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映画『迫り来る嵐』

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【2017年/中国/120min.】
1997年、中国湖南省。
余國偉は、国営工場・中南鋼鉄廠で、保安部に所属する工員。
工場内で起きる窃盗事件では、必ず犯人を探し出す凄腕。
人付き合いも良く、同僚たちからは“神探”と誉められ、悪い気はしない。
ある日、工場の近所で、女性の遺体が発見される。
余國偉は早速、現場に潜り込み、馴染みの刑事・老張にも取り入り、自主的に捜査協力を開始。
老張の話では、こういう女性の遺体が発見されるのは、これで3回目。
殺害の手口から、同一犯の犯行が疑われるという。
余國偉は、部下の小劉を助手に、独自の捜査を進め、遂に犯人らしき男と接触するが…。



第30回東京国際映画祭で、コンペティション部門に出品され、
結果、最優秀芸術貢献賞と主演男優賞をダブル受賞した中国映画。

原題は、『暴雪將至 The Looming Storm』。
監督したのは、撮影出身で、これが初の長編監督作品となる1976年生まれの董越(ドン・ユエ)
上映終了後には、監督&キャストによるQ&Aあり。(→参照




物語は、1997年、中国湖南省にある国営工場の保安部に所属する工員・余國偉が、
近所で起きた連続女性殺人事件に、刑事気取りで首を突っ込み、取り憑かれたように、捜査にのめり込み、
知らず知らずの内に事態をこじらせ、負から負を生んでしまうヒューマン推理ミステリー

“1997年”と聞き、パッと思い浮かべるのは、香港返還である。
90年代の中国は好景気でイケイケのイメージがあるけれど、
1997年香港が返還され、良くも悪くも変化が求められるように。
物語の中で、主人公・余國偉と微妙な関係にある水商売の女性・燕子は、
いつか香港で自分の美容院をもつことを夢見て、「香港も簡単に行けるようになるかしら」と呟いたりする。

物語幕開けの頃、主人公・余國偉は、まだお気楽なもの。
工場内で起きる小さな泥棒事件などでは、必ず犯人を見付け出すから、
「余國偉は神探だ!」、「公安にもなれる!」と周囲に持ち上げられ、本人も満更ではない様子。
遂には、1997年度の模範工員に選ばれ、表彰される。
…が、これが彼のピーク。
その頃から、社会には徐々に暗雲が立ち込め、余國偉が務める鋼鉄工場では、大胆な人員削減。
模範工員である余國偉までもが、リストラされてしまう。

まさか自分がリストラ対象になるなど想像だにしていなかった余國偉は、
居抜きで美容院を購入し、太っ腹にも燕子にプレゼント。
その直後、リストラにあうも、燕子から「大丈夫よ、美容院があるじゃない」と慰めの言葉。
つまり、“髪結いの亭主”状態か…?
美容院の場所は、松柏街というちょっとした繁華街。
連続殺人犯が、ターゲットにする女性たちに目を付けたと言われる曰く付きのエリアである。
余國偉はたまたまこの場所に見付けた空き物件を買い、純粋に燕子を喜ばせたかっただけなのか、
はたまた、犯人をおびき寄せるために、敢えてこの場所を選び、
そこにオトリとして燕子を常駐させたかったのか…?
余國偉の行動は、どんどん読めなくなっていく。



作品の大きな特徴は、雨、雨、雨と、雨のシーンが非常に多いこと。
これ、恐らく、私が今まで観てきた作品の中で、最多降雨量映画。
スクリーンに漂う陰鬱な雰囲気は、まるで社会や主人公の閉塞感を表しているかのよう。

主な撮影場所は、湖南省衡陽市。
私、映画を観ながら、本当の雨なのか人工雨なのか考えていたのだけれど、
上映終了後のお話によると、現地ではすでに雨季が終わっていたため、人工的に雨を降らせたのだと。
昔の映画だと、“ホースで水を撒いています!”とモロ分かりの雨が結構有ったが、
最近は随分リアルになったものだ。





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主な出演は、国営工場の保安部に勤務する余國偉に段奕宏(ドアン・イーホン)
余國偉と交流する水商売の女性・燕子に江一燕(ジャン・イージャン)など。


段奕宏は、本作品での演技が評価され、第30回東京国際映画祭で、最優秀主演男優賞を受賞。

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おめでとうございます!受賞は大納得…!

この作品で、段奕宏は、変化していく余國偉で、色んな顔を見せてくれる。
最初の内は、同僚たちから持ち上げられ、名探偵気取りで、気を良くしている男。
決して悪人ではない。純朴な小者なのだ。
90年代、中国の田舎には、こんな工員がいたに違いないと思わせる。
粋がったり、頑張る様子は、ユーモラスでもある。
そんな余國偉が変わり始め、彼からユーモラスでお茶目な部分が消え、
遂には何かに憑かれたかのように、事件に固執。
目が据わり、変な気を発する余國偉は、まるで触れてはいけないナイフ。
時がぐぐーっと流れ、2008年になると、出所した余國偉からは、毒っ気が一切抜けている。
更生して優しさを取り戻したというより、生気が失われたようにも見える。
変わり続ける段奕宏の演技からは目が離せず、ホント、圧巻であった。


燕子に扮する江一燕は、薄幸顔が特徴的な女優さん。
この前に日本で公開された出演作は『修羅の剣士』(2016年)。
主人公・三少爺の元恋人という複雑な役を、薄幸顔を活かし、幽霊のような雰囲気を醸し、演じている。
そんな江一燕は、私にとっては、これまで特別好きでもなければ嫌いでもないという位置であったが、
この『迫り来る嵐』では、段奕宏のみならず、江一燕もかなり良いのだ。
儚げで幸薄い顔は、やはり今回もフルに活かされているし、
“香港行きを夢見る90年代の田舎町のお水”という役がシックリ。

余談になりますが、第30回東京国際映画祭で、Q&Aの登壇はキャンセルになったものの、
オープニングとクロージングには来てくれた江一燕。

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東京で、ちょっとした自由時間も楽しんだ模様。
ここは、渋谷の井の頭通りと公園通りが交差する場所ですよね…?



もう一人気になった脇の登場人物は小劉。

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小劉は、主人公・余國偉の舎弟みたいな青年。余國偉アニキに従う純朴な良い子。
映画を観ていて、私は、この小劉に見覚えがあると感じたのだが、思い出せずモヤモヤ。
イケメンじゃないし、どこにでも居そうな顔だから、私の気のせいかも知れない。
…ところが、気のせいではなかった。エンディングでクレジットされていた名前は“鄭偉”。
そう、主人公の子供時代などを演じ、多くのドラマに出ていた売れっ子子役の鄭偉(チェン・ウェイ)である。
特に多いのは大陸ドラマだが、台湾ドラマ『晴れのちボクらは恋をする〜幸福最晴天』にも出ているし、
映画にだって出ている。例えば(↓)こちら。

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『捜査官X』(2011年)では、甄子丹(ドニー・イェン)と湯唯の長男を演じていた。

2000年12月生まれというから、もう直17歳になるのですねぇー、あの子が。
私は鄭偉を可愛いと思ったことが一度もなく、むしろ、こましゃくれていて嫌いで、
なんでこんな子が売れているのだか理解できなかったのだけれど、
成長した彼が、この『迫り来る嵐』で演じる純朴な小劉は、とても良いの。
同世代の子役出身俳優で、美形のまま成長した吳磊(ウー・レイ)などとは違うが、
見た目イマイチでも、培ってきた経験と実力を活かせば、神木隆之介のような俳優になら成れるのでは?



最後に、ついでの作品プチ情報。
本作『迫り来る嵐』で、題字を担当したのは…

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江蘇省出身の女性書家・許靜(シュー・ジン)。この画像では、左の女性が許靜。

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張藝謀(チャン・イーモウ)監督の『HERO〜英雄』(2002年)、
陳可辛(ピーター・チャン)監督の『捜査官X〜武俠』(2011年)、
王家衛(ウォン・カーウァイ)監督の『グランド・マスター〜一代宗師』(2013年)などなど
大物監督御用達の書家でございます。ダイナミックな書!






映画の終盤、2008年、出所した主人公・余國偉が、取り壊しの決まった懐かしい工場へ足を運び、
そこでお掃除をしている老人から、自分が模範工員になったという過去を完全否定されたシーンでは、
何が現実で何が幻か分からなくなり、まるで狐にでもつままれたような気分に。
このシーンを観た後、1997年の表彰式のシーンを振り返ると、
機械の故障でステージ上に降ったニセの雪が意味深に感じられてくる。

そして、その表彰式のシーンでは…

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表彰される余國偉が、赤いおリボンを斜め掛けにしている姿も印象に残っている。
“大紅花球”と呼ばれるこの赤いおリボンは、結婚式で新郎が掛けているのをよく見るが、
会社主催の表彰式くらいのイベントでも使うのですね。
(↑の画像を見て、今気付いたのだけれど、
表彰される余國偉の後方に座っている工場の幹部って、董越監督なのでは…??)

ジャン=ジャック・アノー監督の『神なるオオカミ』(2015年)を観た時も…

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文革中、内蒙古に下放される馮紹峰(ウィリアム・フォン)が、
まるで新郎のように、胸元に付けた大きいな赤いお花に、目が釘付けになったのであった。
現代の都会でも、おめでたい時なら、結婚式以外でも、こういうお花を付ける人はまだ結構居るのだろうか。
日本には無い感じで、とても中国っぽい。


『迫り来る嵐』で、もう一つ気になったのは、居抜きで買った美容院の室内のシーン。
髪型の参考に沢山貼られたアイドルの写真の中に、酒井法子が。
のりピーばかりにどうしても目が行ってしまい、
美容院のシーンでは、ちょっとばかり集中力を欠いてしまった…。


連続殺人犯を探す推理ミステリーなのかと思いきや、
陰り始めた社会の底辺で変わっていく労働者の男を描いた人間ドラマ。
…ところが、終盤では、やはり殺人事件のタネ明かしをちゃんとしてくれており、
推理ミステリーとしても、きちんと成立。
文芸作品のようでいて、適度にエンターテインメント性もあるし、
物語が単純に面白く、俳優たちの演技も素晴らしくて、
スクリーンに釘付けになったまま、あれよあれよと言う間の2時間であった。

似た映画として、韓国映画『殺人の追憶』(2003年)を挙げる人が結構いるようですね〜。
雨の日に連続殺人事件が起きるとか、
ソン・ガンホが初盤にユーモラスな演技を見せるように、段奕宏も初盤はユーモラスだったり、
確かに通じる部分はあるかも知れない。
あと、映画がもつ雰囲気は『薄氷の殺人』(2014年)にも近いものがある。
なので、そういう作品が好きな人は、この『迫り来る嵐』も気に入るかも…?
今回の東京国際映画祭でも好評だったし、これは是非日本で一般劇場公開して欲しい。

もし、そうなった際は、日本語字幕のやり直しを希望。
中国語の人名だと、最初の一度だけ“漢字+片仮名ルビ”で出し、あとは片仮名で統一という
無意味で古臭い日本語字幕を、映画業界は一体何十年続ける気か…?!
ドラマの方では、字幕は年々改良され、進化し続けているというのに…。
今回、映画祭での上映では、日本語と一緒に英語と中国語の字幕も付いていたので、分かり易かったけれど、
日本語字幕だけなら、あれではNG。
日本人の名前なら、解読不可能なキラキラネームでも漢字で表記するクセに、
漢字の国・中国の人だと無理矢理な片仮名で表記し(←でも、歴史上の人物と政治家なら漢字という矛盾)、
“チャン”だの“チェン”だのと、わざわざ分かりにくくする悪習は、いい加減絶つべし。



第30回東京国際映画祭で上映終了に行われた董越監督+段奕宏によるQ&Aについては、こちらから。

『迫り来る嵐が』ダブル受賞に輝いた第30回東京国際映画祭閉幕式については、こちらから。

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本日新宿で観てきました。
この映画、すごく好きです。『薄氷の殺人』好みなので。
いかにも大陸中国の映画です。激しい雨と暗い画面と。雨は本物かと思っていました。
段奕宏は、韓信・『白鹿原』以来でしたが、さすがです!
同じ映画館で、来週から始まる3本は、去年まで「シネマート」でやっていた中華エンタメでしょうか?

2019/1/14(月) 午後 5:47 [ 二胡ちゃん ]

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二胡ちゃんさん:
私もこの映画の雰囲気が好きで、東京国際映画祭以来久し振りに新宿で再見いたしました。
段奕宏は、セコイ小者感と、何かに取り憑かれた者の狂気、両方を醸していて、
さすがの演技に見入りました。

近々公開の3本は、“中華最強映画祭り”という括りですが、
勿論これまでの“香港・中国エンターテイメント祭り”の代替だと思いますよ。
ツインが配給する中華作品の9割は私の好みに合わないので、今回も期待は有りません。

2019/1/15(火) 午後 7:15 mango


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