|
◇ 『東京家族』(2013年・松竹)山田洋次監督 時にやさしく温かく、時に厳しくほろ苦く、家族を見つめ続けてきた山田洋次監督。『家族』『幸福の黄色いハンカチ』『息子』『学校』シリーズ、『おとうと』そして、『男はつらいよ』シリーズ。そこには時代によってうつりゆく日本の家族の様々な姿が刻みつけられています。そして2012年、「今の家族」を描く山田洋次監督待望の最新作が完成しました。 監督生活50周年の節目でもある本作は、日本映画史上最も重要な作品の一つで、2012年に世界の映画監督が選ぶ優れた映画第1位に選ばれた、小津安二郎監督の『東京物語』をモチーフに製作されました。日本の社会が変わろうとするその時を、ある家族の日常風景を通して切り取った『東京物語』から60年。奇しくも現在の日本も、東日本大震災とそこから生じた様々な問題により、大きな変化を突きつけられています。その傷痕を抱えたまま、どこへ向かって歩み出せばいいのか、まだ迷い続けている私たちに、今を生きる家族を通して、大きな共感の笑いと涙を届けてくれる、感動作の誕生です。 2012年5月、瀬戸内海の小島で暮らす平山周吉と妻のとみこは、子供たちに会うために東京へやってきた。郊外で開業医を営む長男の幸一の家に、美容院を経営する長女の滋子、舞台美術の仕事をしている次男の昌次も集まり、家族は久しぶりに顔を合わせる。最初は互いを思いやるが、のんびりした生活を送ってきた両親と、都会で生きる子供たちとでは生活のリズムが違いすぎて、少しずつ溝ができていく。そんななか周吉は同郷の友人を訪ね、断っていた酒を飲み過ぎて周囲に迷惑をかけてしまう。一方、とみこは将来が心配な昌次のアパートを訪ね、結婚を約束した紀子を紹介される。翌朝、とみこは上機嫌で幸一の家に戻って来るが、突然倒れてしまう … 。 つれない子供たちの態度に、仕方ないと思いながらも、淋しさを抱く父と母。親を気にかけながらも仕事に追われる長男と長女、いくつになっても口うるさい父親につい反抗してしまう次男。大切なのに煩わしい。誰よりも近いはずなのに、時々遠くに感じてしまう。そんな、どの年代のどんな人が見ても、「そうそう、うちもそう」と思わず共感してしまうシーン … 。 これは、あなたと、あなたの家族の物語です。 口数が少なく頑固だが一本筋の通った父、周吉を演じるのは、味わい深い演技で幅広い役柄に扮してきた橋爪功。 おっとりしていて茶目っけのある母とみこには、品の良さと親しみやすさをあわせ持つ吉行和子。 長男の幸一には西村雅彦、妻の文子に夏川結衣、長女の滋子に中嶋朋子、その夫の庫造に林家正蔵が扮しています。 次男の昌次には日本の若手俳優を代表する存在となった妻夫木聡、その恋人の紀子に『おとうと』に続く山田監督作品出演となる蒼井優。さらに、小林稔侍、風吹ジュンら実力派キャストが顔を揃えました。 音楽は山田組初参加となる久石譲。優しく抒情的な旋律で、家族のエピソードを際立たせています。 慈しむように、寄り添うように丁寧に映し出される、どこにでもある家族の風景。切なく希望に満ちたエンディングの後に込み上げるのは、「家族に会いたい」という想いです。 ものがたり 2012年5月、瀬戸内海の小島に暮らす平山周吉(橋爪功)と妻のとみこ(吉行和子)は、子供たちに会うために東京へやって来る。品川駅に迎えに来るはずの次男の昌次(妻夫木聡)は、間違って東京駅へ行ってしまう。せっかちな周吉はタクシーを拾い、郊外で開業医を営む長男の幸一(西村雅彦)の家へと向かう。 「全く役に立たないんだから」と、不注意な弟に呆れる長女の滋子(中嶋朋子)。掃除に夕食の準備にと歓迎の支度に余念のない幸一の妻、文子(夏川結衣)。やがて周吉ととみこが到着し、大きくなった二人の孫に驚く。ようやく昌次も現れ、家族全員が久しぶりに顔を合わせ、夕食のすき焼きを囲んだ。 日曜日、幸一は次男の勇を連れて、両親をお台場から横浜見物へと連れて行く予定だった。ところが、患者の容体が悪化し、急な往診に出かけることになる。とみこは、すねる勇と公園へ行くが、まだ9歳なのに将来をあきらめている孫の言葉に溜息をつく。 周吉ととみこは、今度は滋子の家に泊まりに行く。美容院を経営している滋子は、忙しくて両親をどこにも案内できない。夫の庫造(林家正蔵)は、周吉のことを「学校の先生だったから話が理屈っぽい」と煙たがっていたが、駅前の温泉へと連れ出す。 滋子に頼まれて、両親に東京を案内する昌次。と言っても、東京の名所を巡る遊覧バスに乗せただけで、自分は疲れて居眠りをしている。帝釈天参道の鰻屋で、昌次が注ごうとしたビールを断る周吉。昔は相当な酒飲みで酒癖も悪かったが、幸一から忠告されてキッパリと断酒したのだ。舞台美術の仕事をしている昌次に、将来の見通しはあるのかと問いただす周吉。「この話はやめよう」と突っぱねる昌次。周吉は昔から昌次に厳しく、昌次はそんな父が苦手だった。 その頃、滋子は訪ねてきた幸一にある提案をしていた。忙しくて両親の相手も出来ないから、お金を出し合って横浜のホテルに泊まってもらおうというのだ。 横浜のリゾートホテルの広い部屋で、何もすることがなくただ外を眺める周吉ととみこ。周吉はネオンに輝く観覧車を見て、結婚する前に二人で観た映画『第三の男』を懐かしむ。 寝苦しい夜が明け、周吉ととみこは二泊の予定を切り上げて、帰ってきてしまう。そんな両親に、うちで商店街の飲み会を開くから、今夜はいてもらっては困ると言い放つ滋子。周吉は同郷の友人、沼田(小林稔侍)宅へ、とみこは昌次のアパートへ行くことにする。「なかなか親の思うようにはいかんもんじゃの」と、周吉はつぶやく。 久しぶりの母親の手料理を美味しそうに食べる昌次を、嬉しそうに見守るとみこ。その時、母に紹介しようと呼んだ、恋人の間宮紀子(蒼井優)が現れる。とみこはすぐに明るい笑顔の紀子を気に入る。紀子が帰った後、昌次はボランティアで行った福島の被災地でひと目惚れしてプロポーズしたことを打ち明ける。紀子をすっかり信頼したとみこは、翌朝出勤前に朝食を届けてくれた彼女に、もしもの時にとお金を預ける。 一方、周吉の方は大変なことになっていた。沼田に宿泊を断られた上に泥酔し、周囲に大迷惑をかけたのだ。幸一の家でようやく落ち着いたところに、とみこが満面の笑みで帰ってくる。ところが、何があったかを話す前に、とみこは突然倒れてしまう … 。 クランクイン まで 2011年、山田洋次監督の新作が動き出していた。タイトルは『東京家族』。これまで家族を描き続けてきた山田監督が、監督生活50周年を迎え、敬愛する小津安二郎監督の名作『東京物語』(1953年)をモチーフに現代版『東京物語』に取り組むことになったのだ。 『東京物語』は戦後の復興から高度経済成長へ突き進んでいこうとしていた昭和28年の作品。脚本は、時代も風景も変わった今の東京に設定を変え、「現在の家族のあり方」をテーマに書き上げられた。 撮影の準備作業が佳境に入っていた3月11日、東日本大震災が発生した。そして、それに続く原発事故 … 。4月1日のクランクインは間近に迫っていた。しかし、未曾有の深刻な事態を目の当たりにした山田監督は「このまま映画をつくっても現代の日本は描けない」と苦渋の末に、撮影の延期を決断したのだった。 2012年、キャストや配役が一部変更になり、あらたに動き出した山田組。その間、山田監督は、南三陸町(宮城県)、陸前高田(岩手県)といった被災地をめぐり、日本の震災以後の状況を見つめた上で脚本に手を加えていた。 2月27日、スタジオに全スタッフが集められた。撮影前のオールスタッフ会議、山田監督が語りかけた。 「『東京家族』は、現代を描くドラマだから、今の日本人のあり方と家族のあり方が表現として浮かび上がってくるようにしたい。震災前後で日本人の考え方は大きく違ってきている。そのことは、はっきりとはストーリーに出ないけれど、スタッフ、キャストひとりひとりが震災の問題を心に持っていれば、それがそのまま震災以後の香りになると思うし、そういうつもりで映画に取り組んでもらいたいと思います」。 撮影は3月から5月末までの三ヶ月間、主に東京、砧の東宝スタジオ内セットで行われた。 ※ 東京は遠きにありて思ふもの 間近にみれば胸のふさがる ◇ 山田洋次監督( 1931年生まれ ) 大阪府出身。1954年、東京大学法学部卒。同年、助監督として松竹入社。61年『二階の他人』で監督デビュー。69年『男はつらいよ』シリーズ開始。他に代表作として『家族』(70)、『故郷』(72)、『同胞』(75)をはじめ、第1回日本アカデミー賞最優秀監督賞他6部門受賞の『幸福の黄色いハンカチ』(77)、『息子』(91)、『学校』(93)などの名作がある。 2002年、藤沢周平原作の本格時代劇『たそがれ清兵衛』は、第26回日本アカデミー賞15部門をはじめ日本の映画賞を総なめにし、第76回米国アカデミー賞外国語映画部門ノミネートを果たした。続く、『隠し剣 鬼の爪』(04)は、第55回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品、第7回ジンバブエ国際映画祭最優秀作品賞を受賞した。2006年『武士の一分』の大ヒットに続き、『母べえ』(08)も大ヒットを記録、第58回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され話題に。2010年には10年ぶりの現代劇となる『おとうと』が公開、第60回ベルリン国際映画祭のクロージング作品として上映、特別功労賞にあたるベルリナーレ・カメラを受賞。同時に2007年より客員教授を務める立命館大学映像学部の学生たちと作り上げた『京都太秦物語』も上映され、大きな話題を集めた。 演劇では、2007年歌舞伎作品『人情噺文七元結』を補綴し新橋演舞場で上演、監督作品としてシネマ歌舞伎でも上映される。2010年本格的な舞台脚本・演出を手がけた『麥秋』が新派公演として上演され、2012年1月には第二弾として『東京物語』が上演された。毎日芸術賞、菊池寛賞、朝日賞、96年に紫綬褒章、04年に文化功労者に選ばれ、08年より日本藝術院会員となる。12年、文化勲章を受章。 ※ 今日の我々が観た場合、『東京家族』こそが『東京物語』なのだ。 ※ TOHOシネマズ モレラ岐阜 2013/01/21 12:25〜15:00
|

- >
- エンターテインメント
- >
- 映画
- >
- 映画レビュー


