旧 東京倶樂部★CLUB TOKYO:平成館

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【2017年/中国・台湾/120min.】
鄭州の街で教師として働く慧英の母が息を引き取る。
「きっと母は先に逝った父と一緒に眠りたい…」
そう考えた慧英は、父の墓を街へ移し、母と共に埋葬しようと思い付き、早速、父の故郷である片田舎へ。
しかし、そこで思いも寄らなかった障害に遭遇。
その昔、父が故郷で娶った最初の妻が、父の墓を守っていたのだ…。


第18回東京フィルメックスのオープニングで上映された張艾嘉(シルヴィア・チャン)の最新監督&主演作。
(Yahoo!ブログの不具合で長文投稿不可につき、書き換えの必要があり、長らく放置してしまった…。)

原題も邦題と同じで『相愛相親〜Love education』。
邦題は、“そうあいそうしん”と読む。

張艾嘉監督が初めて大陸を舞台に、大陸俳優陣をメインにキャスティングして撮った意欲作。
2017年、第54回金馬獎では、7部門にノミネート(結果は無冠)。
つい先日発表された第12回亞洲電影大獎(アジア・フィルムアワード)では、
張艾嘉が最佳女主角(最優秀主演女優賞)を受賞。
間も無く、2018年4月半ばに発表される第37回香港電影金像獎では、9部門もにノミネート。
これは、『明月幾時有〜Our Time Will Come』の11部門に次ぐ多さ。
フィルメックスでの上映は、金馬獎の発表前で、話題作なので、楽しみにしていた。
その上映にあたっては、張艾嘉監督が来日し、Q&Aも実施。(→参照



物語は、お墓を移設しようとしたことで勃発した家族の問題を軸に、
3世代の女性それぞれの愛と生き様を描く人間ドラマ

お墓の問題というのは、主人公・慧英の母親が亡くなったことに端を発する。
母・曾淑慧は、死後の処理について、何も言い残さないまま他界。
娘の慧英は、「母は、先に亡くなった父と一緒に埋葬されたい」という思い込みから、
父の故郷にある墓を、街に移して、そこに母を入れようと思い付き、実行しようとするが、
そこで予想だにしていなかった困難に直面する。

現代日本でも、お墓参りに不便な田舎から、自分の生活の場に近い都市部に、
親のお墓を移したいと考える人は多いはず。
この映画も、そういう話だと思っていたら、主人公・慧英の両親には、それ以上の複雑な事情があった。

実は、主人公の父・岳子福は、その昔、親が決めた相手と、故郷の村で一度結婚。
結婚後間も無く、生活のため、一人村を出て、街へ行き、
そこで慧英の母・淑慧と出逢い、家庭を持ち、以降ずっと街で暮らすが、死ぬと故郷の村へ戻され埋葬。
そのお墓は、“姥姥(おばあさん)”と呼ばれる最初の妻が守り、
彼女は自分が死んだら、そこに一緒に入るつもりでいる。

姥姥が夫と暮らした期間はごくごく短く、夫が街へ発ってからは、顔すら見たことが無い。
それでも、まるで蝶々夫人のように、ひたすら待ち続け、
何十年も経過し、夫は屍になって、ようやく故郷の村に戻って来たわけだ。
姥姥の名は、一族の系譜にも記されており、自分こそが正統な妻であると主張するが、法的な効力は無い。
昔は多くの国で、…特に封建的な田舎町では、
現代人の目には、いい加減とも思える、そのような結婚が有ったのではないだろうか。

だからこそ、慧英は、自分の母・淑慧こそが、法的に認められた正統な妻で、
何より両親は深く愛し合い、長年生活を共にしてきたのだから、一緒に埋葬されて当然だと主張。
それを姥姥に認めさせるには、法的証拠を突き付けるのが一番!
…なんだけれどぉー、そこで慧英は想定外の壁にブチ当たってしまうのだ。

結婚の登録証明書なんて、簡単に取れると思っていたら、
「それはここではなく民生局へ行って下さい」、「いや、そういうのは公文書館へ」と、お役所をたらい回し。
しかも、以前有った場所から役所が消えてしまっていたり、
「1978年以降の証明書しか置いていない」と言われてしまったり…。
前者は、急速な開発で、街が様相を変えてしまったからで、
後者は、1977年まで文化大革命が有ったからであろう。
いずれにしても、近代目まぐるしく変化した中国ならではの事情が垣間見える。



このようなお墓移設問題に絡め描かれるのが、3世代の女性の恋愛観や結婚観。
広く“生き様”と言っても良いであろう。

それら3人を演じているのは…

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村で夫・岳子福のお墓を守り続ける姥姥に吳彥姝(ウー・イェンシュー)
その岳子福と二番目の妻・曾淑慧の間の娘・岳慧英に張艾嘉(シルヴィア・チャン)
そして、岳慧英の娘・薇薇に郎月婷(ラン・ユエティン)


吳彥姝という女優さんは、初めて見た。
1938年生まれというから、80に手が届く大ベテランの国家一級演員である。
その割りには見たことが無いのは、Q&Aでの張艾嘉監督のお話によると、
長年活動の中心は舞台で、近年、2本のコメディ映画に出たことで、広く知られるようになったかららしい。
2本の内の一本は、湯唯(タン・ウェイ)&吳秀波(ウー・ショウポー)主演作、
『北京遇上西雅圖之不二情書〜Book of Love』(2016年)を指しているのであろう。

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日本未上陸のため、私は未見だが、現地では大ヒット。
吳彥姝は、その年、第53回金馬獎・最佳女配角(最優秀助演女優賞)にノミネートもされ、
遅咲きのメジャー入りである。

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さすがは長年女優業をやっているだけあり、決める時はビシッと決め、凛とした美しさ。
ところが、これが『相愛相親』の中だと、普段のカッコイイ吳彥姝の面影はすっかり影を潜めている。
姥姥は1929年湖南省生まれという設定なので、実際の吳彥姝より十近く上の90歳近いおばあさん。
封建的な村で、夫のお墓を守り続ける老女そのものに成り切っているから、ビックリである。
最初の内は、意固地になっている不愛想な老女という印象で、可愛げが無いとさえ思ったのだが、
徐々に、彼女の一途な愛が感じられてきて、
最後には、あの“合成ツーショット写真”のシーンで感動させられた。
封建的な時代や家父長制の犠牲者と言ってしまえば、それまでだけれど、
ほんの短期間しか生活を共にしていない形ばかりの夫を何十年も愛し続ける彼女の純粋さには、心打たれる。

ちなみに、Q&Aで聞いた張艾嘉監督のお話によると、
王麗媛(ワン・リーユエン)がかなり積極的に、この姥姥を演じたいとアプローチしてきたようだ。
王麗媛は、村の老女を演じるには洗練され過ぎているという理由で、採用されなかったが、
代わりに、岳慧英の実母・曾淑慧の役を与えられている。

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もっとも、物語の冒頭で、早々に死んじゃって、あとは“遺影出演”。
王麗媛は、大陸ドラマを観ている人なら、一度や二度はきっと目にしている老女優です。
(比較的最近の物だと、『武則天 The Empress〜武媚娘傳奇』のアイパッチが怪しい彭婆婆とか、
『女医明妃伝 雪の日の誓い〜女醫·明妃傳』の主人公の祖母とか…。)


続いて、2番目の世代の女性、監督でもある張艾嘉が演じる岳慧英。
私は、“ちょっと図々しいオバちゃん”を演じている時の張艾嘉が好きなのだが、
本作品で演じている慧英にも、そういう部分があり、面白い。
そもそも、この慧英が、“母は父と一緒に埋葬されたがっていた”などという聞いてもいない話を、
勝手に遺言に仕立て上げてしまったことで、お墓移設問題が勃発するのだ。
ろくな教育を受けていない姥姥と違い、学校の先生をしている慧英はシッカリ者。
人を雇って、お墓移設を強行しようとしたり、
劇団員である生徒の父親に弁護士を演じさせ、姥姥を脅してみたり。
図々しいオバちゃんというのは見苦しいものだが、慧英の気持ちも理解できる。
“両親は良い夫婦であった”、“父にとって、母は唯一無二の女性であった”と信じたいのであろう。
慧英は定年を控えた教師なのだけれど、
いくつになっても親にとっての娘であり、彼女にとって、親は親なのヨ。


最も若い3世代目は、慧英の娘・薇薇。
毎日生活頻道という放送局で、番組の制作に携わっている女性。
感情が先走る母親とは違い、徐々に姥姥と実の祖母と孫のような関係を築いていく。
私はそれを微笑ましく見ていたのだけれど、
番組制作者である彼女にとって、お墓移設問題は、結局のところ、おいしいネタであり、
身内を切り売りすることも厭わないのか?!という展開になっていったので、うーーーン…。
3人の女性の中で、一番共感しにくいのが彼女であった。

演じている郎月婷は、元々ピアノをやっていた人で、
杜峯(ジョニー・トー)監督に見出され、映画の世界に入ったのは2013年と、比較的最近。
張艾嘉がオリジナル脚本を手掛け、その杜峯監督が映画化した
『香港、華麗なるオフィス・ライフ』(2015年)に出演しているので、
そういう御縁で、張艾嘉のこの新作にもお呼びが掛かったのだろうか。
ピアニストらしく、清潔感と品のある容姿。
ロングヘアの時は思わなかったが、この映画で髪を短くしていると、山口百恵のようにも見える。



他の出演者も見ておくと…

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岳慧英の夫・尹孝平に田壯壯(ティエン・チュアンチュアン)
薇薇の恋人・阿達に宋寧峰(ソン・ニンフォン)、ご近所の奥様・王さんに劉若英(レネ・リウ)など。

この中で注目なのは、誰を差し置いても、慧英の夫・尹孝平を演じている著名な監督・田壯壯。
張艾嘉は、『呉清源 極みの棋譜』(2006年)に出演したことで、田壯壯監督と知り合い、
以降友人として交流を続け、監督の温かなお人柄が役に合うと感じ、出演のオファーをしたのだと。
張艾嘉の思惑は正解で、気の強い女房・岳慧英とは“割れ鍋に綴じ蓋”という感じの控えめな夫の役を、
全身から滲み出る大らかさで表現。味があって、とても良い。


薇薇の交際相手、阿達を演じている宋寧峰って誰かと思ったら、宋寧(ソン・ニン)ヨ。
最近、本名の“宋寧”から“宋寧峰”に改名したらしい。
女優さんでも、“宋寧”に一文字加えて“宋佳寧(ソン・ジアニン)”にしている人が居るし、
やはり、二文字の名前だと同姓同名が多く、紛らわしいからかしら。
で、こちらの宋寧峰は、良く言えば雰囲気があり素朴、悪く言えば地味という印象だったので、
腕にタトゥを入れたミュージシャン役は、ちょっと意外。
でも、張艾嘉監督は、宋寧峰をひと目見て、「彼こそ阿達!」と即決したらしい。
ただ、若い頃多少バンドの経験は有っても、ミュージシャン役なんて初めてだから、
張艾嘉監督の期待は、本人にはかなりのプレッシャーだったみたい。

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歌は、撮影3ヶ月前から練習。
作中、ほんの数十秒だけ使われるBeyondの<海闊天空>を歌うシーンのためには、
広東語も頑張ったらしい。
そんな訳で、映画の中で、阿達がギターを弾いたり、歌っているシーンは、
他人の吹き替えではなく、宋寧峰自身によるものとの事です。


劉若英は、99%大陸キャストのこの映画で、唯一張艾嘉監督と同郷の台湾人出演者。
張艾嘉監督作品に出演するのは、『一個好爸爸〜Run, Papa, Run!』(2008年)以来、9年ぶりですってー。
劉若英は、2011年に北京の実業家と結婚し、その後、2014年には高齢で出産して、
どの監督作品と限らず、そもそもいかなる映画にも出ていない。
この『相愛相親』にも、“特別出演”程度の登場だが、
張艾嘉監督との長年に渡る良好な関係が有るからこそ実現した久々の映画出演かもね。
(日本で2017年に公開された『星空』は、6年も前、2011年の出演作。)
演じている“王さん”は、ご近所に住む奥さんで、慧英の夫・尹孝平が教官として働く教習所の生徒。
慧英は、二人の“教官と生徒”以上の関係を疑い、ヤキモキすることに。


“特別出演”と言えば…

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李雪健(リー・シュエチェン)王志文(ワン・チーウェン)といった名バイプレイヤーも、
お役所の職員役でチラリと出ている。
李雪健は相変わらず林家木久扇師匠似(笑)。



裏方さんにも軽く触れておくと、
撮影は台湾の李屏賓(リー・ピンビン)、美術は香港の文念中(マン・リムチャン)と、
過去にも張艾嘉監督に参加している一流スタッフ。


主なロケ地は、河南省の鄭州と洛陽。
都会パートの撮影が鄭州で、田舎パートが洛陽である。

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地図で見ると、鄭州と洛陽は、河南省の中で隣り合った街。
但し、姥姥が暮らしてるのは、洛陽の中の新安縣倉頭鎮という村なので、
鄭州からは距離があるように見受ける。
鄭州の街中のロケ地は、鄭州でそこそこ知られた場所が多いみたい。
例えば、岳慧英が勤務する“樹高級中學”という設定の学校は、実際には鄭州九中、
阿達のバンドが出演するライヴハウスは、金水區にある不見不散 Be There or Be Squareというバー。 
尹孝平が妻・岳慧英のためにカードを買うのは、商業施設・丹尼斯大衛城の中の、
その名もズバリ“我在書店(私は書店に居る)”という書店で、
雰囲気が良いなぁ〜と気になったが、ここはすでに無くなっているそう。
Q&Aで張艾嘉監督が、「中国二級都市の変化のスピードは恐ろしいほど」と言っていたが、
この本屋さんもその猛スピードの中、消えていったのでしょうか。
張艾嘉監督は、良くも悪くも激変する中国二級都市を描きたかったからこそ、
その代表格である鄭州を映画の舞台に選んだのかも知れない。

また、Q&Aで張艾嘉監は“人生の中で人は移動する”という事も、この作品のテーマの一つだと語っている。
鄭州は、昔も今も、地理的に交通の要所であるため、
そのようなテーマの作品には、相応しい舞台と言えそう。

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地図上のピンクの線は、姥姥の移動。
姥姥は、“女書(にょしょ)”が有名な湖南省の生まれで、結婚を機に洛陽へ移動。
ブルーの線は、阿達の移動。
西安出身の阿達は、ミュージシャンとして一旗揚げようと北京を目指すが、
その途中、薇薇と知り合ったため、鄭州に落ち着くが、再び夢を追って、北京へ去って行く。

張艾嘉監督自身、台湾生まれでありながら、山西省にルーツをもつ外省人で、
若い内にアメリカで学び、香港を拠点に女優として成功し、現在の御主人も香港の人と、
場所に囚われずに移動している人。





張艾嘉監督主演の“女性3世代モノ”というと、
20代、30代、40代の女性を主人公にした『20、30、40の恋』(2004年)を思い出す。
あれから十年以上の歳月が過ぎ、張艾嘉自身も年を重ね、新たに発表した3世代モノは、
一気に高齢化し、『30、60、90の恋』である(笑)。
私は、『20、30、40の恋』が結構好きなのだけれど、
新たな3世代モノである『相愛相親』は、さらに楽しめた。
張艾嘉が、監督としてより成熟したことも大きいだろうし、
人生経験がより豊富な年配の女性たちを扱うことで、物語もより深いものになっているのかも知れない。

日本にも色々有るお墓という厄介な問題を軸にした家族の物語になっているのも面白い。
日本の場合、「死んだ後まで夫と一緒に居たくない」、
「夫の実家のお墓には入りたくない」という女性も多いと聞くので、
一人の男性のお墓をあそこまで取り合う事は、必ずしも共感されないかも知れないが、
個人差、世代差、お国柄の違いを比べるのも良いでしょう。

現代の鄭州を舞台にしているという点も、私には魅力の一つと感じられた。
そのような作品はあまり無いので。(少なくとも、日本にはあまり入って来ていないはず。)
これも、一般劇場公開の運びになると良いですね。
取り敢えずは、4月半ば、香港電影金像獎で良い結果が出れば、日本公開への弾みになるかも…?


東京フィルメックス『相愛相親』上映終了後に行われた張艾嘉監督によるQ&Aについては、こちらから。


追記:2018年5月
『相親相愛〜Love education』が、『妻の愛、娘の時』と邦題を変え、2018年9月日本公開決定。
それに伴い、当ブログのこのエントリも、表題を『相親相愛(そうしんそうあい)』から正式な邦題に変更。

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