旧 東京倶樂部★CLUB TOKYO:平成館

こちらは実質閉鎖しております→新住所:http://mangotokyo.livedoor.blog/

全体表示

[ リスト ]

映画『万引き家族』

イメージ 1

【2018年/日本/120min.】
東京の下町にひっそり佇む一軒家。
そこに暮らす柴田家は、
働き手の夫婦、日雇いで働く治と、クリーニング店で働く妻・信代の僅かな収入では成り立たず、
祖母・初枝の年金と万引きで生活をしている5人家族。
冬のある日、スーパーを訪れた治と息子の将太は、
いつも通りの連携プレイで万引きし、充分な収穫を得て、家へ向かう途中、
団地の廊下の片隅で、たった一人で凍えている小さな女の子を見付け、連れ帰る。
「ゆり」と名乗るその子の身体には無数の傷。
その晩は、温かな物を食べさせ、翌日、治と信代がこっそり元の団地にゆりを返しに行くと、
室内から、ゆりの両親が激しく罵り合う声。
信代は考えを一転、ゆりを改めて柴田家に連れ帰る。
「これって、誘拐じゃなか?」と躊躇する治に、
「身代金を要求するわけじゃないんだから、誘拐じゃない」と信代。

あの日から2ヶ月以上が過ぎた初春。
柴田家の居間のテレビに、「荒川区で5歳の女の子・北条じゅりちゃんが行方不明」というニュースが流れる。
娘の不在をずっと警察にも届けず、あれこれ言い訳を並べていた両親を、
児童相談所が不審に思い、事が明るみになったという。
行方不明の女児は、紛れもなくゆり。この子の名前は、“ゆり”ではなく“じゅり”だったのだ。
信代は、この子の名を“ゆり”から今度は“りん”に変え、髪も短くカット。
りんは、6人目の家族として、柴田家で暮らし始めるが…。



『三度目の殺人』(2017年)に続く是枝裕和監督最新作は、
先月開催の第71回カンヌ国際映画祭で、最高賞のパルム・ドールを受賞。

イメージ 2

日本の作品がパルム・ドールを受賞するは、今村昌平監督の『うなぎ』(1997年)以来21年ぶりとのことで、
日本中を大いに沸かせた。

是枝裕和監督作品のファンとしては、パルム・ドール受賞は素直に嬉しいのだけれど、
同時に、カンヌ効果で、これまで是枝作品に興味が無かった人も、映画館にドッと押し寄せ、
希望日に良席で鑑賞できなくなるかも知れない…、という自分勝手な懸念も。
そんな時、公開記念で舞台挨拶付き上映が行われると知り、
試しにチケット争奪戦に参戦したら、無事席を確保できたので、公開2日目に鑑賞するに至った。
(上映後に行われた公開記念舞台挨拶については、こちらから。)

 些細な事もネタバレになりかねないので、
本作品をまだ鑑賞していない方々は、以下、読まずに、真っ新な状態で鑑賞することを推奨いたします。




本作品は、夫婦の僅かな収入と祖母・初枝の年金、そして万引きでやり繰りしている5人の家族・柴田家が、
親から虐待を受けている5歳の少女・ゆりを、6人目の家族として受け入れ、貧しいなりに幸せに暮らすも、
ある事件を機に、綻びが出はじめ、一家が解体していくまでを描く人間ドラマ


人気コミック/小説の映画化より、オリジナルの脚本で映画を発表することの多い是枝裕和監督。
カンヌで勝負した本作品もまた、原案も脚本も自ら手掛けている。

なにせ、2018年1月末のクランクアップから僅か4ヶ月ちょっとで公開となった出来立てホヤホヤの作品ゆえ、
私は、内容について、ほとんど知らぬまま鑑賞。
鑑賞前の予備知識では、“祖母の年金と万引きで生計を立てている家族の物語”という程度の認識。

また、子が親の死を届け出せず、不正に年金を受給し続けた“年金詐欺事件”や、
子供に万引きをさせて捕まった親の話など、
実際、近年、日本で話題になったニュースをヒントに、監督が脚本を書き上げたという事も知っていた。

それらの事から、日本にジワジワと蔓延する貧困や、
そういう人々を生み出しながらも、臭いものに蓋をし続ける社会や政治に一石を投じる作品なのかとも想像。


実際に鑑賞したら、確かに社会問題を扱った作品だったのだけれど、
そこにさらに、ベールに覆われた人物像や人間関係を紐解く謎解きミステリー的な要素も。

昔ながらの価値観では、日本の一般的な“家族”というと、ついつい、血縁者の集合体を想像してしまう。
まぁ夫婦は他人同士だけれど、子とは血を分けており、
同居している親は、妻か夫どちらかの肉親である、と。
無意識下でそういう考えに縛られ、『万引き家族』を観ていると、
少しずつ、所々で、「えっ、ちょっと待って、この人、どういう人?」と混乱を生じさせるシーンがポツリポツリ。

例えば、治と信代の間に生まれたと思い込んでいた祥太が、治のことを“父ちゃん”と呼べないでいる。
その時初めて、祥太は信代の連れ子だったと納得(…したら、その解釈も間違いだった)。
風俗店で働く亜紀は、信代の妹らしい。
と言うことは、治の母親だと思っていた祖母・初枝も信代の母親で、治は婿養子なのか?

このように、不可解な疑問を投げ掛けながら、徐々に徐々に明かされていく柴田家の実態が、
“血縁者の集合体”ではなく、それぞれに事情を抱えた“赤の他人同士の集合体”だったから、びっくり。
何かしらの思惑や打算が皆無だったとは言い切れないし、世間の常識からは外れていても、
ひとつ屋根の下で肩を寄せ合い生きている“家族”らしきユニットを形成しているわけ。
産むだけ産んで虐待するゆりの実の両親などとは対照的で、
他人同士の柴田家の方が余程温かで、結び付きが感じられる。

だが、社会的に認められない家族は、維持存続が難しい。
祖母・初枝の死、そして息子・祥太の補導で、メッキがみるみる剥がれ、柴田家ついに解散。
本作品は、元はバラバラだった赤の他人が家族になるも、また元のバラバラに散っていく様子を描く、
疑似家族ユニット結成&解散の物語でもあり、その背景を解いていくプロセスが秀逸…!




疑似家族ユニット“柴田家”のメンバーは、こんな顔ぶれ。

イメージ 3

日雇い労働者の夫・治にリリー・フランキー、クリーニング店で働く妻・信代に安藤サクラ
祖母・初枝に樹木希林、風俗店で働く亜紀に松岡茉優、息子・祥太に城桧吏
そして、6人目の家族となるゆりに佐々木ゆみ

皆それぞれに素晴らしいのだけれど、特に私の印象に残ったのが女性陣。

祖母・初枝役の樹木希林は、『歩いても 歩いても』(2008年)で初めて起用されてから、
本作品が6本目になる是枝裕和監督御用女優。
『万引き家族』のノベライズ本を読んだうちの母が、
「小説には、祖母は歯が無いって書いていあるけれど、樹木希林は歯、あるんでしょ?」と聞いてきた。
いえいえ、その小説の通りで、今回は入れ歯を外して出演しており、
昔話に出てくる妖怪ババァのような独特なオーラを放っている。
その昔、うちの近所にも、蔦の絡まったお化け屋敷のような古い木造家屋に、沢山の猫と暮らし、
子供たちから気味悪がられていた、こういうおばあさんが居たことを思い出した。

この祖母・初枝は、毎月6万円の“年金”という名の定収入がある柴田家の大黒柱。
物語前半、初枝は、年金について、ポツリと「慰謝料みたいなもの」と言う。
その時は、その表現を、漠然と“社会に対する不満の代償”と受け止めた私だが、
後になって、彼女にとっては、本当に慰謝料みたいな物だったのだと判明し、腑に落ちた。
初枝は初枝で、納得し難い過去を背負っており、それを心のどこかで引きずっていたのかも知れない。


柴田家の女性でも、常連の樹木希林とは違い、松岡茉優と安藤サクラは是枝裕和監督作品初登板。
松岡茉優はねぇ、正直言って、数年前なら、是枝作品とは一生縁のない若手だと思っていた。
美人じゃないし、決定的な特徴が無いから、鳴かず飛ばずのアイドルで終わる…、と。
ところが、多分『勝手にふるえてろ』(2017年)辺りを機に、一気に“勢いのある若手女優”に。
『万引き家族』で、風俗店で働く亜紀をサラリと演じているのを見ても、肝が据わっていると感じる。
で、その亜紀が、初枝の元夫の後妻さんの孫で、
風俗店での源氏名“さやか”が実の妹の名前だったというオチには、意表を突かれた。
結局、初枝の本音はどうなのだろう?
亜紀を自分の手元に置くのは、元夫への秘かな復讐に過ぎなかったのか?
いや、あの家からツマ弾きにされたという自分と共通の傷を心に持つ亜紀に、居場所を与えたかったのでは?


安藤サクラは、今回、印象に残るシーンや演技が一番多かったキャスト。
子供と接するシーンでは、とても深い母性を感じたのだが、
出産して間も無く本作品に出演したことは、何かしら影響したのだろうか。
そのように、実際の安藤サクラは、私生活でママになった訳だけれど、扮する信代は出産していない。
逮捕後の取り調べで、「産んだら誰でも母親になれるの?」と道徳的に正しい疑問を口にする信代に対し、
警察の宮部が「でも、産まなきゃ母親になれないでしょ」と物理的な正論で返し、絶句する信代の表情は、
私、気が付いたら、息をせずに見入っていましたヨ。
あと、勤めていたクリーニング店をクビになった後、
贅沢して買ったお洒落な下着姿で、夫・治とお素麺を食べ、
そのまま性行為に至るシーンの妙な艶めかしさよ…。


子役がアザトイ作品はゲンナリだけれど、是枝裕和監督作品は、その点、安心して観ていられる。
今回も、子役には台本を渡さず、口頭で伝えながら演出するスタイルをとったそうで、
子供が子供らしく、とても自然。

祥太役は、2006年生まれの城桧吏(じょう・かいり)という男の子。
すでに目鼻立ちの整った美男子で、作品の内容に重なる部分があるせいか、
『誰も知らない』(2004年)の柳楽優弥が何となく重なった。

さらに、役にドンピシャ!と感じたのが、ゆり役の佐々木みゆという女の子。
2011年生まれで、撮影時は役と同じ5歳。
気のせいか、平均的な5歳よりプチサイズに見える。
小さぁーくて、細ぉーくて、なんか親鳥に捨てられたヒナのようなしおらしさが漂っていて、
この子がスクリーンの中に佇んでいるだけで、見ているこちらが切なくなってきてしまうのよ…。





近年、芸術性と娯楽性を共存させた作品作りに努めている是枝裕和監督。
そういう映画監督は世界中に大勢いて、
例えば、最近観たばかりの『軍中楽園』(2014年)の鈕承澤(ニウ・チェンザー)監督は、
師匠の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)とはまた違う娯楽性を加味した作品を作るとずっと言い続けている。
が、そもそも娯楽性皆無でもOKな私には、鈕承澤監督作品は、娯楽性が強過ぎると感じてしまう事しばしば。
ところが、是枝裕和監督は、そこら辺の匙加減が絶妙。
新作の『万引き家族』には、取り分けそう感じた。
現代社会を反映させたり、作家性もきちんと出しているから、国際市場で評価されるし、
作家性を殺さないまま、娯楽性を共存させているから、
ともすれば退屈になりかねない貧困家庭の話が、とても面白く仕上がっていて、
この家族の実態はナンなの?この人たちどうなってしまうの?!と、
知らず知らずの内に作品に注意を引かれ、あれヨあれヨという間に2時間経過。
私、上半期の内に、2018年度一番の日本映画を観てしまったかも。
日本映画には頑張ってもらいたいので、下半期にこれを越える作品が出てくれば、なお嬉しいけれど。
とにかく、『万引き家族』は、是枝裕和監督全作品の中で、私のベスト3に絶対に入る。


疑似家族ユニット柴田家メンバーの“その後”の物語があるとしたら、どんななのでしょう?
『万引き家族』のラストでは、ユニットを解散しても、治と信代には、子供たちに対する愛情が感じられたし、
そんな疑似両親に別れを告げる祥太には、彼らの愛情を感じ取ったゆえの気遣いが感じられた。
心配なのは、“ゆり/りん”こと北条じゅりちゃん。
児童虐待を繰り返していたにもかかわらず、、柴田家が逮捕されたことで、
“子供を連れ去られた可哀相な被害者”になった実の両親のもとに再び返されてしまった彼女。
「子は親を選べない。じゃぁ、自分で決められるなら、もっと強くなるんじゃない、絆が」
という信代の言葉は、満更間違っていないのかも知れない。


ちなみに、この『万引き家族』、
今週末、2018年6月16日に開幕する第21回上海國際電影節(上海国際映画祭)でも上映。
是枝裕和監督の国際的知名度に加え、カンヌ受賞作を中華圏で最速で観られるとあり、
チケット入手は激戦を極め、ものの数十秒で完売し(一説には20秒以内、しかも上映館は大陸サイズ)、
追加上映も決定(こちらも即完売)。
中国語のタイトルは『小偷家族』、
リリー・フランキーは、漢字表記必須の中国では本名の“中川雅也”で紹介されている。
それ誰ですか?って感じですよね。私、字をみて、真っ先に、沖雅也を連想してしまいましたヨ。
なお、この上映に合わせ、監督と松岡茉優ちゃんが上海へ行くそうです。

余談になるけれど、その上海国際映画祭と同時期に
映画祭の正式イベントとして開催される2018上海・日本電影周(2018上海・日本映画週間)では、
久本雅美、池脇千鶴、中条あやみ、板野友美、安藤政信、佐野勇斗らが
現地へ趣き、登壇することになっている。
中華圏でも通用する“ルックスが良い日本の若手女優”がなかなか中国の映画祭に参加しない事を
私はこれまで残念に思っていたので、今年は中条あやみちゃんが登壇すると知り、ちょっと嬉しい。
(但し、この日本映画週間は上映ラインナップが大衆向けの幼稚な娯楽作品に偏っているのが残念。)



『万引き家族』上映終了後に行われた公開記念舞台挨拶については、こちらから。

閉じる コメント(2)

顔アイコン

昨日、日比谷にて鑑賞してまいりました。家族の在り方について考えさせられる映画だと感じました。特に樹木希林さん演じるおばあちゃんのセリフはどれもぐさぐさと心にささりました。安藤サクラはじめ俳優陣の演技も素晴らしかったです。子役の二人の演技にも感服。ストーリーには日本独特の社会問題がちりばめられていましたが、海外ではどこまで理解されているのかなあ、などとふと思いました。

2018/6/24(日) 午後 7:47 [ ゆう ]

顔アイコン

ゆうさん:
脚本が面白いことは言うまでもなく、
キャスティングや、また俳優それぞれの演技も良いですよね。
樹木希林は、是枝監督と限らず、
多くの作品で使い回され過ぎていると感じなくもないのですが、
本作品では、それでもなお良かったです。
ただの善人に納まっておらず、何か裏があるのかと勘繰りたくなる怪しさや、
老人特有の気持ち悪さもあって。
あと、私は、基本的に子役という生き物とか、子供を売りにする作品は嫌いなのですが、
是枝監督は、毎度、子役選びや、子役の演出が本当に上手いと感心いたします。
本作品の二人も然り。
海外でどこまで理解されるかに関しては、分かりかねますが、
上海国際映画祭上映後の反応は、すこぶる良いみたいですヨ。

2018/6/24(日) 午後 9:29 mango


.


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事