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映画『薄氷の殺人』

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【2014年/中国・香港/106min.】
<1999年>
中国北部。いくつもの部位に切り刻まれた遺体が、遠く離れたあちこちの石炭工場で発見される。
被害者は、梁志軍という男性だと判明。
この怪事件を担当する刑事の張自力は、捜査する中、同僚二人を殺され、自分も大きな怪我を負う。

<2004年>
心身共に深い傷を負い、警察を去り、今ではすっかり工場のしがない保安係に成り下がっている張自力は
友人の刑事・小王から、不可解な話を聞く。
2001年、2004年と、新たにまた2件のバラバラ殺人事件が起き、
被害者はいずれも、5年前に殺された梁志軍の未亡人・吳志貞と関係のあった男性だというのだ。
張自力は、真相を探るため、3件の殺人事件に関わる吳志貞を追跡し始める…。
 
 
2014年、第64回ベルリン国際映画祭で、最高賞・金熊賞と、銀熊賞・主演男優賞をダブル受賞した
中国映画が日本上陸。2015年日本公開作品の中でも、特に楽しみにしていた一本。
 
本作品で一気に国際的知名度を上げた刁亦男(ディアオ・イーナン)は、これが監督作品3本目。
前の2本、『制服〜Uniform』(2003年)と『夜行列車〜Night Train』(2007年)も海外で受賞しているけれど
日本で作品が紹介されるのは、今回がお初。
脚本を手掛けた作品なら、『スパイシー・ラブスープ』(1997年)や『こころの湯』(1999年)が公開されているが
いずれも私が苦手な人情モノ…。
実はこの苦手な2本は、2歳年上の蔡尚君(ツァイ・シャンジュン)らと共に執筆しているのだけれど
その後、蔡尚君が監督し、2011年、第68回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を獲得した『人山人海』
あの人情モノとは似ても似つかない秀作であった。
刁亦男が監督したこの『薄氷の殺人』も、私は観る前から
過去に彼が脚本を手掛けた人情モノとは異なるニオイを嗅ぎ取り、楽しみにしていたのだ。
 
 
 
1999年から2004年の5年の間に、中国北部で、3件のバラバラ殺人事件が発生。
心身共に疲れ果て、自堕落な生活を送っていた元刑事の張自力は
被害者が全員、吳志貞という女性と深い仲にあったと知り、独自に捜査を開始。
疑惑の女・吳志貞にみるみる惹かれ、揺れながらも、事件の闇に迫っていクライム・サスペンス
 
怪事件である。1999年、最初の事件では、殺された一人の男のバラバラに切断された体の部位が
ほぼ同時に6都市の石炭工場で次々と発見されるのだ。
犯人が一人で運ぶのは、物理的に不可能。
では、どうやって?映画の序盤では、その謎解きが、本作品最大の山場かのように思える。
 
ところが、事件が未解決のまま、その後も2001年と2004年に類似のバラバラ殺人事件が発生。
5年の間に殺された3人の被害者は、なんと全員が吳志貞という女性と関係があった男性。
日本にも有る、有る、“あの女の周辺の男性が次々と死んでいく…”という怪事件…!
こういうのは十中八九保険金殺人なのだけれど
本作品の疑惑の女・吳志貞には保険金太りした様子が無い。
 
ここでは明言を避けるが、まぁ、吳志貞がモテ女じゃなかったら起きなかった事件、…かも。
真相解明のために吳志貞を追う元刑事・張自力まで、彼女に魅了されていく。
ミミイラ取りがミイラに…?!
いや、惚れた素振りも、実は張自力の作戦で、本当は吳志貞を利用しようとしているのか?
負け犬・張自力が警察に返り咲き、人生をもう一度やり直すためには
未解決事件を解明して、手柄を立てる必要があるのだ。
 
逆に、張自力に追われていることに気付き、嫌悪感を表していたにも拘わらず、
結局は案外あっさり彼を受け入れた吳志貞の心も読めない。
惚れっぽいのか?人生に疲れ切り、支えになる男性を欲していたのか?
それとも、何か重大な事実を隠蔽するために、張自力を手なずけておく計算?
いや、それとも、張自力を4人目の被害者にする罠…?!
 
簡単には割り切れない人の感情や背後の人間ドラマが、犯罪劇に巧みに絡む。
事件が一定の解決に行き着いても、勧善懲悪とはいかないものなのだ。
 
 
 
本作品は、映像も魅力的。
 
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特徴的なのは、作品の大半が夜のシーンであること。
雪と氷に閉ざされた中国北部の寒々しい夜に、チープに光るカラフルなネオンがシュール。
中国の発展から取り残された殺風景な街にポツリと佇む
理髪店、飲食店、ダンスホールといった施設に漂う寂れた“場末感”が、これまた得も言われぬ雰囲気を醸す。
 
 
 
 
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出演は、結婚にも仕事にも失敗した元刑事・張自力に廖凡(リャオ・ファン)
関わった男3人が殺されている疑惑の女・吳志貞に桂綸鎂(グイ・ルンメイ)
石炭工場で軽量係りをしていた吳志貞の夫・梁志軍に王學兵(ワン・シュエビン)
吳志貞が働く榮榮クリーニング店の店長・何明榮に王景春(ワン・ジンチュン)
張自力の友人で刑事の小王に余皚磊(ユー・アイレイ)
張自力の元妻・蘇麗娟に倪景陽(ニー・ジンヤン)などなど…。
 
廖凡は大好きな俳優。近年日本にもぼちぼち出演作が入って来てはいるけれど
それらは、廖凡の個性や演技力を充分に生かしていない“廖凡の無駄遣い”とも感じられる作品で
私はやや不満であった。
本作品でようやく納得…!さすが、これでベルリン銀熊賞を掴んだだけのことはあり、廖凡を堪能できる作品。
扮する張自力は、別れた妻に未練タラタラ、仕事も上手く行かず、全てに精彩を欠いた駄目男。
実は自分でも負け犬を自覚しており、返り咲きへの野望を抱き、疑惑の女に接近するも、
影のある美しい彼女ににヨロメいてしまい、結局アナタの真意はどこなのヨ?!と思わずにいられない。
役作りで10キロ増量し、普段よりキレのない廖凡のグダグダっぷりがよろしい。
終盤ひとりで踊るシーンも印象に残る。歐陽菲菲(オーヤンフィーフィー)の<嚮往>に合わせ
見る者を戸惑わせる妙なオリジナルダンスを一心不乱に踊るあの姿で
廖凡は銀熊賞を掴み取ったんじゃないの…?!と思うほど。
いわゆる美男子ではないけれど、狂気と色気を宿した廖凡は
やはりクセのある男をやらせたらピカイチの俳優でございました。
 
本作品は、桂綸鎂にとっても間違いなく代表作になるであろう。
桂綸鎂は、“映画女優”として成り立っている昨今珍しい台湾の女優であるが
国際的に認められる作品は案外少ない気がする。
南国育ちの桂綸鎂が、真冬の中国東北地方で、中国東北人を演じるのは挑戦だっただろうし
アイススケートの習得にも苦労したらしい。
スケート場なのだか一般道なのだか区別がつかない場所でも、ピューピュー自然に滑っているから
まったく滑れない私はビックリ。まるで子供の頃から氷上に慣れ親しんで育った人のよう。
それに、桂綸鎂の良く言えばサッパリ顔、悪く言うと“薄幸顔”が
影が有ってミステリアスで、男性が思わず手を差し伸べたくなってしまう儚げな女性・吳志貞にぴったり。
 
そんな桂綸鎂扮する吳志貞が働くクリーニング店、榮榮洗衣店の店主、何明榮役の王景春は
『オルドス警察日記』の演技で、2013年第26回東京国際映画祭・主演男優賞を受賞した俳優。
本作品では、決して大きな役ではないけれど、少ない登場シーンで記憶に焼く着く存在感。
何が印象的って、洗濯屋のエロおやじの頭上に不自然にのったズラに目が釘付け…! 
まだ中年だった頃の財津一郎に少し似ているかも。
 
 
 
 
本作品を推理モノとして捉えると、特別複雑ではなく、むしろ単純な話と言えるかも知れない。
でも、俳優の演技が素晴らしい上、シビレるカットの連続。
雪と氷に閉ざされた緊迫したシーンの中で、時折りフッと息をつけるユーモラスなシーン…。
そういう全ての要素が重なり合って築き上げられた作品の世界観に、ハートをワシ掴みにされましたワ。
近年日本で公開される中国映画が、歴史超大作やアクション巨編に偏りがちで、辟易していたので、
久し振りにガツンとやられた感じ。
まだ1月なのに、2015年の私のベスト10にきっと食い込むであろう作品を観てしまった気分。
『スパイシー・ラブスープ』『こころの湯』の脚本コンビ、蔡尚君と刁亦男、お二方とも、
自分のために、思い入れをたっぷり詰め込んで撮る自身の監督作品は
他人様のために書いた人情ドラマとはまったくテイストが異なり、比べ物にならないほど優れている。
これを機に、蔡尚君監督の『人山人海』も公開してくれれば良いのに…。
 
上映期間が長く続いてくれるなら、空いた頃にもう一度スクリーンで観てみたい。
今回は、「いくら公開初日でも、朝9時半の回なら空いているだろう」と高を括って新宿武蔵野館へ行ったら
すでにチケット売り場の前に想定外の長蛇の列…。
一般ウケの良さそうな作品ではないし、大して宣伝をしているようには見受けないのに
この人の入りは、やはりベルリンでのダブル受賞効果?

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こんにちは。先日観てきました。
色彩とか場面の切取り方・切替え方等々、キレのいい映像の連続で見応えあったのですが、後半ちょっと難しい点が…

まず、終盤の食事会での笑顔満開のジャン…やけに冷酷に見えて、真意がわからず混乱してしまいました。
それと、肝心な「原題」「ナイトクラブの店名」「最後のシーン」に込められた意味がいまいちわからず、情けないやら悲しいやら。
それでもぐいぐいひきこまれ、ベルリン2冠は納得です。

グイ・ルンメイの存在感も圧巻で、全体の凍てつき加減と相性抜群でしたね。
赤っ鼻でもマフラーぐるぐる巻きで顔半分隠れていても、いちいち絵になってました。
肌の露出ほぼなし(むしろ厚着)なのに、あの妖艶さはすごいです。

2015/2/25(水) 午後 8:55 [ ひょこ ]

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ひょこさん:
こんにちは。ひょこさんも『薄氷の殺人』御覧になったのですね。
万人ウケする作品ではないでしょうから、誰にでも勧められるとは思いませんが
私はかなり気に入りました。

こういう映画は、観る人それぞれに解釈があるものですよね。
“白日焰火=白昼の花火”は、虚構、現実離れしたちょっと嘘くさいもの、
それでいて、人生に疲れた人にとっては、逃避になる一瞬の儚い夢のように感じました。
ド田舎の真っ暗な夜に、そこだけギンギンに光るネオンで浮いているナイトクラブは
まさに“白日焰火”の名に相応しい虚構の楽園だと感じましたし
吳志貞も最後のシーンであの白昼の花火を見て
どこか救われた気分になったのではないかと想像いたしました。

2015/2/26(木) 午後 5:09 mango

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原題の意味、なるほどです。ありがとうございます。映像を思い出すと、改めて切ないようなほっとするような不思議な気分になりました。鑑賞中は、考えているうちにおいていかれないように結構集中していたので、ヅラのクオリティとか結局入れ替わったままのバイクとか、ところどころ和めてありがたかったです。

来月、大阪アジアン映画祭で一足先に『アバディーン』を観て参ります。『軍中楽園』『単身男女2』も押さえて、『いつかまた』『全力スマッシュ』は検討中、『黄金時代』『セーラ』は迷っているうちに候補日の前売完売…『薄氷の殺人』に続いて存分にアジア(特に香港)を注入して参ります!張孝全トークイベントはあっという間に完売だったようで…狭い会場だと思うのでめちゃくちゃ贅沢な空間になりそうです。立見席の設定希望です。

2015/2/26(木) 午後 9:33 [ ひょこ ]

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ひょこさん:
いえ、あくまでも私の勝手な解釈なので
刁亦男監督の思惑とは大分ズレている可能性も大いにアリです。
ひたすらへヴィと思われがちですが、爆笑とはいかないまでも、
所々にユーモアが感じられる作品ではありますよね。
クリーニング店店主のズラは勿論のこと、張自力&吳志貞が3D眼鏡をかけ、
映画館で並んで『俠女十三妹』を見ている画とか、なんか可笑しかったです。

ところで、大阪アジアン映画祭で『アバディーン』とは羨ましい!
彭浩翔も来るんですよね。
“国際”と銘打っているのが小っ恥ずかしいほど
ドメスティック化が進んでいる東京国際映画祭より
今や大阪アジアン映画祭の方が、上映ラインナップも来日ゲストも豪華に感じます。
楽しんできて下さいねー!!

2015/2/27(金) 午後 5:00 mango


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