旧 東京倶樂部★CLUB TOKYO:平成館

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【2018年/中国/117min.】
2002年、中国・上海。
小さな店で、インド製強壮剤を売りながら細々と生活しているバツイチ中年男・程勇のもとに、
慢性骨髄性白血病を患う呂受益という男性から、インド製治療薬密輸の依頼が舞い込む。
なんでも、中国で正規に使われているスイス製の治療薬グリニックは3万7千元もし、
多くの患者の経済的負担になっているが、
それがインドだと、同じ効果のある治療薬がずっと格安で買えるのだという。
それを中国に密輸し、5千元で売れば、買う患者はいくらでも居るから、商売になると説得されても、
さすがに密輸は危険だと躊躇する程勇であったが、
手術が必要な老父や、元妻に奪われそうな一人息子・小澍のことを考え、
金儲けのために、意を決していざインドへ。
早速、治療薬の製造工場を訪ねるが、実績も信用も無い程勇に、先方も怪訝な顔。
程勇は、中国市場の可能性を説き、一ヶ月で売り切ると断言し、
なんとか百瓶の治療薬を譲ってもらい、帰国。
白血病の娘を抱えるダンサーで、患者に広いネットワークをもつ女性・思慧と知り合い、
彼女のツテで、インド製治療薬を5千元で販売し始めると、次から次へと注文が舞い込み、
あっと言う間に百瓶完売。
お陰で、印度の製薬会社とも代理店契約を結ぶことに成功。
患者たちは格安で薬が入手できることを喜び、程勇も商売を順調に広げてゆくが、
そんなある時、そのインド製の非正規治療薬で病が悪化したという苦情が入り…。




原題は『我不是藥神〜Dying to Survive』。
2018東京・中国映画週間の閉幕上映で鑑賞。
(→東京・中国映画週間の閉幕式については、こちらから。)

2018年7月、現地中国で公開されるやいなや、大ヒットを記録した話題作。
つい先日閉幕した第55回金馬獎でも、
最佳新導演(最優秀新人監督賞)、最佳原著劇本(最優秀オリジナル脚本賞)、
そして、最佳男主角(最優秀主演男優賞)の3部門で受賞の快挙。
(→第55回金馬獎については、こちらを参照)

その新人監督賞を手にしたのは、
1985年生まれ、本作品が初の長編監督作品となる文牧野(ウェン・ムーイエ)
私が観た過去の文牧野監督作品は、オムニバス映画『恋する都市 5つの物語』(2015年)の中の一篇で、
楊冪(ヤン・ミー)と鄭開元(チェン・カイユアン)を主人公にした
チェコ・プラハで巻き起こるショートストーリーのみ。
文牧野監督の力量を計るにはあまりにも短い小品だったので、
その後に同監督が撮ったこの長編作品が、どのような物になっているのか、想像しにくかった。

最優秀脚本賞受賞の脚本は、
文牧野監督が、韓家女(ハン・ジアニュウ)、鍾偉(ジョン・ウェイ)と共に記した物。




本作品は、スイス製の高額な薬が買えず、困っている慢性骨髄性白血病の患者・呂受益から
インド製のジェネリック薬を密輸してくれと頼まれ、
自分もお金が必要だったため、私欲で、この話に乗った程勇が、
次第に、薬を本当に必要とする患者たちの為を考えるようになり、危険な闇商売を続け、
やがて世の中をも動かしていく社会派人間ドラマ


本作品が現地で公開された時、よく使われていたのが、“中国版『ダラス・バイヤーズクラブ』”という表現。

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監督ジャン=マルク・ヴァレ×主演マシュー・マコノヒーによる2013年度のアメリカ映画。
エイズは同性愛者がかかる病という誤った情報が信じられていた80年代、
アメリカの中でも特に保守的な地・テキサス州で、
同性愛を小馬鹿にしていた超女好きなカウボーイが、HIV感染で余命30日の宣告を受け、
病気について調べ始めたところ、政府と製薬会社の癒着で毒性のある薬が出回っていることを知り、
メキシコから未承認の治療薬を密輸入し、同じ病に侵され人々にそれをさばいていくという
実在のアメリカ人ロン・ウッドルーフの実話を元にした物語。


“中国版『ダラス・バイヤーズクラブ』”『ニセ薬じゃない!』も、実話がベース。
主人公・程勇のモデルになったのは…

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1968年生まれ、無錫に暮らす陸勇という男性。
この陸勇氏は、2002年に、慢性骨髄性白血病の診断を下される。
骨髄移植を希望したところで待ち時間が長く、その間、薬で体を維持する必要があるのだが、
当時、中国で主に使われていた治療薬は、非常に高価なスイス製のグリヴェック(イマチニブ)。
自己負担になるため、一年分の薬代だけで、約30万人民元(≒480万円)、
さらに検査費など諸々含めると、計35万人民元(≒565万円)の出費は必至。
陸勇氏は工場経営者の跡取りで、地元では比較的裕福な男性であったが、
百万人民元あった蓄えの内、70万元が、2年間の治療で消えていったという。

英語のできる陸勇氏は、海外の患者たちとネットでの交流を通し、
インドにグリヴェックを模した薬があり、効果も上々であることを知り、
日本経由で、一ヶ月分を約4千元(≒6万5千円)で購入、
自ら服用することで、効果が有ることを確認。
当然、日本経由ではなく、インドから直接買った方が安いので、
薬の瓶に記されていた生産工場にコンタクトをとり、以降、毎月約3千元(≒4万8千円)で購入を続行。

薬の効果や自分の経験を、同じ病に苦しむ人々に伝えたり、薬の購入を手助けしている内に、
彼を頼り、コンタクトをとって来る人々がみるみる増え、いつしか陸勇氏のこのサポートは仕事に。
前述のように陸勇氏は裕福な男性なので、この仕事は儲け度外視で、
あくまでも同じ病に侵された人々を助けたいがためである。

それから十数年程の間に、慢性骨髄性白血病患者の間ですっかり有名になった陸勇氏は、
“藥神”、“藥俠”と呼ばれるまでになっていたのだが、
2013年11月、ニセ薬を販売した容疑で一度逮捕され、後に保釈。
実際にはニセ薬ではないのだけれど、
法律上、医薬品として登録されていない物は“ニセ薬”扱いになってしまう。

続いて2015年には、クレジットカード管理妨害とニセ薬販売の容疑で起訴。
陸勇氏自身は無罪を訴え続け、また、多くの患者たちが署名を集め、
結果、裁判所は陸勇氏の起訴を撤回。
「自分では良い事をしていたつもりが、被告になってしまい、正直、心が折れました。
でも、同じ患者の皆さんが、署名を集め応援してくれたことで、
自分がやってきた事が、人々に喜ばれていた証に感じられ、とても感激しました」と陸勇氏。

これら一連の出来事は、大手メディアに取り上げられ、医療制度に対する国民の関心も高まったという。
さらに、この実話は、『ニセ薬じゃない!』という映画にもなり、大ヒット。
映画の最後に出る説明によると、
その後、中国では、輸入薬の関税撤廃や、保険の適応など、様々な改善策が打ち出されたようですね。




映画の主要キャストをチェック。

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薬の密輸と密売を手掛けることになる程勇に徐崢(シュー・ジェン)
程勇に治療薬の密輸を依頼する慢性骨髄性白血病患者・呂受益に王傳君(ワン・チュエンジュン)
白血病の娘を抱え、患者たちに広いネットワークを持つダンサー劉思慧に譚卓(タン・ジュオ)
程勇の仕事を手伝うことになる病魔を抱えた出稼ぎ労働者“黃毛”こと彭浩に章宇(ジャン・ユー)
英語ができるため、程勇の通訳に駆り出される劉神父に楊新鳴(ヤン・シンミン)
程勇の元義弟で、ニセ薬の捜査を担当する刑事・曹斌に周一圍(ジョウ・イーウェイ)等々。


映画が現実の話と最も違う点は、実際の陸勇に当たる主人公・程勇を、白血病患者に設定していない事。
陸勇氏も、「主人公の設定が自分と違うため、
映画公開後、観衆の誤解から、自分に負の影響が出るのではないか…」と懸念を吐露している。

映画の主人公・程勇は、小さな店でインドの怪しい強壮剤を売り、なんとか生活している男。
本来は、密輸なんて大それた事に手を出す気など無い小者だが、
老父は寝たきりだし、息子・小澍も別れた元女房に取り上げられそうだし、
どうしてもお金が必要で、切羽詰まって薬の密輸と密売を請け負うことになる。

「自分が誤解されてしまう」という陸勇氏の懸念はよく分かるけれど、
一映画作品として、物語をより面白くするなら、
“主人公・程勇自身は患者ではなく、お金のために密輸を始めた男”という設定は“アリ”だと、
出来上がった映画を観て思った。
この映画は、のらりくらりと暮らしていた程勇の心に、遅ればせながら、善意が目覚め、
他者のために動く市井の小さな英雄になっていく、しがない中年男の成長記でもあるのです。


主演の徐崢は、東京・中国映画週間に来てくれました〜。

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10分程度ではあるけれど、本作品について語ってもくれた。

徐崢はコメディ俳優の印象が強く、
実際、この映画でも、序盤は、我々観衆がイメージする通りの胡散臭い徐崢。
それが患者たちの苦境を知ったり、仲間の死を目の当たりにして、変わってゆく。
胡散臭い中年男がいきなり聖人に化けたら嘘臭いけれど、
警察の捜査を知り、仕事から手を引くという、患者たちにとっては裏切りともとれる行動に出るなど、
紆余曲折もきちんと描かれている。
もし自分が逮捕されたら、病気の老父や一人息子はどうなるのかと考えたら、
これ以上危険な仕事は続けられないと思うのは当たり前であり、
いきなり聖人になるより人間味も現実味も感じられる。
徐崢は、程勇という中年男性の心の変化を丁寧に演じている。

そんな訳で、前述のように、徐崢は、つい最近、第55回金馬獎にて…

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最佳男主角(最優秀主演男優賞)を受賞。おめでとうございます!



脇も、クセ者がいっぱい。
程勇に最初に密輸の話を持ち掛ける白血病患者・呂受益に扮する王傳君は、
ヒットドラマ『愛情公寓〜iPartment』で演じた横浜出身の日本人漫画家・關穀神奇で広く知られ…

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胡歌(フー・ゴー)に似ているなどとも言われ、つまりは、一応イケメン枠の俳優だったのかも知れないが、
最近は個性派にシフトしていて、ついにはこの『ニセ薬じゃない』の呂受益ですヨ。
呂受益は悪い人ではないのだけれど、掴み所が無く、見た目キモイ系で、非常に印象に残る。


黃毛役の章宇は、胡波(フー・ボー)監督の遺作で、
今年の金馬獎・最佳劇情長片(最優秀長編作品賞)受賞作である
『象は静かに座っている〜大象席地而坐』の主要キャストだったのですねー。

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先日の金馬獎にも、主演男優賞ノミニー彭暢(ポン・ユーチャン)ら『象は静かに座っている』チームと共に
章宇も出席していた。
『ニセ薬じゃない』では、孫悟空みたいなダサい金髪にした農村出身の20歳の青年を演じているけれど、
実際は1982年生まれで、30代半ば。
元々若く見える中年俳優がハタチに扮しているのではなく、
元々は年相応の章宇が、農村出身のハタチに化け切っていることに驚く。


劉神父は、英語ができるため、通訳として白羽の矢が立つ。
聖職者である彼は、当初、違法行為に手を染めるなど言語道断と拒絶するが、人助けと説得され、仲間入り。
何かにつけ「神の御加護を」、「アーメン」と口にするのは、ベタだけれど、笑える。
(中国の映像作品で、僧侶が何かにつけ口にする「阿弥陀佛〜」の代わりに言っている感覚。)


紅一点の劉思慧を演じているのは、『スプリング・フィーバー』(2009年)で見て以来大好きな女優・譚卓。
その後も、企画の大小にこだわらず、作家性、芸術性重視の映画を中心に活動してきた譚卓だが、
最近になって変化。この『ニセ薬じゃない』のみならず…

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大ヒットドラマ『延禧攻略〜Story of Yanxi Palace』に高寧馨役で出演し、メジャー入り。
譚卓がまさか于正(ユー・ジョン)ドラマに出演するとは想像していなかった…。
メジャー入りしたことで、芸風が軽く、安っぽくなったかというと、そんな事はなく、
『ニセ薬じゃない』でも、どこか影のあるシングルマザーを譚卓らしく演じており、魅力的。


ニセ薬売買案件を追う警察側では、曹斌に注目。
刑事の曹斌は、程勇と離婚した元妻の弟でもある。
ニセ薬の売買を取り締まり、主犯格を捕えることが刑事としての使命だが、
患者の苦境を目の当たりにしたことで、その使命を果たせなくなり悩む曹斌を、周一圍が好演。
周一圍は、日本では、ドラマ『蒼穹の昴〜蒼穹之昴』の梁文秀で知られるようになった俳優だが、
私は、彼の濃過ぎる顔立ちが好みではないため、その後も特別注目することはなかった。
でも、最近、際立って良い演技をするようになっていない…?!
特にドラマ『少林問道〜少林問道』の程聞道役で見て、そう感じた。





中国で大ヒットした中国映画が、必ずしも自分の好みに合うとは限らないのだけれど、
これは、噂に違わず、面白かった。
社会問題にスポットを当てた社会派映画とも呼べるが、
いわゆる“社会派映画”の硬さは無く、あくまでもエンターテインメント作品。
題材の似た『ダラス・バイヤーズクラブ』と比べ、最初の方はコメディ要素が強く、笑えるのだけれど、
それが徐々にシリアスになり、終盤では、あちらこちらからすすり泣く声が。
社会性を備えながらも、人間ドラマがしっかり描かれた、とても良く出来た作品だと感じた。
日本で知られたアイドル俳優などが一切出て来なくても、純粋に一作品として勝負できるハズ。
これは、日本で正式に公開すべき作品でしょー。
元々中華圏の映画が好きな層や、中華なドラマを好んで見る女性層に限らず、
映画は年に数本程度という一般男性まで、幅広い層が楽しめる気がする。



本作品の主演男優・徐崢も来日して行われた2018東京・中国映画週間閉幕式については、こちらから。

徐崢が主演男優賞を受賞した第55回金馬獎については、こちらから。

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