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◇ 映画 「砂の器」 と 「ROOM」 との共観性 先日、「ROOM」と言う映画を観た。心が激しく揺さぶられ、涙した。(4/8) そして、かねてより私の心の奥底に、深く濃い陰影を落としていた映画「砂の器」の心象風景の意味を諒解した。
そこは、完全に閉塞された小さな「部屋」であり、全世界であった。
映画監督・原田眞人の評:母が子を世界に送り出した瞬間、屈指の名作が生まれた。繊細で知的かつスリリングな演出と演技。魂の解放を扱った映画の最高峰だ。
「最初に車が止まった時に飛び降りなさい!」
悪意の誘拐犯は、不況下の影響で既に失業していた。それを知らされた母親は、いつか自分たち親子が小さな「部屋」の中で、人知れぬまま餓死する様を脳裏に浮かべた。 ・・ 座して死を待つよりも ・・ 、ワンチャンスの賭けに母子の命運を全て託す決心をする。自分の息子に「死体」を演じさせ、誘拐犯に息子を「外の世界」へ捨てさせるのだ。「体を転がして、巻かれた敷物から出るの!」「助けをもとめて!」 世界はかくも広大だった。恐ろしいまでに膨大であった。心が壊れそうだった。 理解できぬ事柄が一時に、余りにも大量に、心の中に一気になだれ込んできた。 【追記】2016/04/27:再度鑑賞 誘拐犯に拉致監禁されて7年、その間に生まれた男の子ジャックは5歳の誕生日を迎えていた。決死の覚悟で死地を脱した母子は、その後しばらくはメディアにさらされた。母親は極端にナーバスになり、ジャックとの母子関係も不安定になる。特に母親自身が、その両親との関係で軋轢を作りだしてしまう。 「外の世界」になじめないのは、ジャックだけではなかったのだ。 母子二人は、「ROOM」を再訪する。 「縮んでしまったの?」。 ジャックはこれまでの5年間、全世界だと思っていた「ROOM」の余りの小ささに驚く。おもだった備品は、既に証拠品として警察が搬出していた。がらんとした部屋は、なおさらに小さく感じられた。 ジャックは言う。ドアが開いているなんて「ROOM」じゃない! 母親は言う。「閉まっていた方がいいの?」 ジャックが言う。 「NO!」 母子の再生がゆるやかに動き出す・・・
Speaking words of wisdom Let it be
余りにも過酷だった父子の半生。ライを患う父を支えながら、各地を流浪する息子・秀夫。 昭和の前半、差別の意識は今よりも遥かに苛烈なものだった。行く土地土地で邪険にされ、石を投げつけられた。お地蔵さんへの供物で飢えをしのぐような、あてもない遍路の旅路。 後に秀夫は、自身の過去を完全に抹殺する。それはまた、父の遺志でもあったのだ。 息子に父の汚辱を負わせたくないという、切なる親心だった。 絶対に人に知られてはならぬ親子の「秘密」を、秀夫は周到に抹殺したのだった。 筆舌に尽くしがたい辛酸を味わった父子、その半生は思い出したくもない過去であった筈だ。父はやがて入院して、療養生活に入った。そして、息子には絶対に自分の居場所を教えないで欲しいと強く願う。 だが、少年・秀夫は、父に捨てられたとの思いを強く抱いた。父への思い止み難く、秀夫は親切に面倒を見てくれた巡査の家を出奔するのだった。 誠実この上ない元巡査を、親子ぐるみでお世話になった大恩ある元巡査を、作曲家・和賀英良となった秀夫は、殺害するに至る。それも、あまりにも惨たらしい方法で---。 事件発覚後、捜査は怨恨の線で進められるが、元巡査には褒められるべき点は多々あるものの、人に恨みを受けるような人物では全くなかったのだ。捜査陣は怨恨を捨てた。 ここから、犯罪に至る動機にこそ、その人間性が顕在化するという清張の作風が遺憾なく発揮されるのだ。 知らず、「人間の業」と言う言葉を想起する。ひたすらに悲しい響きがある。水上勉の「飢餓海峡」と双璧をなす作品だ。まさに人間とは、「悲の器」なのか。 「ROOM」では、外の世界を知った少年が欣喜雀躍として生を謳歌する。対して母親は、完璧に自分だけの存在だった息子が、急に遠くへ行ってしまったような疎外感に気落ちする。母親は、監禁状態の頃の濃密な親子関係を懐かしむ。 「砂の器」では、最も過酷な時期こそ人生の喜びであったと回想するに到る。父・千代吉は、永遠に忘れられぬ旅でしたと、最後に描いた絵の裏側に書き遺した。和賀英良はその文言に号泣し、「父さん、なんで僕を捨てたんだ!」と絶叫する。いちばん悲惨で過酷な時代こそが、その人間を創りだしていた。傍目にはどれほど辛そうでも、当事者には相応の充足感があったのだ。 私の人生にも、「砂の器」や「ROOM」にも比すべき時代があったやに思われるのだ。 「ROOM」を観て、そのことに気付いた。古稀を目前にして、それに気づくことができて大いに喜んでいる。わたしの人生に感謝できる。 鐘楼にあひよる母の下駄音が 今もなほ吾が胸に響くなり ・・・ 合掌 BGМは、ピエトロ・マスカーニ 作曲『 Intermezzo 』(間奏曲)
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2016年04月11日
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