今日の出来事ロジー

7月19日は、 河合隼雄 の命日です。

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 10月30日、【ニュースパニックデー】Part 2

 (10月30日、【ニュースパニックデー】の続きです。)


 なぜ、ラジオ番組がこれほどのパニックを引き起こしたのだろうか。それは時代背景にあった。当時のアメリカ市民は戦争への不安、とくにナチズムの恐怖に怯えていた。また大恐慌の記憶がまだ生々しい時でもあり、人々は突然の恐怖を現実的なものとして、受け止めていた。

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 さらには、ハロウィンの前夜ということで、火星人の扮装で悪戯をする者も現れた。サンフランシスコでは、服を引き裂かれた女性が警察に駆け込み、涙ながらに訴えた。「私、火星人に犯されてしまいました」。

 8時半を過ぎた頃から、CBSの交換台はパンク。番組が終盤にさしかかるとドラマだと初めて気づいた怒り狂った人々が放送局に押し寄せた。そして、社長室直通の電話が鳴った「ウェルズを出せ!」。それは西海岸のある大都市の市長からの電話だった。「暴徒が街に溢れて、暴力と略奪が私の街を襲っている。女子供は教会に避難させたが、この責任はどう取ってくれるんだ!」。

 番組の最後に流された、ウェルズの口上はリスナーの神経を逆なでしたようだ。

 「皆さん、私がオーソン・ウェルズです。本日お送りしたドラマは休日のお愉しみ以外の何物でもなかったことをここにお断りしておきます。このドラマは例えば、薮の中から飛び出して人を驚かせる、というようなことを、ラジオというメディアを通じて行ったに過ぎないのです。

 我々は、みなさんの耳を通して、世界を滅亡させ、CBSを破壊しました。しかし我々がそれを本気で行ったのではないことを、そして、この世界もCBSの職員も、今もピンピンしていることをお知りになれば、皆さんもほっとなさることでしょう。それではみなさん、おやすみなさい。せめて、明日の夜ぐらいまでは今夜、学ばれた教訓を忘れないで下さい。そうです。これは大人のためのハロウェインだったのです」。


 しかし、怒り狂った市民は「ハロウィン」では済まされなかった。リンチを予期した警察は放送終了と同時にスタジオになだれ込み(当時のラジオはすべて生放送)、番組の出演者の他ディレクター、エンジニア等、すべての関係者を安全な場所に移動させた。CBS前の騒動は夜通し続き、ニューヨーク市長までもが「ウェルズの野郎、殴ってやる!」と興奮していた。

 翌日になっても市民の怒りは治まらなかった。「ウェルズを出せ、あん畜生をリンチに!」怪童・ウェルズは十分過ぎるほど名を売ったが、当分の間は雲隠れしなければならなかった。

 数日後、連邦通信委員会は聴聞会を開き、いくつかの放送上の規定が設けられた。CBSは全面的に謝罪し、このような不祥事は二度と起こさないことを市民に誓約した。そして全国で損害賠償請求訴訟がCBSやマーキュリー劇団に対して提訴され、その要求額は数百万ドルに及んだと言う。

 そんな絶体絶命のウェルズを救ったのは、ドロシー・トンプソンのコラムだった。

 「ウェルズ氏のこの実験的なラジオドラマは、合衆国市民が戦争のような緊急事態に際して如何に弱いものかを暴露するという意味で、合衆国のために貢献したと云うことができる」。

 このコラムを契機に、新聞や他の論評は大衆の「信じられない程の騙されやすさ」について言及した。ウェルズがドラマの中で再三に渡り、これはフィクションである旨のコメントを入れていたこと、題材が「火星人襲来」という突飛なものであったこと、そして、ラジオを他局に回せば、これが茶番であることを容易に知ることができたこと等々。世論はウェルズに対し次第に好意的となり、お陰で彼は騒乱罪を免れた。

 訴訟のすべてが法廷で棄却され、事件はウェルズの圧倒的勝利で終わった。あのキャンベル・スープが「マーキュリー劇場」のスポンサーとして破格の金額を提示してきた。

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 後日談としてウェルズの事件の1年後、南米のエクアドルで「火星人襲来」を真似する者が現れた。パニックに陥った市民は、これが嘘だと知るや激烈に怒り狂った。暴徒と化した市民はラジオ局を焼き払った。番組の出演者6人を含む21人が殺害されるという大惨事に発展してしまった。難を逃れた企画者は投獄された。

 この事件を受けて、ウェルズは後に感想を述べている。

 「私は幸運だったと言えるでしょう。何故なら投獄されることもなく殺されることもなく、ハリウッドに招かれたからです」。

 彼はハリウッドに招かれ、映画芸術の金字塔とも言われる『市民ケーン』を製作する。彼が起こした深刻なハプニングは、マスメディアの影響力や、その倫理観を論じる時、あるいはマスメディアを通じた、社会心理形成についての研究で、必ずといって良いほど引用される教科書的逸話となりました。


 ※ フィクションだからこそ、圧倒的なリアリティー

 H・G・ウェルズの『宇宙戦争』は、タコ型の火星人が地球に攻めてくるという設定。地球人はあたふたするだけで、火星人を退治したのはバクテリアだった、地球上では最も個体数の多い微生物が、火星人の天敵だったのだ。…荒唐無稽だ。

 ラジオというメディアはホットだと言われる。映像を補うために、無意識のうちに脳裡にイメージする。物語のリスナーは次第に集中力を高めてゆく。のめり込んでゆく集中力が、物語にリアリティーを与えて行く。フィクションは人の想像力を遮ることがない。

(註:ウェルズによる「火星人襲来」パニックの全貌は、実は新聞社がデッチ上げたデマだった、との説もある、らしい。 )

 昨夏、トム・クルーズの『宇宙戦争』が公開されました。荒唐無稽なだけに理屈なく楽しめる作品。ハリウッドには、この手のノウハウは、“売るほど”あるんですね。

 ハリウッドに負けないくらいに、映像効果にこだわるのが歴代のアメリカ政権だ。でも最近のブッシュ政権のメディア戦略は、結構スベッテルみたいですね。

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