ケ)第10053号(発明の名称;保形性を有する衣服)があります。この判決では、上記大合議部判決を引用しつつ、「補正(訂正)は、本件明細書の記載を総合することにより導かれる技術的事項である」と判断されています。

 問題は、この大合議部判決の判断基準が、これまでの判断基準と異なるのか否かです。これまでの判断基準は、「当初明細書等に明示的に記載された事項、及び、明示的な記載が無くても当初明細書の記載から自明な事項」です。

 (A)従来基準の「自明な事項」
 (B)大合議部判決の「当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項」
 とすると、(A)と(B)とが、同じなのか違うのかが問題です。また、違うとすれば、一方が他方を包含した広い概念なのか、あるいは、両者は一部重複なのか、が問題です。判決文からは、判断しかねるところです。

 もっとも、大合議部判決の上記(抜粋3)の記載を見る限り、
 ・上記(B)の「技術的事項」は、上記(A)の「自明な事項」を含む
 といえそうです。よって、
 ・(B)は(A)を含み、(A)よりも広い
 という雰囲気はあります。前述の平成20年行(ケ)第10053号(発明の名称;保形性を有する衣服)でも、大合議判決を引用しつつ、特許庁の判断を覆して、「新規事項でない」としています。大合議部判決が、新規事項の範囲を広くしてくれている可能性があります。

 ただし、逆の場合もありうるかもしれません。
 大合議判決の「新たな技術的事項の導入」という概念が一人歩きした場合、従来基準の「自明」よりも、新規事項の範囲が狭く判断される可能性もあり得るかもしれません。具体的にはちょっと浮かびませんが、重要判決は、往々にして、思わぬ判断を誘発することがあります。

 上記大合議判決(抜粋3)にある「特段の事情のない限り,」の「特段の事情」とは何なのか?も気になります。

 今後の判決が注目されます。

 N.S.

全5ページ

[1] [2] [3] [4] [5]

[ 前のページ ]


.


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事