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映画『Have a Nice Day』

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【2017年/中国/74min.】
中国南部のとある街。
小張は、運転していた車を止め、
同乗の趙を脅し、彼が抱えていた百万元もの大金が入ったバッグを掴み取り、
ネットカフェに逃げ込むと、早速パソコンの前に座り、恋人の古宛てにメッセージを送る。
「大金が手に入った。駅前の鉄道商務賓館301号室で落ち合おう。」

そこにやって来たのは江湖の黃眼。
最新のハイテク眼鏡で、小張が抱えるバッグの中に大金を透視。
「若造がこんな大金を持っているなんて、ワケ有りに違いない…」と直感し、
小張を殴り、バッグを持って、逃走。

その頃、ヤクザ者の劉叔は、趙に運ばせた自分の百万元が盗まれたことを知り、
馴染みの殺し屋・瘦皮に、犯人を追うよう依頼するが…。



第30回東京国際映画祭で、ワールド・フォーカス部門に出品された
劉健(リウ・ジエン)監督によるアニメーション作品。

これ、2017年2月、第67回ベルリン国際映画祭で、
中国アニメとして初めてコンペティション部門に出品された時から、とぉーーーっても気になっていた作品。
ベルリンと限らず、カンヌ、ヴェネツィアでも、
これまで中国の長編アニメがコンペティション部門に入ることは無かったので、
本作品は“世界三大映画祭に食い込んだ初の中国アニメーション”ということになる。

さらに、2017年11月25日(土曜)発表の第54回金馬獎でも、
最佳動畫長片(最優秀長編アニメーション作品)は勿論のこと、
最佳原著劇本(最優秀オリジナル脚本賞)と
最佳原創電影歌曲(最優秀オリジナル映画歌曲賞)にまでノミネート。


しかし、そんな話題作であっても、実写映画ならともかく、アニメとなると、
日本の映画祭でかかる可能性は極めて低い…。
そのように、まったく期待していなかっただけに、
東京国際映画祭での上映を知った時は、意外で驚いたと同時に、
この機会に絶対に観たい!という欲がふつふつ。


原題は『好極了 Have a Nice Day』。
…だったのだが、その後、中国国内の審査を受け、“微調整”を行い、タイトルも『大世界』に改名され、
2018年の春節に中国で公開予定。
今回、東京で上映されたのも、微調整された後の物と推測。
(実は、2017年6月、本作品は、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭にも出品予定だったのだが、
中国当局からの“海外上映の許可が取得されていない”という唐突な指摘で、
映画祭主催者は止むを得ず、開催直前に急遽上映を取り下げている。)




まずは簡単に監督の劉健について触れておく。

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劉健監督は、1969年生まれ、江蘇省の出身。
南京藝術學院では中国画を専攻し、1993年卒業。
絵画を中心とした芸術活動から、アニメを手掛けるようになり、
2007年、南京に、アニメーションスタジオ・樂無邊 le-joy animationを設立。
2009年、長編アニメーション映画一作目『刺痛我〜Piercing I』を発表し、
世界各地の映画祭で上映され、高評価を獲得。
『Have a Nice Day』は、劉健監督が3年がかりで完成させた2作目の長編アニメ。

劉健監督は、元々絵を描いていたわけだけれど、
押井守の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』、次いで今敏の『東京ゴッドファーザーズ』を観たのが、
アニメを手掛けるキッカケになったとインタヴュで語っている。
(今敏自身は、2010年、46歳の若さで亡くなっているが、
今敏作品のプロデューサーや御夫人とは、今でも交流があるらしい。)



では本題。
『Have a Nice Day』は如何なる映画か。
まず、映画を観る前から、物語を知らなくても、惹き付けられるのが、本作品の画風。
やはり絵のスタイルやキャラクターのデザインは、
そのアニメの良し悪しや、観る側の好き嫌いを左右する重要な要素である。
日本をアニメ大国と呼び、誇りに思っている日本の皆さまには、誠に申し訳ないが、
非国民と言われようと、私はいわゆる日本のアニメの画風が大嫌い。
勿論日本にも良いと思う画風のアニメはある。
私が苦手なのは、一見して日本のアニメと判る、典型的な日本的画風の商業アニメ。
念の為、申し上げておきますが、それらを否定しているわけではありません。
これは、幼い頃から一貫している私個人の好みの問題だから仕方が無い。
私が好きなのは、基本的にアート系アニメーション(中国モノだったら、レトロな上海アニメも好き)。

そんな私にドンピシャなのが、この『Have a Nice Day』!
夜のお話ということもあるけれど、全体的に色調はダーク。
世間では、緻密に絵を描き込んだり、微妙な色合いを出すことが良しとされる傾向もあるが、
本作品はシンプルで、アウトラインの内側を一色でベタ塗り。
登場キャラの肌が、グレーやモスグリーンだったりすることもあるのだけれど(笑)、
そうして塗られた色と色の組み合わせに、センスが光る。


さらに、背景や小道具に、リアルな中国が描かれているのも良し。

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描かれているのは、中国にはこういう場所、あるある!と頷いてしまう日常の中国なのだが、
このアニメの中ではそのリアルさが不思議とシュール。




画風が良くても、お話がおざなりだったら、アニメもただの“動く絵”で、映画としては退屈ですよね…?
ご心配なく。
前述のように、これ、アニメ作品でありながら、
金馬獎で最佳原著劇本(最優秀オリジナル脚本賞)にもノミネートされているのだ。

で、その肝心な物語は、運転手の小張が、ヤクザ者・劉叔の100万元を盗んだのを機に、
欲に目がくらんだ多くの人々が、この金を巡り強奪戰を繰り広げる一夜を描く
犯罪群像劇(ブラック・コメディ仕立て)。


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そもそも普通の青年・小張が、大胆にもお金を盗んだ動機は、
整形に失敗したガールフレンド・古に、韓国で再手術を受けさせてあげたい一心から(笑)。
小張が早速古に電話して、「大金が手に入ったよ。これで韓国で再手術できるよ」と言っているのに、
当の古が「でも、韓国も必ずしも安全じゃないって、うちの親が言っているし…」などと躊躇している間に、
江湖の盗賊・黃眼が、ハイテクVR眼鏡で金の存在を感知し、小張から奪い取ったのも束の間、
ワケあって黃眼が倒れ、今度は黃眼の連れ合い・二姐がその金を持って逃走。
一方、古の母親と友人関係の洝洝も、大金の存在を知り、参戦しようとするし、
盗まれた劉叔だって、黙っているわけがなく、瘦皮という殺し屋を送り込み、金を取り返そうとする。

お金、お宝、薬などを巡り、多くの人々が競い合う犯罪群像活劇は、
例えば、ガイ・リッチー監督の『ロック、ストック&トゥ・スモーキング・バレルズ』(1998年)とか、
これまで世界中で沢山作られており、実はそう珍しいものではない。
でもね、それを現代中国に置き換え、市井の人々にやらせちゃうと、めっちゃくちゃ面白いの!
14億近い人口を抱える巨大国家・中国では、実際、ナチュラルに不思議な人をしばしば目にするので、
この作品の中の登場人物たちにも、やけにリアリティを感じ、ちょっとした言動にも、幾度となく吹き出した。


物語の舞台は、敢えて特定せず、“中国南部の小都市”となっているが、
劉健監督が暮らす南京を意識していると考えて、ほぼ間違いなし。
作中、何度か出て来る“橋北新村”という地区も、南京に実際に存在。

登場人物たちの喋りにも、ちらほら南京訛り(…らしい)。
もっとも、私は、どういうのが南京訛りなのか知らないのだけれど、恐らく、南部訛りの一種なのであろう。
上海人や台湾人にも近い感じで、
特に、ヤクザ者の親分・劉叔は、ソリ舌音が無く、シーシースースー言っている。

こういう吹き替えは、プロの俳優ではなく、劉健監督の南京アート界のお仲間が担当。
どの役かは不明だが、劉健監督自身も、吹き替えをしている。
いえ、吹き替えどころか、劉建監督曰く、本作品は「95%自分だけで作った映画」。
原画を描くのは当たり前で、脚本も編集も何から何まで劉健監督が自分自身で行っている。
だからこそ、監督自身の個性が強烈に反映されたアート作品になっている。
多くの人の意見を取り入れたり、分担作業で作られると、
個人の感性をここまで押し出した芸術にはなりにくい。





文句ナシの面白さ…!
お話がポンポンとスピーディーに展開し、しかも全てが潔く1時間15分ほどに納まっているから、
退屈する余裕なんて無いの。
実写版で撮っても充分面白いプロットだと思うが、
絵のセンスが抜群だし、アニメーション作品だからこその魅力も感じる。
劉健監督って、天才なんじゃなぁーい…?!
私と同じように、日本的な商業アニメは苦手で、アート系しか受け付けない!という人には、もう絶対にお薦め。
また、そもそも、商業作品だろうがアート作品だろうが、アニメ自体に興味が無い人でも、これは楽しめるはず。
前述のように、物語自体がとてもよく練られていているし、
そこにブラックな笑いが散りばめられていて、ホント、面白い。

ちなみに、劉健監督は、アニメの世界に入るキッカケになった押井守や今敏を除き、
好きな映画監督に(インタヴュによって、答えはマチマチなのだけれど…)、
ジョエル&イーサン・コーエン兄弟、クリント・イーストウッド、クエンティン・タランティーノ、
あと日本人だと三池崇史や北野武などを挙げている。
これらの名前からも、劉健が好むテイストは、なんとなく想像が付くかも知れない。
ま、だからと言って、これらの監督の焼き直しなんかには全然なっていなくて、
ちゃんと劉健監督オリジナルのスタイルが確立されていて、本当に素晴らしいのです。
mango、久々にアニメを絶賛。


最後に、参考までに、予告編を貼っておく。


この予告編で、車のラジオから流れているのって、
米大統領選でドナルド・トランプが勝利した時のスピーチよねぇ?
「I congratulated her on a very, very hard-fought campaign.
(私は、彼女に、この厳しい選挙戦を闘ったことを称賛しました)」と、
“Her=ヒラリー・クリントン”にお情けをかけ、勝ち誇った部分でしょ?
東京で上映された物にもコレありましたっけ?観た方、覚えていらっしゃいます?
もしかして、“微調整”されたのって、ここかしら…。映画を冷静にもう一度観て、確認したい。
(中越戦争に触れている映画『芳華』は、2017年国慶節の上映予定が、いきなり無期延期にされたが、
その理由は、習近平が出席するAPECの主催国・ベトナムと、
訪中するトランプへの配慮ではないか…という噂が流れた。)



私、『Have a Nice Day』一本で、劉健監督のファンになってしまいました!

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こうなったら、もう、長編監督作品第1弾の『刺痛我〜Piercing I』も観たーいっ…!
…と思ったら、なんと、2011年、『ピアシング I』の邦題で、中国インディペンデント映画祭で上映され、
劉健監督も来日し、Q&Aを行っていたという事実を、今更知る…。
6年前、私は、なぜそこに行かなかったのだろう?!私の馬鹿ぁぁぁーーーっ!あぁ、ショック…。
頼むから、どこかで、もう一度、『Have a Nice Day』と『ピアシング I』を2本立てで上映して欲しい。
中国アニメでは、2015年大ヒットを記録した『西遊記之大聖歸來〜Monkey King: Hero Is Back』が、
『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』の邦題で、2018年1月公開が決まったけれど、
アート系にも目を向けて欲しい。
アニメに限らず、中国の映画は、近年ヴァリエーションに富むが、日本に入って来る物は偏り過ぎている…。

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