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映画『老いた野獣』

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【2017年/中国/110min.】
内蒙古・鄂爾多斯(オルドス)。
投資に失敗し、財産を失い、フラフラ出歩いてばかりの生活を、もう何年も続けているしがない老楊。
その日は、仲間と麻雀に興じる最中、揉め事が起きたので店を出て、遊牧民の友人・盧布森と合流。
国が砂漠を草原にする政策を進めているせいで、遊牧民は居場所を追われるわ、
今は乳牛が人気で、駱駝は儲けにならないわと頭を抱える盧布森。
とにかく、一度、用を済ませ、戻って来るまでの数日間、預かっていてくれと、
盧布森は老楊にその駱駝を託し、町を去って行く。
老楊は、二つ返事で預かった駱駝を引いて、独断で肉屋へ向かい、値段交渉。
ついでに、手土産を用意し、馴染みの女・莉莉を訪ね、楽しいひと時を過ごす。

ところが、その頃、家では、大変な事が。
老楊の女房・桂香が倒れ、病院へ運ばれたのだ。
集まった3人の子供たちは、老楊と連絡を取ろうとするが、老楊は一向に電話に出ない。
幸い桂香は命拾いするも、医者の説明では、早急な手術が必要で、掛かる費用は3万元…。
老楊もようやく事情を知り、のこのこと病院へやって来るが、
手術費用も払えない上、女房の緊急時にさえ、ほっつき回っている駄目オヤジに、
子供たちのイライラは募り…。



第30回東京国際映画祭、アジアの未来部門に出品され、
スペシャル・メンションを受賞した中国映画。
上映終了後には、監督と出演者によるQ&Aも。(→参照

原題は、『老獸〜Old Beast』。
手掛けたのは、周子陽(チョウ・ズーヤン)監督。
1983年生まれ、内蒙古・鄂爾多斯(オルドス)出身で、
これまで、短編、ドキュメンタリー、広告などを撮ってきて、本作品が初の長編監督作品。

私が、名前も知らなかった新人監督のデビュー作を観たい!と思った理由は色々有る。
例えば、一つには、これが王小帥(ワン・シャオシュアイ)のプロデュース作品であること。
もう一つには、もう直発表される第54回金馬獎で、
最佳新導演(最優秀新人監督賞)、最佳攝影(最優秀撮影賞)、最佳原著劇本(最優秀オリジナル脚本賞)、
最佳男主角(最優秀主演男優賞)の4部門にもノミネートされていること。




作品の舞台は、周子陽監督の故郷、内蒙古・鄂爾多斯(オルドス)。

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最近、日本では、お相撲さんがビール瓶で殴っただ殴らなかっただのと連日報道され、
モンゴルが話題になっているけれど、モンゴルと内蒙古(内モンゴル)は別。
モンゴルは独立した国家で、内蒙古は中華人民共和国北部に位置する自治区。
お相撲さんたちは、モンゴルの首都ウランバートル出身者が多いようですね。
鄂爾多斯は、内蒙古の首府・呼和浩特(フフホト)から南西に約200キロの場所。
映画では、内蒙古のその鄂爾多斯以外に、
主人公の末の娘が暮らす街として、陝西省の榆林(ユーリン)という所も出てくる。
地図を見ると、榆林は陝西省北部の街で、鄂爾多斯と近距離であることが判る。



物語は、金も無いのに、ギャンブルや女にウツツを抜かし、家庭を顧みない老楊が、
いつものように家を空けている最中に、妻の桂香が倒れてしまうが、
相も変わらずのらりくらりとしているため、3人の子供たちとの関係を悪化させ、
どんどん孤立していく様子を描く、放蕩オヤジのホームドラマin内蒙古。

主人公の老楊は、元からしがない風来坊だったわけではない。
内蒙古の経済がイケイケだった頃には、懐も暖かで、家族や友人たちの面倒見も良かったのだ。

上の地図で示した物語の舞台・鄂爾多斯は、
実際、急速に進めた不動産開発が頓挫し、巨大な“鬼城(ゴーストタウン)”と化したことで、
バブルの象徴として、よくニュースで取り上げられる場所である。

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主人公・老楊も、儲け話に乗り、不動産投資をし、結局、泣きを見た一人。
イケイケから懐ピーピー状態に落ちるが、それでも、外での面倒見の良さは、終始変わらず。
鄂爾多斯に出稼ぎに来ている若いお水・莉莉を囲っていることも、家族にバレバレだが、
それを、まるで慈善事業を行っているかのように居直る老楊。
家に寄り付かないから、妻・桂香の世話も、当然嫁に任せっ放し。
それでも、楊冰、楊梅、楊琴という3人の子供たちは、まだ父・老楊の放埓に目を瞑っているのだが、
母親が倒れたのを機に、ついに堪忍袋の緒が切れる。

母親が家の中で倒れた時、
父親が外でのらりくらりとしていて、連絡さえ取れない状態だっただけでも、子供たちはイラつくのに、
金の無い父に代わり、子供たちが母の手術費用として出し合った3万元を、
この駄目オヤジは盗んで姿をくらましてしまうのだ。
でね、妻の命を左右するそのお金で、友人の遊牧民・盧布森に牛を買ってあげたり、
孫に変身ロボットを買ってあげたりするの。
本当にクズよね(笑)。

そこで、子供たちは、父親に二度と馬鹿な真似をさせないよう制御するため、
待ち伏せして、誓約書を書かせようとするのだが、老楊は抵抗。
仕方なく、長男・楊冰と、長女の夫・梁國棟が、暴れる老楊を押さえ付け、
取り敢えず、部屋に閉じ込めるのだが、老楊は怒り狂い、この二人を暴行と監禁で訴える。
ほとぼりが冷め、「あの時はついついカッとしてしまっただけ」と裁判所に訴訟の取り下げを願い出るも、
裁判所側から取り下げ不可能と追い払われ、息子たちは禁固刑。
これでは、家族からますます嫌われても仕方が無いかと。


ここまでのクズはあまり居ないため、共感できる実体験をもっている人は、そう多くはないであろう。
でも、作品の中には、一般的な日本人でも共感し易い家族の問題も散りばめられている。
例えば、老楊の長男・楊冰。
兄妹3人で話し合い、母親の手術費用3万元を出し合おうと決めるも、
楊冰の妻は「手術代はお義父さんが払うべきでしょ?!
普段から、私にお義母さんの面倒を押し付けっ放しで、お金も出さないの?!
アナタ、うちからお金を持ち出したら、離婚だからねっ!」と猛反発。
楊冰だって、父親には呆れ返っているけれど、母親を見殺しにはできない。
実家と女房の間で“男はつらいよ…”な男性や、
義母の介護だのお金だの、夫の実家に振り回されグッタリな女性は、日本にも大勢いるはず。





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出演は、主人公・老楊に涂們(トゥー・メン)
老楊の長男・楊冰に王超北(ワン・チャオベイ)
老楊の若い愛人・莉莉に王子子(ワン・ズーズー)など。

主演は、蒙古の大草原で馬と共に育った鄂温克(エヴェンキ)族の俳優・涂們。
これまでも、やはり少数民族を扱った作品への出演が多いようだが、
黃曉明(ホアン・シャオミン)版の『鹿鼎記』にも、吳三桂役で出ているらしい。
出ていました…?覚えていない…。

でも、今回で、もうバッチリ覚えた。
私がこの作品を観たいと思った理由の一つは、ポスターに写る涂們のヴィジュアルだったのだ。
頭の大きさに対し、腕が短い、コロコロのドラえもん体形なのに、
クールにサングラスかけて、革ジャン着て、バイクに乗っているオジさんに、無条件に惹き付けられた。

このヴィジュアルと、『老いた野獣』というタイトルから、
不良がそのまま年取ったチョイ悪オヤジの話を想像したのだけれど、
実際には、年を取るにつれ獣化していった、より面倒なタイプのオジさんのお話であった。

確かに、自分の父親がこんなだったら、大変だろうけれど、
どうせ他人と思って傍観している分には、予測不能な面白いオジさんである。
例えば、友人の盧布森から、留守中駱駝を預かってくれと頼まれ、
「任せておけ!」と言った舌の根も乾かぬ内に、その駱駝を肉屋へ売りに行き(!)、
しかもさばいたその駱駝を牛肉と偽り(!)、愛人宅の手土産にしちゃったりするのよ、この老獣(笑)。
友人・盧布森にどう説明するのかと思ったら、
妻の手術費用で牛を買い、盧布森に駱駝の代わりにそれをプレゼント。
駱駝より高級な牛をもらったことで、盧布森は怒るどころか、老楊に感謝。
結局、家族以外とだったら、人間関係良好な、憎めない老獣なのだ。

前述のように、涂們は、この作品の演技で今年金馬獎の最佳男主角(最優秀主演男優賞)にノミネート。
『擺渡人〜See You Tomorrow』でノミネートされている我が愛しの金城武とも、同じトロフィーを競うことに。
同賞にノミネートされている男優が出演する作品の内、他2本も観たけれど、
『相愛相親(そうあいそうしん)〜相愛相親』の田壯壯(ティエン・チュアンチュアン)や、
『氷の下〜冰之下』の黃渤(ホァン・ボー)も非常に良いので、この賞は激戦です。
発表は、今週末、2017年11月25日(土曜)。どうなるでしょうねぇー…??!
(お気楽コメディでノミネートされている金城クンは、正直言って、受賞、かなりキビシイと予測。)



蒙古を舞台にした本作品では、他のキャストも、大半は蒙古族。
物語を嘘くさくしたくないという周子陽監督の考えから、俳優は著名な人は使わず、素人も大勢起用。
長男・楊冰役の王超北と、愛人・莉莉役の王子子は、本作品の中で数少ない漢族の俳優とのこと。

私が本作品を観に行った日、Q&Aに登壇してくれた王超北は、
名前の通り、超北方の人なのかと思ったら、そこそこ北方の北京人らしい。
老楊の息子・楊冰を演じるにあたり、内蒙古の方言をマスターしたそう。
私にとっては、初めて見る俳優なのだが、
顔が台湾のマルチタレント張兆志(チャン・チャオチー)になんとなく似ているため、
初めてという気がしなかった。


王子子も、私が行かなかった方の日のQ&Aには登壇。見たかったわ、女優さん。
名前の画数が少ないですね。一瞬、“八王子”と見紛う“王子子”。
演じている莉莉は、まだ若くて可愛いのに、
老楊みたいな貧乏で冴えないオヤジと付き合ってしまうのだから、気のいいお水なのであろう。

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プレゼントした真っ赤なコートを、下着姿のまま直接羽織ってくれと莉莉にお願いする老楊を見て、
私は心の中で「オッサン、いい加減にしなさいヨ…」と呟きましたワ。
(…で、言われるがままに下着の上にコートを羽織り、
老獣を喜ばせる莉莉のサービス精神に、呆れながら拍手。)







この日、東京国際映画祭で観た物は“当たり”ばっかり。これも面白かった〜!

“蒙古”と聞くと、日本人は、牧歌的な癒し系の作品を想像しがちだけれど、
本作品には、そういうホノボノとした蒙古は出てこない。
経済の低迷など、暗転する社会の陰で、何らかの影響を受け、落ちて行った人の話という点では、
同じ日に鑑賞した董越(ドン・ユエ)監督の『迫り来る嵐』とも通じる。
決して明るい話ではないのだが、主人公・老楊が、次に何をしでかすのかと、ついつい期待してしまい、
また、老楊が、私の予想を超えたお馬鹿をやってくれるから、余計に先が気になり、
知らず知らずの内に、作品の世界に引き込まれて行った。

ただ、Q&Aで周子陽監督のお話を聞き、
監督がこの作品に込めた思いと、私の受け止め方には、多少のズレがあると感じた。
周子陽監督が、主人公・老楊に向ける目は、あくまでも温かなのだ。
今はこんなだけれど、元々は家族に尽くした良い人が老楊で、
お金優先という考えになってしまっている子供たちは、
昔老楊に可愛がってもらったことも忘れ、父親を追い詰めていく…、というのが周子陽監督の見方。
私には、老楊の子供たちが、拝金主義の不義理な人間には見えなかったし、
親であろうとクズはクズであり、それに振り回される子供たちを気の毒に思ったのだ。
あちらの人たちは、日本人に比べ、親に優しく、従順だと思うことがしばしば有るのだけれど、
周子陽監督のお話を聞き、やはり親にひたすら優しいと改めて感じた。



第30回東京国際映画祭で上映終了後に行われた周子陽監督と王超北のQ&Aについては、こちらから。



追記:2017年11月26日(日曜)
昨晩台北で開催された中国語映画の祭典、第54回金馬獎にて、この『老いた野獣〜老獸』が、
最佳原著劇本(最優秀オリジナル脚本賞)と最佳男主角(最優秀主演男優賞)の2冠に!
第54回金馬獎について、詳しくは、こちらを参照。

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