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◇ 時津風部屋暴行死事件
時津風部屋の序ノ口力士、時太山が、兄弟子らから暴行を受けて死亡した問題で、兄弟子の1人が金属バットを使って暴行を加えていた疑いが26日、明らかになった。愛知県警では、金属バットの一撃が致命傷にはならなかったとみているが、集団による暴行がエスカレートし、時太山の死亡につながったと判断している。
同県警は暴行を指示したとされる師匠の時津風親方を傷害容疑、暴行を与えた兄弟子たちを傷害致死容疑で立件する方針を固めている。なお時太山の父正人さん(50)が27日午後、都内で会見することになった。
愛知県警は決定的な「事実」をつかんでいた。時太山に暴行を加えた兄弟子の一人から「金属バットで斉藤さんを殴った」との証言を得ている。同県警は物証となる、その金属バットも押収している。血痕の付着など裏付け捜査も大詰めの段階に入っている。
愛知県警の調べによると、6月に3度、部屋から抜け出していた時太山は、25日に部屋に連れ戻されたが、「反省のない態度」とみた時津風親方が激怒。力士らとの夕食の席上、ビール瓶で時太山の額を殴り切り傷を負わせた。その際、兄弟子らに「かわいがってやれ」などと指示し、四人前後が、稽古場の裏手で時太山を取り囲んで暴行を加えていた。
翌26日午前7時半からの朝稽古に時太山は起きてこなかった。師匠と兄弟子の怒りは増し、午前11時10分ごろから、約30分間もの兄弟子とのぶつかり稽古が行われた。この際、兄弟子の一人が金属バットで時太山の体の数カ所を殴打。この力士が後日、警察に自ら足を運び事情を説明したことで、捜査は一気に拍車が掛かったと言う。
◇ あまりにも酷い時津風親方、その人間性
悲劇の発端となった「かわいがり」を指示した時津風親方も立件を覚悟。当初は「通常の稽古だった」と遺族に説明していたが、8月6日には新潟市内の時太山の実家を訪れ、遺族に「私がビール瓶で殴った」などと告白していた。県警にも同様に、暴行の事実を認めている。「相撲の稽古の名のもとで殺された」という愛息を失った遺族の強い訴えで捜査が本格化。相次ぐ証言、証拠が挙がり時津風親方は逃げ場を失った。
愛知県警が「金属バットによる暴行」の疑いで捜査を進めていることは、日本相撲協会も8月下旬から把握していた。当時は横綱朝青龍のモンゴル帰国問題の最中だったが、協会上層部では「時津風部屋の問題の方が重大。金属バットで暴行した疑いがあり、証拠も県警は押さえている」との会話がなされていた。
稽古の厳しさは角界の伝統であり、親方や兄弟子が竹刀で弟子を叩くことは日常茶飯事。しかし金属バットで、となれば話は別問題だ。まして5月に初土俵を踏み、晴れて番付に四股名が載った翌日の新弟子に対する執拗な暴行。ある協会関係者は「ぶつかり稽古は体力のある関取衆でも、10分もやればヘトヘトになる。それが30分も続いた上、金属バットが使われたとすれば、こういう結果にもなる」と過剰ぶりを口にした。
稽古場での死亡事故は過去にもあったが、今回はあらゆる証言、証拠によって初めて事件化されようとしている。「聖域」だった稽古場に入った、警察のメス。閉鎖社会の悪しき体質を露呈した今回の問題は、角界史上に前例のない汚点を残した。
◇ 無断で火葬準備、遺族「隠蔽」批判(9月27日)
斉藤さんが急死した直後の6月26日夕、時津風部屋が遺族に無断で斉藤さんを火葬する準備をしていたことが分かった。遺族の同意を得ずに火葬することは極めて異例で、新潟県に住む遺族からは「暴行の痕跡を隠そうとしたのではないか」と批判の声が上がっている。
遺族によると、同月26日午後4時ごろ、愛知県の葬儀業者から斉藤さんの実家に電話があり、「現地で火葬して新潟へ届けたい」などと言われたという。遺族が抗議したため、火葬は見送られた。時津風親方が翌27日に、斉藤さんの実家を訪れた際は「隠すわけでやったのではない」と、暴行問題の隠蔽については否定していた。
北の湖理事長は「警察が捜査中だから、間違ったことは言えない」とし、27日に開かれる親方が集まる師匠会にも「私から『(時津風親方に)来い』とは言わない」と語った。
また、生活指導部長の伊勢ノ海理事(元関脇藤ノ川)は「53の相撲部屋には各師匠の指導方針はあるが、行き過ぎがあってはいけない。警察の捜査を待つしかない」と話した。
◇ 母親、後悔「逃げろと言えば…」
新潟県に住む斉藤さんの両親は26日、「兄弟子たちが『俊を鍛える』と言うので頼もしかったのに」と悔しがった。亡くなる5日ほど前に斉藤さんに会った父親の正人さんは「いい体になってきたな」と感じ、「相撲道の心を鍛えてほしかった。横綱や大関になれとは言わない。今頑張れば、どんな社会でも通用するんだぞ」と、何度も逃げ帰ってくる息子に、心の中ではエールを送り続けていた。
死亡翌日の6月27日に自宅に運ばれてきた遺体には、全身にあざや切り傷、足にはやけどのような痕が数ヶ所にあり、顔は原形をとどめないほど変わり果てていた。当時、母親も「入門して時太山という四股名をもらったとき『僕、名前もらったよ』って喜んで…。亡くなる前日に電話が来たとき『逃げろ』って言えばよかった…」と涙を流した。
これに対し、謝罪と事情説明に自宅を訪れた時津風親方は「稽古をやれ、やれとばかり言えない。『もういいよ、やめ』とわたしは言うんですよ」と釈明していたという。「放っておいたらうやむやになる」と感じた正人さんらは、自ら行政解剖を依頼。愛知県警による真相解明が動きだす端緒となった。
◇ 角界激震、北の湖理事長の責任問題へ発展
朝青龍騒動が冷めやらぬ中、新たに発覚した暴行死事件に角界が大揺れしている。時津風親方が弟子たちに時太山への暴行を指示したことが明らかになり、日本相撲協会には26日、苦情の電話が殺到。角界の規律違反といった今までの不祥事とは大違い、死者を出す刑事事件が発覚したのだ。協会が受けるダメージは計り知れず、北の湖理事長の責任問題に発展することは必至。
17歳の少年を死に至らしめた悲惨な事件に、ファンの怒りが爆発。この日、日本相撲協会には苦情、抗議の電話が鳴りやまなかった。事務所の13の外線はもちろん、広報部の電話が全て埋まる時間帯もあった。職員の1人は「朝青龍騒動どころじゃない。まだ事実を把握していないので、返答にも困る」と困惑の表情。
北の湖理事長は「警察に捜査をお任せしている段階だが、1人の力士が亡くなったということは重く受け止めなくてはならない」と協会トップとして捜査の行方を見守る姿勢を示す。ただ今日27日に開かれる理事会、師匠会では、「警察が捜査中ということだし、こちらから理事会でいうことはない」と取り上げないことを明言。しかし大島巡業部長が「かなり、しごきがひどかったと聞いた」と話すなど論議されるのは必至。日本相撲協会最高の意思決定機関の面々が「調査中」だけの言葉で納得するとは、考えにくい。
ある親方は「朝青龍問題は法律違反ではないが、今回は法を犯している。世間の常識では考えられないことが起きた」と波紋の大きさを憂慮した。若い衆を強くするための「かわいがり」は角界の常識として伝承されてきたが、度を越えた暴行で死亡にまで発展したことで一般社会の感覚とは、あまりにも懸け離れていることを露呈。ある若手の師匠は「この件の影響で、入門予定だった3人の新弟子から次々と断られた」と嘆くなど、ダメージは計り知れない。
北の湖理事長は「うちの稽古場には竹刀がない。オレは暴力が嫌いだから」というが、実際に竹刀がおいてある部屋は数多く存在する。朝青龍問題もそうだが、世間一般の常識とは、あまりにも乖離した角界の体質が問われて当然だろう。本人の辞意や解雇処分が予想される時津風親方の処遇は勿論、北の湖理事長の責任問題にまで発展するのは必至。
◇ 時津風部屋
時津風一門のトップにして、角界屈指の名門。史上最多69連勝の記録をつくり、「角聖」と呼ばれた第35代横綱双葉山が現役時代の1941年、「双葉山相撲道場」として設立。引退後、年寄「時津風」を襲名した。元大関豊山の跡を継ぎ、2002年8月から現親方の元小結双津竜が4代目として部屋を率いている。現在は時天空、豊ノ島、時津海が幕内で活躍するなど、力士15人を抱えている。
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