・セカイの掟(オリジナル

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『おおーっとぉ!!何と最神選手、落とし穴から脱出しました!』
 ……いや、あんなにご丁寧に抜けるための道具が置いてあったんだからそりゃ抜けれるでしょうよ。

 まあ、とにかく。
ハメ殺しされるのはどうにか回避した。けれど、美亜がまだ出てきていない。
 美亜の能力で直ぐに出れそうだと思ったけど、それは無理だった。
 「スピード」しか変化させれないんだ、ジャンプの高さまで変えるのは不可能。
 それこそ重力無視の能力でもないと無理。
 となると、ペア内で受けたダメージが1000を超えたらアウトだから、佐奈が美亜をロックオンしたら完璧にタコ殴りになる。
 そうなると負けるから佐奈を美亜の方に近づけないようにして戦わなきゃだめだ。
 健は近距離の方だったから落とし穴の中には届かないし、中に入って美亜と戦ったとしても美亜はスピードタイプだ。
 完璧パワータイプの健、しかもアホだから、翻弄されて寧ろ負けるって事は分かりきってる。
 たとえ健がそれを分からず特攻しようとしても佐奈は気付いてる筈……だからきっと止められる。
 だから僕が今するべき事、それは佐奈と対峙すること。
 遠距離から攻撃出来る敵に肉弾戦しかできない僕が行くのは無謀な賭けだけど、勝つにはそうするしかない。
「さて、と」
 ちょっとストレッチをしておく。
 文化祭が始まる前に少しバトル的な物があったけどまだ体が鈍っている。多少は動けるようにしないと。
 アキレス腱を伸ばしながら周囲を見渡す。
 ……あれ?
 健と佐奈がいない。
 そして新しく増えた穴が二つ。
「…………」
 ……ん?

『どうやら広崎・井波両選手ともも落とし穴に落ちてしまったようです!!』

 アナウンスが響く。
 ――やっぱりかーーっ。
 あれ?他の落とし穴には椅子とかないのかな。一体どうなんだろう。
 と言うかこれどうしよう。
 落とし穴から脱出したのは僕一人か……。僕が誰かの落とし穴に自分から落ちてそれで闘うって方法もありか。ひとまずはそうするとして、じゃあ一体誰と戦うって言う話だ。
 健は……力があるから何か痛そうだ。
 じゃあ佐奈にしておこう。
 ……何この簡単な決め方。
 でも迷ってても仕方が無い。
 僕は、どっちの穴が佐奈か確認するためにモニターを見た。
「落とし穴って……」
 初めからギミックが地味に手ごわい……。最初からこんなギミックだったら決勝戦は……。
 想像したくもない。
 取りあえず早く抜け出さなきゃ、佐奈の能力は確か遠距離系統の攻撃能力だった筈……嬲り殺しにされかねない。
 と、
「え、これ抜けれな……!?」
 美亜の声が遠くから、微かに聞こえる。
 え?何て言ったんだ?もし『抜けれない』だったなら僕たち初戦敗退もあり得る。
 試しにジャンプしてみる。
「ほっ!」
 足元がうっすらと衝撃で削られて、僕は暫く宙に浮く。手を必死に伸ばして、あの地面の端をつかもうとして――

 ――届かない。 

「はぁ!?」
 タッ、と軽く音を立てて着地する。衝撃を吸収したつもりだったけど地味に足にきた。
 つい叫んでしまったけどこれは叫びかねない……。
 ジャンプしても全然届かないレベルの高さの落とし穴だった。
 4mはあるんじゃないかこれ。
「一体どうすればいいんだ……」
 軽く絶望。
 遠距離系統の攻撃能力者にとって4mの落とし穴に嵌った敵を的確に狙う事は、コップにピッチャーからお茶を注ぐくらいに簡単な事だ。それ故に、この畳1畳を少し薄く引き延ばしたほどしかないこの落とし穴の中では避けるのは絶対に無理。例え避けれても次弾を避けれないから、どうせ終わるんだ。
 だからどうしてもこの穴を脱出する。それが僕たちに示された敗北逃避への道。一本しかないけど。
 でもこれどう考えても無理な気がするんだけど……。
 その時、
「痛っ」
 歩きながら考えてたら何かに足をぶつけた……。泣きっ面に蜂だ。
 ってあれ?僕、今何にぶつかったんだ?壁に足をぶつけるなんてそんなあほな事はしないし……。取りあえずぶつかったものがどんなのか確認してみよう。
 
 ・明らかに細工されてる木の椅子
 ・おもむろに『踏め』と言わんばかりの助走板

 ……さあ……これはどっちを使うべきなんだろう……。
 木の椅子の高さはちょうど腰より少し高い位か。よし、ちょっとこっちを使ってみよう。
 まず壁(?)際に椅子を置いて、と。まずは座る部分だ。
「よいしょ」
 声にする必要無かったけどただ何となくしてみただけ……後悔はしてない、って僕は何を言ってるんだ……。次のステップだ。
 背もたれに右足をかけて、……あーちょっとバランス悪いなこれ。ぶっ倒れる気がしないでもない。
 深呼吸。
 すー……はー……。
 よし、行くか。
「えい!」
 掛け声と同時に右足に力をかけて、一気に飛び上がる。その反動で椅子は地面を踊った。
 届くか――!?

――パシッ!

 右手が届いた。
 ……案外あっさり行くもんだな……後は這いあがるだけか。
 左手も右手と同じように置いて、ロッククライミングの要領で壁の岩のでこぼこに足をかけて――と。
 ふぅ……上手く行った……。
 始まった。
 まず美亜と目を見合わせてどっちを担当するか決める。
(とりあえずどっち行く?)
 アイコンタクトで会話。良く漫画とかで見るけど本当に出来るかは知らない。この作品はフィクションです。何言ってるんだ僕。
(そうね……広崎はバカだからあしらいやすいはず……)
 健が密やかに貶されてるけど、僕は気にしない。
 ああいうキャラって力技だもんなぁ。
(ゴリ押しして来そうだけど)
 思った事をありのままに伝える。
(あー……)
 納得したみたいだ。
(なら井波さんはどう?)
(うーん)
 佐奈は特に特徴はないんだよな。テクニックで押して来そう、とかそういう感じもしないし。
 どう言うんだろうこう言うの……。
(…………才人?)
 はっ。
(よし、じゃあ僕が健行くよ)
(OK、分かったわ)
 一応決まった。
 作戦の本質をいけば僕が強い方行くのがスジだ。
 それにしてもギミックも何もないフィールドか……。何かありそうかも。
 よし。
(じゃあ行くよ!)
(ええ!)
 佐奈と健の方へ走って行く。作戦通りに行くにはまず2人の元へ辿り着かなきゃ――。
 佐奈達はどうやら分かれて左右で攻めてくるらしい。お椀のように二手に分かれて走り出した。
 幸い左にいた美亜の方へ佐奈、反対に健が走って行ったので少し曲がって走る。

『互いに相手の方へ走って行く選手達!これは銀杏の葉のように見えるぞー!ハッハー!』

 うまい事言った気にならないでほしい。
 大体ここ広過ぎ……!ちょっと疲れて来た。
 と。

 ガサガサッ!

 急に視界が土の色に覆われた。
 へ?
 次の瞬間、
「きゃああああああああ!」
「うわああああああああ!」
 凄い勢いで下に叩きつけられた。
 突然地面にぽっかり空いた穴。さっきまでは何もなかったのに……。

『おーっと!最神選手と比下選手、早速引っかかってしまいましたー!』

 ここでアナウンスが響く。引っかかったって……まさか!

『何もないように見せかけて落とし穴がある!それが今回のギミックです!』

 会場、バトルフィールド。
 ここでバトルを始めるらしい。明らかにテニスコート6つ以上、いや、10つ以上の大きさはある。こんなに大きな場所で戦うのは初めての経験。いつもは路地裏に連れ込まれて戦うから何百倍もの大きさの所でいつもの力を発揮出来るかどうか。
 まあ、いつもは逃げてるだけだけど。
 作戦通りにやってくれれば健と佐奈は勝てない相手ではないと思う。佐奈は見ての通りおっとりしてるし、健はバカだ。佐奈が作戦考えてたって健がその通り実行できるはずがない。

 と、暫くしてアナウンスが響き始めた。
『レディースアーンドジェントルメーン!』
 何処の1412号さんですか。ちなみに怪盗の。
『今日はカムしてくれてどうもサンキュー!』
今 度はルーさんじゃないですか。アナウンサーさんキャラぶれ過ぎ。いやある意味じゃブレてないかも。
『じゃー、早速ルール説明いくよー!』
 早っ!
 開早っ!選手の紹介は!?
『紹介はめんどいんでパスします!』
 おい。
『ルールは簡単、ペア内で受けたダメージが1000を超えたほうが負け。因みに衝撃吸収素材をつけさせていただいたので、そかから来た衝撃を数値化してるよ!』
 あれ、確かに何時の間にか僕らの体に衝撃吸収素材が着いてる。全く厚みは無いから気にならなかったけどいつから付いたんだろう。動きやすいように良く考えられてるな。
『場外は出たほうが失格。1時間で勝負がつかなかったらその時点の残りポイントで決まります』
 場外なんてそうでないと思うけどなぁ。まあ出る時があるから定められたんだと思うけれど。
『それでは!今から始めたいと思います!』
 ――ドクン!
 鼓動が加速して来た。緊張が高まる。明らかに鼓動の音が聞こえる。自分の手に人の字なんて書いてみるけど変わらない。飲み込んで無いし。
『レディー……』
 構える。
『GO!』

 やっぱり緊張する。そりゃそうだ。観客が沢山いるんだし、何しろ負けられないんだ。まさか会場の殆どが埋まっているなんて思わなかったけれど、しかし沢山いるなんてのは予想出来たから緊張していると言ってもそこまで酷くはない。
 いまはアナウンスがなった後、会場に移動しているところだ。
 美亜と並んで歩く。角を曲がって、ドアが幾つか見えた。他の選手の控え室みたいだ。僕たちと戦うかもしれない人たちだから気になるっちゃ気になるけれど、いかんせん時間が無いので中を覗いたりはしない。
 と、3個ほどドアを横にみた後、ガチャ、と音がして少し前のドアが開いた。
 そこから出て来たのは――。

「あら、広崎と井波さんじゃない!」

 ――そう。
 美亜の言うとおり、僕らの友達である広崎健と井波佐奈だ。まさか二人がペアを組んで参加していたなんて……。二人とも超能力者だから参加しているのは当たり前なのだけれど、ペアを組んでいたとは。
 ああ、今日の朝並んで歩いていたのはそう言う訳か。もしかしたらもう付き合っちゃったりしてるのかな。男女でペア組むくらいだからそこまで行っててもおかしくない。……まあ、僕らは違うけれど。
「あ、才人と美亜ちゃんだー」
 佐奈が可愛い声を出しながらこちらへ手を振って来る。
「お前らもペア組んでたんだな」
 健は今更みたいな言葉を出す。流石健。あれ、言ってた様な気がするけど。
「そう言う二人もペア組んでたんだね」
 とりあえず返しておく。時間まだあるから大丈夫……のはず。
「うん、そーだよー」
「まあな」
 各々返して来た。キャッチボール。
「えっ、というかいつの間に組んでたのよ」
 美亜が聞いていた。確かに気になる。
 その質問を受け取ると佐奈と健は目を見合わせて、
「まあ……ね」
 口を濁した。
「…………?」
 思わずこっちも目を見合わせて首を傾げる。一体なんだって言うんだろう。
 というかあれ?同じ時に出て来たって事は――。
「佐奈達って、今から試合?」
 質問を投げる。多分インコース高めの落ちる球くらい。
 どうでもいいか。
 返答によっては困った事になりそう――

「うん、そうだよ」

 ――僕と美亜の一回戦。どうやら親友二人と戦うそうです。

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