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【2016年/中国/143min.】
1940年代、重慶の樹華農場。
雇われ主任・丁務源は、従業員のサボリや小遣い稼ぎも、多少の事には目を瞑るし、
オーナー・許の第三夫人とも上手く付き合い、農場を円滑にまとめている。
しかし、そこそこの収穫はあっても、なかなか収益に結びつかず、経営状態は上々とは言い難い。
そんな時、裕福な父をもつという青年・秦妙齋がやって来て、当分ここで暮らしたいと申し出る。
家賃を取れば、農場の収入の足しになると考え、早速空き部屋を秦妙齋に貸すことにした丁主任。
話が上手く、すぐに第三夫人や、夫人と親しい妙齢の女性・佟逸芳とも親しくなる秦妙齋。
農場は一時賑やかになるが、佟逸芳の父親である、もう一人のオーナーが、
一向に黒字に転じない丁主任の経営に不満を感じ始め、
ついには尤大興という男を新たな主任として雇い、農場に送り込んでくる。
ヨーロッパで学位をとった尤大興は、これまでのいい加減な経営を一から立て直そうと鉈を振るい、
樹華農場の雰囲気はガラリと変わっていくが…。



第29回東京国際映画祭、コンペティション部門に出品された中国映画、
『ミスター・ノー・プロブレム〜不成問題的問題 Mr.No Problem』を鑑賞。

本作品を監督したのは、梅峰(メイ・フォン)
数多くの婁(ロウ・イエ)監督作品で脚本を手掛け、
特に『スプリング・フィーバー』(2009年)では、第62回カンヌ国際映画祭・脚本賞まで受賞した、あの梅峰が、
自身で初めて監督したのが本作品。

私は元々梅峰が脚本を手掛けた婁監督作品が好きだったので、この初監督作品にも興味が湧いた。
もちろん、優れた脚本家が優れた映画監督になるとは限らないけれど、何かビビッと来るものを感じ、
今回の東京国際映画祭で最も観たかった作品の一つだったのだ。
上映終了後には、梅峰監督をはじめとするスタッフ、キャストによるQ&Aを実施。(→参照
そして、映画祭最終日、結果的にこの作品は、最優秀芸術貢献賞を受賞。おめでとうございます。



著名な脚本家・梅峰が映画初監督に乗りだすのだから、
さぞや力を入れてオリジナルストーリーを書き下ろすのかと思いきや、
実は老舎(1899-1966)が1943年に発表した同名短編小説<不成問題的問題>の映画化。

梅峰が、敢えて老舎を選んだ理由は、一つには、老舎の死から今年がちょうど50年という節目の年だから、
もう一つには、この映画は、北京電影學院・青年電影製片廠(青年映画制作所)の
人材育成プロジェクトの一環として企画された作品だから、
また、40年代から題材を取りたかったという考えもあったようだ。

そんな訳で、本作品には、俳優でもスタッフでも、
卒業生だの先生だの、多くの北京電影學院関係者が携わっている。
梅峰監督自身、北京電影學院の文学系で教鞭をとっている先生。

まぁ、このような事情から映画の原作に選ばれた老舎は、日本でも名の知れた作家ではあるけれど、
パッとタイトルが出て来る著作は<駱駝の祥子>くらいなので、
この映画の原作<不成問題的問題>を日本語訳で読むのは不可能だと思い込んでいたら、
<問題にななぬ問題>という邦題で、短編小説集<東海巴山集>に収録され、
岩波書店から出ていることが判明。
短編小説なら映画鑑賞前にササッと読んでしまおうと考えたが、
すでに絶版になっており、新書で簡単に入手できず、断念。
結局、どのようなお話かまったく知らぬまま映画鑑賞。



舞台は、抗日戦争期、国民党の本拠地であった重慶郊外にある樹華農場。
そのような時代背景でありながら、爆弾が落ちてきたり、日本兵が登場することはなく、
樹華農場が戦争とは無縁のユートピアにさえ感じる。

物語は、従業員たちと和睦を計りながら農場を仕切る雇われ主任の丁務源を軸に、
丁主任のもとで会計係を務める李三明、
家賃収入を得るため、丁主任が空き部屋に住ませるようになった自称芸術家の男・秦妙齋、
そつなく仕事をこなす丁主任にそれなりに満足している農場所有者・許の第三婦人、
一向に赤字経営が改善しないことで、丁主任に不満を抱く、もう一人の農場所有者・佟、
その農場経営者・佟が新たに雇った主任・尤大興、佟の年頃の娘・佟逸芳など、
樹華農場を舞台に、そこに関わる人々が織り成す悲喜こもごもをモノクロの映像で綴った群像劇


物語は3部構成になっており、
それぞれ丁務源主任、自称芸術家・秦妙齋、尤大興新主任を中心に展開。

第1章の主人公・丁主任は、映画の最初から最後まで登場する本作品の最重要人物でもある。
この丁主任が、曖昧とも思える昔ながらのやり方で、円滑な人間関係が築かれていた農場に、
新風を吹き入れ、ちょっとした波風を発たせるのがあとの二人。
特に、最後にやって来る尤大興新主任は、丁主任とは正反対で、
合理的な方法で農場経営を立て直そうと試みる。
丁主任が旧時代の象徴なら、この尤大興新主任は新時代の象徴のような男。


また、作品の特徴では、白黒映像という以外に、まるで昔の映画のような雰囲気があったり、
随所に“舞台的”な要素も感じられる。
例えば、幕が上がって早々、“范偉・・・丁務源”といった具合に、主要キャストのクレジットが映し出される所は、
非常に単純ではあるが、今時有りそうで無い演出が新鮮だったし、
この人たちが、これからどういうお芝居を見せてくれるのだろう?という期待も膨らんだ。





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出演者は、まずは、3部構成各パートで中心的人物になっている男性から見ていくと、
樹華農場の雇われ主任・丁務源に范偉(ファン・ウェイ)
樹華農場の空き部屋に住みだす自称芸術家の秦妙齋に張超(チャン・チャオ)
そして、丁主任に不満を抱く農場所有者・佟が新たに雇った主任・尤大興に王瀚邦(ワン・ハンバン)

見た目通りの純朴なオジちゃんから、その見た目を逆手にとった悪人まで、
今や中国映画で引っ張り凧の喜劇舞台出身俳優・范偉。
今回演じている丁主任は、農場の作業員たちには、上司面せず、理解を示し、
自分より立場が上の者には、おべっかを使い、色んな事を“なーなー”で済ませ、場を丸く収める。
言動に計算が見え隠れし、完全に清らかな好人物とは言い切れない、
善90%+悪10%くらいの“そつの無い男”を、范偉が飄々と好演。
范偉は、本作品の演技が認められ、明日、2016年11月26日に発表を控えている第53回金馬獎では、
最優秀主演男優賞にノミネートされている。



その丁主任が、賃料を取って、農場の収入の足しにしようと考え、空き部屋に迎い入れたのが、
裕福な父をもつ、自称芸術家の青年・秦妙齋。
“自称”芸術家というのが可笑しい。本人は芸術家気取りで、彫刻、絵画、詩と幅広く手掛けると言っているが、
誰も彼の作品を見たことが無いので、“自称”芸術家。

扮する張超は、オーディション番組『加油好男兒(頑張れイイ男)』で注目された歌手出身。

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私が演じている彼を見たのは、脇役で出演した(↑)『あの場所で君を待ってる』(2015年)一本のみ。
身長188センチの完璧な二枚目で、主人公を演じた吳亦凡(クリス・ウー)より目に付いたが、
演技経験はまださほど多くなく、未知数。
ましてや、文芸作品なんかに対応できるの?と心配になったが、いざ見たら、非常に良い。
秦妙齋って、本当に軽薄な男なのだけれど(最後に政治犯として捕らえられてしまうので、
実はまったく何も考えていないわけではない)、嫌味なほど美男な張超が軽妙に演じることで、
愛されキャラになっている。“憎めないチャラ男”って感じ。
見ているこちら側が、心のどこかで“上手くて当然”と思ってしまう共演のベテラン俳優たちと違い、
張超は何の期待も無く見た分、「えっ、この人、こんなに面白かったの?!」、「演技、案外イケている!」
という意外性があって、余計に印象に残った。



新主任・尤大興を演じる王瀚邦という俳優は、見覚えがあるのに、それが誰だか分からなくてモヤモヤ。
本作品は、東京がワールドプレミアなので、ネット上にも情報がほとんど無く、モヤモヤが続いたのだが、
最近になってようやく判明。

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『宮廷の諍い女〜後宮甄嬛傳』で華妃に仕える片足が不自由な太監・周寧海…!あぁ〜、スッキリ!
『宮廷の諍い女』では“王一鳴(ワン・イーミン)”の名でクレジットされており、
その後芸名を変えていたため、なかなか情報が引っ掛からなかった模様。
(今更だが、『諍い女』の周公公の片足が不自由という設定は、彼本人が考えたんですって。)

今回演じている尤大興新主任も、どちらかと言うと悪役である点では、
『宮廷の諍い女』の周公公とも共通だけれど、
身体が不自由でしかも太監という立場上、狡猾で卑屈になったであろう周公公とは違い、
西洋で学んだ尤大興新主任は、自信にあふれた理知的な人。
ただ、理知的な人が正しい事を言えば、皆が納得するかというと、そうではなく、むしろ反感を買い、
結局は丁主任に負けてしまう。
近代的合理主義が、必ずしも前時代的な非合理主義より優れているとは言えず、
むしろ曖昧な余白を残した方が、人々が幸せでいられるという点は、アジア的で日本にも通じる。





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続いて、女性キャスト。
農場所有者・許の第三夫人、沈月媚に史依弘(シー・イーホン)
もう一人の農場所有者・佟の娘で、第三夫人とも親しい佟逸芳に王梓桐(ワン・ズートン)
そして、尤大興新主任の妻・名明霞に殷桃(イン・タオ)

この中で、原作小説に登場するのは、尤大興新主任の妻・名明霞のみ。
あとの二人は、映画のために設定された新キャラクター。
女性二人の追加は、物語の中で、男女のバランスをとりたいという考えもあったようだ。

映画の中の農場所有者・許家では、第一夫人は姿を現さず、第二夫人はすでに故人、
原作には存在しない第三夫人・沈月媚だけが唯一登場する奥方。
演じている史依弘は、シュッ!と背筋がのび、サバッ!としたイイ感じ。
40代の中堅に見えるが、その割りには見覚えが無いと思ったら、
上海京劇院に所属する京劇女優で、映画は初出演なのだと。
劇中、第三夫人が披露する<貴妃醉酒>も、もちろん吹き替え無しで、史依弘本人が歌い舞っている。


妙齢の娘・佟逸芳の追加は、原作には無い恋愛要素を足したいという意図もあったみたい。
確かに、彼女が存在することで、自称芸術家・秦妙齋がさらに面白い人物に見えてくる。
この佟逸芳に扮している王梓桐は、すっきり涼し気な目元が印象的。
若い頃の藤井かほりを彷彿させ、昔の上品なお嬢さんの雰囲気がある。
今回、来日し、私が本作品を観に行った日のQ&Aに登壇したので、ナマでも見たのだが、初々しかった。
私は、白百何(バイ・バイフー)や王珞丹(ワン・ルオダン)のようなスッキリ顔女優が結構好きなので、
この王梓桐も活躍の場が増え、有名になってくれたら、嬉しいワ。


殷桃は、この映画に出演する全俳優陣の中で、もしかして日本で一番有名かも?

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NHKで放送された田中裕子主演ドラマ『蒼穹の昴〜蒼穹之昴』
張夫人(ミセス・チャン)役で出演していたので(田中裕子の姪っ子という設定)。
この度、映画で扮する名明霞は、冷酷にも見える夫・尤大興とは違い、おとなしく儚げな印象。
知識分子の夫に引け目を感じ、少々おどおどしているようにも見える。
その分、農場の人々にしてみれば、より親近感があり、彼らと尤大興新主任の架け橋的存在にもなっている。





費穆(フェイ・ムー)監督作品『小城之春』(1948年)に近い世界観だなぁ〜と思っていたら、
後日のQ&Aで、好きなモノクロ映画を質問された梅峰監督が、その『小城之春』の名を挙げたらしい。
とてもアジア的、中国的作品なのだけれど、
他にも不思議と微かに古いヨーロッパ映画、特にフランス映画やイタリア映画の匂いを感じた。
具体的に“どの部分が”とは説明できない、“感じた”としか言えない。
梅峰監督は、パリ第8大学への留学経験もあるし、
仮に無意識下だったとしても、きっとヨーロッパの影響は受けていると感じる。
私は、戴思杰(ダイ・シージエ)監督の『小さな中国のお針子』(2002年)とか、
トラン・アン・ユン監督の『青いパパイヤの香り』(1993年)のような、一見非常にアジア的でありながら、
実は100%のアジアではなく、“ヨーロッパのフィルターを通したアジア”を感じる洗練された作品が好きなので、
この『ミスター・ノー・プロブレム』も観ていて心地よく、とても気に入った。

近年、ハリウッド並みに派手なエンターテイメント超大作をどんどん世に送り出している中国だが、
こういう文人的な芸術作品もちゃんと作られていることにも安心させられる。
惹き込まれる映像で、東京国際映画祭の最優秀芸術貢献賞は納得の受賞。

“芸術作品=退屈”と思う人は多いだろうし、実際、上映中ウトウトしちゃう人も結構居たようだが、
私には波長が合ったようで、物語の世界にどんどん入り込んでいった。
丁主任の如才ない態度や、チャラ男・秦妙齋の堂々たるお調子者っぷりに、何度吹き出してしまったことか。
農場という狭い世界の中に、時代や人間関係の風刺も効いているし、
一見地味でも、実はよく構築された物語で、梅峰はさすが優秀な脚本家だとも改めて感じた。

とにかく、色々な面で、とても上品で趣味の良い作品。
今回の東京国際映画祭で観た中では、これと『ゴッドスピード』が私のお気に入り。



第29回東京国際映画祭で上映終了後に行われた
梅峰監督、女優・王梓桐らのQ&Aについては、こちらから。

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